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パンと弾丸とダンジョンと・Rebake Ꮚ・ω・Ꮚメー(東京大迷宮最強は少女兵あがりのパン屋さん)  作者:
高尾山生産村

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第11話 多摩背脂研究所

 冒険者になって五日目の朝。

 私達は冒険者センタービルの転移ゲートを使い、高尾山麓に建設されたアンデッド因子感染症研究施設、多摩たま背脂せあぶら研究所けんきゅうじょを訪れました。

 背脂という単語が一体どこから出てきたのか疑問に思っていたのですが、所長の名前が背脂せあぶらラードというそうです。

 本名でなく冒険者名だそうですが、反応に困る名前です。

 背脂研究所の主人、背脂ラード所長は身長百八十センチ、眼鏡と白衣、起伏のはっきりしたスタイルの女性研究者でした。髪は金色ですが染めているようで、上の方は少し黒くなっています。

 背脂っぽさやラードっぽさのようなものは、胸元や腰回りのほうに集中しているようです。

 ぼんきゅっぼんと音がしそうな脂肪の付き方をしていますが、色っぽいというよりは、怜悧で凄みのようなものを感じさせる女性です。


「ソル・ハドソンです」


 ただのソルから、少し名前を変えました。

 同居しているバロメッツがホームズ、ワトソン、レストレイドなら、私は大家のハドソン夫人にするとまとまりが良いというアイディアです。

 研究所の窓の外は森林。

 狛犬のような姿勢で陣取ったグレーターグリフォンと宙に浮かぶアークシャークがじっとこちらを見ています。

 冒険者センタービル内の転移ゲートから研究所内のゲートに直接転移してきたので、今日は初めて顔を合わせます。

 攻撃してくるような様子はありませんが、迫力が尋常でありません。


 メー (期待されているな)


 餌を持っていると思われているようです。


「君の気配に興奮しているようだな」


 背脂所長が呟きました。


「何かあげても大丈夫でしょうか?」

「どのようなものを?」


 背脂所長のメガネがキラリと光りました。


「用意したのはチキンステーキサンドとフィッシュフライサンド、チーズを入れたブールにベーコンエピです」


 餌付けをした実績があるのはバゲットを使った巨大チキンステーキサンドだけですが、練習がてら色々用意してみました。


「ベーカーの高レア保持者だったな。ショップアカウントは?」


 レジェンダリー、ということまでは開示していませんが『異様に高い製パン、製菓スキルの持ち主』ということで話を通してあるそうです。


「まだ作っていなくて」


 アークシャーク、グレーターグリフォンの乱入動画に出てきた群馬ダークのような有名生産者の場合は自分の名前や農場名などを前面に出したショップアカウントを持っていることが多いのですが、私の場合は生産者IDをつけてバザールに出しているだけです。

 生産者IDだけ伝えると、背脂先生は自分のアカウントでベーコンフロマージュを一本買ってくれました。

 フランスパン生地にベーコンとチーズソースを入れ、さらに表面にチーズをかけて、カリカリに焼き上げたものです。

 高レアリティの高額パンなので普通の軽食にするには不向きなのですが――。


 バリッ。


 背脂所長は目の前で普通にかじりついていました。

 切って食べるサイズなのですが、普通の棒状のまま行ってしまっています。


 モチモチ。


「美味い。攻撃力やアイテムドロップ率を上げられても仕方がないが」


 近くに浮かんだメッセージウィンドウを見やって、背脂所長は呟きました。

 食事効果のバフで光の粒子が浮かんでいます。


「先に奴らの相手をしてやってくれ。あんな目で凝視されては落ち着かん」


 背脂所長はアークシャークとグレーターグリフォンを示して言いました。


「はい」


 先に対応を済ませておくことにしましょう。

 外に出て、アイテムボックスから出したパンの山をアークシャークとグレーターグリフォンに差し出します。

 食いつかれたら大変な事になりますが、前回に貰った『関心』『歓心』の魔石の効果もあってか、二匹とも行儀良く待っていてくれました。


「シャーク!」

「グリー!」


 用意しておいたパンの山をあっと言う間に平らげた二匹の体が、発光しはじめます。

『関心』『歓心』の魔石をもらったときと同様ですが、色合いが若干違います。


 メェ (始まったようだ)

 メエェ(金色の輝き)

 メメェ(エピックが来るぞ)


 どこからか出したかわからないサングラスを出したバロメッツたちが、小芝居めいた調子で言いました。


 また新しい魔石が出てくるのかと思いましたが、違うようです。

 前回もらった『関心』『歓心』の二つの魔石が勝手にアイテムボックスから浮かび上がったかと思うと、アークシャークとグレーターグリフォンが放った金色の光を吸い込みます。

 色や形は変化しませんでしたが、それぞれに青と赤の燐光を放ち、『♓』『♌』という紋章が浮かび上がります。

 その場では思い出せなかったのですが、魚座のシンボルと獅子座のシンボルだったようです。


水聖石『大いなる関心』

レアリティ:エピック

・このアイテムを持つ者はアークシャークから攻撃を受けない。この効果は売却・譲渡、アークシャークへの敵対行動をすると喪われる。

・このアイテムは水属性エピックアイテムの生産素材となる。


風聖石『大いなる歓心』

レアリティ:エピック

グレーターグリフォンの大きな歓心の証し

・このアイテムを持つ者はグレーターグリフォンから攻撃を受けない。

 この効果は売却・譲渡、グレーターグリフォンへの敵対行動をすると喪われる。

・このアイテムは風属性エピックアイテムの生産素材となる。


 魔石が聖石にグレードアップし、 なにかの生産素材にできるようになったようです。

 バロメッツにもらった『敬意』と『信頼』はセットで従魔化とパーマネント化ができましたが、こちらはそういった効果はないようです。

 背脂研究所のガーディアンという役割を与えられているので、引き抜きなどはできないようになっているのかも知れません。


「パンごときでエピック素材を出すとは。さすがにちょろすぎるだろう」


 背脂所長がそんなことをいいながら、追加購入したらしいベーコンフロマージュを食いちぎりました。


 メェ  (三本目)

 メエェ(なんてやつだ)

 メメェ(暴食の怪物……)


 二本目だと思いましたが、一本食べるところを見落としていたようです。

 とりあえず『大いなる歓心』『大いなる関心』の二つの聖石をアイテムボックスに片付けます。

 窓からは離れてくれましたが、結局近くに陣取っている二匹の視線を感じながら採血を受けました。


「分析を」


 テケ。


 三本の試験管に入った血液を受け取ったのは、背脂先生の机に載った直径三十センチほどのスライムです。

 そのまま試験管を透明の体に収めたかと思うと、


 テケテケ!


 独特の鳴き声と同時に、体の上に分析結果の数値が並んだウィンドウを浮かび上がらせました。


「スライムで分析を?」

「錬金スキルで作ったスライム式スーパーコンピューターだ。スライムの体組織を半導体代わりにして情報処理を行う。こういうものを作れるからここで研究をしている」


 電源は要らないようですが、代わりにテーブルにあったアーモンド入りチョコレートを食べさせています。

 背脂所長ご自身のほうが沢山口の中に放り込んでいますが。


 メェ (どこまでカロリーを突っ込み続ける)

 メメェ(食欲の底が見えない)

 メエェ(バケモノか……)


 バロメッツ達が恐怖の声を上げていました。


「アンデッド因子反応は陰性だ。経過観察は必要だが、薬液リングは解除しても問題ないだろう。解除コードの入力を」


 テケ。


 テーブルの上を滑らかに動いたスライムコンピューター、略してスラコンは細長い触手をケーブルのように変形させて、私の首の薬液リングに触れました。


「そのまま動くな」


 息を止めて待つこと数秒。


『解除コード入力を確認、ロックを解除します』


 首元から電子音声が聞こえて、薬液リングは小さな機械音を立てて外れました。


 テケ。


 そのままリングはスラコンに回収され、背脂先生のデスクの上に置かれます。


「リングはこちらで廃棄して構わんな?」

「はい」

「経過観察のため、来週の同じ時間にここに来てもらう。あと三回検査をして問題がなければ無罪放免だ。今日はもう帰っていい」

「はい、ありがとうございます」


 デスクのほうに視線を戻した背脂所長に頭を下げ、研究室をあとにしました。

 薬液リングが外され、軽くなった首元を撫でてみます。


 メー? (違和感でも?)


「違和感というより、現実感がなくて」


 アンデッド因子感染症が快癒し、リングが取れたのは良いのですが、実感が追いつきません。

 都合のいい夢でも見ていて、本当はどこかで死にかけている。

 あるいはアンデッドに成り果てて彷徨っている。

 そんな状況のほうがリアリティがありそうだと思いながら日々を過ごしています。


 メェ  (気持ちはわかる気もする)

 メエェ (君の能力は全体に理不尽だからな)

 メメェ (料理と言うより現実改変や時空間、因果律の操作に近い)


 理不尽扱いされてしまいましたが、否定する材料は見つかりませんでした。

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