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2日目昼:猛獣の檻

 バカ達が選んだ部屋は、ライオンが居る迷路の部屋だ。

 ついでに、ヒバナとビーナスとミナはお魚水槽の部屋に入っている。バカは『おさしみ……』とちょっとお腹を空かせている!

 また、陽とたまは双子の乙女の部屋を選んでいるので、多分、双子の乙女はまた泣いていることだろう。


 ……さて。

「ら、らららライオン!?な、なんでライオンなんか……」

「あっ、じゃああのライオン、威嚇してくるからちょっと待っててくれ!」

 バカは木星さんを抱えたまま、ライオンの居る方に向かってタックルで鉄格子を破りつつ進んでいった。天城は遠い目をしていた。

 ……そして。

「がおおおおおおおおおおおおお!」

 バカはまた、ライオンを威嚇した!『さあ!これで多分、殺し合わなくてもいいぞ!』とバカは喜びつつ、ライオンを睨みつけ……。


 ……だが、ライオンは襲い掛かって来たのだった!

「なんでぇええええええ!?」

 仕方が無いので、バカはライオンにキックをかまして、ライオンを仕留めた!

「わああああああん!ごめんライオンんんんんんん!」

 今回もライオンと殺し合わずに済むと思ったのに!結局はライオンを殺してしまった!威嚇で退いてくれたらよかったのに!バカは嘆いた!




 バカはそれから、しょぼ、しょぼ……としながらタックルで鉄格子を破り、ゴールまでの道を作った。迷路は苦手だが、道を作っていい迷路なら得意である。バカのおかげで鉄格子の迷路は迷路ではなく直線道へと変貌を遂げていた。

 そうしてゴールしたバカは、木星さんをそっと解毒装置に載せて、それから天城と交換すべく、また木星さんを抱えた。

 天城も解毒装置に座って、解毒完了である。とりあえずこれでゲームは終了だ。バカは少しほっとしつつ、しかし、ライオンを死なせてしまったことがやはり悔やまれる。

「なんでライオン、威嚇されてくれなかったんだろ……」

 バカが悲しみに暮れながらそう零すと、ちら、と天城がこちらを見て……ふい、と顔を背けて、ぼそ、と言った。

「……樺島自体はさておき、木星の男についてはやれそうだと思ったんだろうな。となると、樺島についても『今ならやれる』と思ったのか……」

「そんなあー!」

「え、ぼ、僕!?僕のせいだって、そう言いたいのか!?」

 バカは『ライオン!強さを見誤っちゃだめだぞ!』と嘆き、木星さんは単純に『自分が弱そうに見えただなんて!』と憤っている。が、天城はしれっとしているのだ!これが年の功というやつだろうか!


「ま、まあ、もういいけれど……と、とにかくもう、下ろしてくれ!もういいだろう!」

 さて、迷路も攻略し終わってしまったところで木星さんがまた、バカの抱擁および拘束から逃れたがった。だが、バカは木星さんを離さない!

「いや、よくないよくない。俺、このゲーム中はずっと木星さんのこと抱えてるって決めたんだ!」

「な、なんで!?」

 バカの唐突な宣言に木星さんはびっくりしていたが、やがて、天城のことを睨み始めた。

「そ、その提案は、その、天城さんが出したものか!?そうなんだろう!?」

「いや、そのバカが勝手に決めたことだ。私を巻き込むな」

「うん!俺が木星さん抱えて移動するのは俺が決めたんだ!その方が仲良くなれるかな、って!早速なんか話そうぜ!何がいい!?」

 が、木星さんが天城に敵対しようにも無駄である。天城はまるで取り合う気が無いし、バカは木星さんとお喋りする気満々なのだから。

「あっ!じゃあ木星さん、ミスドで一番好きなの何!?やっぱポンデ!?」

「ひ、人の話を聞いて、聞いてほしいんだけれどな!」

「俺はやっぱりポンデ好き!あっ、でも、エンゼルフレンチも好きだぞ!クリームふわふわで美味しいよなあ。えへへ……」

「人の話を聞く気はあるのか!?」

「ある!で、どのドーナツが好き!?聞きたい!」


 ……そうして木星さんは、見事にバカの話術に嵌ってしまった。というよりは、物理的にバカの拘束に嵌められてしまっている以上、木星さんは最早、バカから逃れることなどできなかったのである。

 そうして哀れな木星さんは、昼の時間いっぱい、バカの話に付き合わされることになったのだった。

 ちなみに、木星さんが好きなドーナツは『揚げ物は嫌い』ということで聞けずじまいだったが、天城の好きなドーナツは『チョコファッション』だということが判明した。

 また、猫と犬どっちが好きかについては、木星さんは『どっちも好きじゃない』そうだが、天城は『猫派』だそうだ。

 ……木星さんを抱えっぱなしなのに、何故か、天城との会話の方が捗る不思議な時間になってしまった!




 さて。

 そうしてバカの無駄話が一段落したところで……バカの話のペースをようやく掴んだらしい木星さんが、割って入ることに成功した。

「そ、そういえば2人とも、さっきの殺人は、ど、どっちが犯人だと思う?」

 木星さんのそんな問いかけに、バカはまた、海斗と土屋の死を思い出してしまってしょんぼりした。

「うん……俺、ビーナスもミナも違うと思うよ。2人とも、そういう奴らじゃないし……」

 更に、ビーナスとミナのことも思い出して、またしょんぼりする。……バカが知る限り、ミナもビーナスも、互いに互いを殺したことがある。だが、今回はちがうんじゃないかと、バカは強く思っている。

 特に、ミナは蛇原会のことが絡みでもしない限りは自分から人を殺すなんて無さそうだし、ビーナスだって、ヒバナに言わせれば人を殺したことなんて無い人だ。覚悟が決まっていたとしても、ミナに見つからないように、かつ初日からいきなり2人も殺すことは難しいだろう。


 ……ということで、バカは『よく分かんねえけど2人は犯人じゃないと思う』というぼんやりした回答を出すことになった。木星さんはこれに少し不満そうだった。木星さんはどうやら、ミナやビーナスに対する自分の不安を打ち明けたかったらしいのだが、バカがこの調子なのでアテが外れた、ということだろう。

「で、では天城さんは?」

「……さてな。誰がどう殺してもおかしくはなさそうだが」

 天城の返答も、木星さんには面白くなかったのだろう。だが、天城も犯人が誰かで騒ぐ気は無い、らしい。バカはちょっとだけ安心した。


「そ、そうか……いや、僕は、やっぱり殺すならミナさんの方が意外性があると、あると思っていて……」

「ええー、ミナは無理だぞ。ミナの異能は怪我を治す異能なんだからさあ」

「……い、いや、まあ、でも、実は陰で鍛えているのかもしれないし……」

「考えるだけ無駄だな。ビーナスにも同じことが言えるだろう。あの2人のどちらが犯人かを考えるよりは、あの2人以外がどのように犯行可能だったかを考える方が妥当だと思うが?」

 そして、天城が『あの2人以外の犯行』について言及し始めると、木星さんは戸惑ってしまった。

「な、何故?それは、それはおかしい……のでは?」

「ビーナスが異能を使って殺したというのであれば、別の部屋に居ても殺せるような異能を持った誰かが殺したというのも、大して変わらんだろう。それだけの話だが。そんなにおかしいか?」

 ぎろ、と天城が木星さんを睨むと、木星さんはぶつぶつ何か口籠りながら俯いてしまった。

「……まあ、動機という点では、誰にでもあるだろうな。ここに参加している以上、願いがあるのだから」

「うん……でも、土屋のおっさんとミナは、人を殺してまで叶えたくないって言ってたぞ」

「口では何とでも言えるだろうな。まあ……その内の片方が死に、片方が同室で生き残った、となると、またなんとも言えないが」

 バカはバカなので、天城の話を聞いていても首を傾げることしかできないのだが、ひとまず、天城が『ミナかビーナスが犯人だ!』と決めつけるタイプの人でなくてよかったなあ、と思った。

 ……ところで。

 バカは『ところで、天城のじいさん、どうして木星さんと一緒のチームになりたかったんだろ』と首を傾げた。天城は、積極的に木星さんと仲良くなろうとしているようには見えないのだが……。

 ……バカは、『もしかして天城のじいさん、不器用さんなのかな……』と、訝しんだ!




「さて……鐘が鳴るまでにまだあるが」

 そうして木星さんが出した犯人探しの話題も打ち切られたところで、天城はため息交じりに、ちら、とバカを見てから、続けた。

「次のチームは、どうする」

「俺、天城のじいさんと一緒がいい!」

 無論、バカは即断即決のこれである。

 木星さんとはまだ仲良くなれないが、なんだか天城とは沢山話せている気がする。折角だから、このまま天城と一緒に次のゲームもやってみたい。そうすればもっと仲良くなれるかもしれない!

「……まあ、他のチーム次第でもあるだろうがな」

 ふん、と鼻を鳴らしつつ、天城はバカの言葉を否定しなかった。つまり、『他のチーム次第だが、バカと一緒のチームになってもいい』ということである!バカは小躍りしながら喜んだ!

「で。そちらはどうだ」

「ぼ、ぼ、僕?僕は……その、チームは……うーん」

 木星さんは天城に話しかけられて戸惑っていたが、それから少し考えて……考えて、結論を出したらしい。

「その……こ、怖いから、できるだけ、人数の、多い、沢山居るチームに入りたい……」

「そっかー。うーん、俺と天城のじいさんと木星さんに、あと2人までは一緒に居られるから……5人チームになったら、木星さんも心配じゃないよな?」

「ご、5人……あ、ああ、そうか、君は首輪が無いから……」

 そう。木星さんが『できるだけたくさんの人数が居た方がいい』というのであれば、バカと同じチームになるだろう。何せ、バカは首輪を引き千切って来たのだ。よって、バカは解毒剤の数に関係なくチームに入ることができる。4人チームと1人のバカによる5人チームが最大数である。それくらいはバカにも分かるのだ!

「そ、そうか、5人……」

「うん!な、天城のじいさんも!そうしたらもう片方のチームが3人になっちまうけど、もう片方がそれでよければ、陽とたまか、ヒバナとビーナスか、どっちかの組に入ってもらおうぜ!あ、或いは、陽とヒバナに入ってもらって向こう3人が女子会の方がいいかなあ……」

 バカは、『チーム分け、どうなるかなあ』と少し楽しみにしながら、『でも、できれば俺、海斗とも一緒がよかったなあ』と思うのだった。

 ……次は。次は、海斗と土屋も一緒に居られるようにしたい。

 それでいつか、10人揃って鍋を食べたい。バカはそんなことを考えるのだった!




 リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴る。

 バカは『毒ガス注意!』と、すんすんやってしっかり確認してから天城を呼び寄せて、一緒に大広間へ出た。

 尚、この間も木星さんを抱えっぱなしだったため、もしガスがあったら木星さんは死んでいたものと思われる。

「おーい、陽ー!たまー!」

 そして、出たところですぐ、陽とたまを見つけた。やはり、頭脳派カップルは2人でも無事だった!

 ……だが。

「ヒバナとビーナスとミナは……あ」

 もう1つのチームの部屋からも人が出てきたが……。

「……ミナは?」

 出てきたのは、ヒバナとビーナス、2人だけだった。


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― 新着の感想 ―
まさかおまえら、やったんか!?
木星さんが信用できない
[一言] ポンデ醤油
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