無知で無力な村娘は、新たな出会いを果たす 5
「お父さんは、私のために罪を犯そうとしたんです」
夜の帳が下りる村の広場。かがり火の炎に照らされたククルがよく通る声で告げる。
ほとんどの者が事情を知らないのだろう。村の者達がどういうことだとざわめき始めた。
「父は――村長は、奴隷商に違法な取り引きを持ちかけられたことを話してくれました」
「違法な取り引き?」
リアナが首を捻って問い返す。
「奴隷商が売買を許されているのは、犯罪者や身売りした者だけ。でも、違法な取り引きの場合は、攫った人間を売買することもあるそうです」
「それって……もしかして、あたし達を売り飛ばそうとしたってこと?」
「父はそのつもりだったようです」
「……ええっと、護衛も連れているのに、一体どうするつもりだったの?」
「たぶんですけど、護衛の方も捕まえて売るつもりだったんじゃないかと。その後は、捜査の手が及んでも、知らぬ存ぜぬでなんとかなると考えていたようです」
リアナ達は、この村を出発した。行方不明になったというのなら、その後で賊に襲われたのだろう――と、そんな風に言われれば、否定する手段がない。
だけど――
「上手くいく可能性がないとは言わないけど……あたし達は仮にも、グランシェス家の関係者なんだよ? いくらなんでも、リスクが高すぎじゃないかな?」
「奴隷商が父に言ったそうです。ミューレ学園の制服を身に着ける者を連れて来れば、一人につき、金貨三百枚を支払う、と」
「「「――なっ!?」」」
村人達が一斉にざわめいた。
農家の年収は、金貨に換算して二、三枚。なので金貨三百枚は大雑把に計算して、一家が百年遊んで暮らせるだけの金額だ。
しかも、リアナとソフィアで六百枚。確実に村の食糧難を解決できる。
村人が目の色を変えるのは当然で、暴徒と化してリアナ達を捕らえようとする動きを見せたとしてもおかしくはない。
クラリーチェの護衛達が警戒する――が、リアナはため息をついた。
「金貨三百枚程度で吊られるなんて、よっぽど切羽詰まっていたんだね」
広場の空気が凍り付いた。
「金貨三百枚程度……って、言いましたか?」
ククルが握った手を震わせながら、押し殺した声で尋ねてくる。
「うん、言ったよ。金貨三百枚程度って」
「……リアナさん。貴方は、農村の育ちだって言いましたよね? 農民の苦しみが分かるって、そう言いましたよね? それなのに――」
「それでも、たったの金貨三百枚程度、だよ」
リアナがきっぱりと言い放った。
その瞬間、広場中から殺気が噴出する。次の瞬間には、暴徒と化した村人達がリアナ達を襲ったとしてもおかしくない。
だけど、それより一瞬早く、リアナが「聞きなさい!」と叫んだ。
「あたしはリアナ。リオン・グランシェス、並びにクレアリディルの名の下に、この村を救うために派遣されて来た!」
突然の宣言に、村人達が沈黙する。
その瞬間を逃さず、リアナは一気に捲し立てる。
「あたしを信じてついてきてくれるのなら、必ず食糧難をなんとかする。いまよりずっとずっと豊かで、みんなが幸せになれる環境にしてみせる。それを、たった金貨数百枚で捨てるって言うのなら……あたしのことは好きにすればいいよ」
広場は水を打ったようになった。
リアナが、金貨数百枚なんかよりも、自分の教えの方がずっと価値があると、そう言っているのだと誰もが理解したからだ。
だけど……リアナの言葉には、なんの保障もない。
もちろん、金貨三百枚という報酬が支払われる保障もないのだけれど、金貨三百枚なら、皆が確実に助かるという保障はある。
村人達が顔を見合わせ、静かに頷きあった。
――刹那、広場に轟音が響く。
みんなが一斉に音の方を向くと、ソフィアが広場にあった一本の樹、自分の胴ぐらいある樹の幹に、後ろ回し蹴りを放っていた。
次の瞬間、樹がめきめきめきとへし折れる。
どう考えてもありえない。鉄のハンマーでぶん殴ったってへし折れるか分からない。それくらいありえない現象を目の当たりに、周囲は騒然となった。
「――黙って」
ソフィアが紅い瞳を妖しく輝かせて言い放つ。
「リアナお姉ちゃんは、あんな風に言ったけど、ソフィアは決して許さない。もしリアナお姉ちゃんを捕まえて売り飛ばすって言うなら……皆殺しにするよ」
愛らしいソフィアの小さな唇から紡がれる物騒な言葉。なにも知らなければ、笑い飛ばしたかも知れないけれど、さっきの光景を見た後で笑える者は一人もいなかった。
それどころか、身じろぎ一つ出来る者はいなかった。
「ちょっと、ソフィアちゃん? なにとんでもないことを言っちゃってるの?」
――たった一人、リアナを除いては。
「とんでもないことを言っちゃってるのはリアナお姉ちゃんの方だよ。リアナお姉ちゃんが金貨三百枚で身売りするなら、ソフィアが買うからね?」
「ふぇっ!?」
「だいたい、リアナお姉ちゃんは、みんなを幸せにするんでしょ? それなのに、こんなところで自分を犠牲にしてどうするの」
「いや、あたしは、別に自分を犠牲にするつもりは……」
「なかったとしても、そういう流れになりかけてたでしょ? リアナお姉ちゃんは、もう少し自分を大切にするべきだと思う」
「……ごめんなさい」
幼女にマジ説教をされて項垂れる。
絵面的にはなんとなく微笑ましい光景だが……それまでの行動があって、異様な光景にしか見えない。村人達は言いようのない恐怖を覚えた。
「……という訳だから、リアナお姉ちゃんに手を出すつもりなら、いまこの場で皆殺しだよ」
ソフィアがスカートを翻し、もう一本の短剣も引き抜いて二刀の構えを取る。
「まままっ待ってください!」
ククルが慌てた口調で言い放った。
「わ、私がそもそも父の罪を告白したのは、罰していただくため。だから、リアナさんをどうこうしようとか思ってません。村のみんなもそうです! そうですよね!?」
「「「もちろんです!」」」
村人は一斉に言い放った。
声が若干震えているように聞こえたのは……まあ、お察しだ。
「という訳なので、その……」
「うん。リアナお姉ちゃんに手を出さないなのなら、ソフィアはなにも言わないよ。後は、リアナお姉ちゃんにお任せするね」
スカートを翻し、太もものホルダーに短剣二刀をしまう。ソフィアは佇まいをただすと、再び天使のような女の子としてたたずんだ。
……さっきまでの行動があるので、誰一人として、その外見に騙されなかったけれど。
それはともかく、後をお任せされたリアナに視線が集まる。
任せると言われても、こんな時にどうしたら良いか分からないなぁと考えていると、クラリーチェが歩み寄って来た。
「話は聞かせてもらいました。悪事に荷担した者は即刻捕縛し、打ち首にするべきです」
クラリーチェが淡々と言い放つ。それを聞いたククル達がびくりと震える。
「まっ、まま待ってください! こうして正直にお話し致しましたし、父も反省しています、どうか寛大な処置をお願いします!」
「……分かっていないようですわね。領主の遣いを奴隷商に売ろうとした。それは国に対する反逆も同然ですわ。本当なら、この村の住民全員が殺されたって文句は言えないんですよ?」
文句があるのなら、関係者だけではなく村人全員を殺す――と、クラリーチェは遠回しにそう脅しを掛けたのだ。
それを聞いた瞬間、怒りをあらわにしていた村人達は一斉に下を向いた。
「……なら、私を、私だけを罰してください」
ククルが胸に手を当てて叫んだ。
「……貴方を? 貴方は関係ないでしょう?」
「いいえ。次に口減らしで売られるのは私なんです。だから、それが嫌で、なんとかして欲しいって父にお願いしたんです。だから、私を罰してください!」
「――馬鹿なことを言うな、ククル! ――クラリーチェさん、聞いてくだされ。わしら二人が勝手にやったことで、娘達はなんの関係もありません!」
「そうじゃ、娘達は関係ない。どうか、罰するのならわしらだけでお願いします!」
村長に続いて、共犯のおじさんも捲し立てる。どうやら二人の動機は、自分の娘を護るため、だったようだ。
「……ククルさんは閉じ込められていたようですし、主犯とは思えません。村長がこう言っていますし、無関係でしょう。ただ、関係ある者を許す訳にはいきません。この場で簡易裁判をおこなって、関係者を全員縛り首と言うことで――」
「待ってください!」
リアナがクラリーチェの判決を遮った。
「……リアナさん? なにか意見があるんですか?」
「はい。縛り首は待ってください」
リアナはまっすぐにクラリーチェを見つめる。
「どういうことでしょう? 彼らは、貴方達を売り飛ばそうとしたんですよ?」
「分かっています。でも、彼らがそんな行動に走ったのは、食糧難に陥って、やむにやまれなかったからだと思うんです」
リアナの暮らしていたレジック村でも、同じような状況にあった。
違ったのは、リアナが自分を犠牲に、妹を救ったという一点のみ。他に手段がなければ、リアナは悪魔にだって魂を売っただろう。
だから――と、リアナは村人の視点で物事を考える。
それに対して、クラリーチェは首を横に振った。
「貴方に相談すれば、済む話です」
「そうならなかったのは、あたしが信頼を得ていなかったからだよ」
「自分達に責任があると言う訳ですか?」
「自分達にも、責任があると言っているんです」
リアナはそこで一度言葉を切ると、なにやら半眼になった。
「そもそも、リオン様やクレア様が、最初にちゃんと連絡しておけば、こんなことにならなかったんです。あの人達、遠くの空ばっかり見て、足下がお留守なんですよ!」
「ええっと……貴方、それ、自分の仕える主人で、貴族な人達を批判してるわよ?」
「あの人達は、そんな細かいことを気にしたりしません!」
「そ、そう……」
クラリーチェがタジタジになる。
それに伴って、ククルを始めとした村人達が心の中でリアナの応援を始める。リアナがこの話し合いに勝利すれば、村長達の罪が許されると、そう思ったからだ。
「とにかく、いまのグランシェス家には労働力が必要なんです。だから、その労働力を殺したら、グランシェス家にとってマイナスになるんです」
「だから、縛り首は反対だってことね。それなら、どうするつもりなの?」
「はい。犯罪奴隷に堕として、死ぬまでこき使おうかと」
希望を抱き始めていた村人達が、絶望に叩き落とされた。
「…………貴方、わりとエグいことを考えるわね。でも……さすがに無理だと思うわよ」
「え、どうしてですか?」
「さっきも言ったけど、彼らの罪は反逆罪。犯罪奴隷なんて半端なことは出来ない。出来るのはせいぜい、苦しませずに殺してあげることだけよ」
反逆者は例外なく死刑。
そう言えば、そんな決まりがあると習ったなぁと、リアナは思い出す。
「でも、それなら問題ありません。クレア様に頼んで揉み消してもらいますから」
「……それ、国に対する反逆だと思うのだけど……」
クラリーチェが半眼になる。
「グランシェス領が豊かになるのは国のため。だから、王様だって許してくれます。というか、その程度の判断すら出来ないなら、人の上に立つ資格はないと思います」
リアナが言い放った瞬間、クラリーチェの護衛達が色めき立った。
そして――
「あはははははっ。はぁ……まさか、そんなことを言われるなんてね。えぇ、そうね。たしかに、その通りよね。柔軟な思考を持てなければ、上に立つ資格なんてないわ」
クラリーチェが楽しげに言い放つ。その瞬間、張り詰めていた空気は霧散した。
「国のために手を汚す。それ自体は悪いことじゃないわ。王族の耳に入ったら、普通はお咎めなしとはいかないでしょうけど、聞こえないフリをすることくらいはあるでしょうね」
「なら、クラリーチェさん達も黙っていてくれますか?」
「そう、ねぇ……。黙ってても良いけど、一歩間違っていたら、わたくし達も被害にあっていたかも知れない。その落とし前はどうつけるつもり?」
「それは……」
グランシェス家には、今後の取引先として優遇するなどのカードがあるけれど、リアナの一存で決めることは出来ない。
どうすれば、納得してもらえるだろうかと、リアナは考え込んだ。
「こういうのはどう? 貸し一つ。今後なにかあったときに、わたくしに手を貸して」
「それは、あたし個人の話ですか?」
「ええ、もちろん。それに、グランシェス家に不利益をもたらすようなお願いもしないわ」
「だったらかまいません」
「決まり、ね。なら、後の処理は貴方達に一任するわ」
クラリーチェは護衛を伴ってリズ達のもとへと下がる。
それを見届け、リアナは村長へと視線を戻した。
「という訳で、貴方達は犯罪奴隷に堕とす方向で、クレア様にお願いするつもりだけど……異論はあるかな?」
「……いえ、娘を助けてくださるのなら、他にはなにも願いません」
「その点については心配しなくて良いよ。この村はちゃんと救うから。それに、労働力が足りなくなるだろうから、犯罪奴隷もグランシェス家から派遣するようにお願いしてあげる」
村長達が目を見開いた。
「あ、あの、リアナさん、それって、もしかして!」
居ても立ってもいられなくなったのか、ククルが詰め寄ってくる。
「派遣するのは、出来ればこの村に詳しい人が望ましいよね。それと、奴隷の待遇については、村のみんなに一任することになると思うよ」
「じゃ、じゃあ、実質、お咎めなしってことですか?」
「人権的なモノはなくなるし、グランシェス家の不利益にならないように、奴隷の刻印を使って縛ることにもなる。けど……普通に働いてる分にはそういうことになる、かな?」
「あ、あぁ……」
ククルが涙を流し、村長達もまた感謝しますと頭を下げる。
あたしはグランシェス家のためになることを優先しただけ。これからお願いすることもあるし、そんな風に感謝されても困るんだけどなぁ……と、リアナは苦笑いを浮かべる。
ちょっぴり、考え方がクレアリディルに似てきたリアナであった。
リアナ達拐かし未遂事件は、村長とその共犯者を犯罪奴隷に堕とすことで決着がついた。
けれど、まだ根本的な問題が残っている。むしろそっちがより問題で、リアナが村長達に甘めの判決を下したのは、それを解決するためだと言えなくもない。
という訳で――
「村長さん、詳しい話を聞かせてください」
村長――といってもすぐに解任されるはずだが、名前を知らないので村長呼びを続行する。
その村長に、違法行為をおこなっている奴隷商のことを尋ねた。
今回はソフィアがいたおかげで未然に防げたけれど、護衛が騎士だけだったら、万が一と言うことも在ったかもしれない。
そして、次の被害者になるのはティナや、他のクラスメイトかも知れない。それを未然に防ぐには、ここで奴隷商を捕まえる必要がある。
それについて、村長達の協力を得る。
それが、甘めの判決を提案した一番の理由。
ということで、リアナは村長達から、奴隷商についてあれこれ聞き込みをする。
そうして得た情報によると、奴隷商は村の近くで待機していているそうだ。そして、リアナ達の出現も既に連絡済み。深夜に村はずれの小屋で取り引きをおこなう予定らしい。
「それで、村はずれの小屋を、あたし達に使わせようとしたんだね。……でも、護衛達はどうするつもりだったの?」
「奴隷商が言うには、騒いでも気付かれないような場所に誘い出せば、後はこちらがなんとかするから心配するな、と」
「それは……」
それが事実なら、護衛をなんとか出来るだけの戦力を奴隷商が保持していることになる。
「……奴隷商って、そんなに物騒な集団なんですか? それとも、奴隷の逃亡防止に戦える者を保持しているとかでしょうか?」
リアナは側にいたネクトに向かって問いかける。
「奴隷は通常、奴隷用の紋様魔術を使って行動を縛りますから、奴隷の逃亡防止にそう大きな戦力を持ったりはしません。もちろん、旅をする以上は護衛を雇っていたりする可能性はありますが、我々の存在を知っていて、なんとか出来ると言っているのだとしたら……」
「適当を言っているか、普通じゃない奴隷商か、ってことですか?」
「はい。そして、非合法の取り引き、そして、リアナ様達のスケジュールを知っている者となれば、後者の可能性が高いかと」
「そうですか……」
村長に頼んで奴隷商をおびき出して捕らえて終わり。そんな風に思っていたけど、以外と厄介かも知れない――と、リアナは悩む。
安全を期するなら、グランシェス家に応援を求めるべきだ。けれど、この機会を逃せば、奴隷商を捕まえられるか分からない。
どうしよう……と思っていると、ソフィアが視界の中で自分をしきりに指差していることに気がついた。
「ソフィアちゃん、なにをしてるの?」
「ソフィアが、殲滅してあげるよ」
「え? ええっと……う、うぅん」
ソフィアなら大丈夫かもしれない。そう思うと同時に、こんなに幼い女の子を危険な目に遭わせる訳には……とも思う。
「村長さんにソフィアを捕まえたフリをしてもらって、奴隷商に差し出す。あとは、ソフィアが敵を殲滅。みんなには他に仲間がいないか周囲を探ってもらう。これで完璧だよぅ」
「か、完璧かなぁ……」
作戦と言うよりは、たんなる力業。普通に考えると、却下するべきなんだけど……とネクトに視線で意見を求めると、無言でそっぽを向かれてしまった。
困ったリアナが更に視線を巡らすと、今度はへし折れた樹が目に入った。
「うぅん……ソフィアちゃん、危険はないの?」
「危険を恐れていたら、大切な人を護れないんだよ?」
「……たくましすぎるよ」
というか、さっき自分のことを大切にしろって言ったくせにとジト目を向けるが、ソフィアはどこ吹く風。まるで主人の命令を待つ獣のように、じっとリアナを見つめている。
「ん~、分かった。それじゃ、ソフィアちゃんの案でいこう。ただし、捕まったフリをするのはソフィアちゃんとあたしの二人、ね」
「えぇ、それはダメだよ。それに、そんなことしたら危ないよぅ」
「どの口が言うの、どの口が」
「ふみゅぅ~」
ぎゅーっとほっぺたを引っ張ると、ソフィアが可愛らしい悲鳴を上げた。
「相手はこっちが二人なことを知ってるんでしょ? 罠を張るのなら、あたし達二人ともつれていった方が良いよ」
「それは、でも……」
「それに、ソフィアちゃんになにかあったら困るもん。あたしが一緒なら、ソフィアちゃんも無理はしないでしょ?」
「それは、まぁ……そうだけど」
「だよね、だから、あたしも連れて行くべきだと思うのよ」
「……はぁ、リアナお姉ちゃんは言い出したら聞かないんだから。仕方ないなぁ」
ソフィアはため息をついた。
「分かってくれた?」
「うんうん、リアナお姉ちゃんの気持ちはよく分かったよ。ということで、はい、どうぞ~」
どこから取り出したのか、ソフィアがコップを差し出してきた。
「急にどうしたの?」
「景気づけの一杯。この村特製の果汁ジュースだよ」
「……景気づけ?」
「うん、これから、一緒に非合法な奴隷商を退治するんでしょ?」
「あ、そっか。それじゃ、非合法な奴隷の討伐を目指して」
「乾杯、だよ~」
「カンパーイ」
リアナはコップの中身を飲み干して、がんばるぞっ! と可愛らしく拳を握りしめる。
「はい、リアナお姉ちゃん、お代わり」
「え?」
「景気づけは、三杯飲む決まりなんだよ?」
「え、そんな決まりがあるの?」
「知らないの? 景気を良くするには、一つくらいじゃダメ。最低三つくらいは改善しないと効果がない。そういう理由から、三杯飲むのが決まりなの」
「へぇ……そうなんだね」
「ほら、飲んで、飲んで」
「う、うん。……んっ、……こくっ……ふぅ」
「それじゃ、残り一杯いってみよう~」
よく分からない勢いに押されて、更にコップの中身を飲み干していく。そして、リアナは深い眠りに陥っていた。
酔い潰すどころか、クスリ入りの特製ジュースで眠らせてリアナをお持ち帰りするソフィア。





