0日目夜:大広間*1
「……仕掛け、解けてない人が居たって聞いたけど」
さて。天城は置いておいて、バカと木星さんに、たまの冷静な目が向けられる。じっ、とこちらを見てくる目が、やっぱりちょっぴり猫っぽい。
「うん?……あ、うん!そっか!仕掛け、解かずに来ちまった!」
そしてバカはここで気づいた。『成程!今回も多分、まだ仕掛けを解いていない人がいる、っていうアナウンスから始まったんだな!』と。
「解かずに……?だとしたら首輪はどうしたんだ!?」
「引き千切った!あと、ドアはタックルでぶち破った!」
次いで、海斗が慄きながら質問してきたので、バカは元気に返した。
「……や、破った、か。まあ、確かに私の部屋の隣の部屋のドアが、破られた状態になっていたようだが……」
「うん!あれ破ったの、俺!」
土屋が証言してくれたので、バカは元気にそう宣言した。そう!バカがタックルでドアを破ると、こういう風に『そういえばあそこのドアは破られていた』と気づいてくれていた人達が証言してくれるから助かるのだ!
……だが。
「だとしたら、どのようにして破る部屋を選んだ?」
天城が、ぎろり、とバカを睨みながらそう言ってきた。
「へ?」
「ただドアを破るだけなら、隣室でよかったはずだ。それがどうしてか、隣室でもない部屋を破っている」
天城の質問の意味がよく分からず、バカは首を傾げる。……それと同時に、『あっ!これ、前は海斗が言い訳してくれてたやつだ!』ということだけは思い出した。そして海斗は今、バカの隣に居ない!海斗は不審者を見る目でバカを見ているばかりだ!……バカは寂しい!
「お前がドアを破ったのは、『偶々』ではなさそうだ。となると、お前はドアの先に何があるのか、誰が居るのかを知っていた可能性が高いな?」
「え?うん……」
天城の言葉を聞いて、バカは『そういえばそうだ』と頷く。
「あの、俺、皆のこと知ってるんだ」
そして、『話すなら今しかない!』とバカは決意して、話し始める。
「俺、やり直してここに来たんだ!」
……ということで、バカは金庫の中身を皆に公開した。皆はバカの異能の説明書きを読んで、何とも言えない顔をしていたが。
「な?俺、やり直してここに来たんだよぉ……だから木星さんのことも知ってて……いや、知らねえんだけど……」
バカは、『こういう時に海斗が代わりに説明してくれたら!』と嘆いたが、海斗は相変わらず、バカを慎重に疑うように見ているばかりだ。ああ、メロンパンが遠のく!
「……ふん。『やり直し』など無くとも、情報を知っていておかしくない立場の者が居るだろう?」
しかも、やっぱり天城はバカのことを信じてくれないらしい!
「このゲームの主催者側だ」
「お前がゲームの主催者側だからこそ、このような動き方ができる。そうは考えられないか?」
「ええええええ!?信じてくれないのぉ!?」
金庫の中身見せたのに!とバカが嘆いても、天城は納得してくれないらしい!
「あの紙は偽造したもの……と考えることもできる。少なくとも、私の異能の説明書きとは文体が大分異なるのでな。疑わしい」
「ああ、それは私も思ったわ。ちょっと……えーと、バカっぽいのよね、あなたの異能の説明書き」
「俺だけじゃなくて紙までバカっぽいのぉ!?」
どうやらバカの異能の説明書きはバカっぽいらしい!なんということだ!ペットは飼い主に似ると聞いたことがあるし、実際、先輩が飼っているウーパールーパーは先輩に似てかけっこが得意なウーパールーパーに育っているが、説明書きですら、バカに似ることがあるのだろうか!
「ま、ま、待ってくれ!」
だが、そこで声を上げたのは木星さんだった。
バカは『木星さぁん……』と縋るような目で木星さんを見下ろし……そして。
「僕は!僕は関係ない!被害者だ!僕は被害者なんだ!こ、こいつが部屋に急に、急に来て……そこで拘束されていたんだ!」
なんと!そんなことを言い出したのであった!
「ええええええええ!?木星さん!?木星さん!?なんで!?ええええええええええ!?」
バカはびっくりした!びっくりのあまり、目玉が飛び出すくらい目をかっ開いていた!否、目玉が飛び出すどころか飛び散るくらいの勢いであった!
「それも信用ならん。それならば到着早々助けを求めるべきだったろうからな」
が、バカを裏切った木星さんに対しても、天城は厳しい。……むしろ、向ける目はより厳しいかもしれない。バカは、おや、と思ったが、今はそれどころではないのであった!
「い、いや、それは、あまりにも急で……」
「そうは言ってもな。確かにこいつらは不審だ。どちらもそれぞれに、な。僕もそこのご老人に賛同する」
「ええええええええ!?」
バカは、ショックを受けた。何せ、海斗が!海斗が、バカを睨んで、敵意と警戒を露わにしているのだ!
「……海斗ぉ」
バカは流石にちょっぴり泣きそうである!海斗が冷たいとバカは辛い!あれだけ仲良くなったのに!ポケモンや小説の約束までしたのに!メロンパン食べる約束なのに!
「な、なんで僕を見るんだ」
「だってぇ……海斗……ぐす」
海斗が『意味が分からない』というような顔で困惑しているのを見て、バカはいよいよ、『ああ、この海斗は俺がポケモンの約束した海斗とは違う海斗なんだなあ』と実感してしまった。そしてそれと同時に、ものすごく寂しく思う。今すぐ、前の周に戻ってしまいたいくらいだ!寂しい!寂しい!
「……ま、まあ、確かに不審な点はいくつもあるが……それはそれとして、ひとまず全員無事であることについては喜ぼうじゃないか」
バカが今にも泣きそうな状態になっていると、土屋がそう、取りなしてくれた。バカは『土屋のおっさん……』と喜びと希望を込めて土屋を見つめたが、そっとさりげなく目を逸らされてしまった。ああ!土屋まで!
「そ、そうですね。あのカンテラの数は9個ですから……10人の参加者が居る、ということには納得がいきますよね」
「うん……?10人だったら10個じゃないのか?」
「あ、あの、10人だったら、10個のカンテラは要らないんじゃないでしょうか。1人も生き残っていなかったら、参加者が死者の魂で願いを叶える、っていうルールがもう意味をなさなくなってしまうので……」
ミナが優しく説明してくれたので、バカは『ミナも土屋のおっさんも、いい人だなあ……』とちょっとまた泣きそうになってきた。
「る、ルール……?そ、そうだ!ルール!ルールを説明してくれ!ぼ、僕はまだこのゲームが何なのかもよく分かっていないんだ!」
「ほう。そちらの男は『やり直し』て来ているのだから、ルールくらい分かりそうなものだがな」
「そ、そんなの嘘かもしれないじゃないか!正しいルールを、ちゃんとしたのを聞かないと!」
「ええええ……じゃあなんであんなに色々聞いてたんだよぉ……俺、説明ヘタクソなの途中で分かってくれよぉ……」
一方、木星さんはバカと手を切ることにしたらしいので、バカは只々、孤立無援である!悲しい!折角助けた木星さんなのに、全然仲良くしてくれない!悲しい!
……それから、たまが『まあ、改めて確認がてらもう一回、ルールについて話そうか』と始めてくれたおかげで、木星さんはルールを聞くことができた。
バカは『よかったなあ、木星さん……』と思った。でもやっぱりちょっと悲しいものは悲しいバカであった。
それから自己紹介もした。前回と同じ名前で呼べることになったので、バカは安心した。ちなみに、木星さんについてはバカが『木星さん!』と呼びまくっていたせいで、『木星さん』で定着してしまった。バカはこれにもちょっぴり安心した!木星さんは何とも言えない顔をしていたが!
「まあ、そういう訳だから、俺達はチームごとに分かれなきゃいけないんだけれど……どうしようか。10人だと、3人3人4人、っていうかんじかな」
とはいえバカも悲しんでばかりはいられない。話はいよいよ、チーム分けのことに移っているのだ。陽が切り出せば、全員がちらちらと他の皆のことを見回して……。
「僕はこいつらとは組みたくない。……まあ、全員そうだろうが」
海斗が真っ先に、そう言い出したのだった!
「俺は海斗と組みたかった……」
「な、なんでだ!?やめろ!」
「うん……嫌がられてるなら、やめる……」
バカは心底しょんぼりする。大好きな海斗だからこそ、ここまで拒否されるととても辛い。バカは只々しょんぼりとして、床の上に体育座りを始めた。
「……逆に、こいつと組んでもいい奴、居るのかよ」
「う、うーん……最低でも4人4人2人の組み合わせにはする必要があるから……誰か1人は、樺島君と組む必要がある訳だけれどね……」
皆が、ちら、と木星さんを見るが、木星さんも『あいつとは組みたくない!』と言っている始末である。バカ、いよいよ孤立無援である!
「だがなあ……うーむ、ご婦人方と一緒にするよりは、まだ、抵抗できる男の方がいいだろうが……となると、私か……?」
土屋は、ちら、とバカを見つつ、なんとも険しい表情で悩んでいる。土屋から見てもバカは不審らしい!
「海斗に続くようで悪いけれど、私も絶対に嫌よ。ああ、あとヒバナも一緒にしないで。私、こういう奴嫌いなのよね」
「んだとテメェ!」
そして今回もヒバナとビーナスは仲良く喧嘩のふりをしている。バカは『本当は仲良しなのに……』と何とも言えない気持ちになった。
「そ、その、私もできれば……あの、女性と組みたい、です」
「あら。じゃあミナ。私と組まない?あと1人、ここに入ってくれたら丁度いいじゃない?」
「いいんですか?あ、なら、その、海斗さんが、いいでしょうか……?ビーナスさんと条件は概ね同じようですから……」
「僕か?いや、まあ、構わないが……」
今回はなんと、ビーナスとミナと、海斗が一緒のチームになりそうだ。バカは『いいなあ』と思いつつ、ふと、『矢が飛んでくる迷路に当たっちゃったら大変そうだなあ』とも思った。折角なら、土屋あたりについていてもらいたいが……。
「……1つ、提案がある」
バカが『どうやって土屋についていってもらうかなあ』と考えていたところ、天城が切り出した。
そして。
「こいつを今ここで殺してしまうのはどうだ」
……嗚呼、一周目の再来である!




