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3日目昼:牡牛の闘技場

「陽が!陽が!おかしくなっちゃった!おかしくなっちゃったあああああ!うわあああああああ!」

「ちょ、ちょっと樺島君。落ち着いてくれるかな!」

「わあああああああ!落ち着く!落ち着くううううううう!」

 バカは一頻り慌てふためき、わわわわわわ、とじたばたしてから……そっと、その場に体育座りした。

「おちついたよ」

「そ、そっか……ははは」

 まだ落ち着ききっていないバカであったが、ひとまず座って大人しくしていると気分も落ち着いてくるものである。バカはバカなりにそう知っているので、ひとまず座って落ち着いた。落ち着いたことにした!


「ええとね、樺島君。俺の異能は『無敵時間』だっていう話、したよね?」

「うん」

 バカは自信たっぷりに頷く。流石にそれは覚えているぞ!と。

「それで、まあ……『無敵時間』の効果時間中は、俺、あらゆる攻撃に対して無敵なんだよね」

「うん……?」

 だが、こっちはちょっぴり自信が無い。バカは首を傾げて陽を見つめて……。

「つまり……その、金庫とか、土屋さんの盾とかよりも更に強いはずなんだよ」

「……ええっ!?」

 そして明かされた衝撃の事実に、バカは大変びっくりしたのだった!


「えっ、えっ……あ、そ、そっか。『無敵』なんだもんな。無敵だったら、壁とかドアとかよりも、強いってことだよな……」

「うん。そういうことになる。だから、『無敵時間』を使った俺をぶん回してくれれば、まあ……そこのドアを破って、隣のドアを破ることだって、できるんじゃないかな、と……」

 陽が何とも言えない顔でそう話すのを、バカはびっくりしながら聞いていた。

 びっくりしながら……同時に、ちろり、と希望の灯が自分の胸に灯るのを感じていた。

「ええと、流石に、無理、かな……?」

 陽がそう言って様子を窺ってくるのを見て、バカは立ち上がる。そして、陽の手を、きゅ、と握った。

「……やってみなきゃ分かんねえけど……でも、俺、やってみたい!」

 いよいよ、バカの胸の奥には、めらり、と温かに希望が燃え上がる。

 より良い道がそこにあるのだ。やってみたい。本当は行き止まりだったとしても、希望のある方へ突き進んでいたい。そして、行き止まったら、タックルでぶち破りたい!

「それで、天城のじいさんのこと、助けるんだ!」

 ……そうして、大好きな人達を、助けたい。バカはそう、決意しているのだ。




「ええと、じゃあ確認だけれど、本当に俺でいい?」

「ああ、構わん」

 ……そうして、バカが準備体操する間、陽と天城が最後の確認を行っていた。

「つぐみをぶん回させるわけにはいかんからな」

「うん。それは俺も同感だよ。流石、俺。ははは」

 ……陽と天城は、元が同じ人物であるだけあって、気が合うようだ。楽し気に笑う様子を見て、バカはなんだかちょっと元気が出る!

「ただ、そうなると動けるのは天城さんだけ、ってことになるから……それは心配なんだよな。その、身体能力は流石に、俺の方が上の自信があるし」

「……まあ、そうだろうな。だが構わん。あのバカは頭は弱いようだが、それ以外のところは1人でも何とでもなるだろう」

 バカは、自分が褒められている気がしてまたちょっと元気が出た!バカは単純なので、褒められるとやる気が出るのである!

「それに、もしあのバカが上手くやれなかったとしても、お前が『無敵時間』を使っていれば、お前とたまは生き残れる。私は私が生き残るために足掻くだけでいい。気が楽だ」

「……そっか」

 そして陽と天城の確認も、終わったらしい。2人は固く握手して、笑い合う。

「なら、遠慮なく後は任せるよ。よろしく、俺」

「ああ。つぐみによろしくな。……それから、『問答無用で異能を使って悪かった』と謝っておいてくれ。根に持たれそうだ」

「ははは。それは自分で言いなよ」

「……ははは。そうだな」

 バカは、自分より頭のいい2人の会話を横目ににこにこしながら準備運動を終えた。

 ……これで、準備万端。

 後は、残り10分程度でドアを2枚ぶち破って、ついでに隣の部屋にいるという牛をやっつけるだけである!




「じゃあ、いくよ。樺島君。後はよろしく」

「ああ!任せとけ!」

 そうして、陽が『無敵時間』を使った。

 途端、陽はすっ、と動きを止めて、眠るように、或いは死んだように動かなくなる。

「……おわー、脈がねえよお……」

「時を止めているのだ。当然だろうが。ほら、行くぞ」

 天城はたまを担いで、出口へと向かう。バカは陽をぶん回せるように抱えつつ、天城について出口へ向かう。

 めえめえめえ、とのんびり鳴く羊の群れの中をもこもこ通り抜けて、芝生を踏みしめて……そして。

「……じゃ、いくぞ!」

 陽は流石に、でかかった。盾や金庫より、でかい。ぶん回しやすいかと言われると、ぶん回しにくい。遠慮もある。

 ……だが、それら全てをかなぐり捨てて、バカは勢いよく陽をぶん回す。

「せぇえええええのっ!」

 全ては、天城を……そして自分自身の心に灯った希望を、消さないために!




 ……そして、ドアは見事、破壊された!




「すっげええええええ!陽すげえええええ!土屋のおっさんの盾より金庫よりぶん回しやすいし、強えええええええ!」

 バカは大興奮であった。

 だって、陽がすごいのだ!ぶん回したら、本当に、最強で無敵だったのだ!

 ドアはいとも容易く破壊された。大広間に出たバカと天城は、大広間の安全そうなところにそっとたまを安置すると、そのまますぐ、隣の部屋に入る。

 大広間から入る分には、普通にドアを開けばいい。まだ、時刻は昼なのだから。……だが!

「すげえええええ!ほんとになんでもぶっ壊せる!」

「壊す意味があったか!?」

 ……バカは大興奮のままに、隣の部屋のドアも、陽をぶん回して開けたのだった!


 とはいえ、バカはバカでもちょっと考えたバカだ。前回、ドアをぶち破った経験から、『確か、ドアはぶっ壊すだけじゃなくて開かないと解毒装置が起動しない!』と覚えていたので……ちゃんと、ドアの開閉方向を考えて、陽をフルスイングした。

 その結果、ドアはメキャア!と音を立てて、見事、開いた。多分これでヨシ!

「うほほわああ!これすげえええ!陽すげえええ!」

 バカは目をキラキラさせながら、陽を抱えて走る、走る。

「お、おい、バカ。前を見ろ、前を」

「前?……あっ!なんか居る!」

 そして部屋の中へ突入していったバカと天城は、そこで……部屋の中央でのんびり寛いでいた、巨大な牛か人間か分からない生き物と出会ったのだった!




 牛か人間かよく分からない生き物。恐らくこれが、以前、たまから聞いた奴なのだろう。確か『上ミノタルタルソース』とかそんな名前だったはずだ。バカは真剣な顔でミノタウロスの名前を完璧に忘れた。

「なっ……何!?何故来た!?残り10分を切っているのだぞ!?」

 そして、ミノタウロス自身はものすごく驚いていた!……どうやら、昼残り10分を切ったタイミングで部屋に突入してくる者が居るとは思わなかったらしい。それはそうである。

「おう!来ちゃった!よろしくな!」

 だがバカは、にっ、と笑ってミノタウロスを見上げる。……バカは図体がデカいので、自分よりデカい生き物を見るのは中々珍しい。ミノタウロスは身長4m近くありそうだ。バカはにこにこしながら『でっかい!』と特に意味のない感想を述べた。

「ま、まあいい。……俺は牡牛の悪魔。このゲームの守護者にして……」

「御託はいい!さっさと始めろ!10秒以内にケリをつけてやる!このバカがな!」

 そして、『牡牛の悪魔』を名乗った悪魔の前口上は、天城の啖呵によって遮られた。牡牛の悪魔はちょっとしょんぼりした様子だったが、逆にバカは『よし!天城のじいさんの期待に応えて10秒でケリをつけるぞ!』とやる気を出した。

「よし、行け、樺島!」

「うん!行く行くー!」

 ……そして、やる気を出したバカを止められる者は、居ない。特に、今のバカには無敵の武器があるのだから。

 鬼に金棒。バカに陽。『無敵になれるが動けなくなる』と『全てを破壊し得るポテンシャルを秘めた筋肉』との奇跡の出会いは、壮絶な威力を予感させながら牡牛へと迫る。

 バカは助走を付けながら陽をぶん回す。牡牛の悪魔は、参加者が別の参加者をぶん回しているという謎の状況に思考が止まったらしいが……止まっていなかったとしても、同じことだっただろう。

「いっけえええええええ!」

 ……バカはハンマー投げの要領で、陽をぶん投げた。

 そして陽は、牡牛の悪魔の頭に命中。

 牡牛の悪魔を10秒どころか、3秒足らずで倒すことに成功したのだった!おめでとう!


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― 新着の感想 ―
おめでとうじゃないんだよ…………というか絵面がヤバいなぁ……ヤバすぎるよ…… ミノの部屋って本来どうすればクリアなんだったっけ……忘れた
筋肉と無敵はすべてを解決する!
[良い点] これで蟹も楽勝!
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