0日目昼:押しかけ先の個室
「うわぁあああああ!すっげえええええええ!」
警察手帳を見た途端、バカは目を輝かせることになった!
「わああああ!わあああああ!本物ぉおお!?本物か!?これ本物か!?」
「あ、ああ、本物だよ。中身もちゃんとあるぞ」
「わああああああ!すげえええええ!すげええええ!」
最早、バカは大興奮である。テレビドラマでちらっと見たことがある程度であった、憧れのあの警察手帳が目の前にあるのだから!
バカはしばらく、『かっこい!かっこい!』と、土屋の周りをぐるぐる回っていた。土屋とミナは苦笑していたし、海斗は呆れたような顔をしつつ、やっぱり土屋の警察手帳に注目していた。海斗も男なのである。そして男は皆、警察手帳が好き!
「あの、土屋さんは、警察の人……っていうこと、ですよね?」
「ああ。私の目的は、『悪魔のデスゲーム』の実態を捜査することでね。まあ、潜入捜査、ということになる、かな。いや、潜入してしまったのは事故で、元々は聞き込み調査の予定だったんだが……」
土屋は少々歯切れ悪くそう言って、ため息を吐いた。……調べるだけのつもりが、参加することになっていたのだろうから、ため息も已む無しである。
「最近相次ぐ不審死は、悪魔のデスゲームによるものだ……などという噂があったのでね。捜査していたんだ。まさか本当にこんな部屋に閉じ込められることになるとは思わなかったがね」
土屋は『やれやれ』と息を吐いて、手帳をまたポケットにしまった。
「そういう訳で、私はこのゲームの実態を調べることが目的だ。悪魔に叶えさせたい願いがあってここへ来たわけではないから、安心してほしい。まあ、強いて言うなら、このゲーム中で犠牲者が出ないこと、このゲーム後に殺人犯を拘束することが願いになるが」
土屋の言葉を聞いていく内に、バカは色々と納得した。
土屋が年齢の割に体力のある人だということも、最初から『願いの為に人を殺すつもりは無い』と言っていたことも、これですっかり納得できる。
「そうなんですね……!わあ、警察官の方がいるなんて、心強いです!」
「まあ、そういう訳で、私の職業を明かすと警戒されるだろうから、ヒバナとビーナスとやらには内緒にしてくれ」
「そうだな。それがいいだろう。……おい、バカ。いいか?土屋さんの職業のことは秘密にしろ。いいな?分かったな?守れるな?」
「うん!ナイショなんだな!分かった!ちゃんとナイショにする!」
そうして土屋は、ミナと海斗、そしてバカの信頼を得た。やっぱり警察官は信頼の対象であり……同時に、皆の憧れなのである!
バカは『かっこいいなあ、かっこいいなあ』と土屋にきらきらした眼差しを送るのだった!
さて。バカが『土屋が警察なのはナイショ!』と学習したところで。
「まあ、ミナさんとヒバナとビーナスのことはさておくとして……この後、どうする」
「え?うーん……」
バカは、ちらりと『これ、ここ3人の首輪は外しといた方がいいのかなあ』と迷う。
……だが、首輪を下手に外してしまうと、ヒバナとビーナスが蛇原会だとバレてしまったように、何かあるかもしれない。
そうでなくとも、できる限りの首輪を外した2周目は、バカ以外誰も首輪を外さなかった1周目と大きく異なっていた。
……そうだ。首輪を外したら、ヒバナが天城と一緒に死んでしまったのだった。
バカはヒバナを死なせるわけにはいかないので、やっぱり今回は、首輪はそのままにしておくことにした。皆が注射する羽目になるので、それは本当に申し訳ないが……。
「そうだな。基本戦略としては、僕達はできるだけ固まっていた方がいいように思う。その……ミナさんの素性はまだよく分からないが、土屋さんが信頼のおける人だということはもう分かっていることだし……」
バカが『注射痛いよなあ……やっぱやだよなあ……』と良心の呵責に苛まれている横で、海斗がさっさと話を進め始めている。
「あ、あの、私も……できれば、皆さんと一緒に居たい、です。その、少しでも知っている人と一緒の方が、安心できるので……」
そしてミナも、海斗の案に賛成のようだ。海斗はほっとしたような顔をしていた。
「では、できる限り我々は4人……私と海斗君とミナさんと樺島君、という4人組で行動するか」
ということで土屋がそう提案したが……バカはここで、はた、と気づいた!
……あれっ、でもそうすると、2人のチームができちゃうのでは?と。
そう!
バカの知る限り、参加者は9名!すっかり木星さんの存在を忘れているバカは、『俺達4人になっちゃうと、残りが5人!5人だと2人と3人になっちゃうぞ!』と気づく。
だが、それはそれでいいのかもしれない。
少なくとも、ヒバナとビーナスはカップルだし、陽とたまもカップルだし……彼らは2人組の方がいいかもしれない。
……ということで、バカは『よし!じゃあそういうことで!』と海斗に賛同して、元気にるんるんと、4人で大広間へ向かうのだった!
大広間に到着すると、そこには陽とたまが居た。
「あっ!もう来てた!」
「そちらは……?」
バカが『おーい!』と元気に手を振る一方、陽とたまは少しばかり、警戒を強める。……何せこちらは4人組だ。数では2倍だ。
「ああ、私達は……その……うーん?何と説明したらいいんだろうなあ……」
「誘拐された3人と誘拐および器物破損の犯人である樺島剛だ」
「あ、あの、それだと樺島さんが悪い人みたいになってしまいます……」
……そして陽とたまは、ますます困惑した!
そう!この4人組、説明するのがとても難しいのである!
「成程ね。つまり、樺島君がドアをタックルで開けた先に居た人達を集めた、っていうことなんだ」
「うん!」
そうして説明が終わった。説明は海斗がしてくれた。バカは『やっぱり海斗は頭がいい!頼りになる!すごい!』とにこにこだったので、海斗はなんともやりづらそうにしていた。
「そ、そうか……。ドアをタックルで破って……え、あれ、タックルで破れたのか……」
「いや、こいつのタックルがあまりにも規格外なだけなように思う。真似はしない方がいい」
陽が『俺もタックルを試すべきだったかな』と考え始めたところで海斗がそっと止めに入って……そして、たまは。
「……意図してメンバーを選んだの?」
「へ?」
たまは、バカに対して、鋭い視線を向けていた。
「私じゃなくて、そっちの彼でもなくて……そこに居る3人を選んで、助けた。そういうことでいい?」
「え?うん……?」
たまの質問の意図がよく分からず、バカは首を傾げる。
「ねえ。もしかして『2回目』?」
「いや、こいつは多分、何も考えずに僕の部屋に入ってきたぞ」
バカが困っていると、海斗が『やれやれ』と助け船を出してくれた。
「僕の部屋はこいつの部屋の隣だったらしい。『金庫を開けてくれ』と助けを求めて……その、ドアを破って突入してきた」
「えっ」
たまも陽も、海斗の説明を聞いて『意味が分からない』というような顔をした。まあ、普通、ドアは破られないし、金庫が開かないからといって隣室に助けは求めない。
「……そこで金庫を開けてやった縁で、僕と樺島は組むことにした。そして、さて、仲間がもうあと1人か2人欲しいか、という話をして……数えてみたら、廊下のドアの数は全部で10あった。だから、僕達を含めて4人のチームにしたかった」
海斗がそう言うと、たまも陽も真剣にそれを聞く。……頭のいい人同士の会話なので、バカには意味が分からない!
「数が多い方が使える『異能』の数が増えることになる。そして……もしチームを分けることになったとしても、10人を3チームに分けるなら、4人3人3人で分けることができるから、まあ、4人が妥当だろう、と考えたわけだ」
「そっか。3チーム、っていう根拠は?」
「特に無い。強いて言うなら、『10人なら2人ずつの5チームに分けるか、大雑把に3か2チームに分けることになるだろう』と予想しただけだ。そして、2人1組を5つ作るパターンでも、4人なら対応できる」
海斗はぺらぺらと、上手に嘘を吐く。……否、もしかしたら海斗は本当にそう思っていたのかもしれないが。
「そして……真っ先に仲間にしたかったのが、『水星』だ」
「わ、私ですか?」
「ああ。水星のマークはカドゥケスの杖だ。後は分かるな?」
ミナもたまも陽も頷いているが、バカには分からない。ついでに、土屋も『難しい話になってきたなあ……』と苦笑している。バカは土屋に親近感を抱いた!
「……つまり、異能が惑星記号に基づいて決まっている、という風に推理して、『医療関係の異能を持っていそうな人を選んで仲間にしに行った』っていうことかな」
「ああ、そうだ。理解が早くて助かるよ」
……バカは知らなかったが、どうやら、水星のマークはお医者さんマークらしい。バカ、覚えた!
「そしてもう1人は……『敵に回したくない』相手を仲間にすることにした」
「その結果が土星?……そっか。私なら火星にしたと思うけれど。或いは、惑星記号から異能の内容が想像できないような……金星、とか、地球、とか?」
「まあそれも考えたがな。このバカが居る以上、火力はもう要らないと思った」
バカは『俺、呼ばれた!?』と元気に振り向いたが、たまと陽はバカをちら、と見て、『ああ、そういう異能の人ね……』という顔をしただけであった。バカ、しょんぼり!
「どのみち、水星の異能が回復の異能である可能性は高いと踏んでいたから、彼女のことは味方につけておきたかった。そして死神の鎌を持つ土星については、まあ、リスクを考えれば妥当だろう?」
「成程ね」
たまは頷いて……それから、じと、とした目を海斗に向けた。
「……だから、『2回目』じゃない、っていうこと?」
「そもそもその『2回目』の意味が僕らには分からない。生憎だがな」
どうやら、今回もバカの異能についてはナイショ、ということらしい。土屋の警察手帳のことといい、バカの異能といい、ナイショにすることがいっぱいで、バカは大変である。
結局、たまと陽は納得してくれたのか、してくれなかったのか。何はともあれ、一応はそっとしておいてくれることになったようである。
たまと陽は2人で何か話していたので気になったが、海斗に『あの2人との連携は諦めろ』と言われてしまったのでしょんぼりしつつも諦めた。
バカはたまのことも陽のことも好きだが……もしかすると、1回の周の中で全員と仲良くいるのは、難しいのかもしれない。
それからもう少し待つと、ビーナスとヒバナがそれぞれ別々にやってきた。
……今回はバカが事前に接触している訳でもないので、険悪な仲であるように偽っていくつもりらしい。バカは『本当はお互いの為に死んじゃうぐらいに仲良しなのになあ』と、複雑な気持ちになった。
ヒバナとビーナスに『なんでその人の首輪だけなんか違うの?』という質問をされたバカが『引き千切った!』と元気に説明している間に、天城もやってくる。
……だが、やっぱり今回も、木星さんは来ないのだった。
それから悪魔のアナウンスが始まった。まあ、今までと同じ内容なのでバカは半分聞き流した。一生懸命に長い話を聞いていたら疲れてしまう!
ということで、アナウンス中は元気に準備体操をしていたバカであったが……さて。
『では、ゲームスタートだ。参加者諸君、うまくやりたまえ』
アナウンスがふつり、と切れたところで、バカは元気に挙手した。
「じゃあチーム分けしようぜ!俺、海斗とミナと土屋のおっさんの内の誰かと一緒がいい!」
そして早速、自分の要望を伝えておくことにしたのであった!




