1日目昼:双子の乙女*2
バカが最初に質問をして、数秒後。
「……この子、ルールを理解している?」
「私達、ものすごく心配」
「ああ、勿論……こちらもものすごく心配だ!」
双子の乙女は心配そうな顔で海斗とヒバナの方を見て、そして、海斗は頭を抱え、ヒバナは天を仰いでいた。バカは元気に『質問!』の挙手の姿勢のまま、首を傾げている!
「お、お前!一体何の目的で今の質問をした!?」
「えっ!?質問をどうぞって言われたからぁ!ほら、ねーちゃん達そっくりだから気になってぇ!」
「ゲームの趣旨を!理解しろ!」
そしてバカは海斗に怒られた。怒られたので、バカはしゅんとした。バカはバカなので、難しいゲームのルールは理解できないのである!
「まあ……質問は質問だから、答えましょう」
「答えは、NO。私達は悪魔。人間のように生まれてくるものではない」
返ってきた答えを聞いて、バカは、『ほわー』と驚きのため息を吐いた。
「そっか!ねーちゃん達、悪魔なのかあ!え、じゃあ、どっちが姉ちゃん?仕事でここに居るのか?じゃあ事務のおねーちゃんみたいなかんじか?」
そして懲りずに質問を重ねた。
「質問はYESかNOかでのみ答える。よって、YESとNOで答えられない質問には答えられない」
「この子、大丈夫?私達、ものすごく心配……」
「もう!お前は!黙ってろ!このバカ!」
そして双子の乙女には呆れられ、心配され、そして海斗には怒られた。
バカは『怒られちゃった……』としょんぼりしながら、しゅんとして檻の中で正座しておくことにした。やらかしちゃった時にはこれである。この姿勢のまま、バカは反省するのだ。
「……双子の乙女よ。今の質問は、回数に数えるだろうか……?」
そして海斗が、ちら、と双子の乙女を見ると、双子の乙女は顔を見合わせて……。
「……流石に、かわいそう」
「答えられなかった奴は、ノーカン、ノーカン」
「温情に感謝する!」
頷き合う双子の乙女を見て、海斗はガッツポーズをとった。ヒバナはもう、呆れ返って何も言わない。バカは只々正座してションボリしている!
……そうして。
「では……仕事でここに居るのか、については、NO。楽しくてここに居るだけ」
「それから、事務のおねーちゃんみたいなかんじか、については、NO。事務手続きの類とは異なる」
双子の乙女は律儀に答えて、それから、憐憫の目をバカに向けた。バカは正座中である。そっとしておいてほしい。
「では、これで質問は……ええと、3回消費した、か」
「ええ」
「残り17回。それで、もしあと9回以内で正解できたらご褒美。がんばってね」
いつの間にか、双子の乙女も海斗を応援していた。バカは『このおねーちゃん達、いい奴なんじゃないかなあ』とちょっと思った。
それからようやく、ちゃんとした質問が始まる。
「ええと……そうだな。その食べ物は甘いか?」
「YES」
「調理・加工されたものか?」
「YES」
「大きさは掌に収まるか?」
「YES」
「焼き菓子か?」
「NO」
……海斗は、至って真面目に、ゲームを攻略し始めた。バカは大人しく正座していた。
こういう時、バカには何もできない。バカはただ、『海斗すげえなあ……』と海斗を見つめるばかりである。
「焼き菓子ではないが、甘い食べ物、か……。えーと、それは白いか?」
「うーん、概ね、YES。白くないものもあるけれど」
ヒバナは海斗と双子の乙女のやり取りを聞きながら、『あれは違う、これはまだ可能性が……』とやっている。一応、ヒバナも頑張っているらしい。そんなヒバナを見ていたら、バカも頑張らなければならないような気がしてきた。
一生懸命、『甘くてそんなに大きくなくて、焼き菓子ではなくて、大体白い食べ物……』と考えるのだが、まあ、バカの頭には『そういえばミニストップのソフトクリーム食べたいなあ……』と浮かぶばかりである。
「うーん……それの温度は、常温以下であることが望ましいか?」
「NO」
「は?アイスクリームの類でも、牛乳プリンの類でもないのか……?」
……バカにはよく分からないが、とりあえず、ミニストップのソフトクリームが答えである、という線は消えたようである。困った。バカにはもう何も分からない!
「……一般的なコンビニで販売しているか?」
「うーん、YES……かな」
「私達、コンビニに行くこと、あまり無いから……スーパーなら売ってる、と思う」
双子の乙女はコンビニにあまり行かないらしい。……そもそも、悪魔の世界にもコンビニがあるのか。そしてスーパーもあるのか。バカはまた1つ、学んだ。
「……加熱の工程を経るか?」
「YES」
「カトラリーを使って食べるか?」
「NO」
海斗は答えを聞いて、益々混乱した様子だった。
バカも混乱している。というよりは、バカは元々、何も考えていない!
「どうする……これで、12回目の質問が終わった。答えを、出すか……?」
海斗が、ヒバナとバカに相談してきた。
ここで答えを出して正解できれば、『ご褒美』がもらえる。だが……バカは、このご褒美が何か知っているのだ。
ここでもらえるのは確か、ミナ人形である。そして、ミナがビーナス人形を引き千切った、あの時のことを思い出して……バカは、きゅ、と目を瞑った。あれは、怖かった。
「いや……ご褒美、要らないんじゃねえかなあ……」
なのでバカはそう、提案する。だが。
「だがよ。それがねえと、この後で苦戦するとかよ、そういう可能性もあるんだろうが」
ヒバナがそう言ったことによって、海斗も、ぐ、と詰まる。
……海斗には、ここでもらえるのがミナ人形であるということは、一応、伝わっているはずだ。だが、それでも海斗は迷っている。
ということは……海斗は、ミナを、殺す気なのだろうか。
バカが不安に揺れていると、海斗が考えて、考えて……答えを出した。
「……回答だ。『あんまん』。これでどうだ」
「残念ながら、不正解」
そして、双子の悪魔は、にや、と笑う。そして。
「うわっ」
ガシャン、と音がして、海斗が入っている鳥籠型の檻の扉が閉まった。
「くそ、開かないな……」
海斗は、がしゃ、がしゃ、と鉄格子を動かそうとしているのだが、檻が開く気配は全く無い。
「これで、回答権はあと4回」
「質問はあと8回」
双子の乙女はにっこりと笑って、鏡合わせのように左右対称に、小首を傾げてみせた。
「さあ、次の質問は?」
「……まだ回答権は4回あんだろ?で、俺とそこのバカが回答したら、海斗も回答できるようになるんだったよな?」
「そう。正しくルールを理解しているようで安心」
「俺は理解してないぞ!」
「不安……」
ヒバナは、ちら、とバカを見て、『不安……』というような顔をした。双子の乙女とヒバナ、そして檻に閉じ込められてしまった海斗からも『不安……』の目を向けられたので、バカはまた、しゅんとして正座しておくことにする。
「おい……今までの質問だとよ、『甘いが菓子じゃねえ』って食い物が見落とされてんぞ」
そして、ヒバナは見た目に似合わず、そんなことを言い出した!
「なっ……いや、しかし、そんなもの存在するか?」
「さくらでんぶとかか?あと、シイタケ煮た奴とかか?美味いよなあ!」
「どれも白くねえだろうが」
バカも頑張って考えるのだが、白くて甘くてお菓子じゃないもの、をすぐに考えつくことはできなかった。
「いや、それよりは、焼き菓子ではなく、冷菓でもない白い菓子を考えた方がいいだろうな」
「つってもよお……それこそ、あるか?」
「焼き菓子でなかったとしても、蒸す、揚げる……といった調理はできるが」
「揚げたら大抵茶色いんじゃねーのかよ、おい」
……海斗とヒバナが難しい話をしている。バカはただ、『白いお菓子……おまんじゅう……メレンゲ焼いたやつ……ホワイトチョコ……ココナッツまぶしたドーナッツ……』と想像して、にこにこし始めるだけである!
「……じゃ、俺から回答だ」
そして、ヒバナが渋面で答えた。
「答えは、ホワイトチョコレート。どうだ?」
「不正解」
「よってあなたの檻も閉じる」
……自信たっぷりだった割に、ヒバナも不正解であった。
「回答はあと3回。そして、質問はあと8回」
「このまま粘ってご褒美を狙ってもいいし、安全を取ってあと8回質問してもいい。どうする?」
双子の乙女達は、にやりとほくそえんで、檻の中の3人を見下ろしていたのだった。
「あー……くそ。おい、バカ」
「うん?」
すると、ヒバナが嫌そうに話しかけてきた。
「俺はもうちょっと考える。てめーはいつ回答したって同じだ。さっさと回答しろ。てめーが回答しねえと、海斗が回答できねえんだよ」
「えっ!?そうなのか!?」
バカが驚くと、双子の乙女はまた『心配……』と何とも言えない顔をした。
「じゃあ、答えるぞ?いいんだな?」
「おう、さっさとしろ」
ヒバナがまるで『どっかいけ』というように手をひらひらさせたのを見つつ、バカは、考えて、考えて……。
「えーと、お餅!」
「違います」
「違います」
答えて、すぐに不正解となった。
「えええええええ!?なんでええええええ!?お餅嫌いな奴なんているのかよぉおおお!」
「バカの割にはちゃんと考えたんだな……」
……海斗は何とも言えない顔をしていたが、実は、バカはバカなので色々と勘違いしていたのだ。
このゲームは……双子の乙女の好きな食べ物を当てるゲームではない!
「納得いかねえー!じゃあお餅じゃなくて大福!」
「違います」
「違います」
「ええええええ!?違うのぉおおお!?」
「おいこのバカ!回答権使いやがって何考えてんだ!ぶっ殺すぞ!?あァん!?」
そうしてバカは、回答権をうっかり2回分使った。バカなのである。バカは、バカなのである!バカはバカであるが故に、こういうおバカをやってしまうのである!
「……ヒバナ、どうする」
「どうする、っつってもよぉ……」
海斗とヒバナは、早速、バカの方をちら、と見て、なんとも嫌そうな顔をしている。海斗は『まさかここまで足を引っ張るとは……』というような顔なので、バカは大いに傷ついた。
が、バカが悪いことはバカにも分かっている。よって、バカはしゅんとして正座続行、なのだ。
だが……。
「……なー。答え、マシュマロ、かなあ……」
そっと、控えめに、バカはそう言った。
「……は?」
海斗とヒバナは、ぽかん、としていたが、バカはなんとなく、思い出してきた。
確か、『前回』にたまが双子の乙女から聞き出した答えがこれだった、ような気がする。
……それから、海斗は迷う素振りを見せていた。
『ご褒美』は気になるのだろうが、それ以上に命が惜しいと見える。
流石に、あと8回の質問を重ねれば、海斗なら正解に辿り着けるだろう。確実に命の保証を得るなら、当然、そうすべきなのだ。
だが……。
「成程な……なら回答だ!答えは『マシュマロ』!どうだ!」
海斗が何か言うより先に、ヒバナがそう、答えていた。
「なっ……ヒバナ!勝手に何を……!」
海斗が慌てる。だが、ヒバナは緊張しつつもにやりと笑って、じっと、双子の乙女を見つめて……。
「不正解」
「答えは、『金平糖』」
にたり、と笑う双子の乙女が、不正解を告げたのだった。
「マシュマロじゃねえのかよぉ!?なんでぇ!?」
バカは訳が分からない!だって、確かに前回、たまは『マシュマロ』と言っていたのだ!ミナと土屋とビーナスだって、そう、言っていたのに……。
「120秒後にその檻は毒蛇の中へ落ちる」
「じゃあ、残りの時間を楽しんで」
双子の乙女は、くすくすと笑いながら、ゆっくりと背を向けて、去っていく。
その背中を見送りながら、バカは、どうしよう、どうしよう、とひたすら考えていた。
バカのせいで、大変なことになってしまった。バカが余計なことをしなければよかったのに!
そうだ。バカがバカなことをしたせいで、こうなってしまったのだ。海斗の責めるような目を見て、バカはその重圧に耐えかねて……。
……せめて、自分にできることを!と、混乱気味の頭で、結論付けた。
「と、とりあえずぅわああああああ!」
「な、なんだぁああああ!?」
まず、バカは大慌てで自分の檻を破壊した。海斗が慄いていた。
「うわあああああああ!」
「ぎゃぁああああああ!?」
そして海斗の檻を破壊した。海斗は腰を抜かしていた。
「うわああああああ!」
「な、なんだテメエェええええええ!?」
続いてバカは大慌てでヒバナの檻も破壊した。ヒバナはさっきまで余裕をかましていたというのに、今はビビり散らしていた。
「わああー!わあああー!」
「せめて言葉を喋れ!」
「わわわわわわわわ!」
そしてバカは大混乱のまま、海斗とヒバナを小脇に抱えた。
「わああああああああ!」
バカは真っ直ぐに駆け抜ける。
海斗とヒバナを小脇に抱えたまま、駆けていく。
その速度は、檻が破壊されたあたりから唖然としていた双子の乙女が我に返る暇を与えなかったのである。
……それと同時に、バカが我に返る時間も、与えなかったのである!
「ああああああああああ!」
「きゃああああああああ!?」
「いやああああああああ!?」
……そうして、バカは、双子の乙女を轢いた。
車両ではなく、人体であるはずのバカは、それでも確かに、双子の乙女を……轢いていたのである!
そして、車およびバカは急には止まれない。
「ふんぬわあああ!」
「このバカ、本当にバカだぞ!」
……バカの頭突きは、ついでにドアをもこじ開けたのであった!
そうして、部屋に静寂が戻ってきた。
「はあ、はあ……皆、無事か!?」
「大分前から無事だよ!このバカが!」
小脇に抱えたヒバナから手刀を食らい、もう片側に抱えた海斗は半ば放心状態で、そんな中、バカは……『よかった!とりあえず海斗もヒバナも無事だ!よかった!』と涙するのであった!人の話は聞いていない!




