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43 アヴィアンヌでまた会えましたね



 その日、ヴェルデライトは大きな満足感に包まれていた。


 世界中に落としたアヴィアンヌのパーツもすべて回収し、ファニーと色々な場所を廻ることができた。

 そして、いま。


 兄妹二人しかいなかったはずのアヴィアンヌ。

 その中心部である《忘れられた繁華街(オーバ・シュタット)》には、多くの人で賑わっていた。


「ファニーちゃぁぁあああん!!」


「アンさぁあああん!!」


 感動の再会、とでも言うのだろうか。

 ファニーと抱き合っているのは、長い黒髪をなびかせた少女だ。

 スヴェンナの考古学者見習いであるアンベルクは、愛しのファニーを頬ずりしている。


「ファニーちゃんと別れてからの半年間は辛かったわ。いつもファニーちゃんの肌が恋しくて恋しくて、夜も眠れなかった」


「おいアン、またそうやってベタベタくっつくなよ。兄貴である俺の面子を考えろ」


兄様あにさまに分かってもらわなくとも結構ですわ」


 アンベルクの兄・フレッドのツッコミも、ファニーのことが大好きなアンベルクには届かない。

 ヴェルデライトは、相変わらずだなと笑みを浮かべる。


「久しぶり、ツンデレフレッド君」


「俺はツンデレじゃねぇ…………」


「ところでロイスさんは?」


 浮遊城アヴィアンヌへの愛が深いリリーシャ一家のなかでも、父親のロイスがずば抜けて高い。

 そういえばどこ行ったっけ、とフレッドが首を回した。


「お父様なら興奮しきった顔で、アヴィアンヌを一周するって言って行っちゃったわよ」


「おぉすごいアヴィアンヌへの熱…………」


 さすが考古学者。

 アヴィアンヌへの探究心が半端ではない。


「親父。…………って言っても俺もワクワクが止まらねえ!! だって憧れてたアヴィアンヌに、乗れてるんだぜ!? ちょっと俺も親父追いかけてくるわ!!」


 すっかり親子の関係は良好になったようで、フレッドがカメラを片手に走り去っていく。


「男の子だねぇ」


 と、続いてやってきたのは。


「あ、師匠ー!!」


「おおいたいた。お久しぶりです、ヴェルデライトさーん」


 雪深い刺森で出会った、リタとグラスの姿。

 リタは前見たときよりかなり身長が伸びている。

 グラスは、相変わらず渋みのある顔と声だ。


「リター!!」


「師匠ぉ!! 会えて嬉しいのだー!!」


「ファニーもすっごく嬉しい!!」


 続いて、ファニーはリタと再会のハグ。

 期間としては八ヶ月ぶりくらいだろうか。

 こうしてみると、ファニーの背も髪も伸びたような気がする。


「いやあすごいなぁ。俺、いま空飛ぶ城に乗ってるぞ。明日から木こりの連中に自慢できるな」


「来ていただけてとても嬉しいです、グラスさん」


「約束したからな、アヴィアンヌでまた会おうって。呼ばれたら飛んで行くさ」


 ニカッと白い歯を見せるグラス。

 リタも同じように、ニカッと白い歯を見せている。


「そっくりなのですー」


「何がそっくりなのじゃ?」


「はぅ!?」「逆さまで浮いてる!?」


 いきなりファニーとアンベルクの後ろに現れたのは、銀髪のエルフ。

 女王に就任したばかりのリルムだ。

 

「久しぶり、と言っても2ヶ月も経っておらんな。元気そうで何よりじゃぞ、ファニー」


「リルムぅ、会いたかったのですよー!!」


 再び熱いハグを交わす妹を見て、ふとヴェルデライトは思う。

 

 ──すごいモテモテだな我が妹よ。


 そういえば、行くたび行くたび新たな女友達をゲットしていたような気がする。

 本当に、人の心を捕らえるのが得意な妹だ。

 羨ましいとすら思う。

 しかも、リタとアンベルクとリルムは、すでにファニーを間に挟んで仲良くなっている。


 控えめに言ってすごい。


「リルム様も、私以外の友だちができて良かったですわ」


 そう言うのは、リルムの使用人であるニーチェ。

 その隣では、相変わらずむすっとした表情のニワトリ頭が──


「リルム様はチョロインですよ。ったく、こんな女王でドラの国は大丈夫なんで────あいでででで!」


 ニーチェに、大事なニワトリヘアーを鷲掴みにされるタリマン総司令官。


「相変わらず仲良いな、あの二人」


「お兄様、これで全員ですか?」


「いや、あとレステアさんを呼んであるんだけど……」


 お世話になった人をアヴィアンヌに招待する。

 レステアを呼んだのは、アヴィアンヌに乗せてやるという約束を果たすためだ。

 真っ先にやってくると思っていたのだが、中々こない。


「あ、やっと来た」


「ごめんなさい、ヴェルデライトさん。ちょっとバタバタしてて」


 幼い息子を抱えているレステアと、旦那の姿。

 相当急いだのか、二人とも息があがっている。


「迎えに行っても誰もいないから、てっきりボイコットされたのかと思ったよ」


「ごめんなさい。実は、オルゼント当主を説得してたんです」


「え……?」


 ヴェルデライトの視線の先に、大柄な男がいた。

 威厳のある彫りの深い顔立ちに、オールバックにした銀髪がよく映えている。

 御年七十になるというのに、立ち姿は現役時代を彷彿とさせる。 


「お祖父様……」


 未だにティーゼ家の当主を担うオルゼント。

 説得した、というのはどういうことなのだろうか。

 

「孫の夢を見てあげてくださいって、私が言ったんです。でもオルゼント当主は、わしに孫はおらん、の一点張りで。二時間くらい椅子から離れませんでした」


「二時間も説得をしたのか? なんで……」


「なんでって、一番ヴェルデライトさんを心配していたのはオルゼント当主なんですよ? ここでお祖父様を呼んでおかないと、後々妙な家族トラブルにつながるかなと思ったんです。だって、ティーゼ家に帰る決心がついたんでしょう?」


 レステアに一杯食わされた。

 そんな部分まで心配してくれるなんて、思ってもみなかった。

 そこで、ようやく祖父と向き直る。

 13年ぶりだ。


「お祖父様、僕は……」


「今までどこで何しておった、ヴェルデライトッ!!」


 頬に強い衝撃がきた。

 いわゆるビンタだった。


「どれほどの者がおまえの心配をしたと思っている!? どれほどの迷惑をかけたと思っているッ!?」


「本当に、ご心配をおかけいたしました。……申し開きもございません」


 祖父は強い怒りを抑えるように目を伏せていた。


「息子と義娘、孫まで失った親の気持ちが分かるか? いまの平手打ちではとても収まりきらぬような痛みだぞ」


「はい」


「家に戻るからには、貴様にはティーゼ家の当主となってもらわねばならぬ。明日から覚悟しておけ。サボった13年分、みっちり叩き込んでやる」


 にやりと、祖父は笑っていた。

 不器用な人だ。

 こんな形でないと、愛情を示せないなんて。


「分かっております。それを覚悟の上で、僕は妹のファニーを連れてティーゼ家に戻るのです」


「妹……?」


 そこで、祖父の目がファニーに止まった。


「ファニーなのか……?」


「はいなのです! はじめましてなのです、お祖父様!!」


 にこにこするファニーに、祖父の目は釘付けだ。


「ぎゅーって、してもいいですか?」


「よ、よしよし、おじいちゃんのところへおいで」


「ぎゅーっ!」


 ──やっぱすごいなファニー。

 

 あの一瞬で祖父の心を鷲掴みにしたファニーたるや、末恐ろしい。

 


 そして。



 アヴィアンヌでみんなと盛大なパーティをした。

 みんなで笑って、みんなで語り合って。

 すべてが終わったあと、ヴェルデライトはアヴィアンヌから降り、ファニーとティーゼ家に戻った。


「ヴェル様、とても凛々しくなられましたね。わたくし、とても嬉しゅうございます」


「見てください! 縁談相手がよりどりみどり!」


 メイドの一人が何枚もの女性の写真を広げた。

 

「僕は結婚しません。いつでも、ファニーの完璧な兄でいたいので」


「「まぁ!!!」」


 ヴェルデライトがにこりと笑うと、メイドたちは頬を赤く染める。


 その頃ファニーは、メイドたちに髪を結い上げられ、めかし込んでいた。


 子どもっぽさは徐々に薄れ、大人っぽい女性へと変貌している。

 これからどんどん、美しい女性へと成長していくだろう。


「お兄様。ファニー……いえ、私と一緒にダンスの練習をしてくださいませんか?」


「了解。足、踏まないでね?」


「わ、私はもう子どもじゃありませんからっ!」

 


 




 ◇






 大空を見上げると、たまに見えることがある。

 島なのか、街なのか、城なのか分からない、謎の浮遊物体。

 名前はアヴィアンヌ。

 魔術よって作られ、五百年後に完成した賢者の住処だ。


 人々は、アヴィアンヌに関する新しいお伽噺が書かれた本を片手に、空を見る。

 物語の印象的な最後には、こう記されていた。


「この世界はどこまでも広く、どこまでも美しく、どこまでも温かった」


 ──著者:ヴェルデライト・アレク・ティーゼ。

 








お読みいただきまして、ありがとうございます。

これにて「アヴィアンヌでまた会いましょう。」は完結となります。

少しでもみなさまを楽しませることができたのなら幸いです。

もしよろしければ、下の☆☆☆☆☆を押していただければ、

作者のモチベーションアップで「執筆量倍増」スキルが与えられますので、

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