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頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム  作者: もちもち物質
第二章:帰ってきたバカ
20/146

0日目夜:大広間*3

 そうしてバカは、しょんぼりした。

 海斗に『近づかないでくれ!』とまで言われてしまった。仲良くなるのに失敗した。もうダメだ。バカ、一生の不覚である。

 ……ということで、バカはとにかくしょんぼりと肩を落とし、大広間の隅っこで体育座りしていたのだ。

 それが、よくなかった。


「あっ、人が……!」

 バカがしょんぼりしている間に、たたた、と足音が聞こえたかと思ったら……。

「きゃっ!?な、何か、首に刺さったような……!?」

 ……ミナが、大広間に足を踏み入れてしまっていた。

 バカ、一生の不覚2回目!




「あああ……ごめんな、ごめんなぁ……俺、お前の首輪、千切らなきゃいけなかったのに……刺される前に、千切らなきゃいけなかったのに……」

 困惑するミナの前で、バカはがっくりと肩を落としている。ミナは困惑している。

「え、ええと……これは、一体……?」

「あー……うん。えーと、俺と、そこの、海斗君?については、この人が首輪を引き千切ってくれたんだけど……」

「千切る……?この首輪、千切れるんですか……?」

「あ、えーと、普通は千切れないと思うよ」

 ミナは、ぐいぐい、と自分で自分の首輪を引っ張ってみているのだが、首輪は全く動かない。当然といえば当然である。単にバカがおかしいのだ。

「樺島君。落ち込んでないで、次の人の首輪はちゃんと外して」

「うん……ごめんなぁ、たまぁ……」

 バカはしょぼしょぼしながら、大広間の入り口に体育座りした。ここに座っていれば大丈夫だ。誰か来たらすぐ分かる。最初からここで落ち込んでおけばよかったのだ。バカはまた、しょんぼりとした……。




 次にやってきたのは、土屋だった。

 ので。

「あっ!首輪外すから、入る前にちょっと待ってくれ!」

「……何?」

「えーと……これでよし!」

 バキイ!と、ちゃんと土屋の首輪を引き千切った。

「じゃ、通っていいぞ!」

「……な、何が起きたんだ!?」

「あっ!首輪、これ返しとくな!」

 土屋は、バカから千切れた首輪を返却されて只々、慄いている。剪断したようになっている首輪の断面は、バカのパワーの証なのだ。

「それで、えーと、マークは『土星』だな!よろしく!」

「は、はあ……?」

「詳しくは中に居る奴らに聞いてくれ!俺、バカだからよく分かってねえんだ!」

「……そ、そうか。なら、中に居る人達に聞かせてもらおうかな……」

 土屋は愛想笑いを浮かべると、大広間に入っていった。多分、たまか陽から説明を聞けるだろう。バカは安心して、次の首輪も破壊すべく、気合を入れて体育座りした。




 そして、次にやってきたのはヒバナだった。

「あっ、ちょっと待ってくれ。入る前に首輪外すから!」

「はあ?お、おい、何して……うおわっ!?」

 バキイ!と音を立てて、ヒバナの首輪も外れた。

「じゃ、通っていいぞ!説明は中に居る頭いい奴から聞いてくれ!で、これ返しとくな!お前のマークは『火星』みたいだからよろしくな!」

「な、なんだァ、てめえ……?」

 ヒバナは、完全に出ばなをくじかれて、中途半端なとんがりぐあいのまま、バカをチラチラ見つつ、大広間へと入っていった。ヨシ!




 次にやってきたのは、ビーナスだった。

「あっ!ちょっと待ってくれ!首輪外してから中に入ってくれ!」

「は?」

 バカは、『怖くないよ!』というアピールの為、笑顔でビーナスへ近づく。やっぱり、他人に近づく時には笑顔でいるべきだ。じゃないと怖がられる!

 ……と、思ったバカだったが。

「な、何よあんた……」

「こ、怖くないぞ?俺、怖くないから、ほら、首輪……」

「触らないでっ!」

 ビーナスは、速かった。

 バカが『あっ、ここで手ぇ伸ばしたらビーナスに怪我させるか!?』と躊躇ったその一瞬をついて、ビーナスはバカの横をすり抜けていたのである!

「だ、駄目だ!」

 バカは慌てて手を伸ばしたが、遅かった。

「いたっ……!?な、何、今の!?」

 ……ビーナスも、注射を打たれてしまったらしい。バカは、『俺が躊躇ったばっかりに!』と、しょんぼりした。バカ、一生の不覚3度目!




「樺島君……元気出しなよ。ほら」

 バカがしょんぼりしていたら、陽がやってきてバカの隣に腰を下ろした。

「うん……でも、俺、上手くやれなかった……」

「ビーナスさんについては、しょうがないよ。彼女自身が、首輪を外されることを嫌がったんだから。それは彼女の選択だ。君がどうこうできることじゃなかった」

 今、大広間の方からは『だってあんな変なのに急に話しかけられたら誰だって警戒するでしょ!?』というビーナスの声が聞こえてきている。バカはそれを聞いてまたしょんぼりした。バカがもっと、人を信用させるに足る見た目をしていたらよかったのかもしれない……。

「……ま、まあ、そう気を落とさないで。まだ、メンバーは居るんだろう?」

「うん……天城のじいさんが、これから来るはずだから……」

 陽に励まされて、バカはまた、前を向く。

 そうだ。まだ、バカの仕事は終わっていない。

 海斗と仲良くなる、という使命だって、まだ、終わってはいないのだ。嫌われてしまったって、その後、挽回できるチャンスはあるかもしれない。バカは、やる気と根性のあるバカなのだ。

 そして何より、この後、天城が来るはずである。バカは天城のことを逃がさないようにしながら、首輪を破壊するのだ。

 ……そうすることで、きっと、前回よりも、何かが良くなる。

 バカにはまだ、『何が良くなるか』がよく分かっていない。だが、たまが言ったことなのだから、きっと大丈夫だ。

 ……バカはそう、たまや陽を信じて、天城を待った。




 そうして、天城がやってくる。

 通路の奥の方から、かつかつと靴音を鳴らしてやってくる。気難しげな、疲れた顔でやって来た天城は……。

「……だ、誰だ、お前は!?」

「俺、樺島剛!とりあえず、首輪外すからちょっと待ってくれ!」

 バカを見て、天城は茫然とし……そして、元来た道を戻り始めた!


 バカはすぐさま天城を追いかけた。

「わっ、わっ、駄目だぞ!そろそろ時間だって!浸水すっから!水くっからこっち!こっち来いよぉ!」

「何故そんなことを知っている!?」

「何故って、そういう詳しいことはたまに聞いてくれよぉ!俺、バカだからよく分かんねえんだよぉ!」

 そして、バカはすぐさま天城に追いついた。

 よっこいしょ!と天城を抱き上げてしまう。天城はぎょっとして『離せ!』と暴れ出したのだが、バカはそれを無視して、大広間の方へと呼びかける。

「たまー!陽ー!ちょっと助けてくれー!爺さんが暴れるー!」

「あ、なるほどね……そうなる訳か」

「……何を助けたらいいの、私達は」

 とりあえず頼りになる2人を呼び寄せると、天城は途端に大人しくなった。3対1だと元気が出ないのかもしれない。

 なので、その隙にバカは『よっこいしょ』と天城の首輪を引き千切る。

 バキイ!と破壊された首輪を、『はい』と天城に渡せば、天城は茫然と、首輪を受け取るのだった。




 ……さて。

「これで9人揃ったね」

 そうして、大広間に9人揃う。

 バカ、たま、陽、海斗、ミナ、土屋、ヒバナ、ビーナス、天城。

 ……この中の半分が、一度死んでしまった人達だ。だが、今はこうして、全員ここに居る。バカはそれを噛みしめて、『今度は誰も死なせないぞ!』と強く強く思う。

 そして……海斗だ。

 一周目でほとんど喋れなかったし、今、どちらかというと間違いなく嫌われている。

 だが、なんとかするのだ。なんとかする。具体的な案は何一つ出てこないが……海斗だって、死なせない。そして、海斗と仲良くなるのだ!


 そんな中。

『さて……集まれる者は全員集まったようだな』

 声が、響く。

 バカは勿論、他8名も一斉に声の方を向けば……ラッパのような形をした古風な放送器具から、若干のノイズ混じりに声が出ていることが分かった。

『もうじき、君達が居た地下フロアは全て水に沈む。この時点で未だに1つも謎が解けていない部屋もあるようだが……その者は決して間に合うまい。先に説明をしてしまっても問題は無いだろう』

 ……皆の視線が、バカに注がれる。

 それと同時に、バカは理解した。

 ……どうやら、1回目にバカがアナウンスを聞きそこなった原因!それは、謎を1つも解かずに部屋を出たせいで、悪魔の検知に引っかかれなかったらしい、というところにあるようだ!


 バカは、『次はちゃんと解こう』と思った。同時に、『いややっぱ無理な気がする……ごめん、悪魔……』とも思った。多分、次回も首輪は引き千切るしドアは吹き飛ばす。バカにはそれしかできないのだ……。

『さて。分かっているとは思うが、君達は悪魔の誘いに乗ってここまでやってきてしまった愚かな者達。自分の願いを叶えるために、これから他者を蹴落とし、殺すことになる罪深き者達だ!』

 悪魔のアナウンスは続く。バカは『そっかー』と頷きながら熱心にアナウンスを聞いた。

『これから、君達が行うことになるデスゲームの説明をさせてもらおう。一度しか言わないからよく聞きたまえ』

「うん!分かった!」

 バカはアナウンスへ元気に返事をして、『よく聞くぞ!』と身構えた。周りはそんなバカを何とも言えない顔で見ていた!




『まず……諸君らは既にお気づきのことと思うが、諸君らにはそれぞれ、首輪が付いている』

「ついてねェんだよなぁ……」

 悪魔のアナウンスに、ヒバナがぼやきを挟んだ。まあ、その通りである。首輪は半数以上をバカが引き千切ってしまったのだから。

「……つまりこのアナウンス、録音なんだね」

「そうみたいだね。そうじゃなかったら、悪魔があまりにも、臨機応変に対応できない奴ということになってしまうよね……」

 どうも、思わぬところで悪魔の手の内が一枚、見えてしまったようだ。どうやらこの説明、録音らしい。或いは、パターン化されて既に決まっている何かか。

『そして、その首輪は諸君らに毒物を注射した。まあ、正確には毒ではなく、我々の魔法によるものだが……君達には、毒薬と言えばわかりやすいだろう。まあ、いずれにせよ結論は同じだ。……このままでは、諸君らは……次の『夜』が来た瞬間に、死んでしまう!』

 悪魔の説明に、たまとミナとビーナスが緊張を過ぎらせる。……この3人は、バカが首輪を千切り損ねた3人だ。この3人は、悪魔の説明通り、うっかりすると死んでしまうのである。

 ……が。

「……つまり、僕らは、死なない……?」

 呟いた海斗の言葉は実にご尤もである。

 そう!このデスゲーム……既に、ほとんど成り立たないところまで崩壊しているのである!

 だって、残り6人は既に、放っておいても死なない状態になってしまっているのだから!


「デスゲーム、とは……ううむ」

「なんだか、おかしなことになっちゃったね。あははは……」

 土屋と陽も何とも言えない顔をして、スピーカーを見上げた。

 悪魔からの答えはない。アレは録音なのだろうから、それはそうだろう。

 そして、これが録音だったことは、きっと悪魔にとっても良いことだった。

 ……しょっぱなからこんなに台無しにされてしまったのだ。直接この場を見て話すことになっていたら、悪魔だって泣いてしまっていたかもしれない……。

 バカは、ちょっぴり申し訳なく思った。ごめんな、悪魔!

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― 新着の感想 ―
開始時点で3分の2崩壊してる……ってか謎解き部屋機能してなくない?これ
[良い点] 腹痛いwwww開始からルールが崩壊してるデスゲーム!!!
[気になる点] リアルタイム監視してない、よくある愉悦見世物ではない? それとも今運営パニック?
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