表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パンと弾丸とダンジョンと・Rebake Ꮚ・ω・Ꮚメー(東京大迷宮最強は少女兵あがりのパン屋さん)  作者:
高尾山生産村

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/125

第16話 群馬聖

「そういえば渡そう思っとったんやった。これ、今年の群馬聖」


 群馬ダークがまた群馬聖の箱を出してダバイン貴富に渡しました。


「ありがとう。せっかくだから切ってお茶でも入れようか」


 ダバイン貴富が席を立ち、お茶を入れてくれました。

 せっかくなので私も桃を切らせてもらいます。

 桃という果物には始めて触りますが、レジェンダリーベーカーの包丁さばきスキルはSランクです。

 初挑戦でもうまく皮をむけました。


 メェ (尋常ならぬ精度!)

 メメェ(一皮剥いても輪郭に変化がない!)

 メエェ(果肉はおろか果汁が逃げる暇もない!)


「いつもこういうテンションなん?」

「こういうときはだいたいそうですね」


 そろそろ聞き流すようになってきていますが。


「確かにいい仕事だね。金属加工をしてもらいたいくらいだけれど、食べ物限定なんだよね」

「そうみたいです」


 残念ながら料理以外に応用はできない。

 そうして切り分けた群馬聖を口に運ぶと。


 メェ (いい出来だ)

 メエェ(柔らかく蜜も多い)

 メメェ(シロップ漬けのような甘さだ)


「凄いね、今年のは」


 バロメッツたちとダバイン貴富がそんな声をあげ、


「……どういうこと?」


 生産者の群馬ダークは戸惑ったように呟きました。


「どうかしましたか?」


 なにかおかしなことをしてしまったのでしょうか。


「他の桃と感じがちがう。料理扱いになっとる?」


 群馬ダークは農家ファーマークラスの持ち主なので食べ物の鑑定スキルが高いようです。小さなウィンドウに鑑定データを出した群馬ダークは、また新しい群馬聖をひとつ出して、「もういっこ切ってみてもらっていい?」と言いました。

 もう一度皮を剥き、切り分けて行くと、鑑定スキルを使い続けていた群馬ダークはまた「えぇ?」と声をあげました。


「どうでしたか?」

「ナイフが入った途端食事効果が増えた」


 群馬ダークが見せてくれた鑑定データによると、通常の群馬聖は、以下のようなステータス。


 白桃『群馬聖ぐんまひじり

 レアリティ:アンコモン

 品質:最高

 食事効果:バイタル1段階回復


 それが皮を剥いて切り分けると、


 カットフルーツ『群馬聖ぐんまひじり

 レアリティ:アンコモン

 品質:最高

 食事効果:バイタル1段階回復

      メンタル1段階回復


 となっていました。


「こんなん初めてみた……おいしいからいいけど」


 ゴゴゲゲー!


 群馬ダークが差し出したフォークから群馬聖をかじり取ったマンドラゴラが目と口を光らせて声をあげます。


「一流の板前だと生魚より刺し身のほうが味や食事効果がよくなるって言うけれど、同じようなものかな……うん、凄い」


 モグモグメー(アムリタの如き蜜)

 アムアムメー(濃密にして柔らかい果肉)

 アマアマメー(仙桃とはこのようなものか)


 評判が良いようですが、こう大げさに反応されるとかえってどうしていいかわかりません。

 そうしてお茶の時間を終えた私達は、東京玩具流通センターを後にしました。


「お邪魔しました」

「またね」

 

 ダバイン貴富に見送られて建物を出て、旧ケーブルカーの高尾山駅を利用したゲートに向かいます。

 

「今日はありがとうございました」

「こっちこそありがとう。」


 ゴゴゲー!


 群馬ダークとマンドラゴラとも別れてゲートに入り、ホームエリアへと帰還します。

 早速アイテムボックスに入れていたシロヴァニア人形とドールハウスをテーブルの上に並べてみます。

 自分の玩具を持つのはこれが生まれて初めてです。

 なんだか不思議な気分になりながら、ダンジョンネットのカメラ機能を使い、群馬ダークに教えて貰ったSNSに写真をアップしてみます。

 群馬ダークとダバイン貴富からぽこぽことスタンプが飛んできました。

 群馬ダークは群馬県の馬のマスコット、ダバイン貴富は旧時代の漫画のキャラクターのスタンプのようです。

 そのまま少しやり取りをしたあと、夕食の支度に取りかかります。

 今日のメニューは、道中で仕留めてきたデビルオマールを使ったクリームパスタに、群馬ダークの農場産の野菜をバザールで買って作ったシーザーサラダ。

 後者はバロメッツたちが野菜をちぎってベーコンを焼き、私のパンから作ったクルトンとバザールのドレッシングをかけたものになります。

 

 メェ (これぞ悪魔のエビの味!)

 メメェ(羊の魂をも堕天せしめる!)

 メエェ(クリームひとさじが同じ量の黄金に匹敵しよう)


 勢いだけで口走っているのはわかってきましたが、エビで羊が堕天しそうになっています。


 メェ (ベーコンとクルトンたっぷりのシーザーサラダは)

 メメェ(完全なる栄養食)

 メエェ(ビタミンと食物繊維と炭水化物とタンパク質がサラダボールひとつに!)


 これも信用してはいけない気がします。

 食後のデザートはいただいた群馬聖でよさそうですが、カットフルーツはたくさん食べてしまったので、レンタルキッチンに移ってケーキにしてみることにしました。


 シンプルにショートケーキなどにしてしまっても良さそうですが、今回はアップサイドダウンケーキに挑戦してみます。

 まずはケーキ用の型の内側にバターを塗ってからクッキングシートを敷き、シートの表面にさらにバターを塗ります。

 次はスライスして種を取った桃をフライパンでバターソテーに。途中で砂糖を加え、焼き色がついたらケーキ型の底に隙間なく並べて行きます。

 花びらのように外周を埋め、残った真ん中の空白を小さめのスライスで埋めて花型に並べたら、次はカラメルを作ります。

 フライパンに残った砂糖とバター、桃から出た果汁に、追加の砂糖とバニラエッセンス、ブランデーを入れて加熱、焦げ茶色のカラメルソースを作り、ケーキ型に入れた桃の上から流し入れます。

 あとはスポンジ生地作りです。

 卵に砂糖を加え、泡立て器でかき混ぜながら四十度ほどまで加熱。

 ムース状になるまで泡だったら、薄力粉とベーキングパウダー、シナモン、アーモンドプードルをふるい入れ、へらで混ぜ合わせます。

 続けて溶かしたバターを加えて均等に混ぜ合わせたら、生地の用意は完了。

 桃とカラメルの上から生地を流し入れ、オーブンで三十分ほど焼成します。

 オーブンから出したらひっくり返し、型から取り出します。

 底にあった桃とカラメルの層が一番上に来るので『逆さま(アップサイドダウン)』ケーキという呼称になるようです。

 鑑定をかけてみると、


 桃源郷のアップサイドダウンケーキ(ホール)

 レアリティ:レア

 品質:最高

 食事効果:バイタル2段階回復

      メンタル3段階回復

      ステータス異常耐性(中・6時間)

      ※食事効果は1/6から効果が発生する


 とのことでした。


 ジュル (また凶悪なものが焼き上がったな)

 ジュルル(禁断の果実のかけらといっても過言ではない)

 ジュルリ(なんと甘美で罪深き芳香か)


 食べ頃は焼きたてではなく、二日ほど置いて生地と果汁を馴染ませたあとになります。

 加速機能を使って熟成期間をショートカット、仕上げに粉砂糖をふって六等分、アイスクリームを添えて四切れをテーブルに並べます。

 残った二切れはアイテムボックスに納めます。


 モグモグメー!(カラメルとブランデーと桃の素晴らしきハーモニー!)

 シットリメー!(果汁を含んだスポンジはしっとりと瑞々しくもべたつかず!)

 ヒンヤリメー!(アイスクリームを添えることで、さらなる至福が駆け抜ける!)


 大げさな寸評にも少し慣れてしまいましたが、人に出しても問題の無い仕上がりでしょう。

 アイテムボックスに入れた最後の二切れをリストで長押し、譲渡コマンドを選択します。

 フレンド登録させてもらった群馬ダークとダバイン貴富の名前を選択すると、メッセージを添えて、決定ボタンを押しました。

 そう間を置かず、群馬ダークとダバイン貴富からメッセージが返ってきました。

両方お礼のメッセージなのですが、群馬ダークのメッセージの最後にちょっと判断のむずかしい質問が書かれていました。


「農場の配信で流していいですか? ということなんですが、どうしましょうか」


 ネット文化初心者の私には判断の難しい質問です。

 個人情報の取り扱いには注意しなければいけない、というのはわかりますが、贈ったケーキを配信に出していいのかどうかというのはラインの外側なのか内側なのかわかりません。


 メェ (方針次第だな)

 メエェ(新興ベーカーとして名を売りに行くかどうかによる)

 メメェ(今はまだ準備不足だとは思う)


「そうですね」


 パンやお菓子をバザールに出して収入を得ていますが、本職のパン・菓子職人として売り出しているというわけではありません。

 配信者の群馬ダークの動画に露出するのは時期尚早に思えます。


 メェ (だが、群馬ダークは東京大迷宮でも指折りの農業生産者だ)

 メエェ(今後の食材確保を考えると、友好関係は保っておきたい)

 メメェ(生産者情報を伏せた上で許可するあたりが落としどころかも知れないな)


「そうしておきます」


 なにが正しい答えなのかは結局わかりませんでしたが、この場はバロメッツたちのアドバイスに従い、誰が作ったのかについては伏せるという条件でOKを出すことにしました。


 結果からいうと、これがかなり決定的な選択だったのですが。このときの私にはそのあたりの予測は不可能でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◆新作のお知らせ◆
怪異を相手に“解体屋”として奔走する物語。
解任社長、怪異を解体す。
こちらもよろしくお願いします。

― 新着の感想 ―
待望のリブート投稿、ありがとうございます。 リベイクって名付けるセンスがステキ。 群馬ダーク氏も気軽に許可伺いしちゃったのが運命の変わり目だったよね……
はい私もワンホール予約お願いします! リアルでも桃ケーキが美味しい店は予約争奪戦なんですよね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ