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1日目昼:双子の乙女*1

「……ということで、ルールの説明は以上。理解できた?」

「ああ勿論だとも!」

「本当に、大丈夫?」

「御託はいいからさっさと始めようぜぇ?へっへっへ……」

 ……ルール説明を受け、そして、海斗はにやりと笑い、ヒバナは声を上げて笑い、そしてバカは満面のにこにこ顔である。

 それを見た双子の乙女は顔を見合わせると、『なんか不安……』『嫌な予感……』と呟き合った。

 だが、もう遅いのである。運命は、バカがこの部屋に入ることを決めた時点で、決まってしまったのだ。




「さあ、檻の中へ入りなさい。あなた達が全員檻の中に入ったら、正面の籠の中に出口の鍵が生まれる。……ちゃんと入ってね?」

「12回までの質問で答えを出せたら、その時は特別なご褒美をあげる。から……ええと、頑張って」

 双子の乙女が、おずおず、と引き攣った笑みを浮かべる。なんとも心配そうな笑みである。強がりが透けて見えるようである。

「よし、入るか」

「さっさと入ろうぜぇ」

「入ろー!入ろー!」

 そして、3人は双子の乙女とは対照的に、輝く眩い笑顔で元気に檻の中へと入っていった。バカなどは、もうるんるんとスキップしながらのセルフ投獄である。この異様な光景を見て、双子の乙女はまたしても『不安……』と囁き合う。

「……では、始めます」

「私達が想像しているものは、『食べ物』よ。では質問をどうぞ」

 そうしてゲームが始まる。……だが、もう、最初の一手は、決まっている!

「よし、樺島!いけ!」

「おう!よっこらしょ」

「え」

「え」

 ……バカは、にょっ、と檻から出た。

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

「この鍵は、ゲームに参加せずに手に入るものでは……」

 そして、慌てて鍵を手にした双子の乙女の間に、バカは進んでいき……。

「ちょっとごめんな!」

 ガバッ、と。

 ……右の腕と左の腕、両腕を上手に使って、双子の乙女2人の首を一気に胸に抱き込むようにして……そのまま、絞め上げたのである!




 バカの逞しい上腕二頭筋、撓側手根屈筋、そして大胸筋による筋肉トライアングルが生まれる。

 筋肉トライアングルによってガッチリとホールドされた双子の乙女の首は、もう、抜け出せない。

 そう。それはさながら、バミューダトライアングルに捕らわれた船舶のよう。魔の三角形……筋肉トライアングルは、バミューダなんか目ではない程のホールド力で、双子の乙女を沈めにかかっていた。

「えっ……!?」

「なっ……!?」

 双子の乙女は、混乱する。

 当然だ。いきなり首を絞め上げられ、更に、筋肉トライアングルはピクリとも動かない。一気に恐怖が乙女達の脳髄を焼き、真っ当な思考は失われた。

「……よし。僕から質問だ」

 そうして混乱した双子の乙女に、無慈悲に海斗が迫る。

「命が惜しければ、正しい答えを出してくれるだろう。……答えは、『メロンパン』だ。そうだな?」




 双子の乙女の額を冷や汗が伝った。

 多少の時間をおいて冷静さを多少取り戻した双子の乙女であったが、筋肉トライアングルは相変わらずの強靭さ。全く動かせる気配が無く、更に、筋肉トライアングルの主であるバカの表情は、双子の乙女から見えない。

 一方、海斗とヒバナはじっと双子の乙女を見つめている。まるで慈悲の無い目で、見つめているのだ。

 そして、ぐ、ぐ、と、徐々に筋肉トライアングルが絞まっていく。

 双子の乙女は悪魔だ。人間よりよほど頑丈である。だが、だからと言って不死身ではなく、苦しみを感じずに済むわけでもない。

 ましてや、今、双子の乙女の首を絞めあげていくのは、筋肉。

 双子の乙女に感じられるものは、体温。肌の感触。その下の硬すぎる筋肉。どくりどくりと脈打っているのは、バカの腕なのか、双子の悪魔の首筋なのか。

 それが原始の時代から存在し続けている武器であるからこそ、本能からの恐怖がじわりじわりと滲み出されていく。

 ……更に首が絞まっていく。双子の乙女には、『この筋肉はいずれ首を絞め切るであろう』と容易に想像ができたことだろう。

 首に伝わる筋肉の、無慈悲な強靭さを確かめて……双子の乙女は、いよいよ観念した。


「YES……」

「そうか。なら回答する。答えはメロンパンだ」

「正解……」

「よし。質問1回目にして正解だ。鍵と褒美を出せ」

 ……そうして、双子の乙女は無事、攻略されたのだった!




 双子の乙女は、『もう嫌……』『こんなのゲームじゃない……』とめそめそして、それにバカが『ごめんな!怖かったよな!ごめんな!』と謝り倒していた。

 バカは一応、善良なバカなので、悪魔とはいえ乙女の姿をした生き物が恐怖にめそめそしているのを見ると、どうにも申し訳なくなってしまうのである。だがその一方で、『相手は悪魔だぞ。人間を唆して魂を奪う奴に遠慮が要るか?』と海斗に唆されれば『そっか!』と首絞め役をやってしまう単純さでもあった。

「まあ、お手柄だったな、樺島」

「うん!?お手柄だった!?そっか!?」

「ああ。お前のおかげで安全にゲームをクリアすることができた」

 更に、海斗に褒められてバカはきゃいきゃいと喜ぶ。このバカは単純である。だからバカなのだ。


「ところで、なんでメロンパンなんだ?」

「……僕が好きだからだ。何だ、文句でもあるのか」

「ううん!無い!俺もメロンパン好き!おいしいよな、メロンパン!」

 海斗はメロンパンが好きらしい。バカはまた1つ、覚えた!




「で、この褒美とやらはどうすんだよ」

 それから、ヒバナがそう言ってその手の中のもの……ミナ人形を掲げて見せてきた。

「ふむ、人形、か。どうしたものかな……」

 海斗は、ちら、とバカの方を見た。海斗はこの人形がどういうものか、既にバカから話を聞いているのだ。

 ……だが、ヒバナはそんなことは知らないので。

「おっ。白」

 ぴら、と、人形のスカートを捲って、その中を覗き込み始めた。

「なっ……何してるんだ!?」

「あぁ?いいだろ別に」

「ヒバナ!駄目だぞ!お人形だったとしても、女の子のスカートの中覗いちゃ駄目なんだぞ!」

 これに海斗は慌て、バカは更に大慌てした。

 女の子のスカートは捲っちゃいけないのである!『捲るなら俺のスカートにしろ!』と、近所の小学生相手に腰に暖簾を巻きつけて仁王立ちしていた親方の姿が思い出される!親方は強くて優しくてカッコいいのだ!あとその事件以来、小学生に恐れられている!

「よくできた人形だよなあ。おっ、パンツ、外せるようになってんじゃねえのか、これ」

 なので。


「だから駄目だって言ってんだろ!めっ!」

 ごいん。

 ……ヒバナはしっかり、床に倒れた。




「……ミナさんの人形は僕が持っておくことにしよう。ヒバナよりは紳士的な自信があるからな……」

 ミナの人形は、海斗が所持することになった。海斗はハンカチを取り出すとミナ人形を包み、ちょっと気まずげに、そっと、シャツの胸ポケットにミナ人形をしまった。バカは『ちゃんとハンカチ持って歩いてるのかぁ。海斗偉いなあ』と感心した。バカのハンカチは概ね、ズボンのケツである。


「くそ……テメェ、たかが人形のパンツ取ろうとした程度で随分とやってくれるじゃねえか……」

 一方のヒバナは、ちゃんと手加減したバカの拳骨で沈んでいたが、やがてちゃんと起き上がって来た。おはよう!

「だってヒバナが駄目なことしてるから!めっ!」

「くそ……覚えてろよ」

「分かった!覚えとく!」

 ヒバナはバカに反抗する気は無くなったようであった。拳骨が効いたのか、あるいは気が抜けたのか。なにはともあれ、バカは『ヨシ!』と頷いた。


「まあいい。解毒装置とやらを使ってさっさと解毒しよう。時間に余裕はあるが……」

「……だな。色々と聞きてえこともあることだしよ」

 そうして、海斗とヒバナは、おっかなびっくり解毒装置に座って解毒処置を行った。

 やっぱり、首輪から注射針が刺さっているようで、海斗もヒバナも、『いてっ』というような顔をしていた。バカはそれを見て、『あああ、注射って痛いよなあ、怖いよなあ……』とおろおろした。代われるものなら代わってやりたいくらいだが、うっかりバカが代わってしまうと注射針が折れるので駄目である!




 さて。

 そうしてバカは、ガラクタ置き場から椅子をぽこぽこと発掘してきて、海斗とヒバナとバカが座れるようにして……。

「よーし……じゃ、そろそろ話してもらうぜ」

 ヒバナが早速、身を乗り出すようにして、バカと海斗とを睨んだ。

「てめえら、どうしてこの部屋に『双子の乙女』が居るって知ってたんだ?」




 そう。バカも海斗も、まだヒバナには、『時を駆けるバカが頑張っています』という話はしていない。

 だが、いい加減、ヒバナとしても不思議だろう。急に個室のドアを破って協力を持ち掛けてきたことも、今、バカと海斗が双子の乙女を見る前から双子の乙女の対策を考えられたことも。

 ……なので。

「答えは簡単だ」

 バカは海斗との事前の打ち合わせ通りしっかり黙っておいて、ただ海斗だけが、喋る。

「このバカは未来から来た。……殺されてしまったお前やビーナスを救うためにな」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「このバカは未来から来た。……殺されてしまったお前やビーナスを救うためにな」  おお、遂に海斗以外の人間に樺島君の秘密が明かされるのか。
[一言] 時を駆けるバカが頑張っています キャッチコピー
[一言] やっぱバカは強い
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