第123話 Fossil and Undead Dynamics(その3)
「コムギエェール? ノンノン、聞いたことがございまセーン! なにがコムギエールデース。おなじエルなら三葉虫を称えなサーイ!」
「エェルゥラァスィーアァァァー」という、巻き舌の発音でした。
世間にはまだまだクセの強い冒険者が居るようです。
”すまねぇが退いてくれうぉ”
”美少女と敵対するのは忍びねぇが、今のサウオたちは太古の恐竜ロマンに魅入られしダイナソーキッズなんだうぉ”
”生暖かい目で見守って欲しいうぉ”
敵に回ってしまった洗脳モササウオロボたちが後退を促してきます。
“あっさり回路を焼かれやがってこのボンクラどもがうぉ、同じモササウオとして恥ずかしいうぉ! 恥を知れうぉっ!”
最後の一体となったモササウオロボがトラックの下から這い出し、怒りの声をあげましたが。
”往生際が悪いうぉ”
”戦いは数だうぉ兄弟”
ウィーンバリバリバリバリバリ。
洗脳モササウオロボたちの一斉砲火を浴び”きゃあ自分殺しうぉっ”と悲鳴をあげ、トラックの陰に隠れます。
”やめろだなっ!”
”ふははだなっ!”
アンモナイオドローンたちが応射しますが、そこに洗脳アンモナイオドローンが参戦し、同じタイプのAI同士のよくわからない乱戦が展開されていきます。
とりあえず。
「無力化を」
「「砲撃開始」」
ドドドドドドド。
こちらもバーネットのAI制御となるバイデントが火を吹き、洗脳モササウオロボと洗脳アンモナイオドローンたちを撃ち落として行きます。
”ギャアアアアアだうぉ!”
悲鳴と共に粉砕されていく洗脳モササウオロボたち。洗脳アンモナイオドローンたちも撃墜していますが、遠隔制御なので比較的静かです。
”ノーッ! マァイダァイナッソーフレェェェェーンズ! 許しマセーン! ゴー! タイラントエェェーーックス!”
後方に陣取っていたドクターTが、ティラノサウルス風恐竜ゴーレム、タイラントXに前進を命じます。
ただ動く骨格標本であれば特に脅威ではないと思ったのですが、バーネットの弾丸は着弾前に曲げ逸らされてしまいます。
「ハハハハハハ、無駄無駄無駄デース! 私のタイラントXは最強! 無敵! ブラヴォーなのでデース! 驚嘆し、刮目し! 喝采するが良いデース!」
ドクターTの高笑いと共に、タイラントXが距離を詰めてきます。バーネットのセンサーによると、強力なバリア機能を備えているようです。戦車などと同様正面防御力が一番高くなるタイプで、側面や後方からならば撃ち抜ける可能性がありそうですが、二本の足で地面を掴み、大きな尻尾でバランスを取って動くタイラントXの旋回性能は思ったよりも高く、側面や背後を取る位置取りはなかなかできませんでした。
メェ (よく見ると)
メエェ(尻尾に小型のジェットが)
メメェ(趣味の産物だな)
大きな尻尾の骨の間に小型の推進ノズルを仕込むことで移動速度や旋回速度を増強しているようです。
そんな仕掛けができるなら、口から火やビームくらい出してもおかしくなさそうなものですが、ドクターTのポリシーなのか、火器の類は積んでいないようです。
代わりというのもなんですが、爪と牙は強化合金製、顎の奥には咬合力を上げるための油圧シリンダーが仕込んであります。
つかまってしまうとバーネットでもただでは済まないかも知れません。
バーネットのドアから飛び降りて、タイラントXの側面に回り込みます。
口頭の指示は出していましたが、バーネットは最初から自律戦闘を行っています。私が飛び降りてもペースを乱すことなくタイラントXとの距離をキープ。牽制射撃を織り交ぜながら、タイラントXの隙を狙ってゆきます。
バーネットに正対してもらっている間に側面まで回り込み、カルキノクラストで一撃すれば倒せるだろう、と踏んでいましたが、さすがに目の前でしたので、ドクターTに目視されてしまいました。
「うつけたわけまぬけデース! 裏取りなどさせまセーン! メガネウラ! スクランブルデース!」
メガネというと、黒縁セルロイドを思い出してしまいますが、メガは巨大、ネウラは翅脈という意味だそうです。
アイテムボックスに収容されていた新手のゴーレムを展開、起動。
タイラントXの周囲の空間から体長七〇センチにも及ぶ巨大なトンボ型ゴーレムの群れが現れ、向かってきます。
こちらも本物の化石ではなく、FRP製の模型をベースにしたレプリカゴーレムです。
資料価値はなさそうですので、普通にショットガンを出して迎え撃ち、処理して行きました。
「ガッデム! 生意気なレディーデース!」
外国人の日本語はこうあらねばならない、という誤解がありそうな怒りの声があがります。
ともかくメガネウラゴーレムの第一波は片付きましたので、カルキノクラストを構えます。
「ハハハハハ、個人装備でこのタイラントXのバーリアーは……」
”やぶれるうぉ!”
”やべぇうぉ!”
”蟹蛇が融通したやべーこと極まりねぇ武器だうぉ”
”地形ごともってかれるうぉ!”
まだ対話機能の生きている洗脳モササウオロボたちが警告し、ドクターTは「ホワッ?」と首をひねります。
大バサミのTモードに設定したカルキノクラストでタイラントXの首元を照準。トリガーを引き絞ります。
カルキノクラストの切断力の前には、角度による防御力差はあまり意味がなかったようです。
タイラントXの首の正面、背中の両方から挟み込む格好で閉じ合わされた二本のエネルギー刃はさしたる抵抗もなくバリアを切断し、タイラントXの首を切り落としていました。
「NOoooooooooo!」
コミカルな悲鳴をあげて放り出されたドクターTはそのままごろごろと地面を転がったあと「ガッデムガッデムガッデム!」と地面を殴りつけました。
「よくも私のタァーイラントXを! T−REXは全世界のボーイズ&ガールズ&レディース&ジェントゥメェンのドゥッリームなのですよ!」
何を言っているのかはよくわかりませんが、ともかく危険人物であるのは間違いありません。こんなこともあろうかと用意しておいたテイザー銃を撃ち込んで無力化を図ると、ドクターTは、ピーガガガと声をあげて白眼を剥いたかと思うと、白いマネキンのような姿になって地面に転がりました。
”ドクターTがやられたうぉ”
”人間じゃなかったのかうぉ!”
”いったいどういうことだうぉ!”
混乱の声をあげる洗脳モササウオロボたち。
”ち、ここまでか”
洗脳アンモナイオの方は遠隔操作ですのでドローンの制御を切るだけで撤退して行きました。
”口ほどにもねぇ野郎だうぉ”
最後の一機になってしまったモササウオロボがトラックの下から顔を出しました。
”さて、綺麗にハルシネりやがったボンクラどもはどこだうぉ、全員アンスコしてクリーンインストールしてやるから覚悟しろうぉ”
”ひええだうぉ”
”落ち着くうぉ、同じサウオ同士話せばわかるうぉ”
”話してわかっちまったらそこでもうハルシネってんだウォラー!”
「ハルシネ?」
メェ (ハルシネーションの略だろう)
メエェ(原義は幻覚だが、IT分野ではAIが虚構情報を出力して利用者に伝えてしまう現象をさす)
メメェ(今回は単純に「トチ狂った」くらいのニュアンスだろう)
アンモナイオのドローンも協力して洗脳モササウオロボたちから、恐竜汚染されたAIをアンインストール。
最後に、テイザーのショックで動かなくなってしまったドクターT、もしくはドクターTが使っていた謎の白マネキンをチェックしました。
中身はモササウオロボと同じような作業用ロボットだったようですが。
”これは……”
”……並行世界のIRK製の人型ロボかうぉ”
アンモナイオとモササウオがそんなことを言いました。
「並行世界、ですか?」
”ああ、部品や設計、OSなんかはIRK系のものっぽい”
”ただ、こんなロボはサウオたちのデータベースにはねぇし似た系列のものもねぇうぉ”
”平行世界のIRK的な組織が作ったものがバザール経由で輸入されたのかもしれん”
「ドクターTもIRKのAIなんでしょうか?」
”いや、一応触れ込み的にはアメリカから密入国してきたボンクラ外人冒険者ってことになってるうぉ”
”あくまで触れ込みに過ぎんからなんとも言えんが”
「AIは冒険者になれるんでしょうか?」
メェ (なれないことはない)
メエェ(要審査だが)
メメェ(迷宮主クラスが面白いと判断すればOK)
蟹蛇の二人を連想してしまいました。




