0日目夜:大広間*2
「ええええええええええ!?俺、殺されちゃうのぉおおおおお!?」
あんまりである!バカは嘆き、悲しみ、そしていよいよ、涙が出てきた!
皆と折角仲良くなれたと思ったのに!だというのに、この仕打ち!あんまりである!あんまりである!
バカがそうして悲しんでいると、流石に天城もちょっとばかり罪悪感のようなものを覚えたらしい。とはいえ、手加減してくれる気は無いようだが。
「ま、確かにそりゃあ悪くねえかもなあ」
更に、いつぞやのようにヒバナまでもが賛成し始めてしまった!バカは『ヒバナまで!』と嘆いた!
「どう見てもこいつは怪しい。木星野郎も胡散臭えが、そのバカもどう見ても、普通じゃねえからな。今なら9対1、悪くても8対2に持ち込めるってことだよな?」
「成程な……そう考えると、確かにそれも悪くないのかもしれないが……いや、でも……」
海斗も乗りかけて、そこで何か慎重にバカの方を見ている。……多分、バカがかわいそうだから殺すのをやめよう、というよりは、バカがどういう抵抗に出るか分からないから慎重に動こう、ということなのだろう。今、海斗がバカに向けている目は、『前回』の海斗がバカに向けてくれていた目とは、根本から違う。
「え、あ、だ、駄目ですよ!そんなの!皆さん、落ち着きましょう……?」
だが、こんなバカにも救いの手は差し伸べられる。ミナが、皆の前に出ていた。
「あの、ええと……その」
だが、皆の前に出たものの、ミナはそれ以上の言葉を上手く見つけられないらしく、俯きがちにもじもじしている。
……すると、その後を土屋が引き取った。
「私もミナさんに賛成だ。ここで誰かを殺す、というのは得策ではないように思えるぞ。それに何より、私は誰かを殺して願いを叶えたいとは思わないのでね」
前回同様の土屋を見て、バカは少し安心した。
そうだ。何もかもが元に戻ってしまったとしても、皆、元々いい奴なのだ。ただ、バカのことが上手く伝わらないと、バカがなんだか辛い目に遭うというだけで……。
「わ、私もです!私も、誰かを傷つけて自分の願いを叶えたいとは、思いません!」
ミナも声を上げて、今度ははっきりとそう言い切った。バカは『やっぱりミナはかっこいいなあ』と嬉しくなる。そうだ。バカが大好きな皆は、やっぱりバカが大好きなままなのだ。
そうだ。たとえ、皆がバカのことを忘れてしまっても、バカが彼らのことを大好きなのは、ずっと変わりがないのだ!
「ふむ……なら、ミナさん。そちらのチームに私も入れてもらっていいだろうか」
「え?あ、も、勿論です!その、ビーナスさんと海斗さんさえよければ……」
「私はいいわよ?土屋さん、しっかりしてそうだし。よろしくね?」
「僕も異論は無い。よろしく頼む」
そうして、土屋、ミナ、ビーナス、海斗の4人チームが出来上がった。奇しくも、1周目のチームと同じである。
「じゃあ、残りは……俺とたまとヒバナ、天城さん、あと木星さんと、樺島君……っていうことかな。この6人を3人と3人に分けるべきだと思うけれどな……」
こっちはどうしようか、と陽が声を掛けてくる。……すると。
「私、樺島君と組みたい」
たまがそう、名乗りを上げていたのであった!
「えっ、えっ、いい、のか……?」
「うん」
バカは戸惑ったが、たまが頷くなら、本当に大丈夫なのだろう。バカはぽかん、としていたが、やがてじわじわとたまに誘って貰えたことを理解して、ぱーっ、と表情を明るくした。
「いいのか!?なら俺、たまと一緒のチームになる!やったー!」
バカは嬉しさのあまり、その場で飛び跳ねた。ずしずし、と床が揺れた。
「それから、陽も。一緒でいい?」
「え?ああ、うん、勿論、いいけれど……人選の理由を聞いても?」
「陽は私の次に大広間に到着したから。それから、樺島君は……」
たまは、じっ、とバカのことを見つめた。
「……首輪を引き千切れるんだったら、色々できるだろうと思って」
「うん!俺バカだから頭使うの苦手だけど、鉄格子曲げるとか、ドア破るとか、そういうのは得意だから!頑張る!」
バカは『いっぱい働いてたまの役に立つぞ!』と意気込んだ。指名された恩は返さねばならない!
「となると、残るチームは……」
「俺とジジイと木星野郎かよ……。けっ、こりゃひでえチームになっちまったなあ、おい」
……が、一方で出来上がったチームがものすごくギスギスしている!ヒバナと天城と木星さんの3人組では、何というか、あまりにも心配である!バカは『大丈夫かなあ』と心配になった!
だが、『誰か俺と交換する?』という訳にもいかない。どうも、ヒバナと天城はバカと組みたくないように見えるし、木星さんもバカのことが嫌いなようだし……。
バカは、『皆仲良くしようよぉ……』としょげつつ、どうか皆が無事でありますように、と祈るのだった。
「さて……陽、といったか。話がある」
「え?俺?」
さて。
そうしてチーム分けが終わったところで、天城が陽を呼んで、階段の方へ行ってしまった。
「あら、何かしら。密談とは物騒ね」
「うーん、何かあったんでしょうか……?」
1周目同様、天城は陽と話したいことがあるらしい。
そういえば、バカはまだ、天城が陽に何を話しているのか聞いたことが無い。『前回聞かせてもらえばよかったなあー!』と思いつつ、だが、前回は確か、天城が途中から居なくなってしまったのだったか、と思い出した。それも、思い出そうとしても妙にぼんやりとしているのだが……。
まるで、天城が存在ごと消えてしまったような、そんな感覚だったが、あれは一体なんだったのだろうか。
……と、バカが天城について思いを馳せていると。
「あ、あー……か、樺島君」
「ん?あっ、木星さん!」
唐突に、木星さんがバカの服の裾をちょいちょい、と引っ張ってバカを呼んできた。
「そ、その、さっきはすまなかったね……あ、あの場ではああした方が、有利に進められると思って……」
「へ?」
木星さんの言葉に、バカは、きょとん、とした。……そして、唐突にピンときた!バカには珍しく!
「……仲悪いふり、ってことか?」
「そ、そういうことだ!そういうことだよ!」
「そっかぁー!じゃあ戦略かあ!なーんだぁ!」
そしてバカは大いに安堵した!どうやら木星さんはバカのことが嫌いになったわけではなかったらしい!バカは『よかった!よかった!』と木星さんの手をぶんぶん振った。
……と、一頻りやってから。
「……ん!?なら、今も仲悪いふりしてなきゃダメだったか!?」
「いや、も、もういいと思う……」
バカは唐突に気づいたが、木星さん曰く大丈夫らしい。『ならいっかぁ、仲悪いふりって疲れちゃうもんなあ』とバカは納得した!
それから、バカと木星さんは少し話す。
「その、僕と君は別のチームになってしまうが……」
「あっ、大丈夫だよぉ。ヒバナも天城のじいさんも、いい奴だし」
木星さんはどうやら、不安らしい。まあ、ヒバナは怖そうなチンピラ風の見た目だし、天城も怖そうなおじいちゃんに見える。気持ちは分かる。なのでバカは木星さんを安心させるべく、ヒバナと天城が如何に素晴らしい人かを語って聞かせようとし始め……。
「いい奴!?だ、だって、天城という老人に至っては、こ、殺そうとしてきたじゃないか!」
「あ、うん。でもいい奴なんだよ。説明が難しいけどぉ……」
……説明が難しい。そう。説明が難しいのである。
バカが木星さんに天城やヒバナの良さを説明するのは、とても難しい。何せ、ついさっき、木星さんの目の前で天城は『こいつを殺しておくべきか』の一連の流れをやってしまっているし、ヒバナだって、『殺すのもいいかもしれない』をやってしまっているのである!
「と!とにかく!僕は、あんな奴らは信用できない!だから、だ、だから、その……」
「まあまあ、落ち着けって」
だがバカは、頑張る。数度やり直して成長したバカは、木星さんの背をぽふぽふとごく軽く叩いて落ち着かせてやりながら、にこ、と笑いかけた。
「2人とも、ホントに悪い奴らじゃないんだ。ヒバナはビーナスのこと大事にしてるし、天城のじいさんは最後の最後にめっちゃかっこいいから!」
「さ、最後……?あの老人、し、死ぬのか……?」
「え?あ、うん、そう言われてみると割と死ぬこと多いな……?」
バカは首を傾げつつ、『なんでかなあ、天城のじいさん、よく死ぬけど……今回も死んじゃったらやだなあ』と心配になってきた。
……そんなバカであるので、木星さんはあんまり安心できなかったらしい!
だが、バカはそれでも木星さんの背をぽふぽふ叩いていたので、多少は落ち着かされてしまっていたが!
……そうして、時間いっぱいまで天城と陽は話していた。バカは、『あれ?俺とかヒバナが呼ばれなかったなあ……』と不思議に思いつつ、リンゴン、リンゴン、と鳴り響く鐘の音を聞く。
ドアに光が灯り、バカは『よーし、今回も頑張るぞ!』と気合を入れ……。
……そこへ戻って来た天城は、真っ直ぐに昼のドアへ向かっていった。
「あ」
バカは、どうしよう、と咄嗟に逡巡する。
これじゃダメだ、とバカは思う。だって、このままでは……きっと、天城がまた、死んでしまう!
「では、さらばだ。悪いが、私は先に行かせてもらう」
そうして、天城が昼のドアを開け、1人で中に入った、その時……。
「たま!陽!ごめん!俺、天城のじいさんを一人にはできねえ!」
バカは、閉まりかけていたドアの隙間へと、飛び込んでいったのだった!




