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18 『リリーシャ家仲直り大作戦』開始なのですよ、お兄様っ!③

本日は二話更新です。ご注意ください。




『しかし、このときロイスは知りもしませんでした。実はナタリーは、死ぬ間際、一つの手紙をしたためていたのです』


「なに……?」


 舞台の進行役の声に呼応するように、ナタリー役の女性が、一枚の手紙を読み上げ始める。

 

『何から書いていいのか、文才のない私を、あなたは許してくださるでしょうか。

 この通り、私はもうすぐ死ぬかもしれません。

 けれど、私は死ぬなんて思っていません。ふふっ、死んでもお星さまになるだけなんだよって言ったら、またあなたは笑い飛ばすのでしょうね。けれど、私は信じていますよ』



「……」


 

『そうそう、あなたは料理が下手っぴでしたね。何を作らせても、焦がすし味の配分は間違える。よく子どもたちに「下手くそー」って言われてたから、もし、私がお星さまになったら、私が使っていたおばあちゃんの料理本を見てくださいね』



「……っ」



『あと、いくら仕事が忙しいからって、子どもたちのことはちゃんと見てあげてくださいね。熱中し始めたら周りのことが見えなくなるところ、ロイスさんの悪いクセですよ。

 フレッドはとても甘えん坊です。しっかり甘やかさないと、あとあとすごい反抗期になるかも』



「……俺はっ!」



『アンベルクは、とてもしっかり者ね。ふふ、ロイスさんそっくりよ。きっと、とっても頑固に育つだろうから、しっかり話を聞いてあげてくださいね。どんなバカらしい話でも、ね?』


「…………すまない、ナタリー」


『どうか、子どもたちを愛してあげてください。私以上の一番星たちを、大事に、大切にしてあげてください』

 

「……っ!!」


 渋みのある男の顔が、その言葉を聞いて、くしゃりと歪む。

 厳しい目つきを思わせた細い目から、一粒の雫がこぼれて。

 嗚咽とともに、彼はその場に崩れ落ちた。


「親父」


 大きくなった息子。


「お父様……」


 大きくなった娘。


「俺は、信じてるよ。親父が、昔みたいに俺達に笑いかけてくれるって」


「私も、信じてますわ」


 その瞬間、ありとあらゆる照明が消え、辺りは静寂の闇に包まれた。

 人の呼吸さえ聞こえる、圧倒的な無音の世界。


「おい、上を見てみろよ!!」


 誰かの声を皮切りに、人々は一斉に上を見上げた。

 遅れてアンベルク、フレッドと続き、最後はロイスが見上げた。


「あれは……ッ」


 『星の見下ろす塔(ロレンソール)』よりも天高く。

 闇夜に浮かぶのは、まさに孤高の城と呼ぶにふさわしい気高き存在。

 大きすぎて、下からでは全体は掴めなかったが。


「浮遊城……アヴィアンヌ……」


 誰もが、目の前に浮かぶ「お伽噺」に刮目かつもくした。

 信じている者は少なかった。

 浮遊城なんて存在しないと、バカにする者すらいた。

 けれど、ソレをこよなく愛する者もいた。


「──お集まりいただきまして、みなさま、ありがとうございます」


 浮遊城から、ゆっくりと降りてくる赤髪の青年。

 照明が浮遊する彼を捉え、街中の人間にその存在を知らしめる。


「私の名前は、ヴェルデライト・アレク・ティーゼ。リリーシャ家の招待を受けまして馳せ参じました。この物語の主人公、星の乙女ナタリーと小心者の青年ロイスとともに、今宵は浮遊城のお伽噺を語りつくそうじゃありませんか」


 指が鳴らされる。

 すると、大きな花火が打ち上がり、夜空を彩った。

 なんという贅沢なショータイム。浮遊城アヴィアンヌを背景に、花火が打ち上がっているではないか。

 人々は絶大なサプライズ演出に酔いしれ、満面の笑顔を浮かべて惜しみない拍手を送っていた。



 ──そんな、周りの様子を。

 ロイスは、呆然と見つめていた。


「はいなのです!」


「え?」


 ファニーが渡したのは、フレッドがこの前オークションで買い取ったナタリーの絵。

 浮遊城アヴィアンヌをバックに、フレッドとアンベルクが並んで笑っているという構図だ。


「これで、家族全員なのです! ロイスさん、ナタリーさん、フレッドさん、アンさんの四人全員で、アヴィアンヌを見るという約束を果たしたのです!!」


「家族……みんなで……」


「だから、ぜひ仲直りしてください! 親子喧嘩なんて、見ていてこそばゆいのですっ!」


 ロイスは無言で、かつて妻が描いた作品を受け取った。

 そして、駆け寄ってきた愛する二人の子どもを、そっと抱きしめたのであった。









 そして、ヴェルデライトとファニーの出発の時が来た。

 

「本当に、もう行ってしまうの? もうちょっとだけ、この街にいたらいいんじゃないかしら?」


「えへへ。ファニーも寂しいのですけど、お兄様と一緒に《パーツ》集めの旅に戻らないといけないのです」


 ファニーの目に光るものがあるのは、これで二度目だ。

 きっと寂しいに違いない。きっと、何度やっても同じ。こなした回数だけ、ファニーは泣いてしまうのだろう。


「お世話になりました、ロイスさん」


「いえいえ、こちらこそ」


 頭をさげたヴェルデライトに、ロイスも軽く会釈をして応じる。


「あなたのおかげで、かつての約束を果たすことができました。家族全員でアヴィアンヌを見る。私たち家族の絆は、おかげで前よりも強固なものになりました。本当に、ありがとうございます」


「僕はただ、お手伝いをしただけなので。実際にこの計画を考えたのはファニーたちですしね。──それよりも、本当に『星の見下ろす塔(ロレンソール)』をいただいてもよろしいのですか?」


「いいんだ。あの塔は確かに私の思い出だが、一番星さまを見るのはあそこからでなくてもいい。それに、元あった場所に返してやるのが一番だろうからな」


 そう言うロイスの視線の先にあるのは、アンベルクとフレッドの姿。

 フレッドは、さっきからずっと顔を背けている。

 

「なにか、最後に言いたいことでもあるんじゃないのかい? ツンデレ君」


「だからツンデレ呼ばわりすんな!!」


 ──やっぱ気にしてたな。


「その、なんだ……短い付き合いだったが、おまえたちと一緒に過ごせて楽しかった。それと、ありがとうな。さっそく俺の夢を叶えてくれて」


「アヴィアンヌを見せることくらい、お安い御用だよ。こちらこそ、二人と過ごせて楽しかった。なによりファニーが楽しそうだったからね。ありがとう、アンベルクさん、フレッド君」


 リリーシャ兄妹は、それぞれ複雑な表情をしている。

 

「じゃあそろそろ時間だ」


「はいなのです、お兄様!」


 ヴェルデライトとファニーは、浮遊城アヴィアンヌへと帰っていく。

 今度はファニーが、大声で再会の約束をした。


「またアヴィアンヌで会えることを、楽しみにしてるのですー!!」

 


 



これにて、第二部は完結です。

ちょっとでも面白いと思っていただけたら、下の☆☆☆☆☆を押して応援をしていただければ、作者は大喜びで飛び跳ねます。


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