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無知で無力な村娘は、転生領主のもとで成り上がる  作者: 緋色の雨
第二章

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無知で無力な村娘は村を発展させたい 2

 『無知で無力な村娘は転生領主のもとで成り上がる』1と『この異世界でも、ヤンデレに死ぬほど愛される』2が今日発売です。

 両方大判なので、大判の新刊コーナにあると思います。本屋で見かけたらぜひ手に取ってみてください。

 

 リアナとソフィアは手分けして、各農家の田畑を回って不備がないか確認していった。

 しかし、ダンケ村の人口はおよそ千人で、家屋の数でいえば数百。二人で手分けしたとはいえ、さすがに一日やそこらで回るのは不可能だ。

 日が暮れ始めた頃、リアナはその日の作業を切り上げた。そうして、ソフィアへの伝言を頼み、村の広場でソフィアを待つことにしたのだが……

 噂を聞きつけた村の男達が集まってきた。


「いや~、まさかリアナちゃんが農村出身とはなぁ」

「んだ、絶対貴族様だと思ってただ」

「全くだ。だが、貴族様じゃないなら遠慮はいらねぇな。どうだ、俺の嫁に来ねぇか?」

「抜け駆けは許さねぇだ。是非、おらのところに来てくんろ」

「お前ら自分の年を考えろ! リアナちゃん、俺の方が良いだろ?」

 リアナとの会話の主導権を奪い合っていた男達は、やがて口論を始める。

 男達の求婚はわりとガチだったりするのだけれど、自分がいかにモテているかまるで自覚のないリアナは苦笑い。


「あたしはこれからもミューレの街で働くつもりだから、ごめんね」

 砕けた口調で、男達の心を砕いていく。


「あっはっは、あんた達じゃ役不足だよ」

 男達が沈黙したところで、おばさんの笑い声が響いた。


「なんだよ、婆さん。邪魔すんな」

「誰が婆さんだい。あたしゃ、まだそんな歳じゃないよ。というか、あんた達こそ、その嬢ちゃんが、村のためにわざわざ来てくれたって分かってるのかい?」

「それは分かってるさ」

「分かってるなら、迷惑を掛けてるんじゃないよっ! ほら、自分の作業にもどんな!」

 小母さんは男達の尻を蹴っ飛ばして追い払ってしまった。


「若い連中がすまないね。あんたみたいに綺麗な女の子を見たことがないから、すっかり舞い上がっちまったんだ。許してやっておくれよ」

「うぅん、そもそも気にしてないよ」

「おや、そうかい? あんたみたいなお嬢様は、騒がしいのは苦手だと思ったけど」

「あたしも村娘だからね~」

「……マジかい?」

「マジだよ? というか、ミューレ学園の生徒はみんな農村出身だって知らない?」

「いや、たしかに前に来た嬢ちゃんがそんなことを言ってたけど……あたしゃてっきり」

「あはは、色々と着飾ってるからね」

 リアナ達生徒はアリスブランドの広告等として化粧品などにも手を出している。もし自分が綺麗に見えるのなら、きっとそれが理由だろうと、リアナは思っている。


「いやいや、着飾ったからって、誰だって嬢ちゃんみたいになれるとは思えないよ。うちにも娘がいたけど、嬢ちゃんの服を着せたとしても絶対に似合わないよ」

「そんなことはないと思うけど……でも、似合ってると思ってくれるなら嬉しい、かな」

 ソフィア達には敵わないと思いつつも、それでも綺麗になる努力はしている。お嬢様のように思われたのなら嬉しいなと微笑んだ。


「……本当に村娘なのかい?」

「うん。レジック村出身だよ」

「聞いたことある村だね。これは驚いた。なるほど、連中はそれで浮かれてたんだね」


 物凄く可愛いのに、手に届くかも知れない女の子だから――という意味。

 けれどリアナは、手に届かない美しい女性よりも、手に届く着飾っているだけの女の子という意味だろうと受け取って苦笑いを浮かべる。


「……っと、あたしまで邪魔をしちゃ意味がないね」

「あ、大丈夫だよ。あたしはソフィアちゃんを待ってるだけだから」

「そうなのかい?」

「うんうん。だから、よかったら、少し世間話に付き合ってくれないかな?」

「もちろんかまわないけど……こんな小母さんと話して退屈しないかい?」

「まさか、楽しいよ~」

 農村出身のリアナは、こういった雰囲気が嫌いじゃない。そして、こういう人当たりの良さが、他人を惹きつけていたりする。


「それならかまわないけど……なんの話が良いんだい?」

「うぅん……それじゃ、前に来た生徒のことを教えてくれないかな?」

 リアナの目的は不備がないかの確認と、新しい産業の探求。そのためには、先輩がどんな感じだったのか知りたいと尋ねる。


「前の生徒は……そうさね。引っ込み思案だけど、凄く一生懸命な女の子だったね」

「引っ込み思案?」

「口下手ともいうね。といっても、あたし達が警戒気味だったのも理由だろうね」

「……警戒、してたんですか?」

「貴族様の遣いを名乗る、綺麗な女の子がやって来て、農民であるあたし達に農業を教えるなんて言うんだよ? なにを言っているんだ、この子は――って思ったさ」

「あはは……」


 いわれてみれば、リアナ自身も同じことを思った記憶がある。

 けれど、この村に来たときはそんなことも忘れて、リアナ自身も農業を教えに来たというスタンスを取っていた。

 次の村で同じ轍を踏まないように気を付けようと自分を戒める。


「でも、そこからよく信じる気になったね」

「その子が凄く一生懸命でね。初めは半信半疑だったんだけど、取り敢えずやってみようって言うことになったのだ」

「取り敢えず、なんだね」

「ああ、その通りだよ。だから、当時はその嬢ちゃんに対しても、あんまり感謝してなかった。いまになって、あのときもっと感謝しておけばって、みんな後悔してるのさ」

「そっかぁ……」

 リアナにやたらと優しいのはそれが理由。

 本当に、先輩には感謝だなぁとしみじみ思う。


「ところで、嬢ちゃんのことも聞いていいかい?」

「え、もちろんかまわないよ?」

「そっか。なら、聞かせて欲しいんだけど、グランシェス家ってどんなところなんだい?」

「……グランシェス家?」

 てっきりミューレ学園のことを聞かれると思っていたのでキョトンとする。


「実はチェルシー……友人の娘がグランシェス家の使用人として働いていてね。けど、最近は連絡が取れなくなったって心配してるんだよ」

「……グランシェス家で。もしかして、ミシェル先生のことかな?」

「あぁ、そうだよ。ミシェル……って、先生? あたしの知ってるミシェルは、先生なんてがらじゃなかったけど」

「ええっと……黒髪に黒い瞳だけど」

 リアナがいくつか特徴を挙げていくと、それなら間違いないねと、小母さんは表情をほころばせた。


「ミシェルは元気でやってるのかい?」

「元気だよ。それに、丁寧に勉強を教えてくれる優しい先生だよ」

「そうか、それは良いことを聞いた。チェルシーの奴、もう一人の娘を手放すことになって、死ぬほど落ち込んでるからね。ちょっと知らせてくるよ」

「え、それって……」

 もしかして、ティナのこと?

 そう聞く前に、小母さんは「ありがとうね」と走り去ってしまった。


「……行っちゃった」

 まあ、村にはしばらく滞在するんだし、別の機会に聞けば良いかと考える。それから、そう言えばソフィアちゃん遅いなぁ……と辺りを見回す。

 ソフィアはまだ戻ってこないけれど、代わりに近くの木陰から、こちらの様子をうかがう少年がいることに気がついた。


「キミ達、そんなところでなにしてるの?」

「――っ」

 ビクンと身を震わせた少年は、木陰の向こうに引っ込んでしまう。

 リアナは立ち上がってその木陰へと回り込んだ。


「こーら、そんなところに隠れてもバレバレだよ」

「うわぁっ!?」

「――っと、大丈夫?」

 驚いた少年が転びそうになるのを、とっさに腕を掴んで支える。無自覚美少女なリアナに手を掴まれた少年が、あっという間に真っ赤になっていく。


「は、放せよっ!」

「はいはい。そんなに怒らなくても捕まえるつもりなんてないよ」

 リアナはさっと手を放し――

「ただ、キミがなにをしてるか、気になっただけだよ」

 ふわりと微笑みを浮かべた。


 ところで、考えてみて欲しい。

 お姫様のような女の子を木陰から盗み見ていたら、いきなり気さくに話しかけられて、あまつさえ手を掴むというスキンシップまでされる。

 トドメに、愛らしい微笑みまで向けられた無垢な少年の気持ちを。


「ね、姉ちゃん、この村にはなにしに来たんだ? 俺が結婚してやっても良いぜ?」

 完全に舞い上がっていた。

 この少年はいきなりなにを言ってるんだろうと、リアナは首を傾げる。


「い、いまのはいい間違いだ。姉ちゃんはモテそうにないからな。仕方ないから、俺が結婚してやっても良いぜ?」

 あまり変わっていない。むしろ酷くなっている。ただ、レジック村でも同じようなことを言われ馴れているリアナはこう思った。

 子供は良くも悪くも正直だなぁ――と。

 リアナの自己評価の低い原因だったりする。

 そんな訳で――


「それじゃ、あたしが十年後ももらい手がいなかったらお願いしようかな」

 あたしだってモテるんだからね? なんて強がっても余計に笑われるだけだと確信しているリアナは、レジック村でしていたように軽く受け流す。


「ほ、ホントか?」

「うんうん。まあ、あたしより、キミの方が誰かと結婚してると思うけどね」

「そんなことしない! 絶対、姉ちゃんを迎えに行くからなっ」

「はいはい、期待しないで待ってるよ」

「絶対だからな、約束したからなっ!」

「――おい、ウェンツ。その方の邪魔をするなと言っただろ!」

「いけねっ。それじゃ姉ちゃん、またな!」

 ウェンツと呼ばれた少年は、物凄い勢いで逃げ去っていった。そして、見知らぬおじさんがリアナに会釈して、ウェンツの後を追いかけていく。


 この村は平和だなぁ……と、リアナは草むらの上に座って身も蓋もないことを考える。そうしてまちぼうけているとほどなく、ソフィアがようやく戻ってくる。


「お待たせだよ、リアナお姉ちゃんっ!」

「――ひゃうっ」

 飛び掛かってきたソフィアの勢いに耐えきれず、リアナはゴロンと後ろに倒れ込んだ。

 草むらの上で、ソフィアに押し倒されるような恰好になる。


「あいたた。ソフィアちゃん……勢いよすぎだよ」

 以前からスキンシップの激しい&力の強い女の子だったけれど、馬車旅に来てから、二割増しくらいになっている。このままじゃあたしの身体が持たないよとリアナは嘆く。


「えへへ……ごめんね」

 ソフィアはひょいと起き上がると、手を差し出してきた。リアナはその手を掴んで引き起こしてもらい、スカートのホコリパタパタと叩く。


「ありがとう。それにしても、遅かったね。なにかあったの?」

「あぁうん。なんか、お嫁に来て欲しいって、あっちこっちで捕まっちゃって。お兄ちゃんと結婚するから無理って言ったんだけど、なかなか納得してもらえなかったんだよぅ」

「それは、そうだろうねぇ」

 小さな女の子がお兄ちゃんと結婚するという。いわゆる、将来の夢はお兄ちゃんのお嫁さんと、一過性のあれだと思われているのだろう。


「ところで、リアナお姉ちゃんは大丈夫だったの?」

「……あたし?」

「うんうん。リアナお姉ちゃんも、たくさん言い寄られたんじゃない?」

「あはは、あたしは誰にも言い寄られたりはしてないよ。からかわれたりはしたけどね~」

「……そうなの? この村の人は、見る目がないんだねぇ。ソフィアだったら、リアナお姉ちゃんを放っておいたりしないんだけどなぁ」

「ありがと。そんなこと言ってくれるの、ソフィアちゃんだけだよ」

 他の男達が聞いたら絶望しそうなことを平然と言い放ち、リアナはふわりと微笑んだ。

 

 

 おかげさまで日刊ランキングに残って上昇気味です。

 面白かった、続きが気になるなど思っていただけましたら、下の評価をポチってくださると嬉しいです。作者の励みになるのでよろしくお願いいたします。


 また、この夏に新作を三作同時に更新中です。作者名から投稿リストに飛んで、気になるタイトルを見ていただけると嬉しいです。

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2018年 7月、8月の緋色の雨の新刊三冊です。
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