第37話 完売
一人取り残された南郷村長は、最初に陥落した輝光という冒険者に詰め寄ると「おい!」と声をあらげます。
「自分がなにをしたかわかってんのか!」
「あんたこそ、あのパンをあれだけ食ってわからにゃいのなら本物だよ……」
輝光のほうは「にゃー」が残っているようです。
「こんな食い物を作れるのが、普通の人間のわけがにゃいだろ……大天使とか、大悪魔とかそういうのだよ。オレたちなんかがどうこうできる相手じゃにゃい」
Ꮚ・ω・Ꮚメー/スキンヘッドのおっさんがわからせられてにゃーと鳴いておる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大天使?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/配信見てたのか?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いや、そうはみえなかった
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あのパンを前にしたとき、ひとは天使や悪魔という概念を想起せずにはいられないのかも知れない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/適当なことばかり言いやがって
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大天使コムギエル
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大魔王ムギファー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/今始まる小麦の黙示録
Ꮚ・ω・Ꮚメー/本人絶対に嫌がるからやめておくチョッキン
Ꮚ・ω・Ꮚメー/蟹がわかりてを気取っている
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ワカリガニ
さすがにコムギエルとムギファーが定着するのはまずい気がしますが、SNSのほうでバズってしまったようで、コムギエル様とムギファー様の想像図というハッシュタグにイラストが投稿されていました。
一部は美少年のイラストになっていて混乱しました。
「わけのわからんことをぬかすな! もういい! 全員帰れ! おまえらの処分はあとで連絡する。全員アンデッド対応部隊送りにしてやる! 覚悟しておくんだな!」
完全に頭に血が上った様子の南郷村長がわめき散らし。
キュピメェ (これはまた見事に)
キュピンメェ (口をすべらせたな)
キュピピンメェ(ホットなスパイスで頭が温まり過ぎてしまったようだ)
バロメッツたちがニヤリキュピンと目を光らせました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/あー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これは
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やってしまいましたなぁ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/一発アウト発言
Ꮚ・ω・Ꮚメー/四万人規模の配信で言っていい台詞じゃない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/アンデッド対応部隊を左遷とか懲罰みたいにいうのはNG
Ꮚ・ω・Ꮚメー/でも実際そんなもんじゃね?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/現実的にブラックな仕事であることと、言っていいことといかんことは別問題
Ꮚ・ω・Ꮚメー/命がけで人や街を守る仕事だからな。村長なんて肩書きの人間が脅し文句に組み込んだらさすがにライン超え
Ꮚ・ω・Ꮚメー/団長クラスが自分で転戦してアンデッド対応にあたってる冒険者団もおるというのに
Ꮚ・ω・Ꮚメー/さすがのNJMクオリティ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/こんな意識で京都奪還とか新日本軍とか草も生えない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そもそもどうしてこんな組織にそこそこの数の冒険者が集まってるんだか謎すぎる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/入団条件がガバガバだからクラスガチャ爆死した冒険者とか、他の冒険者団でトラブル起こして追放された冒険者とかの受け皿になってる
Ꮚ・ω・Ꮚメー/NJM抜けて選挙に出たはずの人間がなんでNJMの現役冒険者を連れ回して処遇を決められるのかも気になるところ。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そこはそれ、ズブズーブ・ズーズブってやつよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/こんなヤクネタ男を当選させる生産村の民度が一番恐ろしいわ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/終わり散らかしすぎだろう
Ꮚ・ω・Ꮚメー/いや、僅差ではあったんだが、勝たせちまった以上なんもいえねぇ……。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/地元民か
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ドンマイじゃすまねぇわ猛省しろ
配信のチャット欄も加速を始めました。
口走ってしまった直後に失言に気付き、四万人に近づきつつある視聴者の存在を思い出したようです。南郷村長は息を呑み「い、いえ!」と首を横に振りました。
「興奮して言葉が過ぎました! 今の発言は謝罪して撤回させていただきます!」
バーネットのカメラを探すように視線を巡らせてそう叫んだ南郷村長は、頬を痙攣させつつ愛想笑いを浮かべると、「今日のところはこれで失礼させていただきます! お騒がせしました!」と宣言すると、NJMの冒険者達に声もかけずに踵を返し、キッチンカーから離れてゆきました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/涙目敗走エンド
Ꮚ・ω・Ꮚメー/しょうもない捨て台詞を吐かなかったことは評価したい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/この状況下で捨て台詞を吐けたら逆にオレは評価するよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/炎上ネタをさらに増やすことにしかならんだろうからな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/損切りと面の皮の厚さが取り柄みたいなところがある
南郷村長は退散しましたが、NJMの冒険者達はまだ立ち尽くしたままです。
「あの人たちにも、もう行ってもらっていいでしょうか?」
「せやね、そうしてもらって」
群馬ダークはあっさりと頷きました。綺麗に水に流したというわけでもないのですが、単純に「しんどくなっていた」とのことでした。
「わかりました。解散してもらいますね」
バロメッツたちに頼んで解散するように伝えると、NJMの冒険者たちは改めて「御迷惑をおかけいたしました」「申しわけありませんでした」と頭を下げ、さらには何か祈りを捧げるように両手を合わせてから立ち去って行きました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/拝まれてて草
Ꮚ・ω・Ꮚメー/やはり大天使であったか
Ꮚ・ω・Ꮚメー/これにて一件落着?
Ꮚ・ω・Ꮚメー/この配信も終わりかな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/もっと見たい
Ꮚ・ω・Ꮚメー/もっと何か作って
Ꮚ・ω・Ꮚメー/売れぇぇぇぇぇ、売ってくれぇぇぇぇ……
とりあえずの決着はつきましたが、チャット欄の方は継続希望の声が多いようです。また、バーネットの周囲には広場周辺の住人が集まってきてしまっています。レゾナンスシステムのジャミングモードの効果はターゲットである南郷村長一行だけを対象にして発生していますが、余波で広報効果が出てしまったようです。
「なんか、このまま帰れる雰囲気じゃなくなってきた?」
群馬ダークの言う通り、このまま走り去ってしまえる雰囲気ではなさそうです。
「あと四〇個だけ出してひきあげます。群馬さんは休んでいてください」
「さすがにそう言われて休めるもんと違うと思わん?」
群馬ダークは苦笑して言いました。
集まってきた周辺の冒険者たちに整理券を配り、四〇個の三角カレーパンを4,000PPで販売。迷惑料がてら値下げをしました。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/そして再び飯テロショック
Ꮚ・ω・Ꮚメー/もうやめてくれ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/きついなら見るなよ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/くやしいけど見ちゃう(びちんびちん)
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ビチビチすな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/大魔王ムギフェル
Ꮚ・ω・Ꮚメー/勇者ー、早く討伐して勇者ー
Ꮚ・ω・Ꮚメー/禁断の白い粉と黄色い粉による禁断のマリアージュ
Ꮚ・ω・Ꮚメー/小麦粉とカレー粉か
そして最後のひとつの三角カレーパンを買っていったのは、
「ごめんなさい」
テケー。
白衣でなくTシャツにジャケット姿でやってきた背脂所長でした。
「4,000PPだけで大丈夫です。さっきはありがとうございました」
配信しているのでゆっくり話すことはできませんが、簡単にお礼を言っておきました。
群馬ダークがバーネットに飛び込んでくる直前、通電していないはずのスピーカーから音楽が流れ出したのは、スラコンの仕業だったようです。
スラコンは分析・工作特化型の魔法生物ですので、動かないスピーカーに電気と信号を流して鳴らしてくれたのでしょう。
カメラに写らないようこっそりとスラコンの体にショートブレッドを落とすと、テケーという声ともにシュワシュワと消化されてゆき、背脂所長が「こっちにもよこせ」と口を開けました。
「手を出してください」
投げつけないと届きません。
Ꮚ・ω・Ꮚメー/なによその女
Ꮚ・ω・Ꮚメー/ちょっといい女っぽいじゃない
Ꮚ・ω・Ꮚメー/仲良さそうだな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/初対面でこのムーブキメてるとしたらバケモンすぎるからな
Ꮚ・ω・Ꮚメー/とおりすがりの姉かなんかだろうか
こっそり渡そうとしたのですが結局目を引く結果になり、チャット欄が騒がしくなりました。
「近いうちに話をしたい。あとでメッセージを送る」
テケー。
そう言い置いた背脂所長とスラコンが去ってゆき、三角カレーパンの販売は完全終了。デビルオマールカレーのストックもなくなりました。




