0日目夜:大広間*2
「え、え、どういうことだよぉ……」
おろ、おろ、とバカが困っていると、やれやれ、というような素振りをしながら、海斗がやはり、表情を曇らせながら教えてくれた。
「いいか?僕達はここに、9人居る」
「う、うん」
「首輪にはそれぞれ、天体記号が刻まれている」
「うん……」
海斗の説明に、バカは一生懸命頷く。とりあえずここまでは理解できてるぞ!という意思表示の為に。
「そして、陽が太陽、ミナさんが水星、ビーナスが金星、たまさんが地球、ヒバナが火星、そして『1つ飛んで』、土屋さんが土星、天城さんが天王星、僕が海王星で、樺島、お前が冥王星だ。……分かるか?」
バカは、何が『1つ飛んで』なのかよく分からなかった。残念ながらバカはバカなので、『水金地火木土天海冥』の並びなど知らない。
「これがもし、お前が居ないんだったら、分かる。『ああ、冥王星は惑星から外れたから採用されていないんだろうな』と納得できるだろう。或いは、陽が居ないんだったら、それはそれで納得がいく。『ああ、太陽は恒星だし、これは惑星に限るのか』と」
「うん……?」
バカには分かっていない。分かっていないのだが、とりあえず、海斗は話を進めることにしたらしい。
「だが、普通に考えれば、『途中にある』木星のマークが抜けている、ということはあり得ないだろう、と思われる」
海斗の話に、他の皆は頷いている。分かっていないのはバカだけであった。
「……樺島。『月火水木金土日』の並びは分かるな?」
「え、うん」
「それが、『月火水金土日』になっていたら、おかしいと思わないか?」
いよいよバカがバカであると理解してきたらしい海斗が、もっと簡単な説明を出してくれたらしい。だが、バカはバカであった。
「えっ!?休みの日が近くなる!うれしい!」
「おかしいのはお前だったな!」
「あっ!でも職場の皆に会う日が減っちまう!かなしい!……あっ、そしたら休みの日に皆で出掛ければいいのかぁ。えへへ……」
「幸せそうだな!くそ!」
バカがにこにこするのを見て、海斗は歯噛みしている。バカの幸せそうな様子がいっそう海斗を苛立たせているのだが、バカはバカなのでよく分かっていない。
「ならもうこの際、『月火水木金土日』でなかったとしてもいい。『123456789』の並びが、『12345789』になっていたら、ああ、6番が無いな、と思うだろう?」
「あっ、それなら分かる!」
そうしてようやく、海斗の説明が実を結んだ。バカにもそれなら分かる。
バカの職場でも、建材にちゃんと番号を振っておいたり、道具に番号を振っておいたりして、物品の管理をしているので、『おい!6番の発破ねえぞ!どこいった!』『ごめん!俺が食べちゃった!』『そっか!ならしょうがねえな!』というような会話は度々耳にしているのである。
「……ということで、誰か、地下のドアの数を覚えている人は?」
海斗がぐるり、と皆を見回せば、全員が困ったような顔をしたり、首を傾げたり、眉を寄せたりしつつも黙っている。
「まあ……確認している者は、居ない、か。だろうな。なら、せめて……そうだな、ヒバナと土屋さんは、何か、隣の部屋から物音の類は聞いていないか?」
続いて、海斗がヒバナと土屋に話を向けると、土屋は『すまない、何も……』と首を横に振った。
が、ヒバナは。
「いや、何も聞こえなかったぜ。だがよ、そうだな……実は、俺は個室を出てから、ちょこっとうろついたんだがよぉ」
「えっ」
バカは『知らなかったぞ!?』とヒバナの方を向く。意外とヒバナは慎重派らしい!
そして。
「……奥の方でドアが破壊されてんの見て、こりゃやべえって思って、急いで離れたんだわ」
「あ、ごめぇん、それ、俺ぇ……」
……ヒバナが個室の並びを確認していたかもしれない可能性を、バカ自身が潰していたらしい!
「……このバカはコイツ自身の部屋と僕の部屋、2枚のドアを破っているからな。そういうことだ」
「マジかよ、こいつ何なんだよ……」
「う、ううむ、これが異能、という奴なのか……」
そうして事情聴取の末に分かったことといったら、『このバカは鉄のドアをタックルでぶち破ったらしい』ということだけだった。
バカはしょんぼりした。というのもバカはここに来てようやく、『そういえばこれ、もしかして弁償……始末書……』と思い出してしまったからである!
「まあ……ここに辿り着けずに死んじゃった人が居たらしい、っていうことは分かったけれど……ということは、あのカンテラには次の夜の鐘と同時に、魂が1つ入る、ってことよね」
しょんぼりするバカはさておき、ビーナスはそう言った。
そう。カンテラだ。
……ここで、バカは思った。
『あれ?そういや、天城のじいさんが死んじゃって、その魂がカンテラに入ってたんだよな?ということは、前回と前々回は、木星の人、居なかった、ってことだよな……?』と。
どういうことだろう、とバカは訝しむ。
だが、バカがバカな頭で考えても、答えは出てこない。バカは考えるのをやめた。バカなので。
「さて……既に1人、脱落者が居るというのなら、尚更、班編成には慎重になりたいものだな」
バカが考えるのをやめて『ほげえ』という顔をしているところに、天城がそう、言葉を放った。
「この後、間違いなく1つの魂を巡って争いが起きるだろう。それに巻き込まれるのは御免だ」
ふん、と天城が鼻を鳴らすのを聞いて、バカは『そっかぁ、天城のじいさん、死にたくないって思ってるんだよなあ』と、なんだかじんわり苦しくなる。今までの2回、そのどちらでも、天城はすぐに死んでしまっていたので。
「ふむ……まあ、誰と組んだとしても同じと言えば同じだがね。私はこの中の、誰のことも知らない。特段、組みたい相手は居ないのだが……誰か、組みたい相手が居る人は?」
更に土屋が問えば……案の定、真っ先に手を挙げたのは、ビーナスである。
「できればヒバナじゃない人と組みたいわ。私、こういうガラの悪い男、嫌いなのよね」
「んだとぉ?」
……バカは、少々混乱する。前回、ビーナスはヒバナと知り合いだと言っていなかっただろうか。だというのに、どうして仲が悪そうに振る舞うのだろうか!バカは混乱するしかない!
「はっ!こっちだってよぉ、てめえみてえな女は願い下げだね!」
「ふむ……まあ、消極的な希望であっても、希望は希望だからな。何も無いと何も決まらないから……他に、希望は?」
土屋がヒバナとビーナスを見て『やれやれ』というように首を振ると、横から、おずおず、と手が挙がる。
「あ、あの、私、できれば女性と一緒に組みたいです」
ミナの希望は、ずっと一緒のようだ。バカはなんだか安心した。……だが、バカの脳裏には、『来ないでください』と震えながらもビーナスの人形を引き千切らんとするミナの姿が、まだ、残っている。だからやっぱり、バカは混乱する!
「となると、ビーナスか、たまさん、となるか……?」
「あら。だったら私、ミナと組むわ。よろしくね、ミナ」
「よ、よろしくお願いします、ビーナスさん」
これも一周目の時と同じように、ミナとビーナスが組むことになったらしい。バカは『ほげえ……』と、考えることを止めつつある。
「僕はこのバカと組む。……一応、約束してしまったのでな」
だが、海斗がそう言いだしたことによって、バカは途端に元気を取り戻した!
「うん!俺、海斗と一緒がいい!よろしくな、海斗!」
そう!今回のバカは、海斗と一緒なのだ!海斗は未だ、バカのことを信用しきっていない、とのことだったが、バカは海斗を全面信用しているので問題ないのである!
「つまり、僕らのところにはあと1人、誰かを加えることになるな。流石に2人でデスゲーム、というのもね……」
そして海斗は、ちら、と他のメンバーを見た。
今、組むことが決まっていないのは、土屋、ヒバナ、天城、たまと陽、である。
バカとしては、既に仲良し(だとバカは思っている)たまか陽と一緒だと嬉しい。だが、たまと陽は2人一緒で居たいだろう。なら、1人であぶれている土屋かヒバナか天城と一緒になるしかない。
そして、バカが今回調べなければならないのは、ヒバナか天城だ。
その上で、どちらがより気になるか、と言われると、天城、なのだが……。
「……だが、2人が手を組んでいるところに入りたがる1人など、居ると思うのか?」
天城はそう言って、険しい視線を海斗とバカに向けていた。
バカは、首を傾げている。だが、天城はどうも、バカと海斗とは組みたくない、らしい。
特に、バカに向けてくる視線が鋭い。ぎろ、と睨まれるものだから、バカは『俺、何かしちゃったかなあ……』と心配になる。まあ、ドアを2枚ほど既にぶち破っているのだが。
だが、一周目では『このバカを殺しておかないか?』と提案するような人だったので、そう考えればまだ、マシな気がする。少なくとも、殺そうとはしてこない。ヨシ。
「……まあ、そう捉えるならそれでも結構だ、ご老人。なら、僕達はヒバナか土屋さんか、たまさんか陽か……そのいずれかと組むことになるかな」
海斗は『やれやれ』と肩を竦めると、残る4人を見渡し……。
「私はできれば、陽と組みたい」
そこで、たまから希望が出た。
「この大広間に来たの、私が最初だったんだけれど、その次が陽だったから」
「それでお眼鏡に適った、っていうことかな。光栄だよ。俺としても異論はない。よろしくね、たまさん」
……どうやら、今回の陽とたまは、恋人同士だということは伏せておくつもりらしい。まあ、『俺達仲良し!』とやってしまったバカと海斗が天城に嫌われてしまったらしいことを考えれば、妥当なのかもしれない。
「ふむ……となると、私とヒバナと天城さんが、たまさんと陽、ミナさんとビーナス、そして樺島君と海斗君、それぞれの組に入ることになるが……」
それから土屋がまとめてくれる。
今、できているペアは、ミナとビーナス。たまと陽。そしてバカと海斗。
そして1人で残っているのが、ヒバナ、天城、土屋、である。
「なら私は、たまさんと陽の組に入れてもらおうか」
すると、天城が真っ先にそう、名乗りを上げた。バカは『天城のじいさんが誰かと仲良くしようとしてる!』と驚くと同時に、嬉しくなった。たまも陽もいい奴なので、天城もきっと仲良くなれるはずだ。そして、そうなれば天城は死なずに済むかもしれない。
「……最初から組んでいた2人のところに入るのは賢明とは言えん。更に言えば、若いお嬢さん2人のところに私のような老人が入るのもな」
「そうか。となると、もう後は、私がミナさんとビーナスの組、そしてヒバナが樺島君と海斗君の組、ということになるな?どうも、ビーナスとヒバナは一緒だと嫌なようだし……」
そうして消去法で残りの組み合わせも決まった。
つまり……。
「じゃあ、よろしくな!ヒバナ!」
「まあ、是非協力を頼む。僕も死にたくはないのでね」
バカと海斗が挨拶すると、ヒバナは『おう』と、返事をしてくれた。
……天城には嫌われてしまったようだが、ヒバナとは仲良くなれるかもしれない!バカは『頑張るぞ!』と意気込むのだった。




