97,遺跡到着
アノンとライオットたちが遺跡へ向かう旅は順調に進む。途中【切断 ウロボロス】と【叫喚 フェスティバル】が一体ずつ出現しても、アノンが屠ってしまった。その威力にすでに誰も驚かない。大蛇を頭部から燃やした様を呆然と眺め上げ、同行者は見慣れてしまった。
ライオットは一体目こそ手出ししたが、二体目と三体目はアノンに任せ、ブルースの背後で大人しくしていた。
二度目の休憩を挟み、一行は夕方近くに、遺跡へとたどり着く。イルバーやラディ達は、想像していたより無事に旅ができたことに安堵していた。
森から抜け出て、遺跡周辺に踏み入れた瞬間、場の空気感が変わる。魔術具を扱う魔力を伴う気配が前面から押し寄せてきた。アノンは敏感にそれを感じ取り、口元を引き結んだ。
遺跡前は、こざっぱりした広場のようで、樹木は生えていなかった。なぜかぽっかりと平らな地面が現れている。大樹の大枝も伸びていない。まるでその空間だけ避けているようだ。
別空間のように区切られていたむき出しの地面には小石が混じり、まばらに雑草が生えてえいた。
遺跡は上に行くごとに幅を狭める階段状に、大石が組み上げられている。人が登るための階段が中央にあり、遺跡の頂点に向かって真っ直ぐ伸びる。組み上げられた石の隙間からも雑草が生え、かすれた薄茶色の石部分にところどころ青々とした雑草が生え、遺跡は茶と緑がまだらに混ざり合っていた。
アノンは単車から飛び降りる。すたすた遺跡前に向かって歩き出す。イルバーはそんなアノンを見送った。
アノンは笑い出しそうになる高揚感を抑えながら、大股で進んだ。
(それなりの魔力を注がれた魔術具が働いているのは確かなのに……)
この場全体から漂ってくる魔力の気配がどこから流れてくるのかはよく分からない。建物内部か、周辺の見えない場所、もしくは地中にでも魔術具が埋め込まれているか。
到着する前々から、魔神を封印した技術とは、つまるところ魔力を用いた魔術具の一種だろうとアノンは結論付けていた。
(単車だって魔法の絨毯と同じ原理で飛んでいるんだ。遺跡が魔力で覆われていたって驚きはしないよ)
実物を目の当たりにしたアノンに、遺跡はただの大掛かりな魔術具にしか見えなかった。
魔物の核を練りこんだ鋼で作られた拳銃は簡単に魔術具に改造できた。イルバーに見せてもらった単車、それを動かす力。すべてに魔物の核が利用されている。
ただ単に魔力を注ぐ所在が違うのだ。
絨毯に魔力を注ぐのが魔法使い、つまり魔力を有した人間である。それに対し、単車を動かすのは燃料と呼ばれるものだ。それを単車に詰め込んで走っている。燃料は魔物の核から作られていた。
アノンは自身の奥底からあふれる魔力とその魔力を補うために魔物の核を食む。つまり、魔力と魔物の核は同質の力だと身をもって知っている。
魔力はないくせに、魔力を利用している世界。魔術具はないけど、魔術具を使っている世界。二つの世界は異なる世界であるはずなのに、使われている力が同一なのだ。
それが何を意味するのか。アノンは、その結論さえ、この遺跡に隠されていることを期待していた。
(魔法術の始祖【地裂貫通 グラインドコア】。お前の尻尾は、ここにあるんだろう……)
なだらかな階段が続く遺跡を、アノンは睨み上げた。
アノンは振り向く。単車からおりた仲間が、無事にたどり着き、一時の休息をとる準備を始めていた。このまま野宿して、明日早朝に単車を走らすのだろう。
(今日はゆっくりと休んだ方がいいよね)
単純に考えたアノンは、ポケットから、ナイフを取り出した。
幸い、ここはだだっ広いまっ平らな地面である。
十分に彼らと距離を取ったことを確認し、空間を切り裂いた。そこに手をつっこみ探し回ると、空間に家をみつける。歪んだ家の端をつかみ上げた。引っ張り出すと空間内で歪んだ形で漂っていた一軒家が現実世界に引っ張り出される。
どおんと大きな音を立てて、そこに一軒の家が建った。エクリプスに用意してもらった家がしっかりと建ち、アノンは満足げな表情を浮かべた。
(野ざらしよりは、家の方が休まるはずだよ)
アノンはイルバーやラディ達の方に笑顔を向けた。
「ねえ、外で寝るより、家の方がいいよね」
手を振っても、誰一人反応しない。
アノンは小首を傾げた。
「どうしたの。なんか、返事してよ」
魔法使いが、家を出した瞬間、周囲の男たちがかたまった。ライオットは、アノンがまた先走ったと嘆息する。
突然、家が出てきて、凍り付いたものの、アノンの「どうしたの。なんか、返事してよ」という無邪気な声に全員が我に返った。
その後、駆け寄ってきたアノンに家で休むよう提案され、ラディたちは受け入れた。家のそばに単車を置き、それぞれが必要な荷物を抱えて、アノンの家に入る。居間に通され、休むのはここで十分だと話した。
テントの設営などの諸作業時間が無くなり、休息できることをアノンに感謝した。アノンもその答えに満足そうに笑んだ。
アノンとイルバーにライオット、それにブルースが同行し遺跡内部へ向かうこととなった。
外に出てからアノンは念のため、魔力で作り出した半透明な四角い壁で家と単車を包み込む。魔物の襲撃に備えた。
「じゃあ、行こうか」
アノンの声に反応し、四人は遺跡の階段をのぼり始めた。
長い階段をのぼる。すいすいとアノンは軽やかにかけていく。疲れを知らない動きに、イルバーとブルースの方が驚いた。
「すごいな。女の子なのに、あんなに体力あって……」
「違うよ、ブルース。あれは魔法使いだからだ」
「魔法使いってそんなにすごいのか」
「なんていうのか、魔力と体力が混ざっているんだ。俺も騎士でそこそこ体を強化できるけど、アノンぐらい魔力量が多いと、体力で動いているのか、魔力で動いて、いるのか分からない、はずだ……」
苦笑しながら話していたライオットの表情が陰る。
「どうした」
「いや。本当に、アノンは規格外だよな」
ライオットは苦笑いを返す。
ブルースはまた前を向いた。
「まったく。歩く非常識だよ」
ライオットは歩調を緩めた。イルバーとブルースの数段下に下がり、前を向いた。ブルースの背、イルバーの背があり、アノンがそのずっと前を軽々と歩いていく。
ライオットの脳裏に、アノンの肉体がありあり浮かぶ。女の子と化したアノンの肉体内部を奇しくも覗いてしまった時に見た。
肉にも骨にも、内臓にも絡みつく黒々とした絡みつく筋。イルバーには見られなかったそれ。
(あの黒い筋が、魔力なのか)




