05 頑張るのです、ファニーはやれる子ですっ!
「ど、ど、どうしようたぬ吉。ヴェルお兄様には待機って言われたんだけど……」
ファニーは、向こうの影にミミとメメが走り去っていくのを見てしまった。
どうやら、怪我をしているようだ。
『くぅぅうん……』
「そうだよね。助けに行こう!」
一吠えしたたぬ吉の腹を軽く蹴って、進むよう指示をする。
すると、雪の中から雪魚の背びれがにょきにょきと出てきたではないか。一匹、二匹……五匹もいる。さっきのヌシと比べれば小さいが、それでも中々に大きい。
「いっぱい来ちゃったよっ!?」
ここで「俺に任せろ!」と言わんばかりに、スピードをあげてくれる。頼もしい友だち。さすがたぬ吉だ。
やがて、追うのを諦めた雪魚が一匹、また一匹と離れていった。
ここまでくれば一安心かな、とファニーは安堵の息をこぼす。
「ん? どうしたのたぬ吉」
顎をしゃくってたぬ吉が示した先に、人影がある。
お互いを守るように寄り添う二人。
間違いない、獣人族のミミとメメだ。
「だ、大丈夫……?」
「うぅぅうううううっ!!」
「ひ、ひぇえ……」
唸られて、ちょっとびっくり。
人に慣れていないのだろうか。そういえば「ミミとメメは臆病だ。人の言葉を理解できるけど、話せないんだ」とグラスは言っていた。さっきの大きな雪魚に驚いて、逃げてしまったんだろう。
「ごめんね……」
近づきすぎると逃げそうなので、少し離れたところから観察する。
顔を布で覆っているのは、みんなに怖られるから。
「大丈夫だよ」
できるだけ優しい声をかけ続ければ、ミミとメメの緊張が解けていく。
そのすきを狙って、回復魔術をかける。
足の怪我はこれで治るはず。
「うぅうぅう……」
「大丈夫だよ」
「うぅぅううう……」
「怖くない。大丈夫だよ……」
むぎゅっとハグをするファニー。
ミミとメメの体は、とてもあったかかった。
「帰ろ……?」
二人は小さく頷いた。
◇
──まったく、ひどい平和ボケだ。
ヴェルデライトの目前にいるのは、雪魚の群れ。
雪に潜っているので、目で見ることはできない。
──リタさんの位置は確認できた。あとは……。
雪魚を追い払う。
そのため、ヴェルデライトは雪に指先を置いた。同心円状に波が広がり、雪中の魚たちは驚いて逃げ出していく。少女一人の気配も確認した、あとは雪の中から掘り起こすだけ。
──っいまの感覚は……?
「リタっ! リタ! 良かった、良かっだぁ!!」
ほんのりとした赤い膜に覆われて、雪の中から勢いよく出てきたリタ。
グラスは大急ぎで彼女を抱きしめて、無事を確かめている。
「い、痛いのだお父さんっ! 大丈夫、リタは大丈夫だからっ!」
「リタぁ!! 良かっだリダぁぁあ!」
火の加護が役に立った。
目立った外傷も、体温の低下の見られない。
本当に良かったと、ヴェルデライトは思う。
「お兄様ぁ! ミミとメメを見つけてきたのですよーっ!!」
「ファニー!」
向こうからやって来る、たぬ吉と妹、そしてミミとメメの姿。
逃げ出したミミとメメが心配になったファニーが、後を追いかけたのだろう。
「ごめんなさいです。お兄様、待機しろって言ってたのに……」
頭を下げるファニーに、兄は小さく頭を振る。
「ううん。無事で良かった」
赤髪の頭を撫でると、妹はほっとした表情になる。
もちもちのマシュマロほっぺたが、赤く色づくくらいに、奮闘したのだろう。兄のいない不安を切り抜け、一人でミミとメメを助けに向かったのだ。
お疲れ様という労いとともに、頼もしさを覚える。
「大きくなったんだね……」
「もう、子ども扱いし過ぎです! これでもファニーは13歳なのですよっ!」
「ごめんごめん。ちょっと昔のことを思い出してさ」
むくれる妹をなだめつつ、ヴェルデライトは本題へ。
「さて。リタさんも無事救出したし、ミミとメメはファニーが見つけてくれた。ついでにさっき、アヴィアンヌの《パーツ》と思われるものも発見したよ」
「本当ですか!? よかったですね、お兄様っ!」
「でも、問題は場所なんだけどね」
「場所?」と、小首をかしげるファニー。
ヴェルデライトが《パーツ》を見つけたのは、リタを救出するとき。雪魚を追い払うため、雪の中に魔術をぶち込んだときなのだ。
「浮遊城アヴィアンヌの《パーツ》があるのは、この深い雪の下だよ」
「え、え、えぇぇえええ!?!?」




