これが最後。
「ラスト、いきまーす!」
その日は公園での撮影だった。カナは自分の声を張り上げて、カメラを覗き込む。
シャッターを押す前にフッと軽く息を吐いて力を抜く。
レンズの向こうでは、透がリラックスした様子でボールを抱えて太陽を見上げていた。
その目は眩しそうに細められていて、でも陽の光を浴びて輝いている。
――これが最後だ。
奇跡的に決まった透との仕事が終わりを告げる。
カナはそれを噛みしめるように丁寧にシャッターを押した。
最後までカナのショットの中で、透は眩しいほどに輝いていた。
「お疲れさま」
撮影が終わり片付けに入った時、肩越しに透に声をかけられた。
「うん、お疲れさま」
振り向いて笑顔で返事をすると、透はカナに近づき声を潜めた。
「あのさ……」
そして何かを確認するように辺りをぐるっと見渡す。ちょうど他のスタッフ達はみんな自分の作業で忙しなく動き回っていて、カナと透に目をくれる暇もなさそうだった。
ましてこの時間は透は車内で待機しているはずだからマネージャーも車にいるはずである。
透がもう一歩、カナに近づいた。その顔は真剣そのもので――あの時みたいだ――カナは目を逸らせなくなる。
透が、何かを言おうとして口を開く。
その瞳に引き込まれるように、カナは少し身を乗り出す。
躊躇いを振り切るようにして、透が言葉を口にした。
「……こん」
「すみませーんッ!機材通りまぁーっす!」
そこにカメラを抱えたスタッフが大声を張り上げながら通り、透の言葉は遮られる。
……何というタイミングの悪さ。
思わずカナはそのスタッフを恨めしげな目で見てしまう。
それに驚き緊張の糸が切れたのか、透は呆れたように笑った。
「ねぇカナ、今晩ご飯食べに行こう。打ち上げしよ」
いつも通りの気楽さで、それだけ言うと車へ戻っていった。
これまでにも何度かあった、食事の誘いだ。もちろん断ることはしない――でも。
透の後ろ姿を見つめながら、ついさっきの真剣な顔つきを思い出す。
あの表情が気になるのだ。
あれはまるで高校時代に告白された時、そして別れ話をした時と同じ顔――というかそのものだった。
「……なんて、考えすぎだって」




