0日目夜:大広間*2
さて。
そうしてバカ達は、決まったチームで顔を合わせていた。
バカのチームは、『バカ、ミナ、陽、ヒバナ、天城』の5人組だ。……バカは、天城と組むのは初めてなので、ちょっぴり緊張している!
だがバカの緊張など、ミナの緊張と比べれば全く大したことは無い。さながら、ナタマメと比べた時のグリーンピースみたいなものである。
そう。今、ミナは決意と緊張によってぷるぷるしているのであった!
バカは『大丈夫かなあ』とちょっと心配になりつつも、ひとまず昼の鐘が鳴るのを待つことになったのである!
「陽、といったか。少し話がしたい。来い」
「え?俺?」
鐘を待つまでの間に、天城は早速、陽を連れて端っこの方へ行ってしまった。
……一周目と同じような具合だが、2人は何を話しているのだろうか。
バカは陽と天城が気になりつつも、やっぱりミナのことが心配である。バカとミナとヒバナで取り残されてしまったので、なんとなく手持無沙汰でもあることだし、少しミナと話をしようかな、と口を開きかけると……。
「……あー、おい、ミナ、っつったか」
同じく手持無沙汰だったらしいヒバナが、ミナにそう声を掛けていた!
「へ!?あ、は、はい!」
ミナはびっくりのあまり素っ頓狂な声を上げつつ、緊張でいっぱいな様子でヒバナを見つめ返す。
するとヒバナは気まずげに視線を彷徨わせながら、ぼそぼそと話すのだ。
「……ま、よろしく頼むわ」
……内容としては、まるで大したことが無い。あっても無くても変わらないような、そんな内容である。
だがヒバナがそれをわざわざミナに話しに来た、ということには、大きな意味があるのだ。
つまり……ヒバナも、緊張のあまりぷるぷるするミナを見て、少し不憫に思った、ということなのだろうから。
「……はい。こちらこそ、よろしくお願い、します」
ミナは迷うように、おずおずとしながら……そっと、手を差し出した。
するとヒバナは『おう』とぶっきらぼうに言いつつ、ミナの手を軽く握って、ふり、と軽く振った。……握手、である!
なのでバカもヒバナの手を捕まえて、ぶんぶん振っておいた。なんだか、嬉しかったのである!
尤も、ヒバナには『テメェ俺の腕引き千切る気か!?あァん!?』と怒られてしまったので、そのまま正座して反省することになったが……。
しばらくして、天城と陽が戻ってきた。『何の話してたんだ?』とバカが尋ねてみても、陽は『ああ、まあ、ちょっとね』と曖昧に笑って誤魔化すばかりである。
更に少しして、陽はたまと話しに行ってしまった。
……天城と何か、あったのだろうか。
「なーなー、天城のじいさん。さっき陽と何の話してたんだよぉ」
気になったバカは、折角なので直接天城の方に聞いてみることにした!
「……何故、答えてやる必要がある」
「えっ、同じチームになるし……気になるし……」
天城は、ぎろ、とバカを睨みながら、随分と刺々しい様子である。陽と話していた時には、遠目にも割と穏やかな様子であるのが見て取れたのだが……。天城は筋肉が嫌いなのだろうか。バカはちょっぴりしょんぼりした!
だが。
「なら……バカ島。少し話をしたい。お前も来い」
「えっ!?俺!?俺でいいのか!?やったあ!」
天城はなんと、バカをも話に誘ってくれたのである!
バカは、まさか自分が天城に誘われるとは思っていなかったので、大喜びだ!
……今回は、ミナや土屋と仲良くなって、ついでに、ミナがヒバナやビーナスについて知って、ちゃんと判断するための周だ。だが……もしかしたらバカは、天城とも仲良くなれるかもしれない!
そうして、バカは天城と一緒に階段付近にまでやってきた。
「で、話ってなんだ?なんだ?」
そわそわ、わくわく、とバカが天城に問いかければ、天城はまた、ちら、と疑うような目でバカを見て……それから、ずい、と詰め寄って来た。
「お前は一体、何者だ?」
……そしてそんなことを聞いてきたのである。
「うん?俺?俺な、樺島剛っていうんだ!」
「それはもう聞いた」
バカが元気に自己紹介をやり直すと、天城は深々と、わざとらしくため息を吐いた。
そして、天城はまたもぎろりとバカを睨みつけてくるのである。
「……どう考えても、お前の行動はおかしい。そうだろう?」
「そうなのか!?あっ、でもよく言われる!何でも筋肉で解決するな、って言われる!」
バカが『どうしよう!その通りだ!』とわたわたし始めると、天城はなんともやりづらそうにため息を吐いた。
……これが、話の通じないバカの力である!
「まあいい。お前が何を思っていようが、お前の思い通りにはさせん」
「えええええええ!?」
天城にとんでもないことを言われてしまい、バカはびっくりするしかない。突然そんなことを言われても困る!
「や、やだよぉ……俺、皆揃って、ここ出るんだから……」
バカは困り果ててしまった。バカの思い通りにさせない、ということは、天城は誰かに死んでほしいということだろうか!
「……何?」
「俺、俺、全員でここ出るんだ……誰も死なないようにしたいんだ……天城のじいさんはそうじゃねえのかよお……」
バカが泣きそうになっていると、天城は少しばかり、おろ、と狼狽えた。だが数秒後には落ち着きを取り戻し、同時にバカへの敵意も取り戻したらしい。
「ふん。お前のことなど信用できるか。どう見ても怪しい奴が『全員でここを出る』などと言ってもまるで信じられん」
「そんなあ!」
「……どうせ、そんなことを言っておいて、後々裏切るつもりなのだろうからな!」
天城はそう言って、バカを睨んでいる。バカは最早、どうして良いものか分からず、ただ、去っていく天城を見送り……否、見送りかけて、すぐさま、天城の背後にピタリと貼り付いた!
「……何をしている」
「うん……」
「鬱陶しい!離れろ!」
「やだぁ……」
バカは、思い出したのだ!
天城が……一周目に、1人で部屋に入って死んでしまった時のことを!
そうしてバカが天城に対して鉄壁のディフェンスを見せていると、リンゴン、リンゴン、と鐘が鳴り、ゲームの部屋のドアに光が灯った。
「じゃあ行こうぜ!」
なのでバカは……ひょい!と天城を担ぎ上げて、皆に溢れる笑顔を見せた。
「な、何をする!離せ!」
「やだ!おれは天城のじいさんとも仲良くなるって決めたんだ!絶対に離さないからな!」
バカはそうして天城を担いだまま、ドアの前を行ったり来たりしつつ、すんすんすんすん、と匂いを嗅ぐ。
そう。バカはバカだが、鼻の利くバカだ。
目印も無いドアの群れの順番をちゃんと覚えているのは難しい。何があるか分からないドアの向こう側を推察することは不可能だ。
だが……予め知った上で、『こういう匂い!』と意識して探せば、それは見つかった。
「よし!俺、この部屋がいい!皆、いいか?」
元気に宣言したバカを見て、皆、不思議そうな顔をする。
「ええと、樺島君。なんでか理由を聞いてもいいかな?」
「ん?いい匂い、するから!」
陽の問いかけにバカは元気に答え、同時に、ぐう、とお腹を鳴らした。鍋のことを思えば、腹くらいいくらでも鳴るのだ!
「匂い……するかァ……?」
「うん……なんか、出汁の……えへへ……」
ヒバナもすんすん、とやっているが、分からないらしい。ミナは『言われてみればそんな気も……?』と首を傾げているが、大体気のせいである。
そう。出汁の香りが、ほわ、と微かに漂ってくるように感じられるのは、バカの錯覚かもしれない。だが、他の皆は『まあ、首輪を引き千切る奴だし、嗅覚も異常に発達しているのかも……』と妙に納得してしまう。
……なので。
「じゃ、いくぞー!」
バカが元気にドアを開け、天城を担いでいくのを、誰も止めなかったのであった!
……そして。
めえめえ。めえめえ。
……のどかに草を食む羊達の姿が見えるや否や。
「わーい!羊!羊だあああああああ!」
バカは元気に、羊の群れへと飛び込んでいったのであった!
……さあ!鍋パの時間だ!




