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頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム  作者: もちもち物質
第一章:はじまりのバカ
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2日目夜:大広間*2

「ん……?」

 やがて、たまが目覚めた。

「あれ……ああ、そっか、私……寝てた?」

「ああ、寝てた。無敵時間の効果が切れた後も、しばらく寝てたみたいだ」

 陽が簡単に説明すると、たまは『そっか』と頷き……それから、ヒバナと海斗の遺体を見つけて、目を見開く。

「ねえ、2人は……」

 ……そしてその頃には、バカも心臓マッサージを止めていた。

 もう、どう頑張っても2人の命は戻ってこない。それが、バカにも分かってしまったから。




「ふう……。よかった、と喜ぶ気にはなれんが、それでも、救いはある、と思いたいな……」

 土屋はたまを見つめて疲れた笑みを浮かべた。

「陽君。たまさん。君が生き残ってくれたことは、我々にとって少なからず希望になった。ありがとう」

 土屋の言葉に、陽もたまも、複雑そうな面持ちで、しかしそっと、頷いた。

 ……この10分程度で、随分と一気に色々なことが変わってしまった。ビーナスは死にかけたし、ヒバナと海斗は、死んでしまった。

 だが、生き残った者も居る。それは、救いであった。間違いなく。


「……もう少しちゃんと、説明するべきかな」

 やがて、少し落ち着いたらしい陽が、そう前置きしてからまた、話し始める。

「俺も、土屋さん達が入ってくるほんの少し前に目が覚めたところだったんだ。だから、状況はほとんど分かってない」

「ふむ……気絶していた、ということかな?」

「うーん、そう、なのかもしれない。というのも、『無敵時間』中は、自分と自分が触れていた相手に対するあらゆる攻撃を無効化できる一方、副作用として意識を失うんだ。当然、その間は一切行動できないし、一切の情報を得られない。自分だけ時が止まったような状態になる、と言ったら分かりやすいかな」

 バカは説明を聞きながら、『そっかー、じゃあ、無敵だからってタックルして全部吹っ飛ばすようなのはできねえのか』と理解した。

 ……バカの頭の中には、某レーシングゲームでスターを使って軽快な音楽と共に他のプレイヤー達をぼんぼん吹っ飛ばしていくシーンが再生されていたのだが、アレは駄目、と。

「それで……効果が切れて、目が覚めて、気づいたら、もう、ヒバナと海斗が……」

「……そうか」

 ひとまず、これで合点はいった。

 陽とたまは、『無敵時間』のおかげで助かったらしいが、その代わりに意識を失っていた。そのため、海斗とヒバナに何が起きたのか、正確なところを知ることはできなかった。

 だが、さてもとりあえず、2人は生き残った。……そういうことなのだ。




「さて……こちらも、話さなければならないことがいくらかあるな。こんな状況で悪いが、少し時間をくれるか?」

 それから土屋はそう言って、陽を大広間へと誘う。

 その間に、バカは海斗とヒバナを抱き上げて、そっと、手ごろなベッドとソファに寝かせた。

 ……2人の体はもう徐々に冷たくなってきていて、そこに『死』があることが分かった。それが只々、悲しい。バカはちょっと泣いた。

「まあ、樺島君が声だけで水槽の中の魚を仕留めた話は今更のような気がするから割愛するとして……」

「いや、すごく気になるな、それ……」

「それから、ちょっと振り向いた時に樺島さんが天井に張り付いていたのが見えたのですが……」

「それも気になるな……いや、でもそのあたりは末節の部分なんだろうね……」

 泣いてばかりもいられない。バカは自分の両頬を『ぱしーん』と叩いて気合を入れてから、皆の待つ大広間へてけてけと戻り、勇ましく着席した。すると、丁度話題になっていたバカに皆が注目したが、バカは『ん?』と首を傾げることになる。

「ああ……ええと、今、樺島君のところの社歌の話をしていたところだ」

「ん?社歌?あっ、たまと陽も俺んとこの社歌、聞くか?」

「樺島君。歌うなら普通の音量で頼むぞ、普通の音量でな。普通のって分かるか?君が会社で歌う音量だとダメだぞ?喋る時くらいの声で歌いなさい」

 土屋にものすごく念入りに念を押されたので、バカは『分かった!』と頷き、小さな声で『ああー、キューティーラブリーエンジェル建設ぅー』と歌った。たまも陽も、何とも言えない顔をしていた。が、たまは一応、ぱちぱちと拍手してくれたのでバカはにこにこしながらお辞儀しておいた。


「まあ、それで……こういうものが、こちらで見つかってね」

 それから、土屋はポケットを探り、中から海王星の鍵をじゃらじゃらと沢山出した。

「……同じ鍵がたくさんあるね」

「ああ。どの魚を捌いても鍵が出てくるようになっていたらしい。つまり、鍵の発見は偶然ではなく、これも悪魔の意図するところなんだろうと思われる」

 海王星の鍵ばかりが沢山ある状況というのも中々おかしなものだが、しょうがない。魚を11匹も捌いたのだから。

「そして、鍵穴を見つけて床の扉を開いてみたら、中にこれが入っていた」

 それから土屋が海斗人形を取り出すと、たまも陽も、表情を強張らせる。

「これは……身代わり人形、みたいなものなのかな」

「さてな……。ビーナスは『幸運を呼ぶお守りでは』と言っていたが、私も正直なところ、陽君と同じような連想をしたさ。だが、試す気にはなれなくてね」

 土屋がため息を吐くと、陽は『だろうな』というような顔で頷き、そして、たまは……。

「……もしかして、他の部屋にも、同じように他の人の人形が、あるんじゃないかな」

 そう、言った。




 そういうわけで、バカ達は最初にバカと陽とたまとヒバナとで入った、例の鉄格子の迷路へやってきた。

「魚のお腹に鍵があったんだよね。だったら……」

 たまは、よいしょ、よいしょ、とライオンの死体を転がして、ごろん、と仰向けにさせた。

「ライオンのお腹にも、入ってるかもしれない」

「……私、その、ライオンは捌いたこと、無いです……」

「まあ、ある人は居ないだろうなあ。ううむ……」

 だが、たまが期待を込めた目でミナを見つめる一方、ミナは尻込みしている。まあ、ライオンを捌ける人なんて、居ないだろう。バカもやったことは無い。

「……俺が主催者側なら、腹の中だなんて、分かりにくい場所には鍵は置かない気がするな」

 そんな中、陽は1人冷静にそう言うと、ライオンの頭の方へと回り込んだ。

「だから、こっちじゃないかと思うんだけれど……よいしょ」

 そして、陽はライオンの顎を掴むと、ぐぐ、と力を入れ始める。

「ん?陽、どうしたんだ?」

「口の中を、確認、したいん、だけど……!はは、意外と固いな……!」

「なんだぁ、言ってくれよぉ。そういうのは俺やるよぉ」

 陽が頑張っても、ライオンの口はあんまり開かなかった。なので、バカがライオンの口に手を突っ込んで、グワッ!とその顎を開く。ついでに『メキャッ!』と音がしたが、まあ、問題は無いだろう。

 こういうのはバカの得意分野だ。固いジャムの瓶の蓋だって、鍵を失くしちゃったスチール製のドアだって、番号が忘れ去られちゃった金庫だって、全て、バカのパワーで開けられるのだ!


「おお、これは……!」

「やっぱりね。魚ならともかく、ライオンだったら腹よりはこっちだと思ったんだ」

 そうして、ライオンの口の中からは1つの鍵が発見される。

 ……そこには、太陽のマーク。そう。太陽の鍵が、見つかったのである。




「……太陽の鍵、か。ということは、僕の人形がどこかにある、っていうことかな」

 この中で一番複雑そうな顔をしているのは、陽である。当然、この鍵が一番関係するのは、陽自身だ。

「探すなら急ごう。夜の時間だって、そう長くはないから」

 たまが促して、全員が一斉に部屋の中を探し始めることになった。


 バカは今回も元気に、床と壁と天井を這い回った。『うわあ、本当に天井を這い回ってる』と陽が慄いていたので、バカは笑顔でピースサインを送っておいた。『それ、片手離しても落ちないんだね……』とたまが悟りを開いたような顔をしていた。バカは嬉しくなったので、両手でガッツポーズをしてみせた。流石に落ちた。

「……ん。見つけた」

 そんな中、たまが壁の一角で鍵穴を見つけたらしい。

 それは、鉄格子を操作するためのレバーのすぐそばだった。そこに、小さな鍵穴がある。

「ふむ……成程な。本来ならば、仕掛けを解こうとすると鍵穴が見つかり、後から鍵を探すことになる、という具合なのだろうね」

 水槽の部屋では、誰かが入る予定の水槽の底に鍵穴があった。今回は、レバーの傍。確かに、『見つけてくれ』と言わんばかりの鍵穴だ。

「まあ、そうでもなければ、わざわざライオンを倒したり魚を捌いたりする気には、ならんだろうなあ……」

「そうだね。それに、これでいよいよ人形が悪魔の意図したものだって分かった。悪魔は私達にこれを、見つけさせたいみたい」

 たまはそう言うと、陽の手から鍵を受け取って、早速鍵穴に差し込んで、回す。

「……ね?」

 そして開いたそこには、案の定、陽を模した人形があったのである。


「ちょっとかわいいね」

「ですよね?海斗さんのお人形も、ちょっぴりかわいくて……」

 陽の人形は、やはり女子に人気である。ミナとたまが『かわいい』『かわいい』とやっている。なのでバカもそこに入っていって『かわいい!』とやってみた。案外、馴染んだ。

「可愛がってもらえるのはちょっと嬉しいけれどね。それは僕が預かっておいていいかな」

 だがそこに、陽がやってきて手を差し出す。

「その人形がどういうものなのかは分からないけれど、針を刺されたくはないから」

「……そうだね」

 そして、たまは陽の言葉に頷くと……。

「じゃあ、先に効果を確かめておこうよ」

 そう言って、手の中の陽人形にもう片方の手を伸ばし……。


 ……指先で、こしょこしょ、とくすぐり始めた。




「っ!?」

 途端、傍目からでも分かる程度に、陽の体が跳ねた。

 たまはそれを確認して……更に、こしょ、と陽人形をくすぐり続ける。

「ま、待って。たま、ちょ……っと、待っ!」

「こ、こーらこらこら!たまさん!やめてあげなさい!やめてあげるんだ!」

 陽がその場に蹲ってすぐ、土屋が半笑いで止めに入ってやったため、たまは、こしょ、と動かした指を最後に、陽人形をくすぐるのを止めた。

 陽は蹲りながら、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返していたが、やがて、ゆる、と顔を上げて、力のない目でたまを睨む。

「……たまぁ」

「……ちょっと楽しかったな」

 たまは珍しく、にや、と笑って、人形を陽に手渡した。陽はすぐに人形を受け取って、ポケットにしまい込んだ。『これ以上くすぐられてたまるか!』という強い意思が感じられる。

「で、陽ー。どうだったんだよー。やっぱ、くすぐったかったんだよな?」

「ああ……そうだね。全身をひたすらくすぐられる感覚が伝わってきたよ。全く……」

 陽は呼吸を整えながら立ち上がると、じと、とたまを睨んだ。たまは相変わらず、ちょっとご満悦の表情である。バカは、『いいなー、ちょっと確かにたのしそーだなー』と目を輝かせていた。

「まあ……だからこそ、この人形は危険だと思う。もしうっかりこの人形の首を落としたらどうなるか、大体、予想が付くからね」

 だが、この人形は楽しくくすぐるためのものではないのだろう。

「この人形を使えば、遠隔操作で他の人を殺せる。……そういうことなんだろう」




「となると……もしや、ビーナスも、そうだったのか」

 それから土屋が、ううむ、と唸りつつそう言った。

 確かに、あの時のビーナスは『胸が潰れるような痛み』と言っていた。となると、あれはもしかしたら、ビーナス人形を使われた、ということだったのだろうか。

「ビーナス?……ところで、ビーナスは?」

 そこで、陽が首を傾げる。そういえば、まだ陽とたまにこちらの情報を共有しきれていない。ビーナスの説明が、まだだった。

「ああ、突然、胸に痛みを訴えて、血を吐いて倒れていたんだが、ミナの異能で持ち直した」

「あ、ああ、そうか。ミナさんが居るから、助かるよね」

 陽は納得したように頷き……そして。

「……その後は?」

 たまが、そう言った。


「その後……というと?」

「ビーナス。今は、どうしてるの?」

 緊張の滲むたまの声を聞き、バカと土屋とミナは顔を見合わせ……。

 それから急いで、ビーナスを寝かせた部屋へと戻るのだった。




「……参ったな」

 そして土屋が嘆く中、皆が唖然とする。

 ……そこで、ビーナスは既に死んでいた。

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― 新着の感想 ―
まぁ、だよね……死ぬよね……
[良い点] 面白いけど怖くもありますね。 こんなに簡単に人が死んでいくなんて…! でもバカ君のおかげで怖さが中和されています。 バカ君ありがとう! [一言] とっても続きが気になるお話です。 最後ま…
[気になる点] アイエエ?ナンデ?ナンデ?
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