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16 『リリーシャ家仲直り大作戦』開始なのですよ、お兄様っ!①


『リリーシャ家仲直り大作戦』


 命名したのはファニーだ。

 聖夜祭を開いて、二人の父親であるロイスを招待する。

 催し物をみせて、フレッドとロイスに仲直りをしてもらう。


「おまえら、本当に成功すると思ってるのか?」


 作戦に乗り気でないのが、長男のフレッド。

 さっきからまるで手が動いていない。


「するのです!」


「ファニーちゃんの言うとおりだわ。市長にもイベントの開催を許可してもらえたし、場所はリリーシャ家が保有する芸術公園がある。あとは、私たちのやる気次第よ!」


 やる気満々なのがファニーとアンベルクの二人。

 そんな様子を見て、フレッドはため息をこぼす。


「ってか、なんであの市長ババア許可したんだ……」


「きっと私たちの送ったクッキーが効いたんだわ!」


「本当にただのクッキーだったのか? 毒とか、催眠薬みたいなの入れてないだろな」


 ファニーとアンベルクはクッキーを作って、嘆願書とともに街の市長に送った。

 『みんな一緒に仲直りがしたいので、イベントをする許可をください』と書いて。

 なんと一発許可。市長は快く受け入れてくれたのだ。


「とにかく、絶対にお父様を感動の渦に巻き込んで泣かせてみせるわ。もう一度親子の絆を取り戻すのよ!」


「おーっなのでーすっ!!」


「ほら、兄様あにさまもファニーちゃんを見習って、ちゃんと手を動かして! これはお祭りで使う三角帽子なんですのよ」


「俺は絶対に被らないぞ」


 作りかけの三角帽子を放置して、フレッドはどこかへ行ってしまう。

 彼は仲直りする気がないのだろうか。

 そんなに、父親のことが嫌いなのだろうか。

 

「もう、意地っ張りなんだから。せっかく兄様とお父様が仲直りできるチャンスなのに」


 アンベルクは頬を膨らませる。

 妹としては、何が何でも兄と父の仲を取り戻したいところなのだろう。


「頑張りましょうアンさん! ファニーたちの力で、仲直りしてもらうのですっ!」


「そうね! 頑張りましょ、ファニーちゃん!」

 






 準備はすべて整った。

 みんながかぶる三角帽子や、もてなす料理などなど。

 リリーシャ家の人脈を使って、余興として大道芸人がショーを行ってくれている。このお祭りは、開催の告知期間が一週間くらいしかなかったにも関わらず、多くのお客さんが来ていた。

 

「すごいわ。スヴェンナの芸術公園が、こんないっぱい人で埋まるなんて」


「そりゃ、街の権力者が主催してるからね。素敵な夜のエンターテイメントショー。ひまな人間にとって、これほどの娯楽はないよ」


 ごった返すような人々から少し離れたところに、男女の姿。

 アンベルクとヴェルデライトの二人だ。


「まったく、すべてが僕の想像以上だ。君がお金持ちじゃなかったら、この規模にはならなかった。……正直、とてもワクワクしてるよ」


「リリーシャ家の底力ですの。メイドのみんなも、兄様あにさまとお父様が仲直りするんだったらって、すっごく張り切ってるの。見て、今日のこの衣装も手作りなんですの」


 ひらひらの赤み帯びた黒いドレス。セクシーと可愛さの絶妙なバランスがたまらない一品だ。ぱっくり裂けた背中部分は、寒くないだろうか。そんな疑問がヴェルデライトの頭をもたげる。


「ファニーちゃんも、可愛い格好をしてるわ」


「知ってるさ」

 

 ファニーは、それはそれは愛くるしい格好をしていた。

 白色のふわっふわドレス。背中から小さな羽が生えていて、モチーフは天使だ。ファニーの可愛さをこれでもかと表現している。製作者に大きなグッジョブを贈りたい。


「この目に焼き付けておいた。あとは、視聴用、保存用、保存用の予備写真を撮ったら完璧だ」


「……相変わらず、愛が凄いわね」


「妹を愛さない兄がどこにいるって話だよ。──そろそろ僕も準備に入らないと。この『リリーシャ家仲直り大作戦』の要を担ってるからね。絶対に仲直りさせてみせるよ」


「期待してますわよ、大賢者ヴェルデライトさん」


 にっと笑うアンベルクに手を振って、ヴェルデライトはその場を離れた。

 『リリーシャ家仲直り大作戦』の開幕まで、あと一時間に迫っていた。

 

 



 

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