1日目夜:大広間*1
「じゃあ、情報共有といこうじゃないか」
大広間の卓に着いて、真っ先に海斗がそう、口を開いた。
なので。
「うん!えっとな!こっちは鍋食ってきた!おいしかった!」
「は?」
……早速、バカは海斗達4人を、困惑させることになったのである!
「……成程な。成程、うん、そういうゲームもあるのか……」
土屋が頭の痛そうな顔をしている横で、海斗は『もう僕は考えるのはやめた』と言わんばかりにぐったりと椅子の背もたれに体重を預けている。
「お鍋、いいな……」
たまは鍋が羨ましかったらしく、ちょっぴりじっとりした目で陽を見つめていた。陽は『ここを出たら何か食べよう』と言っていたが、ここを出るまでにあと7時間以上は確実に掛かる!たまはお腹が空いてしまうのではないだろうか!バカは大変に心配した!
「全く、そんなことになってるなんてね……。まあ、こっちも人のことは言えないけど」
そしてビーナスも呆れたような顔をしていたのだが、ビーナスは、ちら、とヒバナを見て、ほっとしたような顔をしていた。ほんの一瞬だけ。
「そちらはどうだった?」
「こっち?こっちはね、『双子の乙女』の部屋だったわ」
「双子の乙女?」
ビーナスの説明に、陽やヒバナやミナは首を傾げていたが、バカには分かる。
双子の乙女は……あれだ。バカが轢いちゃったり、絞めちゃったりしている双子のお姉ちゃんである!バカは改めて『あの時はごめんよぉ……』と心の中で謝っておいた。
「YESとNOだけで答えられる質問を20回までやってよくて、それで、『双子の乙女』って名乗るそっくりな2人の悪魔の考えているものの名前を当てる、っていうゲームよ。ま、下手したら毒蛇のプールに落とされるところだったけれど……それは無かったわね」
「たまさんが見事に解決してくれてね……。和文モールス、だったか」
「うん」
どうやら、今回も双子の乙女にはたまが相対したらしい。『和文モールス』を今回も使ったということは、まあ、双子の乙女は大変だったことだろう。泣いていたかもしれない。バカは改めて『ごめんよぉ……』と心の中で謝っておいた。
「……まあ、『モールス信号になるようにYESとNOとで答えを言え』というやり方だったものだから、質問1回目で答えが分かってしまってね」
「全く、あんなことを思いつくなんてな。僕も想定していなかった」
海斗が『やれやれ』と言いながらどこか得意げにしているので、バカは『海斗もたまのこと気に入るよなあ。たまは頭いいもんなあ』となんだか嬉しくなってきた!
バカが嬉しくなっていたところ……たまが、こともなげに、とんでもないことを言い出した。
「それで、答えを聞く他にも色々聞いてきたんだけれど」
「えっ?」
バカは勿論、陽もミナも、ヒバナも天城も、皆が驚く。一体何を聞いてきたのだろうか。やっぱり一卵性ソーセージについてだろうか。バカが不思議に思っていると……。
「やっぱりこのゲーム、もう1人参加者が居るみたい」
たまは、そんなことを言い出したのであった!
「も、もう1人……?」
「そう。木星の人」
たまがそういえば、皆が『ああ、なるほど』というような顔をする。
「……既に犠牲者が居るとはね」
「まあ、納得はできるよね。あれを見たら」
……たまが指差す先には、カンテラがある。そしてカンテラには案の定、炎が1つ、灯っていた。……木星さんの魂があそこにある、ということなのだろう。
そう!今回はすっかり忘れていたバカが悪いが……木星さんはまたも、死んでしまったようなのである!
ああ、木星さん!木星さん!バカは嘆いた!
「うーむ、つまり、ゲーム中の質問権を『悪魔に何でもYESかNOかで答えさせることができる権利』として使った、ということか……?」
「うん」
たまはちょっぴり誇らしげである。バカは『やっぱりたまはすごい!』と目を輝かせて拍手した。すると、拍手を受けたたまは、ちょっとだけ、にこ、と笑った。かわいい!
さて。
そこからは、『たまが双子の乙女に問い質した質問について』の発表会となった。バカはぱちぱちと拍手しながら、たまの発表を聞いた。
たまが悪魔にした質問は、陽が書記になって書き出してくれるので、バカは安心してのんびりと文字を目で追った。
・デスゲームを主催している悪魔は複数居るか→NO
・複数の悪魔によってこのデスゲームが運営されているか→YES
・悪魔にとって、このデスゲームを開催する理由は何か。和文モールスで答えて→『魂を美味しくするため』
・願いを叶える為に消費された魂はどうなる?和文モールスで→『食べる』
・このデスゲームが中止になることはある?→分からない。私達は主催者じゃないのでYESともNOとも言えない。
・既に参加者の誰かが死んでいるか→YES
・死んだ人は誰か、和文モールスで答えて→『いで きょうた』
・死んだ人に割り当てられた惑星記号は?→『木星』
……ということで、陽が書いてくれたものを皆で眺める。
たまはやっぱり、賢い。このデスゲームを中止にする方法を考えていたらしい。
バカは、このデスゲームをなんとか全員でクリアすることを考えていたが……たまは、その上を行っている!やっぱりたまはすごい!
「えーと、質問は8つだったのかな?」
1つ、2つ、と数えた陽がたまに問いかけると……ふと、たまが気まずげな顔をした。
「いや、もっとしたんだけど……その、ちょっと、無駄にしちゃった質問もあって」
たまの顔は、『それ以上深く聞くな』と拒絶しているようであったが……。
「ああ、いくつかモールスで質問していたのと、後は……『既に参加者の誰かが死んでいるか』の後に、『それは陽か』と聞いていたなあ」
土屋が『そういえば』と漏らしてしまった。なので、全員の視線がたまから陽へと移る。
……たまはちょっぴり拗ねたような顔をしていたし、陽はちょっと嬉しそうな、何とも言えない顔をしていた。
「俺のことが心配だったの?」
「……当然心配でしょ」
「そっか。なら次は一緒のチームに分けてもらおうか」
「……うん」
カップルはもじもじしながら、ちょこ、と手を繋いでいた。バカはそれを見てにこにこしていた!
「まあ……少しこのデスゲームの全貌が見えてきた……か?」
「魂、食べちゃうんですね……。どんなお味なんでしょう……?」
「俺の魂、焼き肉味がいいなあ。あっ、納豆味でもいいなあ!」
「納豆味がいいのか?な、何故……?」
……と、まあ、皆でたまの質問集について好き勝手に感想を漏らす。バカは『俺の魂、どんな味かなあ。ちょっと食べてみてえなあ……いや、舐めるだけでもいいから!』と思っていた。流石はバカである。バカだ。
「まあ、分かったところでどうしようも無いことも多いがな。悪魔に魂が食われるからといって、ここに居る全員が殺人を躊躇うとは思えん」
だが、こういう時に水を差すのはやっぱり天城である。天城は今回も警戒心が強いらしく、全員をじろじろと見ながら、いかにも『信用していません』というような顔をしているのだ!
「まあね。そのあたりは覚悟した上でここに居る人達なんでしょうし」
更に、ビーナスもそんなことを言い出すものだから、バカはなんとも悲しい気持ちになる。
だって、そう言うビーナス自身に、そんな覚悟無いはずなのだ。だからこそ、ビーナスは前回、あんなに苦しそうにしていたのに……。
そうとは分からないくらい自然に綺麗に強がってみせるビーナスを見て、バカは只々、どうしていいものやら分からなくなる。
のだが。
「それとも……人を殺すっていう覚悟もナシにここに来た、なんて人、居る?」
「はい!はいはいはい!俺!」
ビーナスの言葉を聞いて、バカはすかさず元気に手を挙げた。天を貫くかのような勢いのある挙手は、もともと図体のデカいバカから繰り出されると余計に目立つ。声まで大きいので、とにかく、目立つ。
バカ自身には然程目立っている自覚は無かったが……元気に挙手したのには理由がある。
それは、ビーナスに『ここに居るよ!』と伝えたかったからだ。
人を殺すことを躊躇い、その結果、前回はヒバナと一緒に死んでしまったビーナス。彼女に少しでも安心してほしくて、バカは元気に手を挙げたのだ。
「俺、人を殺す気、ねえもん!」
「……あなたはそうだったわね」
バカを見て、ビーナスは気が抜けたらしい。はああ、と深くため息を吐いて、それきり、特に何も言わなかった。
……だが、その表情が幾分、和らいでいたのを見て、バカは『ヨシ!』と満面の笑みを浮かべたのだった!
「あっ、そうだ!ヒバナぁ、ヒバナぁ、お前のお人形、皆に報告しといた方がいいぞ!」
それから、ふとバカは思い出して、ヒバナをせっついた。ヒバナの人形の処遇は、ちゃんと皆に相談しておいた方がいい。
「こういうのは『小松菜』が大事って先輩が言ってたぞ!わかんねえけど!」
「多分それ『報連相』だろこのバカ」
ヒバナはバカの後頭部を、すぱしん、と叩いてその手にダメージを負いながら、ため息を吐いて、自分のポケットに入れていたヒバナ人形を取り出した。
「さっきの部屋で見つけたモンだ。この人形、俺と感覚を共有してやがるらしい」
「このお人形をくすぐると、ヒバナさんもくすぐったく感じるみたいなんです」
ミナの補足付きで皆がヒバナ人形を眺める。……そして。
「……ということは、この人形の首を引き千切ると」
「ダメだからな!?そういうことしちゃダメだからな!?絶対にダメだぞ!」
たまが怖いことを言い出したので、バカは慌ててたまの前に立って両手をわたわたと動かした。ヒバナ人形は俺が守る!という気持ちでいっぱいだが、その気持ちが空回りして、結果、バカは謎の踊りを踊ることになっている!
「……しないけど」
「しないのか!そっか!よかった!」
が、たまがちょっぴりじっとりした目でバカを見てきたことにより、バカは安心してたまの前で動きを止めた。謎の踊り、これにて終了である。
「けれど、気を付けた方がいいよね。うっかり、で人形に傷をつけてしまうことだってあるだろうし」
たまはそう言って、『どうしたらいいだろうね』と悩んでいる。陽も一緒になって考え始めたので、バカは考えるのをやめた。賢い人に考えてもらった方がよさそうである!
「そうだ。こちらでも……ミナさんの人形を預かっている。ほら」
「へっ!?わ、私のお人形ですか!?ありがとうございます!」
かと思えば、海斗が今回も、ハンカチに包んだミナ人形を取り出してきた。ミナは海斗から受け取ったそれをまじまじと見つめて……こしょ、と指先でくすぐり始めた!
「きゃ、わ、本当にくすぐるとくすぐったいですね……」
変なかんじ、とミナは呟きつつ、自分の人形を見つめて……それから、少しだけ、人形に爪を立てる。途端に顔を顰めて、そっと、人形から爪を離していた。やっぱり、人形が傷つくとミナも痛いらしい。
「傷つかない場所に置いておくしかない、かな。やっぱり」
「そうです、よね。ええと……じゃあ、ヒバナさんのお人形と私のお人形、まとめてヒバナさんのお人形が入っていたところにしまっておいても、いいでしょうか……?」
「あー……まあ、好きにしろよ。ただし、鍵は俺が持つぞ」
「あ、そっか、そう、ですよね……うーん」
人形は安置しておきたいが、鍵付き扉は今のところ、ヒバナの人形が入っていたあれしかない。ミナとしては、ヒバナはまだ信用しきる訳にはいかない相手だろうから、その相手の人形と相部屋、かつそのカギはヒバナが持つ、となると受け入れがたいだろう。
「……なー、これ、使うか?」
なのでバカは、そっと、それを差し出した。
……バカが『開けられない!』と個室から持ち出してきた、例の金庫である!




