プロローグ
第二章、投稿開始です。楽しんでいただけると嬉しいです。
二章から入浴シーンや、ユリ要素が増えるので、保険でR15&ガールズラブを付けました。たぶん、必要のないレベルです。
夏は五作同時更新予定で、今作の更新ペースは中くらい(3日に一回くらい?)を予定しています。
また、同時投稿の第一弾として、新作【仲間に見限られた俺と、家族に裏切られた彼女の辺境スローライフ】を毎日更新中です。
今作の一巻の発売は7月30日で、書影は、20日くらいに公開予定なんですが、異世界ヤンデレ(7月30日)と、とにかく妹が欲しい(8月10日)、今作と、著作:緋色の雨の書籍が三社から発売する事情で、合同バナーの制作許可をいただきました。
そのバナーですが、緋色の雨のツイッターのバナーとして、本日7月15日から使用しています。
今作の表紙イラスト(一部です)が公開はたぶん最速です。
活動報告にある異世界ヤンデレ2巻の書影公開スレから、緋色の雨のツイッターに飛べるので、気になる方はぜひぜひご覧ください。(表紙はリアナです)
リゼルヘイム王国の南に位置する、グランシェス伯爵領。数年前までは飢饉や伝染病に悩まされていた彼の地は急速に復興し、技術革新を果たそうとしていた。
その中心となるのは――
「リアナ姉ちゃん、次は俺、俺に教えてくれよ!」
「なに言ってるの、次は私だよ! ねぇ、リアナお姉ちゃん」
「いやいや、ここは大人な俺が聞くべきだろ。なぁ、リアナ」
「こーら、順番に説明するから喧嘩しないの」
レジック村の農場で、農業の知識を請われて老若男女を問わずにモテモテなリアナ――ではなく、木陰からその様子を見守っている少年。
この領地を伯爵家当主代理としている統治しているリオン・グランシェスである。
リアナが村人に伝えているのは、連作障害という概念やその対策。更には土壌の酸性度の調整などなど、収穫量を増やして安定させるための知識。
すべて、リオンやアリスティアの持っている、前世の知識によるものだ。
前世で死にゆく妹に『私の分まで幸せになって』という願いを託されたリオンは、今世で仲間達とともにミューレ学園を設立した。
そして、学園で得た知識を、リアナが故郷の者達に伝えている。その光景こそ、リオンの思い描いた未来だったが、実現まではもう少し掛かると思っていた。
「リアナは人に教えるのが上手いみたいだな」
「リアナさんは無知で無力な村娘として生まれ育ち、そこから努力だけで成り上がった、ごく普通の女の子ですからね。村人の気持ちが良く分かるんだと思いますよ」
リオンの呟きに答えたのは、お付きのメイドにして実の母親。ミリィの返答を聞いたリオンは「なるほどなぁ」と呟いた。
才能の片鱗を見せ始めているが、リアナはつい最近まで文字の読み書きも出来なかった。そこから成り上がるために必要なノウハウこそ、村人に必要なもの。
前世の知識というチートを使ったリオンには持ち合わせていないノウハウだ。
なにより、村人の心をがっちりと掴んでいる。
故郷ということもあるだろうが、まだ日本で言えば中学生でしかないリアナの言葉を誰もが信じ、農業に取り入れようと必死に聞き入っている。
リオンが説明したときは、こんなにスムーズに信じてもらえなかった。よほど、村の者達の信頼を得ているのだろう。
それは紛れもない、リアナの才能だ。
もっとも――
「リ、リアナ。その、いつか、この村に帰ってくるんだよな?」
「ん……そうだね、技術支援で来ることは在るかもしれないけど?」
「そ、そうじゃなくて、この村で暮らすつもりはないか? もしそうなら、俺と……」
「あー、それは無理だね」
「む、無理?」
「だってあたし、リオン様にお仕えしてるもん。というか、もしそうなら……って、さっきなんて言おうとしたの?」
「い、いいいや、なんでもない!」
恋愛についてはからっきし。にぶちんリアナによって、淡い初――かどうかは分からないが、恋がまた破れ去った。
リオンが知っているだけでも、既に三人目である。
人口数百人規模の村なのに……と、リオンは走り去る少年に黙祷を捧げた。
「……恋のイロハも授業に組み込むべきか?」
「そんなことをしたら、またハーレムが目的だとか言われますよ?」
ミリィの忠告に沈黙し、リオンは青い空を見上げた。
「……人生というのはままならないモノだな」
少年のガラスのハートよりも、我が身が可愛いだけの話である。
「リオン様、ありがとうございます」
掛けられた声に視線を向けると、レジック村の村長、カイルが立っていた。
「……なんのことだ?」
食糧支援に、村におこなっている技術指導に、リアナの妹を救ったこと。
心当たりがありすぎて、お礼の理由が分からない。
「いまのは村長としての言葉です。食糧支援ばかりか、農業に対する様々な知識を教えてくださってありがとうございます。リオン様のおかげで今年の冬を越せそうです」
「……そうか、それは良かった」
リオンは領主としては、口減らしが必要な行為だと理解している。だけど同時に、日本人としての良識を持ち合わせているリオンは、それらの行為に胸を痛めていた。
だから、自分の行動に結果が伴っていると知って安堵する。
「それと、父親としても礼を言わせてください。リアナやアリアを救ってくださってありがとうございます。このご恩は、一生掛かってもお返しさせていただきます」
「アリアは分かりますけど……リアナを救った?」
「私はあの日、娘を捨てたのです」
「……そう、だったな」
食糧支援と引き換えに、娘を貴族のおもちゃとして差し出した。カイルにしてみれば、やむにやまれず捨てた愛娘を、リオンが救ってくれたということ。
もっとも、リオンにしてみればたんなる連絡ミスで、マッチポンプも良いところなのだが。
「気持ちは分かるが、俺は感謝されるようなことをなにもしてないぞ」
「なにをおっしゃいます。いまもこうして、優遇してくださっているではありませんか。使用人の妹が危篤だからといって、馬車を手配して自ら駆けつける領主がどこにおりましょう」
「それは……そうかもな」
前世のリオンは、不治の病で妹を失った。
――もっとも、その妹も同じように転生して、年上のエッチなエルフとして、リオンに言い寄っていたりする訳だが……不治の病で妹を失った過去があることに変わりはない。
妹を失いそうになっているリアナを、放っておけなかったのが一番の理由だ。
「でも、役に立つ使用人を優遇するのは当然だろ?」
「娘は……リオン様のお役に立っているのですか?」
カイルの問いかけに、リオンはリアナを顎で示した。
「俺が説明しても、あんな風には出来なかったろうな」
「……リアナは好かれておりますからな。しかし、あれは、この村だからこそでしょう」
「いや、ミューレの学園でも同じように味方を増やしている。人心掌握も才能のうちだと思うぞ。まぁ……あの鈍感さはどうかと思うが」
四人目の犠牲者を生み出した天然小悪魔を眺めながら呟く。
なお、泣きながら走り去ったのは青年でも少年でもなく、ましてやおじさんでもない。
いたいけな少女だった。
老若男女お構いなしに惹きつける魅力と、好意に気付かずに振り回す性格。無意識に周囲の少女を惹きつけつる、どこぞの転生領主よりもたちが悪い。
「リアナは昔からあんな感じです。自分への好意に鈍いと言うか、なんと言うか……」
「普段から周囲の人間に好意を寄せられているせいで、特別なことだと気付かないんですね」
カイルの呟きに、ミリィが淡々と答え――
「リアナ、鈍そうだもんな」
自分のことを棚上げする主――鈍感な息子を見て、ミリィがコッソリとため息をつく。
「しかし、本当にモテモテだな」
犠牲者が生み出されているにもかかわらず、リアナのまわりには人が集まっている。
グランシェス家には負けず劣らずの美少女が揃っているが、あそこまでモテる女の子はリアナくらいだろう――と、リオンは思いを巡らす。
「他の方は、皆さんにとっては雲の上の存在でしょうから」
「あぁ……たしかにな」
貴族に、気位の高いハイエルフ。
彼女達に声を掛けられる者は限られている。
そんな彼女達に負けず劣らずの気品や愛らしさを持つ、普通の女の子。
そりゃモテるわな――と、リオンは納得した。
「しかも、知識面も凄いしなぁ」
一年以上学んでいるティナや、最初からある程度教養のあったミリィ達はともかく、リアナは学園に通い始めてまだほんの数ヶ月。
文字の読み書きもままならなかった無知で無力な村娘が、わずかな期間でここまで上り詰めた。前世の記憶に押し上げられたリオンとは違う、本当の天才。
いつかは、この国の行く末を担うような娘になるかも知れない――と。
リオン達はそんな予感を抱いた。
もっとも――
「リアナ、俺、お前のことが好きだ!」
「あたしも、村のみんなのことが大好きだよ! いつかもっとたくさんの知識を得て、大好きなこの村を豊かにするために帰ってくるからね!」
当分は、無慈悲なトラウマメーカーとして君臨しそうな予感がするが。
プロローグは三人称リオンしてんですが、次回からリアナに戻ります。
前書きでも書きましたが、新作【仲間に見限られた俺と、家族に裏切られた彼女の辺境スローライフ】を毎日更新中です。
https://book1.adouzi.eu.org/n3178ew/
タイトル通りの二人が、現実逃避のスキルを駆使して悠々自適に暮らすスローライフ。
ぜひぜひご覧ください!





