第32話 朝ゴゲ
<2025/04/11 お知らせ>
3月22日から4月10日にかけて更新していた「ヒーローズ・パースート」ですが、全体的にはっちゃけすぎて読み手を置いてきぼりにしているかな、と感じるところがあり、実際にわかりづらい、入り込めない、といったご指摘もありましたので、勝手ながら削除させていただきました。
31話で「救世光」を発見したあたりまで巻き戻す形となります。
削除した「ヒーローズ・パースート」は「Ꮚ・ω・Ꮚメー (パンの耳)https://book1.adouzi.eu.org/n4234ki/」で読める状態としてあります。
御迷惑をおかけいたしますが、どうかよろしくお願いいたします。
また、こちらの章は「コケーッ!」より新規テキストとなります。
幻想酵母ぐぜひかりについては背脂研究所のほうでしばらく調査、検証をしてもらうことになりました。
当初の相談のときは十億PPがどうこうという話が出ていましたが、実際に依頼を受諾する前に私のほうからマンドラゴラ酵母を持ち込んでしまったので話がややこしくなってしまっています。背脂所長の欲しい酵母というのは私が関与しなくてもアンデッド因子感染症対策に利用できる酵母になりますので、そのあたりの検証を行い、必要要件を満たすものであれば成功報酬を支払ってもらう、という風に話し合って決めました。
場合によっては必要要件を満たすよう再調整、という話になるそうですが、そのあたりは検証結果待ちとなります。
面会辞退の連絡を入れた生産村の南郷村長からは「大変残念です。今後のご活躍をお祈りしております」という簡単な返信があり、それ以上の動きはありませんでした。
つまり、
メー(急ぎの案件はいったん片付いた)
ことになります。
ドンレミ農場で蟹座イベントの準備を進めたり、東京玩具流通センターでキッチンカーの調整を進めたり、背脂研究所で検査を受けたり料理を作ったりして日々を過ごした私は。
コケーッ!
ゴゲーッ!
コケコッコー!
ゴゲゴッゴー!
農場の鶏に張り合うようなマンドラゴラの声で目を覚ましました。
群馬ダーク邸で蟹座イベント用メニューの開発。正確にいうと普通に料理をすると基本的にレア、油断するとエピックをごろごろと生産してしまうベーカースキルをコントロールする練習をしているうちに日が暮れ、「泊まってったら?」という群馬ダークの申し出に甘えた朝となります。
ネムメェ (独特な目覚ましだ)
ネムムエェ (朝チュンならば聞いたことがあるが)
ネムネムメェ(朝ゴゲとは)
用意してもらった寝床は群馬ダーク邸の二階の和室。ふわふわ空中に漂って眠っていたバロメッツたちも動き出します。
立ちあがって障子を開くと、農場はもう仕事をはじめています。
マンドラゴラたち、それとずんぐりした体つきの農業用のゴーレムたちが朝の水やり、草取り、鶏の世話などに動き回っていました。
農場長である群馬ダークもかなり前に起きていたようで、収穫したトマトを馬車に乗せて戻って来るところでした。
東京水没状態を維持する為に思い出したように豪雨が降ってくるのであまり油断もできないのですが、今日のところは晴天です。
「おはよー」
「おはようございます」
視線をあげた群馬ダークと挨拶をして一階に降り、朝食の準備をします。
群馬ダークの従魔であるマンドラゴラは全部で百本。不慮の事故などがなければ寿命は一年程度で、粒子になって消滅する前に根の一部が分離して新しい個体になり、代替わりのような形で数を維持しているそうです。
事故などで百本以下になってしまった場合は代替わりの時に二倍に増えることで百本に戻って行くそうです。
群馬ダークが一から集めたわけではなく、この農場の権利を手に入れたとき、先代のオーナーから土地と一緒に百本まとめて譲り渡されたのだそうです。
「安く売る代わりにこの子らの面倒みろっていうんが条件やった」
マンドラゴラ用の小さなライスボールを丸めながら、群馬ダークはそう説明してくれました。基本は光合成でエネルギーを賄いますが、少し食べたほうが元気に働くのだそうです。数は百本分で百個となりますが、クルミくらいの大きさで良いのでそう苦労はないそうです。
群馬ダークの横で私が焼き、フレーク状にほぐした鮭をライスボールに入れていたのですが、また少し悪さをしてしまったようで、ライスボールを口に入れたマンドラゴラたちが目を光らせ、
ジャゲー!
と怪しい声をあげていました。
別の日にも試して見たところ、おかかやこんぶ等でも似たような事態になってしまいました。
私のスキルというより、蟹座の大星石のシーフードルーラーの効果だったようです。
ちなみに、おかかはカカー! こんぶはコブー! と叫んでいました。
マンドラゴラ用の食事を配ったら、今度は私達の番です、
収穫したばかりのトマトを切ってレタスやチーズと合わせてサラダを作り、焼き鮭と御飯、ネギと油揚げの味噌汁を用意します。
朝食のあとはトマトの出荷作業や、長雨で痛んでしまった農道のチェックや修繕作業、農具の洗浄などの手伝いをして過ごしました。
お昼は芋、鳥、春菊と桜エビの天ぷらと蕎麦。
サクメェ (これもまた趣がある)
モグメェ (丁寧な暮らしか)
チュルメェ(ゆっくりした時間が流れる)
バロメッツたちがわかったようなことを言って。
ゴゴゲー
マンドラゴラたちは焼いたそばがきをかじっています。
午後からは群馬ダークと一緒に蟹座イベント用メニューの開発を再開します。
農場の作物を活かして何かいい感じのものを作ろう、というのがテーマとなります。
「うん、ええ感じなんと違うかな」
高尾エリアで採取した栗とドンレミ農場産のサツマイモを使って甘い栗きんとんをつくり、ホットサンドにしたものを試食した群馬ダークは、笑ってそう言ってくれました。
「ちょっとにゃーって気分にはなるけど口から漏れへんくらいで収まっとる」
ゴゴゲー。
ホットサンドをかじった肩の上のマンドラゴラも大丈夫そうです。
マンドラゴラの歌を使ってレアリティをコモンまで落とした食パンを使うことで、最終的なレアリティをアンコモンにセーブすることができました。
それと、私のベーカーのレアリティについてですが「失敗作」としてレアパンやエピックパンの生産を続けて行くうちに「ごめんやけど、そろそろスルースキルの限界」ということでレジェンダリークラス保持者と自白することになりました。もうほとんど察し切られてしまっているような状況ですし、吹聴するような相手でもないこともわかっていますので、白状してすっきりしておくことにしました。
反応としては、
「やっぱりかー」
というものでした。
「私なんかと絡んどって大丈夫なん?」
とも言われましたが、
「絡まりたいから絡まっています」
と言ったところ、
「……オーケー、この話はここまでにしとこ」
と、話を打ち切られてしまいました。
「これ以上は変なタワーが建ちそうな気分になりそう」
とのことでした。
「とりあえず私もやってみよか」
群馬ダークがパンに栗きんとんを挟んでホットサンドを焼いてみたところ、鑑定結果はコモンとなりました。
「私が触った途端レアリティ落ちるんはさすがにちょっと腹立つ」
メェ (気持ちは理解する)
メメェ(レディは全体的に理不尽だ)
メエェ(気にしないほうがいい)
ゴゴゲー。
なんだか少し孤立してしまったようです。
ともかく私が手を出しても、普通に売っても問題のない価格帯に収められるようになってきましたので、ホットサンド類をメニューに加えることにしました。
マンドラゴラやバロメッツたちにも調理方法を教えてみると、コモン相当のホットサンドが出来上がりました。
ゴゲゴゲー。
メェ (マンドラゴラ印のスイートポテトサンド)
メエェ(我々も後れは取れん)
メメェ(こちらはバロメッツ印のアンチョビポテトサンドだ)
ジャガイモとアンチョビとチーズを使ったオリジナルのホットサンドを焼いたバロメッツたちがそんなことを言いました。
商品としては面白いので、これらもメニューに加えることになりました。
どうせやるならマンドラゴラやバロメッツの焼き印入りのホットサンドを作れないかという話になり、生産村の鍛冶屋に相談に出向くことにしたのですが、出発前にダバイン貴富から連絡が入りました。
「納車の準備ができたけれどどうする? 従魔石で送る? 取りに来る?」
とのことでした。
「群馬さんと生産村の商店街に行くところだったのであとで寄らせていただきます」
「わかった。じゃあ待ってるね」
「貴富さん?」
「はい、例の車ができたと連絡が」
「先に寄ってったほうがいい?」
「いえ、あとにしておきます。長居をしてしまうと思うので」
大体長めのお喋りというか、旧時代の玩具や文化の話を聞いて、買い物をして帰ることになっています。




