09:実は照れ屋な雪村くん
四月下旬、朝の八時半過ぎ。
私たち中等部1年生は、五桜学園の駐車場に集まっていた。
今日からオリエンテーションが始まるんだ。
一泊二日の日程で、向かう場所は高原だよ!
「1組は1号車だ。出席番号順に乗って」
玉木先生の指示に従って、私たちは順番にバスに乗り込んだ。
私は迷わず芽衣ちゃんの隣に座った。
通路を挟んだ向こうには、北園さんと姫宮さんが座っている。
北園さんたちとはよくお喋りする仲だから、この席で良かった。
このメンバーなら、バスの中でも退屈せずに済みそう!
高原に着いたのは、午前十一時を少し回った頃だった。
入館式を終えて、1組の女子全員が向かったのは、三階の広い和室。
「その服、可愛いね。どこで買ったの?」
「午後のレクリエーションって、何するんだろうねー」
そんな会話をしながら、私たちは制服から私服に着替えた。
私の服装は、ミントグリーンのパーカーに白いシャツ、黒のズボン。
汚れても大丈夫なように、他の子も地味めな色の服を着てる。
オシャレ好きな子は、派手なピンクのシャツを着てたりするけどね。
「日和。あたし、トイレ行ってくるから。先に行っといて」
オレンジ色のシャツを着た芽衣ちゃんが、廊下でそう言った。
「うん、わかった。後でね」
私は芽衣ちゃんと別れて階段を下りた。
さて、今日のお昼は何かな~?
「あ」
一階のロビーで、食堂へ向かう雪村くんと久城くんを見つけた。
久城くんの服装は、英語のロゴが入った緑のシャツとジーンズ。
雪村くんは、カーキ色のパーカーにボーダーの入ったシャツ、黒のズボン。
制服はもう見慣れちゃったけど、私服姿を見るのは初めてだ。
「花崎さん。どうかした?」
視線に気づいたらしく、雪村くんが立ち止まって私を見た。
「ううん、なんでもないよ。私服だと、やっぱり雰囲気違うな~と思って」
「ああ。そういえば、私服姿を見るのは初めてだね」
雪村くんは納得したように、うなずいた。
私の私服を見ても特に感想はないらしく、雪村くんは無表情だ。
「理玖ー。こういうときは、『花崎さんの私服姿、初めて見たよ! 可愛いね! 良く似合ってる!』ってテンション上げて言うのがマナーってもんだよ?」
久城くんは呆れたように言って、肩をすくめた。
「………」
雪村くんは、ちょっと考えるような顔をした後で。
「……可愛いね?」
「疑問形で言わなくていいよ! ていうか、無理に久城くんのノリに付き合わなくていいんだよ!? 雪村くん、素直すぎ!」
「いや、本当に可愛いとは思ってるんだけど……」
そこで、雪村くんはある一点を見て、止まった。
「?」
雪村くんの視線を追って右手を見ると、お喋りしながら歩いている女子二人組がいた。
そのうちの一人は、手首にピンクのシュシュをつけている。
小さなクマが抱きついているようなデザインの、とびっきり可愛いシュシュ。
「…………」
改めて、もう一度雪村くんを見る。
雪村くんの頬は赤くなっていた。
うっとりしたような顔で、じーっとシュシュを見てる。
どうやら、ツボにハマったらしい。
「おーい、素が出てるぞー」
久城くんが注意した。
「!!」
雪村くんは急いで表情を引き締め、いつもの無表情になった。
雪村くんがクールに振る舞ってるのは、『可愛いもの大好き!』っていう素を隠すためなのかも?
「あれ? 花崎さんって、理玖が本当はどんな奴か気づいてたりする?」
可愛いものにときめいてる雪村くんを見ても、私が驚いたりしなかったからだろう。
久城くんは興味を持ったような顔で聞いてきた。
「うん。つい最近知ったの」
私は久城くんに近づいて、耳打ちした。
「可愛いもの好きって、いいよね。実は私、そういう雪村くんのほうが可愛いって思う!」
「気が合うね。オレもそう思う」
久城くんは笑った。
ああ、なるほど。
久城くんがこうやって、笑顔で受け入れてくれる人だから、雪村くんは久城くんを大切な親友だと思ってるんだろうな。
なんだか嬉しくなって、私も、ふふっと笑った。
「何の話してるんだ? もしかして、おれの悪口?」
雪村くんは不安そうな顔をしてる。
そりゃ、目の前で内緒話されたら、誰だって不安になるよね。
「いやいや、逆。花崎さんは理玖のこと、相当好きみたいだよ。可愛いものにときめいてる理玖が可愛いってさ」
「えっ?」
雪村くんは目を丸くし、みるみる顔を赤くしていった。
「か、可愛いなんて……そんなこと、ないし……」
……顔、真っ赤だ。
目が、そわそわと泳いでる。
えええええええ可愛い~~!!!
激しく照れている雪村くんを見て、胸がキュンッとした。
雪村くんって、実は、ものすごく照れ屋さんだったんだ!?
シュシュより何より、雪村くんが一番可愛いんですけど!?
「雪村、顔赤くね? 熱でもあんの?」
通りすがりの男子が雪村くんを見て、立ち止まった。
声をかけてきたのは、クラスメイトの鈴本くんだった。
軽く寝ぐせのついた茶髪。
虹色のロゴが入った黒パーカーに、爽やかな水色のシャツ。
鈴本くんはクラスの中でも目立つグループに所属している。
休憩時間中に大きな笑い声が上がったら、鈴本くんがいるグループの誰かだったってことが多い。
「えっ。いや、なんでもない。気にしないで」
雪村くんは慌てた様子で答えた。
「そう? ならいいんだけど」
「……天馬が変なこと言うから」
鈴本くんがいなくなったあと、雪村くんが久城くんを軽くにらんだ。
「ごめんごめん。まあとにかく、良かったじゃん理玖、好きって言ってもらえて」
久城くんはニカッと笑った。
「……それは……まあ、そうだけど。からかうのはやめて」
相当恥ずかしかったみたいで、雪村くんは不満そう。
「からかったわけじゃなくて、事実なんだけどなー。ねえ、花崎さん。理玖、可愛いって思うよな?」
久城くんに顔を向けられて、私が答えるよりも早く。
「だから、うるさい! 花崎さんに話をふるな!」
また顔を赤くして、雪村くんは久城くんの肩をべしっと叩いた。




