追いつけない、それが悔しい
撮影が終わった。
ということは、透と同じ現場で仕事をすることはもうない、ということでもある。
透と会えるのはこれが最後になるかもしれない――
化粧室で、化粧直しをしながら、はたとそんなことを思った。
奇跡的に決まった透との仕事。
仕事で関わったとはいえ、透は有名新人俳優で、すでに雲の上の存在だ。
また仕事で関われるとも思えない。
そう思うと、心が少し締め付けられる。
切ない、というより、悔しい、といったほうがしっくりくる。
それは一体、どうしてなのだろうか――
カナはため息を一つ吐いて、目の前の鏡と向き合った。
不安で、悔しそうな表情だ。何かに焦っているのかもしれない。
こんな顔で透と会ってどうする。
ふと、鞄に入ったチラシが目に入った。先日先輩から貰った、コンテストのチラシだ。
応募するかどうかはまだ決めていない。だがチャレンジしてみるのもいいかな、と思っていた。
そうだ、あとでこのことを話してみよう。
透はきっと、いいじゃんと押してくれるのだろう。
カナは無理やり笑ってみせた。ちゃんと笑えることを確認して、最後に口紅だけ塗り直して化粧室から出る。
二人だけの、ささやかな打ち上げだ。
最後なんだから楽しまないと。
そう思いながら、カナは透との待ち合わせへ向かった。




