3日目昼:流矢の迷宮(だった場所)*1
「ということで無事、我々は解毒を済ませた」
さて。
こうして、陽、たま、土屋、ヒバナの4名は、無事に解毒も済ませてしまった!
「夜の間にできちゃうのね……」
「……これ、悪魔さんは想定していたんでしょうか?」
「樺島君がメンバーに居る以上、想定されていたような気がするけれど」
バカは、ドアに勝てたし皆の役に立てたし、あとライオンかわいいし、すっかりご機嫌である。そしてやっぱり何よりも、皆が無事に揃っていることが嬉しい!
「……じゃあ、3日目の昼は、どうする?」
もうじき、3日目の昼だ。バカが今まで一度も経験したことのない、3日目がやってくるのだ。
「えーと、あとはビーナスとミナさんと天城さんと海斗が解毒すればいいんだよね」
「ああ。だからどのみち、僕達4人はどこかの部屋に入るぞ。当初のチーム分けとは異なる結果になってしまったが……」
さて、そろそろ昼の鐘が鳴るな、という頃、海斗は『やれやれ』とぼやきつつそうまとめてくれた。
今、解毒していないのは、ビーナス、ミナ、天城、海斗の4名だ。残り4名は既に解毒済み。そしてバカの記憶が正しければ、解毒剤と一緒に注入される毒は『次の夜が来た時に死ぬ』やつだったはずだ。つまり、まだ大丈夫、という訳である!
「……じゃあ」
そこで、たまが何やらにんまり笑って、言い出した。
「全員で入ろう。4人はもう、解毒済みな訳だから」
……そうして。
「この部屋、9人で入ることは想定されているんだろうか」
「さあ……」
バカ達は全員で、今回のデスゲーム最後の部屋となることになる……迷路の部屋に、入っていた。
そう。この部屋は、バカが初めて入る部屋である。バカ自身、『どこがどの部屋かもう全然わかんねえ!』と、適当に選んだのだ。そうしたら、迷路の部屋にやってきてしまった!
恐らくここは、最初の周で土屋達が攻略していた、『矢が飛んでくる迷路の部屋』だろう。罠に引っかかると矢が飛んでくるらしいので、注意が必要である。
……本来は。
「まあでも、バカ君が居ると安全よね、ここも……」
そう。本来は罠に気を付けながら慎重に進んでいくはずだったのであろう、この迷路。
……現在、バカによって、迷路の拡幅工事が行われているのである!
「ブルドーザーみてえ!」
「そうだな、ブルドーザーだなあ……」
バカは、土屋が出してくれた盾を前に構えて、そのまま迷路の壁に向かって突進して、一直線に壁を破壊していった。
「この壁、ドアよりも簡単に壊れる!きもちいい!」
「よかったね、樺島君……ははは」
「多分、元々壁を破壊することも想定されてるんだろうね」
どうやらこの迷路の壁は、ドアや金庫よりも脆いようである。つまり、バカタックルで十分に壊れるし、バカタックルに土屋の盾が合わされば、まるでブルドーザーのように壁や壁だったものを押し退けて、一直線に道を作っていくことができるのだ。
これによって、迷路の拡張が捗ること捗ること。バカが通った後に道ができる。その姿はまるで、海を割るモーセのようですらある。が、その実、バカの突進でしかないので神々しさは無い。
「あっ、あぶねっ!」
そして、そんなバカを止めようと、健気にも壁から矢が飛び出してくる。だが、それもバカの鋼の肉体の前には無力!
「フンッ!よし!捕まえた!」
哀れ、矢はバカの手によってむんずと掴み取られていた!そう!バカには、飛んで来る矢を捕まえる程度の動体視力と身体能力が備わってしまっているのだ!
「この矢、かっこいいよなあ……」
更に、バカは捕まえた矢を気に入ってしまった!矢尻がぎらりと鋭いのも、矢羽根がすらりと美しいのも、全部気に入ってしまったのである!あと、矢羽根の端っこの細工が何だか綺麗でとてもいい!
……なので。
「そうだ!これ、お土産にしよっと!」
バカはそう思い立ってしまい……足元にあるスイッチを、がこがこがこがこがこ、と踏み始めた!
「えへへ、先輩の分、親方の分、あと所長の分も……」
スイッチを踏んだ分だけ矢が出てくる。そして出てきた矢は、全てバカによってキャッチされ、バカの『お土産』として集められていくのであった。
「……積極的にトラップを踏む人って居るのねえ……」
「しかも動機がお土産の確保だもんね」
「わ、分からん……あいつは一体、何をやっているのだ……?」
バカによる道路工事を待つ面々は、バカの奇行に慄いたり、くすくす笑ったり、呆れ返ったりしているが、バカは構わず矢のスイッチの上で華麗に地団太を踏み続けている!
「あっ!?なんか出なくなった!」
そうして踏むこと数十回。ついに、スイッチを踏んでも矢が出てこなくなってしまった!
「弾切れかよ……」
「呼んだ?私切れ?」
「呼ばれてないと思うよ、たま」
どうやら、迷路のトラップも弾切れを起こすらしい。バカは残念そうに『もっとほしかった!』とがこがこスイッチを踏んでいるが、もう、うんともすんとも言わない。
バカはちょっぴりしょんぼりしながら、自身の世紀末ファッションの原因である鎖を使って、矢を束ねて背負った。世紀末野蛮人スタイルバカの完成である。
「……樺島。もしかすると、他のスイッチならまだ矢が出るかもしれないぞ」
「そっか!?じゃあそっち行く!」
……そうしてバカは海斗に教えてもらって、元気にブルドーザーを再開したのであった!
結論から言えば、弾切れは他のスイッチでもすぐに起きた。バカは矢を沢山出してにこにこしていたが、在庫切れになった迷路としてはしょんぼりもいいところだろう。
それだけではない。トラップから矢が出てこなくなり、すっかり安全になってしまった迷路は、更にバカによってしっかり整備され、でっかい直線道を有する広々とした空間へと様変わりしていたのである。
「これ、他の壁も壊しといた方がいいか!?」
「いや、そろそろやめてあげようか」
「そっか!じゃあやめとく!」
だが一応、陽のフォローによって、迷路はぶち抜き大部屋へのリフォームはなんとか免れた。
……かと思われたが!
「いや、やっちゃえ」
「うん!?いいのか!?陽!どっちだ!?」
「ええと……まあ、うん、いいと思うよ……」
「そっか!やったー!」
……たまが陽の後ろからひょっこり顔を出して『GOGO』と嗾けたため!そして陽が、たまに弱かったため!
やっぱり迷路は、ぶち抜き大部屋へのリフォームが決定してしまったのであった!
そうして30分程度でリフォームが終了した。
壁だったものは一か所にまとめられ、すっかり見通しが良くなった開放感あふれる空間はちょっと足りない光源に照らされて、余計に広々として見える。
バカは自分の仕事に満足しつつ、『ふう!』と額の汗を拭って満面の笑みを浮かべた。
やっぱり、解体はいい。『とりあえずそこからそこまで全部壊しとけ』というタイプの指示はバカにも分かりやすく、そして失敗しないのだ。バカは何かを生み出す建築の仕事が大好きだが、解体は解体で、得意だし好きなのでやっぱり楽しい。
……と、バカがすっかりご満悦なところ。
「あら?……あの、あの、みなさーん!こちらへいらしてくださーい!」
ぶち抜き大部屋の一角で、ミナが大きく手をふりふりやっていた!
何があったんだろう、とバカがてけてけ走っていくと、他の皆も集まってきた。
「あの、これ……」
ミナが示したのは、床の一角。奇跡的に瓦礫に埋まらなかったそこには……。
「鍵穴?」
なんと。鍵穴があったのである!床に扉があるとは、何とも不思議な眺めだ。だがバカは、こういう扉を見たことがある。そう。海斗人形が入っていた、あの水槽の部屋の扉もこんな具合だった!
……ということは。
「もしかして、この中には誰かの人形があるんじゃないか?」
海斗の言う通り、きっとここには誰かの人形があるのだ!
「となると、鍵を探したいところだが……うーん、どこかに鍵があったとしても、もう埋もれている気がするが……」
土屋が、きょろ、と辺りを見回しつつそう言うのを聞いて、バカは『あっ!?俺のせいで誰かの人形、見つからなくなっちゃったか!?』と慌て始めた。バカはぶち抜き大部屋づくりを楽しんでいたが、誰かの邪魔をしたかったわけじゃないのだ!
「……多分、これじゃないかな」
だが、たまが冷静にバカに近づいて……バカの背中にまとめられた矢を、一本引き抜いた。
そして矢をじっくりと見つめ……。
「ほら。ね?やっぱり」
その矢羽根側の端っこの細工が鍵っぽくなっていることを発見したのである!
……ということで。
「じゃあ、開けるぞ」
土屋が盾を構えつつ、そっと、床の鍵穴に矢を差し込んで、くるり、と回した。皆がそれを緊張しながら見守る中……カチャリ、と鍵の開く音が響く。
それから、土屋はまた慎重に、そっと、床の扉を持ち上げて……。
「……こ、これは?」
その中から出てきたものを見て、土屋も他の皆も、困惑した。
「これは……誰だ?」
……そう。
そこにあった人形は、見知らぬ男性を模したものだった。
そして、その人形の顔面には……『絞殺』と。そう、書いてあったのである。
これは恐らく、木星さん……『いできょうた』さんの人形だ。
それは、バカにも分かった。




