1日目夜:大広間*2
「私が?え?」
海斗の言葉を聞いて、ビーナスが『どういうこと?』とばかりに海斗と……何より、ヒバナを見る。
すると、ヒバナが一歩、のっそりと進み出た。
「ああ、そうだ。俺が頼んだ」
そして、ビーナスが『いいの?』というような顔をするのを見て1つ頷くと、ヒバナは堂々と、宣言したのである。
「ビーナスは、俺の恩人なんだ。俺はどうしても、ビーナスには安全に生き残ってもらいてえ。……で、俺達を同じチームにしてくれ、っつうことを、バカと海斗に頼んだ」
ヒバナがそう言うと、ビーナスはじっとバカを見て、それから、ちら、とヒバナを見て少しだけ不安そうな顔をした。その表情はまたすぐ、『何とも思っていないけれど』というようなものへ戻っていたが。
「ふむ……そういうことか。ならば、1つ聞くが……どうして、最初からそう申し出なかったのかな?」
土屋は疑うように、ビーナスとヒバナを順番に見る。すると、ヒバナがなんとも嫌そうな顔をした。
「……俺みてえなチンピラとかかわりがあるって知られたら、ビーナスに迷惑かかんだろ、って思ったんだよ」
「私は気にしない、って言ったんだけどね」
一方のビーナスはあっけらかん、としている。そんな2人の様子を見て、土屋は『成程なあ……』と何かに納得したように頷いた。
「まあ、ヒバナとビーナスが2人組になっていたら、いよいよチーム分けが面倒なことになっていただろうな。少なくとも、土屋さんがミナさんと組むことは無かっただろう」
「ふむ……まあ、そう、だが……」
土屋は少し考え、それから、バカの方を見た。
「だが、いいのか。そうなると、海斗君と樺島君はチームがバラバラになってしまうが」
「うん。その方がいいって、ちゃんと話して決めた!その方が、皆が無事にいられそうだ、って!」
バカは、海斗と別れてしまうのは寂しい。だが、そうすることで……全員生き残れる道が見えるのならば、そうしたい。
無論、既に木星さんが死んでしまっている可能性が高い今、『全員で生き残る』が既に達成できない状態にあるのかもしれないが……。
「僕も樺島も、協議の上で納得済みだ。後は、土屋さんとミナさんさえよければ、ということになる。……が、僕も無理強いはしたくない。どうだろう、2人の意見を聞かせてほしい」
海斗が至って冷静に、そう土屋とミナに呼び掛ける。……すると、ミナは、こく、と頷いた。
「はい。そういうことでしたら。……その、海斗さんは、信頼できる方だと思ったので」
ミナが少し笑ってそう言うのを聞いて、海斗は少しばかり驚いたような顔をしていた。すると、ミナはくすり、と笑って、手の中の人形を見せる。
「……このお人形、首を引き千切ったら、私の首が千切れるんじゃないかと思うんです」
ミナの言葉に、海斗も、他の皆も緊張する。『人形の首と共に人間の首が千切れる』という場面を実際に目撃したことのあるバカとしては、より一層緊張してしまう。
だが、ミナの表情は穏やかだった。
「海斗さんも、このお人形を見た時、そう思いませんでしたか?」
「……思わなかった、と言ったら嘘になるだろうな」
「そうですよね。だから海斗さんは、ちゃんとハンカチに包んで、大事に持ってきてくれたんですよね」
にこ、と笑って、ミナは海斗に手を差し出した。
「だから私、海斗さんを信じられます。私は海斗さんと同じチームでも大丈夫です」
海斗は少し戸惑いつつも、差し出された手を握った。
「ああ。是非、よろしく頼む」
ぎゅ、と2人が握手するのを見て、バカは『話がまとまった!』と喜んだ。
それと同時に……信頼し合う人達を見るのは気分がいいなあ、と、また喜ぶ。
バカは、人の幸せを喜ぶタイプの善良なバカである。信頼も、思いやりも、美しく尊いものだと思う。
特に、生死がかかった場所で生まれるそれらは、見るだけで嬉しくなる。これだから、バカは人間が好きなのだ!
「ということで、あの、土屋さん……いい、でしょうか?」
さて。ミナはOKを出してくれたが、土屋はどうか。
皆が土屋を見ていると……ふと、土屋は海斗ではなく、バカの方を見てきた。
「……樺島君。君の願いは、何かな?」
「俺?俺の願い?」
「ああ、そうだ」
唐突な問いにバカはきょとんとするが、この問いにはすぐ、答えられる。
「俺は、全員で生き残ることが願いだ!それで、ここを出たら海斗にポケモン貸して、海斗に小説書いてもらって読むんだ!あと、ヒバナをうちの会社に就職させる!」
「待て!最後の何だァ!?」
ヒバナが全力で振り返って叫んだが、バカはにこにこしているばかりである。『そうすりゃ危ないことも無いって!うちの会社、安全だし!ふくりこーせいちゃんとしてるし!』とにこにこ顔だ。
……そして、会社名は伏せておいた。どうやらヒバナは、『キューティーラブリーエンジェル建設』という名前が気に食わないらしいので……。
「……成程な。君は中々、善良な人らしい」
「うん!親方にも『お前は善良なバカだな』って褒められる!」
「そ、そうか……うん、まあ、うん……」
土屋は満面の笑みのバカに何とも言えない笑みを返し……それから、ふ、と気の抜けた笑みを漏らした。
「うん。ならば、私も賛成しよう。樺島君と海斗君の提案に乗る」
「では、よろしく。生憎僕は、然程強力な異能ではないから……あまり期待しないでくれ」
「そうかぁ。まあ、私は謎解きの類があまり得意ではないから……そちらを君に任せよう。逆に、体力にはそれなりに自信がある。そちらは任せてもらいたい」
土屋と海斗も握手を交わしたところで、さて。
「では、次のチーム編成は『土屋、ミナ、海斗』『樺島、ヒバナ、ビーナス』、『陽、たま、天城』の3チームとなる。いいかな?」
土屋がそう確認すれば、誰からも反論は出なかった。
……一応、バカは、ちらっ、と天城の方を見てみた。何しろ、天城は今まで、しょっちゅう死んでいたので、心配なのだ。
だが、天城は案外穏やかな顔で、たまと陽の横に並んでいる。
バカは、『もしかして天城のじいさん、たまと陽と気が合うのかなあ』と思った。
案外、気の合う仲間と一緒なら、気難しい人でも楽しくやれることがある。バカの職場にも、そういう手合いは居るのだ。
だから、気難しく見える天城も、案外そういうタイプなのかもしれない。『もしかしたら、あの3人、ゲームの部屋では冗談とか言って笑い合ってたりして……』なんて考えて、バカはちょっぴりむふむふ笑った。
「よーし!じゃあ行くぞー!」
「ああ。そちらも気を付けて」
「では、私達はこのドアに進もう。そちら2チームも、気を付けて」
……そうして、3チームはそれぞれにゲームの部屋へ入っていくことになった。
バカは他の6人……特に、海斗に手を強く振って、ドアの1つを潜っていく。
……そして。
「……わあ」
バカとヒバナとビーナスが入った部屋は……バカの、見覚えのある部屋だ。
今のところ、バカが一番、怖い部屋だ。
……部屋の中には円状に椅子が10並び、そこにヤギのぬいぐるみが座っている。
そして、それぞれの椅子の横には、銃が設置されていた。
そう。土屋が殺され、その後、ミナとビーナスもが死ぬ原因となった、あの部屋である。
「ここ……」
「あら、銃ね」
少し怖がるバカには気づかず、ビーナスはつかつかと進んでいって、椅子の横の上の銃を1つ、手に取ろうとした。
……が、どうやら銃は外れないらしい。固定されているようだ。ビーナスは『あら残念』なんて言いながら、銃を観察し始める。
「えーと、銃弾は……6発ね」
「引き金んとこも固定されてやがる。どうなってんだ、こりゃ」
ヒバナも、慣れた様子で銃を見ている。……やっぱり、ヒバナもビーナスも、銃に慣れているらしい!すごい!
ということで、バカもおっかなびっくり、銃を見てみる。
……銃は、バカが思っていたよりずっと小さかった。女性の手でも十分に持ててしまうような、そんな大きさだ。
だが、こんな小さいものが、軽々と人の命を奪ってしまえる。それもまた、バカにはよく分かっているのだ。
「銃、怖いよぉ……なあなあ、この銃、ねじっとくか?弾出ないようにしとくか?」
「こ、こら!そういうことしないで!このゲームに必要なものでしょ!?」
バカは銃が怖いので、銃身を『きゅ……』と片結びにでもしてしまいたいのだが、ビーナスに慌てて止められてしまった。
「うーん……色々とヒバナから聞きたいことあるから、バカ君はちょっとルール読んどいて」
「ええええ!?」
更に、ビーナスはヒバナを連れて部屋の隅へ行ってしまった。バカは、おろ、おろ、としながらルールが書かれているらしいカードを受け取ってしまって……明らかに『安全第一』よりも文字数の多いそれを前に、気合を入れるのだった。
バカは頑張って文字を読むのだ!




