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0日目昼:押しかけ先の個室(壁に穴)

「……ってことだったんだよぉ」

「な、成程な……まあ、概ね、理解したが……」

 そうして。

 バカは海斗と大体前回同様の話をして、海斗に諸々を理解してもらうことができた。

 バカも2回目の説明なので少し慣れていたし、なにより、バカが金庫と格闘する時間も海斗の目の前でめそめそする時間も無かった分、前回よりスピーディーである。

「つまり、今回はヒバナとビーナスを味方につけて、2人の行動を知るための回、ということなんだな?」

「そうなのか!分かった!」

「今まで分かっていなかったのか……」

 海斗から話を聞いて、バカは『やっぱり海斗が居てくれてよかった!』とにこにこ顔である。海斗は頭の痛そうな顔をしているが。

「……まあ、そういうことなら仕方が無いが……うーん」

 海斗はバカの顔を見て、少々不思議そうに首を傾げた。

「……このデスゲームは、お前が主人公、ということか」




「……へ?」

「だって、そうだろう?お前は好きなだけやり直せるんだから」

「え?え?ど、どういうこと……?」

 バカは頭の上に?マークをいっぱい浮かべて、首を傾げる。

 確かにバカの職場の先輩の中には『自分の人生は自分のもの!自分の人生の主人公は自分!だから俺は魔法少女のコスプレする!』と元気にやっている先輩もいるので、バカにとってはバカが主人公、ということでいいのかもしれない。

 だがどうも、海斗の言っていることは、それとは違うような気がする。

「考えてみろ。つまりこのゲームは、最終的には『樺島剛が望んだ結末になる』ということだ。まあ、お前が諦めなければ、とか、お前が異能を使う前に死ななければ、とか、そういう条件はあるが……」

 海斗の言葉を聞いて、バカは意味が分からなかったが『そっか!俺が死なずに諦めなければいいんだな!』というところだけ理解した。

「他の参加者は、僕も含めて全員、『前回』とやらの記憶が無い。お前が時間を巻き戻せることも知らない。なら、どうやって対策する?『お前以外の人間が勝つ』方法が用意されているか?」

「え、え……?」

 海斗の言っていることが、バカにはよく分からない。このバカには、『自分より頭のいい他の人達』の視点が分からないのである!

「……ということで、まあ、このゲームの趣旨は見えてきたな」

 そんなバカを見て、海斗は深々とため息を吐き……言った。

「どうやら悪魔は、お前を見て楽しんでいるようだぞ」


「……そうなの!?」

「それ以外に考えられるか?」

 バカは愕然とした。何度も繰り返してきて、ようやく分かった新事実!

 それはどうも、『バカは見られているらしい』ということなのだ!

 ……ということで。

「どうしよう!俺、寝癖そのまんまで今日来た気がする!どうしよう!見られてるんならもうちょっとちゃんとしてくりゃよかった!」

 バカは慌てた。慌てて、わたわたと自分の頭を撫で回す。が、ぴょこん、と髪が跳ねているような感触がある。困った!これは間違いなく寝癖である!

 ……尚、バカは今慌てているが、バカが寝癖をちゃんと直して出勤することはほぼ無い。何故なら、安全第一ヘルメットを装備してしまうと、寝癖なんて誤差だからである。普段のものぐさがしっかり祟っている!

「き、気にするところはそこなのか……?」

「うん!?違うのか!?」

「いや、お前がいいならそれでいいんだが……お前は気にならないのか?悪魔の見世物にされている可能性が高い、ということについて何とも思わないのか?」

「ええー……ちょっとはずかしい……」

 もじもじ、としながらバカが言えば、海斗はいよいよ呆れ返ったような顔をする。

「……まあ、悪魔が見たいのはどうせ、『樺島剛が勝つまでの物語』ではなく、『樺島剛の心が折れるまでの物語』だろうがな。お前が大して気にしていないなら、まあ、それが一番いい気がするな……」

 海斗はちょっと遠い目をしてしまった。バカは首を傾げつつ、『まあ、海斗がそれが一番いいっていうなら気にしないでおこう!』と元気に決意したのだった。




「……では、そろそろ行くか。まだ時間に余裕はあるが、急ぐに越したことは無いだろうしな」

 それから、海斗はちらりと時計を見て、そう言った。

 ……のだが。

「あ、木星の人、どうしよ」

 バカはバカだが、ちゃんと覚えている。

 そう!前回新たに判明したこととして……『どうやら、もう1人参加者がいたっぽい!』ということがある。

 バカが一度も会ったことのない木星さんは、どんな人なんだろうか。バカは『部屋から出られなくて困ってるんだったら助けてやらなきゃ!』と、慌て始める。

 ……なので。

「……このまま壁ぶち破っていったらいいかあ」

「待て!やめろこのバカ!もし人を巻き込んだらどうする!?」

「あ、そっか……」

 バカは海斗に止められて、『そういえば海斗の部屋に壁ぶち破って来たのも危なかったよな……』と思い直した。次回はちゃんと、ドアから入ろう、とバカはちゃんと覚えた。無論、ドアは破る前提だが。




 ということでバカはドアを破った。

 当然である。海斗の部屋もバカの部屋も、ドアはまだ開いていないのだから。

 尚、バカがドアを破壊した時、海斗は『本当にこのパワーがあるんだな……』と遠い目をしていた。一応、これでバカのパワーについては信じてもらえたらしい。

「それで、木星の部屋、だったな?」

「おう!えーと、木星、木星……ってどんなのだ!?マーク見たことねえから分かんねえ!」

 が、バカは木星の部屋を探そうにも、木星のマークを見たことが無いので分からないのである!これは大変だ!

「まあ落ち着け。えーと、多分、この個室は太陽から順に、『水金地火木土天海冥』で並んでいるんだろう」

「何の暗号だ!?海斗、すげーな!」

「小学校か中学校で習わなかったのか?惑星の並び順だ。太陽から近い順に、『水金地火木土天海冥』なんだ」

 バカはバカなので、海斗の説明を聞いても『ほええー』と感嘆のため息を漏らすことしかできない。バカが得意だった教科は体育だけである。否、あと、国語も小学校の中学年ぐらいまでは得意だった。でかい声で音読するのが得意だったので。高学年からは逆にでかすぎて駄目だった。

「だから、僕の部屋が海王星なら、その隣が天王星、土星……ときて、その次が木星だ」

 海斗がちゃんと数えながらドアを見ていくと、やっぱり見覚えのないマークが書かれたドアがある。その隣の土星と、反対隣の火星は見覚えがあるので、やっぱりこれが木星なんだろう。

「じゃ、開けるぞ!」

「待て!タックルの構えを取るな!先に普通に開けろ!」

 早速タックルしかけたバカは海斗に止められて、『そういえばそうだった!』と、慌てて普通にドアを開けようとした。『お邪魔します!』という挨拶も忘れない。

 ……が、開かない。

 バカは、そっと海斗の様子を窺ってみた。……海斗は黙って、『やれ』と指示してきた。なのでバカはタックルしてドアを破った。


「あれ……?」

 そうして破ったドアの向こう、部屋の中には、誰も居なかった。


「誰も居ない、な……」

 海斗も一緒に部屋の中を見てみるが、誰も居ない。バカはちゃんと、クローゼットの中やベッドの下も覗き込んだのだが、誰も居ない。

「……え?どこ行っちまったんだろ」

「さあな……元々居ない、という説が出てきたが……だとしたら、何故木星の部屋を空白にしたんだろう」

 バカと海斗は釈然としないものを覚えながらも、そのまま木星の部屋を後にした。




「さて。じゃあそろそろ大広間とやらへ……」

「あ、その前に」

 バカは、木星の部屋の隣……火星の部屋の前に、立った。

「まだ出られてなかったらかわいそうだからさぁ」

 バカは元気に『お邪魔します!』と挨拶しながらドアノブを捻る。……が、開かない。

 バカは、『なら仕方ねえな!』と決意した。

 海斗は、頭を抱えた。


 そしてドアは、吹き飛んだ!




「ヒバナぁあああ!お邪魔しまぁあああす!」

「ぎゃああああああああああああ!?」

 礼儀正しいバカと、驚き怯えるヒバナ。その両者を見て、海斗は只々、頭を抱えていたのであった!



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― 新着の感想 ―
木星にいない?ということは誰かが木星で他の人と入れ替わっている??誰だ、誰が木村なんだ!?
[気になる点] >「どうやら悪魔は、お前を見て楽しんでいるようだぞ」  ……ええー? ほんとにござるかぁ? (某有名ソシャゲにおける、史実の侍をモデルとしたキャラの口調で)  むしろ、悪魔は悔し泣き…
[気になる点] 先輩やべえ [一言] ヒバナどんどんかわいそうになっていく。
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