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2日目夜:大広間*2

「……願いを叶える、か」

 陽が表情を曇らせる。

「そう、だね。……先に決めておけるなら、決めておいた方がいいかも」

 たまの表情からは、上手く感情が読み取れない。何か、考えていることがあるのだろうが……。


「ああ、そういうことなら私は辞退しよう」

 そして、そこで土屋がさらりと発言したことによって、場が一気にざわめいたのであった!




「じ、辞退だァ!?何考えてやがる」

「何を考えている、と言われてもな。元々、私は悪魔に望みを叶えさせる気なんて無かったのでなあ」

 慌てたように食って掛かるヒバナに、土屋はちょっと困った笑みを浮かべる。……そして、ふう、と息を吐くと、何やら少し悩みながら、説明を続けてくれた。

「まあ……私の目的は、この『悪魔のデスゲーム』の調査だったんだよ」


「調査?」

「ああ。そもそも、本当に『悪魔のデスゲーム』なんていうものが存在しているかすら、定かではなかったからね。まあ実際にこうして存在していたわけだったんだが……まさか、本当にあるとはなあ」

 土屋はそう言って遠い目をしている。バカは、『なんかよく分かんねえけど大変だなあ』と頷いた。

「まあ、そういう訳だ。私の願いは既に叶っている。この『悪魔のデスゲーム』に参加している時点で、実態の調査ができているからな。まあ、強いて言うならば、悪魔とやらを一発ぶん殴ってやりたい気持ちはあるが……それは高望みかな」

「成程な。ふん、そういうことならまあいい」

 土屋の説明に、天城は納得したらしい。鼻を鳴らして、それきり土屋からは興味を失ったような顔をした。




「……僕も、願いを諦めてもいい。まあ、辞退、ということになる」

 そして、海斗も土屋に続いて手を挙げた。

 いいのか?と、バカは海斗の方を見る。

 海斗は……海斗は、確か、小説の賞が欲しいのだ。

 バカにはよく分からないが、海斗は色々と辛くて、追い詰められていて……そんな海斗を救ってくれるものが、多分、小説の賞、なのだと思う。

 なのに海斗は、それを諦めてもいいのだろうか。ましてや、『今回の』海斗が。バカは心配になる。

 だが。

「ただし、条件付きだ。……僕の命の保証だ。それを飲むなら、僕は願いを叶える権利を放棄する。ついでに同じ条件で、樺島も放棄するだろう」

 海斗はそう言って、ちら、とバカを見ていた。

「えっ!?俺も!?」

 なのでバカはびっくりした!いつの間にか自分の話になっている!

「……お前、叶えたい願い、あるのか?」

「うん!俺、ここ出て海斗にポケモン貸すし、海斗の小説読ませてもらうし、あと、メロンパン一緒に食べる!折角友達できたんだもん!叶えてえよお!」

 バカは叶えたい願いを連ねて慌てる。バカには叶えたい願いがあるのだ!放棄させられては困る!

 ……バカがわたわたしていると、皆は何故だかやんわりとした微笑みを浮かべていた。

「……懐かれたなあ、海斗君」

「ああ……一体何なんだこいつは、全く……」

 そして、土屋ににこにこと笑いかけられた海斗は、耳の端を赤くしながらそっと、皆の輪から外れていった。『願いを叶える権利の放棄』ということだろう。

「いいか?樺島。それは悪魔の力を頼らなくても叶えられる願いだろうが」

「え?……あ、そっかあ!」

「そうだ。そのくらい僕が付き合ってやってもいいから、お前も願いを叶える権利は放棄しろ」

「うん!そうする!」

 そしてバカも海斗に続いて、願いを叶える権利は放棄することにした。

 バカの願いは、自分で叶えるものだ。悪魔の手は、確かに借りる必要が無かった!

「……へへ、海斗!ここ出たらポケモンやろうな!」

「ああ……なんだかよく分からないが、そういう約束をしたというのなら、まあ、付き合ってやってもいいよ。お前を見ていたら、そんな気分になってきたから」

 バカはにこにこ上機嫌である!そして海斗も、そんなに嫌そうな顔はしていないのであった。




「さーて……陽とたまと天城の爺さん、ついでにミナも、願いを叶える権利は欲しい、ってことか?」

「いや……私は降りるぞ」

 そうしてヒバナが残った6人を見回したところ、天城があっさりと引き下がった。

「……ほーう?爺さん、いいのか?わざわざこのゲームに参加したんだ。何かあんたにもあるんだろ?」

 ヒバナが少々訝しみながら天城を見れば、天城は、ふ、と息を吐いて笑った。

「ふん。私も土屋と同じようなものだ。このゲームに参加することが目的のようなものだったのでな。まあ、気にしなくていい」

 天城の言葉を聞いて、バカは頭の上に?マークをいっぱい浮かべた。……天城のことは、未だによく分からない。まあ、生き残ってくれたのが今回初めてなので、当然と言えば当然なのだが……。


「ま、いいぜ。降りてくれるってんならありがてえ。……で?陽とたまとミナは?」

 残り5人、というところでヒバナがそう問えば……。

「うーん……俺はまだ、降りるわけにはいかないかな」

 陽は、難しい顔でそう言った。

「殺し合いは、したくないけれどね。けれど、退くわけにはいかない」

「……そうかよ。じゃ、たまはどうだ?」

 ヒバナは一つ舌打ちして、続いてたまの方を見た。

「私も同じ。殺し合いを望むわけではないけれど、願いは絶対に叶えなきゃいけないから」

 たまも、何か願いがあるらしい。それも、強い意思によって決められた願いが。


「……じゃ、ミナはどうだ」

「私、は……」

 そうして最後に、ミナへ視線が向く。

「……人を殺してまで叶える願いでは、ない、のかもしれません。きっと、先輩はそれを、望まないから……」

 ミナは迷うように視線を揺らして、俯きがちにそう言った。

 だが。

「でも……やっぱり私、許せないんです。もう一回、会いたい人が……救いたい人が、居るんです」

 その声は震えながらも、しっかりと、ミナの心を伝えてくれた。

「私の願いは、理不尽な事故を……蛇原会の抗争に巻き込まれて死んだ先輩の死を、無かったことにすることです!」

 ミナの手が、ぎゅ、と握られる。固い決意が、彼女の目を、まっすぐ前に向けさせた。

「絶対に退けません。……私も、先輩のご家族も、ご友人も、先輩自身も……全員の願いを背負って、私、ここに居るんです。絶対に、退きません」




 ……そうして、皆が黙ったまま時が過ぎていった。

 それはそうだ。自分の願いを諦めるか、他の人の願いを諦めさせるか。どちらにせよ、言葉を発するのは躊躇われるだろう。

 特に、ヒバナとビーナスは……ミナの言葉に、何を思っただろうか。バカは、ひやひやしながらヒバナとビーナスを見る。

 ……果たして、2人とも、表情を変えずにただ、そこに居た。

 そう。表情をまるで変えず、『ああ、成程な』という程度の、そのくらいの、ごく軽い調子で2人は視線を合わせて……。

 そして。

「提案がある」

 ヒバナが声を発していた。

「俺は降りる。だから、ビーナスの願いを叶えさせろ」




「……その提案に乗ることはできないよ。それなら、俺も降りる。そして、たまの願いを叶えてもらいたい」

 当たり前だ、とばかりに陽が進み出る。たまは『えっ?』と驚いたような顔をしていたが、陽はそれでもいいらしい。

 が、ヒバナはそんな陽を笑った。

「俺はただ降りようってんじゃねえんだ。『願いの1つの枠』には手ェ出さねえ。そっちは適当に陽とたまとミナとで仲良く喧嘩でもしてくれや」

 ヒバナがそう言えば、一瞬、全員『何のことか』と逡巡した。

「……まさか」

 一拍遅れて、たまと陽が、そして土屋が反応する。

 だが、それよりもヒバナの行動が、早かった。

「俺は『枠』を増やすっつってんだよ」


 ぼう、とヒバナの両手から炎が溢れる。

 それを見て、土屋が前に出て盾を生み出した。光り輝きながら生まれた盾は、その背後に庇ったミナやたまや陽、天城達を守るが……その必要は、無かったのだろう。

 ヒバナの右手の中で、炎は短刀の形になった。そして左手には、日本刀のような形の剣が生まれたが、ヒバナはそれらを振り回すことはしなかった。

「おい、バカ」

「うん……?」

 そしてヒバナは、左手の日本刀をバカに差し出してきた。バカは思わずそれを受け取る。炎でできている割に、それは熱くなく、ただ、ほんわりと温いばかりであった。

 そして。


「介錯、頼むわ」

 ヒバナはそう言うと、右手の短刀を勢い良く、自分の腹部に向かって突き立てたのであった。




「やったことの……ケジメくらい、つけねえと、な……」

 ……確かにヒバナは言った。

『人は殺さねえ』と。

 だが……きっとその時からヒバナは、覚悟を決めていたのだ。

『他の誰かを殺すのではなく、自分が死ぬ』と。


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― 新着の感想 ―
自分が悪魔ならミナの先輩は抗争の当事者の一員だったとする、そういう人間をゲームメンバーに選ぶ
[一言] ヤクザっぽい
[一言] 大丈夫かヒバナ! バカに介錯なんて言葉を使って理解できるのか!
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