1日目昼:双子の乙女*3
……そうして、助かってしまった3人は、巻き添えになった2人……2体の悪魔に、近づいていく。
「……こいつら、悪魔なんだろ?大丈夫なのかよ、これ」
「わあああああああ!ごめんなああああああ!お姉ちゃん達、ほんとにごめんなあああああ!」
そう。双子の乙女は、バカに轢かれて跳ね飛ばされて、倒れたまま茫然としていた!
バカは『わああああああ!』と大慌てで双子の乙女に謝り、海斗とヒバナは『悪魔ってこういうかんじなんだ……ふーん』というような顔をしていた。
するとやがて、双子の乙女は起き上がり、『こんなのもう嫌!』『まるでゲームにならない!』と、しくしく泣きながら、すっ、と姿を消してしまったのだった!
「……成仏しちまったぁ」
「悪魔だぞ!?仏にはならないだろう!?」
バカはまた『ごめんなあ……』と涙目でしょんぼりしながら、なむ、と手を合わせるのだった。
そうして悪魔は消えた。バカ達は助かった。
のだが……。
「……おい、樺島。僕は……僕は、お前に言いたいことが山のようにあるぞ!?」
「ごめん!本当にごめん!」
これで終わり、とはいかない。何せ……バカは、色々としくじったので!
「まず!お前は好き勝手に動くな!」
「親方にもよく言われる!」
「考え無しに喋るな!」
「うん!ごめん!」
バカは海斗に謝り通しである。バカはバカの自覚があるバカなので、こういう時は『俺が悪い!』とちゃんと理解できるのだ。
「それから……自分のパワーを自覚しろ!」
「うん!……うん?」
だが、海斗は一通り、怒り終わったらしい。やれやれ、とため息を吐いて、じと、とバカを見つめる。
「実際に今、そうなっているが……筋肉で解決できるものは、筋肉で解決していい。だが、僕らは流石に、どこまでが筋肉で解決できるのか分からない。僕らに分からない以上は、お前が提案する必要がある」
海斗の話は、バカには難しい。以前、親方に『頭のいい奴はバカにも分かるように喋ってくれることもあるけどな、それでも分かんねえバカは存在する。お前だ!』と怒られたことがあるのを思い出した。
「……つまり、お前の筋肉で何とかできそうなら、お前がそれを提案しろ。いいな?」
だが、今度は分かった。
つまり……バカは、筋肉で解決しても、いいのだ!
「分かった!そうする!ありがとう!ありがとう!」
バカは何度もお礼を言って、海斗の手を握り、何度も上下に振った。勿論、海斗の手が砕けないように。あと、海斗の腕が千切れないように。
……親方は、こうも言っていた。『だから、お前にも分かるように説明してくれた方が居たら、そりゃあ頭がいい上に、親切な方だ。バカにも分かるように噛み砕く労力をかけてもらった分、しっかりお礼言って、しっかり働いて返すんだぞ!それができりゃあ、上出来よ!』とも。
なのでバカは、ますます海斗が好きになった。そして、『俺、一生懸命働いて返す!』とにこにこ宣言した。
海斗は、ぽかん、としていたが、やがて、『やれやれ』とわざとらしくため息を吐いたのだった。
「……それから、ヒバナ」
それから海斗は、ヒバナの方を向く。
その表情は、険しい。
「何故、あそこで回答した?」
「あァ?なんのことだよ、おい」
「あそこで回答するメリットが果たして本当にあったか、と聞いているんだ」
「へっ、知るかよ。俺は生憎、頭脳派じゃあないんでなあ!」
ヒバナはにやり、と笑いながら、海斗との距離を詰めた。
「それとも、なんだよ。なんか文句あンのか?ああ?」
ヒバナと海斗だと、海斗の方が背が低い。よって、海斗はヒバナに威圧されながら一歩、後退することになり……。
「あっ、駄目だぞ!喧嘩は駄目だ!」
……そこに、ヒバナより更にでかいバカが、にゅっ、と割り込んだ。
そしてそのまま、いつものバカ面でヒバナを見つめていると……。
「……てめーのツラ見てっと、気が抜けるわ」
ふい、とヒバナはそっぽを向いてしまった。
「えっ!?ありがとう!よく言われるんだ!へへへ……」
「褒めてねえよこのバカが!」
が、バカがにこにこと喜ぶと、くわっ、と牙を剥くようにしてこっちを向いてくれた。バカはまた喜んだ!
「ま、まあ、いい。これでお前がどういう心づもりだったか、分かったからな」
そしてバカの背後で、海斗がそう言った。
「ヒバナ。……お前、1人だけ助かる算段があったらしいな?」
……それを聞いたヒバナは、はっ、と鼻で笑って、海斗を見下ろした。
「となると、ヒバナ。お前の異能は、少なくともあの檻を破壊できるか……はたまた、毒蛇を全て殺すことができるような、そういう異能、ということだ」
「そうかもなあ。或いは……今、この場でテメエを殺せる異能かもしれないんだぜ?」
海斗とヒバナが睨み合う。バカには、言葉の意味は分からないものの、場の雰囲気は分かった。なので。
「ん!?喧嘩はダメだぞ!」
また、割り込んだ。『絶対に殺しなんて許さないぞ!』という姿勢である。すると、ヒバナも海斗も、毒気と勢いが抜けたような顔で、ちょっとずつ、離れた。バカは、『ヨシ!』とにこにこした。
「あー……そして、ヒバナ。お前は、僕と樺島を殺す気だった。そうだな?」
「はァ?よく言うぜ。そっちこそ、適当抜かして俺を殺す気だったんじゃねえだろうなあ?おい」
「俺はヒバナのことも殺さないぞ!絶対に守ってやるからな!」
バカはまた、割り込んだ。そして、ヒバナに『心配しなくてもいいんだからな!』とにこにこ笑いかける。
「……おい海斗。まずはこいつどうにかしようや。話が進まねえよ」
「断る。確かに話が進まないが、それでも今のところ、樺島が居ることのメリットの方が僕にとっては大きい」
海斗の何とも言えない顔と返事にヒバナは舌打ちすると、今度はバカを無視して話を進め始めた。
「……ま、いいさ。そっちはもう、俺のことは信用しない、ってか?上等だ。それでいい」
「俺は信じてるぞ!」
「お前は黙っていろ、樺島。……まあ、そういうことなら、僕もそれなりの対応を取る必要があるな。やれやれ……」
バカが『黙っていろ』の言いつけを律儀に守って口を両手で塞いでいると、海斗はバカの方を見て、ちょっと嫌そうに、だが、淀みなく話してくれた。
「おい、樺島。今はまだ、お前と手を組んでおいてやる」
バカは『えっ!?やったあ!』とにこにこした。『黙っていろ』の効果継続中なので、声は出さない。目は口ほどに物を言う、というが、バカの場合、目どころか顔面全体、そして体全体で喜びを表現しているので、べらべら喋っているのと大体同じである。
「……ヒバナは、僕達を殺そうとした。1人で居るのは、危険だ」
が、海斗がそう言ったので、バカは『ひぇっ!?』と跳び上がることになったのだった!
……それから、バカは海斗とヒバナの様子をちらちらと見ていた。
海斗は不安そうに緊張していたし、ヒバナは苦い顔でやはり不安そうにしている。
……海斗の話では、ヒバナは、バカと海斗を殺そうとしていた、らしい。バカからしてみると全く身に覚えが無いのだが、海斗が言うのだからそうなのだろう。多分。
つまり、ヒバナは今、バカと海斗を殺そうとして、なのに失敗してしまった、ということになる。のだが……。
「……なー、ヒバナぁ」
「……あァ?」
バカは気になって、ヒバナに声を掛ける。ヒバナは半ば反射でバカを睨み上げ、それから、『ああ、こいつは無視すべきだった』と思い出したらしく、目を逸らす。
「お前、そこまでして叶えたい願い事って、なんだよぉ」
だがバカはめげずにヒバナに話しかける。ヒバナはいよいよ無視を決め込んでいて、バカの方を見ることは無い。
……そして。
「お前、ビーナスの、しゃてー?ってやつなんだよな?じゃあビーナスに関係あることか?」
「……は?」
バカが遠慮なくそう言ったことによって、ヒバナは、いよいよバカの方を見ないわけには、いかなくなったのである。
「は……?おま、お前、なんで……?」
ヒバナは表情を引き攣らせながら、バカを見上げている。それを見てバカは『あっ!?そうか!俺、ほんとならこれ、知らないはずなんだ!なのに知ってるから、怖がらせてる!ごめん!』と気づいたが、もう遅い。
「……成程。ビーナスと仲が悪いように振る舞っていたのは、演技か」
海斗はそう言って、ヒバナに一歩、二歩、と近づいてきた。
「そして実際のところは、ビーナスを大切にしている、と。……そういうことだな?」
海斗がそう詰め寄ると……。
「……んだよ!そこまで割れてんなら、いよいよ生かしておけねえなァ!?」
ヒバナはそう激高して……なんと!その体から炎をぶわりと吹き上げ、その炎を兜や鎧、そして剣へと変えながら、海斗へと襲い掛かっていったのである!
「だァから!喧嘩はダメだって言ってんだろ!めっ!」
そしてその炎の騎士と化したヒバナを、バカのげんこつが襲った。
……ヒバナはその場に倒れた。




