1日目夜:大広間*3
そうして早速、土屋から情報共有が始まった。
「私と女性3人が入った部屋は、双子の乙女の部屋だったよ」
「……双子の乙女ぇ?」
なんだそれ、とバカが首を傾げると、ミナが苦笑いしながらちゃんと説明してくれた。
「悪魔と名乗るそっくりな女性が2人居たんです。彼女達は、『双子の乙女』と名乗っていました」
「ほええ」
「それで、双子の乙女が考えているもののテーマを発表してくれて……それから、20回まで、YESかNOかで返答できる形の質問をして、それで、双子の乙女が考えているものの名前を当てる、というものでした。あっ、それから、質問12回以内に正解できたら、『おまけのご褒美』をくれる、というお話でしたね」
「ほええ……」
説明してもらっておいてなんだが、バカには全く分からなかった。とりあえず、『双子が居たんだな!あと、なんか難しそうなことしたんだな!』ということだけ分かった。
「それで、まあ……我々はゲームの初めに、1人1人それぞれ、別の檻に入らされたんだ。吊るされた鳥籠のようなものだな。そこに入った状態で、双子の悪魔に質問をしていくんだ」
バカは、『その部屋、俺が入ってたら何も役に立てなかったかもしれねえ!』と思った。多分、その通りである。
「回答は5回まで。一度不正解の回答をしてしまった者は、他の全員が不正解の回答をしてしまうまで、次の回答ができない。そして、不正解の回答をしてしまった者の檻には、鍵が掛けられる。これで、不正解者は檻に閉じ込められてしまう、というわけさ」
「ひええ……」
バカは想像して、ちょっぴり怖くなった。閉じ込められてしまうのは、怖いのだ。まあ、バカの場合、閉じ込められて怖くなったらぶち破って出ちゃうのだが、それによって親方から怒られたらもっと怖いのである……。
「そうして誰かが正解したら、正解した人に出口の鍵と、全員分の檻の鍵が渡される。……そして、その120秒後に、檻の下の床が抜ける。檻の下には、毒蛇がうようよと居てね。まあ……つまり、檻に閉じ込められたままだと死ぬ、ということだな」
「毒蛇……こわいなあ……」
バカが怖がると、ミナは『怖かったです』と深々頷いた。
「……つまり、回答して不正解になっても、その後、仲間が正解して、自分の檻を開けてくれるならそれでよし。もし、仲間に裏切られたら、毒蛇の餌食、か。……あまり想像したくないな」
海斗は、ついさっきまで皆から嫌われていたことを思い出したのか、なんとも苦い顔をしている。なのでバカは、『そうなったら俺が助けるよ!』と海斗を励ましておいた。海斗は視線をバカに向けず、ちょっとだけ、頷いた。……多分、照れている。バカは嬉しくなって海斗の耳をつついた。
「それにしても、難しそうな部屋だなー。俺、絶対に役に立てねえよ!」
バカがそう感想を述べると、土屋もミナも、苦笑した。
「そうだなあ……いや、実際のところ、私も全く役に立たなかったぞ。ははは……」
「ほとんど全部、たまさんがやってくださったんです。たまさん、すごかったですね……」
成程。どうやら、たまがクイズを解いてくれた、ということらしい。やっぱりたまは賢いのだ!
「たまさん、12回の質問までで正解を言い当ててしまって。あっ、答えは『マシュマロ』だったんですけれど……」
「マシュマロ!?美味いよなー、マシュマロ!」
「マシュマロ、か……。『食べ物』といったテーマでそれが来たら、中々難しそうだな。色は白いか、大きさは掌以下か、食べるのにカトラリーを必要とするか、菓子かどうか……ここまでやっても、あんまんやスノーボールクッキーと差別化できない。材料に卵を含むかどうかを聞いても、クッキーの類やブッセ、ダックワーズが残る。焼き菓子かどうかも聞けば、大方絞れるが……」
バカがマシュマロに思いを馳せているところ、海斗は問題自体に思いを馳せているらしい。まあ、海斗は間違いなく、天秤の部屋よりも双子の乙女の部屋の方が向いていると思われる。
「いえ、その……」
だが、ミナが、言った。
「たまさん、『YESとNOだけで答えられる質問ならなんでもいいんだよね?なら、答えを教えて。YESはトン、NOはツーとして、和文モールスでお願い』って……」
「なので、悪魔さん、大変だったんですよ。一生懸命調べながら、『NOYESYESNO、NONOYESNOYES……』っていうかんじで……」
バカは頭の上に?マークをいっぱい浮かべた。そしてその横で、海斗は……。
「……あの女、頭脳派の脳筋か!?」
愕然として叫び声を上げていた。
「頭脳派の……矛盾しているようで的確な表現だ……ううむ」
「ま、まあ、私達全員、驚きましたよね……あの、でも、それで私達、全員助かったので……」
……バカは、ちょっと考えて、そして、思った。
『やっぱり、たまはすげえや!』と。
まあ、つまり、何が何だかバカにはよく分かっていない!
「まあ、そうして我々は無事、脱出した。ついでに、『不本意ながらおまけを進呈する』と、双子の乙女から、ミナさんの人形を渡されたよ」
「12回の質問までで正解できた時のおまけが、このお人形だったんですよね」
「成程、それで『直接渡された』ということか……。中々、面白い部屋だったんだな」
「面白くねえよぉ。俺、全然わかんねえよぉ……。あっ、でも、たまがすごいことすんのは見たかったなあ」
まあ、何はともあれ、これで女性3人と土屋が助かったのだ。ついでに、ミナ人形も手に入った。双子の悪魔がものすごく不本意そうであったらしいが、まあ、それはそれとする。
「そういうわけで、質問1回でクリアしてしまった我々は、女性3人の解毒を終えた後も時間が結構余ったのでね。解毒装置の傍でゆっくり1時間ほど雑談して、それから戻って来た。そういう具合だな」
よく分からないが、とりあえず4人全員、無事に帰って来た。それだけで十分なのである。バカは笑顔で『よかった!』と言った。
「そっかー、そっちも時間余ったんだな!」
「樺島君の方も、そう?」
「うん!こっちは海斗が頭いいからさぁー」
続いて、バカの報告が始まった。……のだが。
「海斗にさあー、好きなイーブイの進化聞いたらさー、ポケモンやったことないっていうからさー」
「ちょ、ちょっと待ってくれ樺島君。話が大分逸れていないかな?」
「えっ、部屋での話だろ?」
バカは早速、楽しく話し始めてしまったので土屋に止められた。が、バカはきょとんとしているばかりである!
「……海斗君。代わりに頼めるかね?」
「ああ……どうやら、そうするしかないようだな……」
そうして、土屋と海斗が何やら遠い目で笑い合って、それから海斗がゲームの説明をすることになった。バカは『やっぱり海斗って頭いいんだ!』と嬉しくなった。
さて。
そうして、海斗が天秤の部屋のルール説明をざっと終えて、『とりあえずバカが跳躍して海斗を運んでそのまま脱出できる状態になった。その後で改めて攻略して、鍵を手に入れてビーナス人形を取り出した』というように話した。
……つまり、海斗がバカを殺そうと頑張って、結局思いきれずに失敗した、という旨は見事に封印されていた。が、バカはそれに気づいていないし、そもそも最早そのあたりは覚えてすらいないので、『そうだ!海斗は頭がいいんだぞ!』と胸を張るばかりであった。
「成程な……それで、300㎏の金貨と、巨大なアクリル製のコインも手に入れてきた、と」
「うん!かっこいいだろ、これ!」
バカは只々、自慢げである。土屋は最早何も言えず、ただ、『ああ、うん、よかったな、樺島君』と一緒に喜んでくれた。バカはにこにこしていた。
「ということは……やはり、ビーナス人形が入っていたところに、ミナ人形とビーナス人形を入れて保管しておくのが妥当だろうな」
「だな。うっかりの事故で人形にダメージが入る可能性もある。安全に保管できる鍵付き扉があるのだから、利用しない手は無いだろう」
「あっ、あの、じゃあ私、ビーナスさんに断りを入れてきますね」
そうして、人形の処置についても結論が出た。ミナがさっと席を立って、ビーナスが1人で行った方へと向かっていく。それを見送って、土屋と海斗とバカは、ふう、と息を吐く。
とりあえず、人形問題は解決しそうだ。そして、お互いの状況も大体、分かった。
……と、なると。
「後は……次のゲームをどうするかを考えるべきだな」
そろそろ、次のことを考えなければならない。
何せ、昼の時間はもう、残り30分を切っているのだから。
……すると。
「樺島。提案がある」
海斗が唐突に、バカの方を見て、緊張気味に言った。
「……次も、僕と組んでゲームに参加してくれないか?」
「え?」
「おお……?それはどういう風の吹き回しかな?海斗。君は、首輪が無い。だから、無理にゲームに参加したくないのだろう、と思っていたのだが……?」
バカには海斗の提案がよく分からなかったし、土屋にも分からなかったらしい。2人揃って首を傾げていると、海斗は気まずげに俯きつつ、言った。
「……その、大広間に残ることも、考えられる。だが……僕はどうも、あの陽という奴が、信用できない」
「ええー……陽はいい奴だよぉ」
「よく考えろ。あいつが本当に1人で大広間に取り残されていたと思うか?今、たまさんと話していることを考えても、何か隠していると考えるのが妥当だ。そんな奴と一緒に待機している、というのは、流石にね……」
バカは『陽はいい奴だって!』と思っているのだが、海斗はそうは思えないらしい。そして、土屋も。
「ふむ。ならばいっそのこと、ゲームに参加してしまった方が安全かもしれない、と。そういうことか。まあ、分からんでもないなあ」
「ああ。まあ……僕にはたまさんのような鮮やかな解決はできないかもしれないが、それでも一応、それなりの学はあるつもりなのでね。頭を使うことなら解決できるだろう。そして、それで無理なら……」
「俺が居る!そういうことだな!?」
が、バカにもこっちは分かる。
海斗は頭脳担当!そして、バカは筋肉担当!そういうことなのだ!
「やったー!俺達、いいコンビだよな!?な!?」
「……お前はそれでいいのか?」
「うん!いい!やったー!相棒ができた!やったー!」
バカははしゃいだ。
自分が海斗に殺されかけていたことなんてすっかり忘れて、はしゃいだ。
バカはもうすっかり、海斗のことを気に入ってしまっているのである。『俺達、友達!』とはしゃぐバカを見て、海斗はぽかんとしていたが、やがて、『こいつは本当にバカだな……』と、呆れてため息を吐いたのだった。
……そうして、海斗はふと、席を立つ。
「樺島。ちょっとついてこい」
「ん?なんだ?」
バカは特に疑いもせず、海斗の呼びかけに応じて席を立つ。
「ふむ……2人だけで、か?私は駄目かな?」
「土屋は……ついてきたければ、ついてきても構わない。妙に疑われるのは勘弁願いたいからな。ただし、これから見ることについては他言無用で頼む。ミナさんにも、だ」
海斗はそう言うと、小さな声で言った。
「……僕の異能を使う。お前には、見せておこうと思って」
「うん?」
バカが首を傾げていると、土屋も後ろで不思議そうな顔をしつつ、結局は席を立った。
海斗は大広間を横切っていき……天城とヒバナが入っていった、という部屋のドアまでやってきた。
そして、海斗の手に海を思わせる色の光が灯ると同時、ぼんやりと、ドアの前に人影が映し出される。
「僕の異能は、『リプレイ』だ。……1日に1度だけ、その時にそこで何が起きたか、見ることができる」
「部屋のギミックを見る意味は、無いだろう。だが……部屋の入り口で、陽が本当に部屋に入っていないのかを見ることには、意味があるはずだ」




