月の記憶
駒井つぐみには弟が居る。
ご多分に漏れず小賢しく、生意気な弟だ。だが、中々に面白い弟である。彼はつぐみ自身と似たところの多い生き物だった。
だから駒井つぐみは、弟を探している。
弟は、『悪魔のデスゲーム』に参加して死んだらしい。
つぐみにとって弟は、半身のようなものだった。少なくとも、高校2年になるまでは、つぐみの理解者というと弟しか居なかったのである。
というのも、つぐみはとても出来の良い子供であったので、学校の級友とは何かと反りが合わなかったのである。
尤も、それを諦めるのも早かったし、それを苦とは思わなかった。つぐみはクラスで1人、特に誰かと群れることも無く、かといって、いじめられるでもなく……ただ、1人で自分の楽しいことをやって過ごしていた。
図書室の本を読み漁り、興味の赴くがままに探求し、気づけば夏休みの宿題は絵も作文も自由研究も、ほぼ全ての受賞者となっていた。特に、自由研究であった『ミナミヌマエビの繁殖について』は非常に高い評価を得て、小さな新聞記事になる程だった。
……そんなつぐみであったが、まあ、弟も弟なので、小学校に上がった。そして弟も概ねつぐみと同じように過ごし、彼は彼で、『ウニ養殖と世界のワカメ駆除の可能性』を自由研究のテーマとし、やはり高い評価を得ていた。両親は『育て方を間違えたとは思わないが、なんかやりすぎだったかもしれない』と頭を抱えていた。
つぐみはその辺りで、ふと、『そういえば、クラスメイトとは話していてもあまり楽しくないけれど、弟とは話していて楽しいな』と気づいた。
……どうも、弟はつぐみと同種の生き物であるらしいかった。幼い頃にはそれが当たり前だと思っていたつぐみであったが、中学生になる頃には、『弟がいて良かったな』としみじみ思っていた。
弟が居なかったら、つぐみの日々はもっと退屈であっただろう。
……否、周りに誰も居なくたって、この世界は面白い。色々なことがあって、人1人の人生では、その全てを探求することなどできはしない。興味が向くものは山ほどあったし、それら全てを片っ端から食らい尽くすようにして過ごすのは、まあ、楽しかった。
だがやはり、それを『来年は片っ端から検定を取ろうと思う。ウルトラマン検定とか』『小型特殊は?稲刈りのアルバイトができるようになる』と話せる弟が居ると、それはそれで楽しいのだ。
……弟が居たから、つぐみの孤独は楽しいものだったと言える。
消極的孤立ではなく、積極的孤独。自ら、楽しみのために1人でいるということを選べたのは、同じような生き物が自分の家の中に居たからだったのかもしれない。
また、弟にとってもこれは概ね同じであったらしく、『姉さんがいて良かった』と時々零すことがあった。つぐみはそんな弟の頭をぐりぐりと撫でてやるのが常だった。
とはいえ、そんな弟も、完全につぐみと同じ生き物であったかというと、そういうわけではない。当然だが。
弟は、つぐみよりも真面目だった。『姉さんは不真面目すぎる』と時々零すこともあるような、そんな奴だった。
興味の赴く方向はあちこちにあったが、それら全てに理由を求めるきらいがあった。誰かの役に立つこと。何かの責務を果たすこと。そうしたことに、重きを置いて動いていた。
……弟も出来の良い生き物だったが、つぐみを天才とするならば、彼は秀才だった。努力を厭わず、『より良く在れ』とする生き物だった。
まあ、真面目だった。そういうことだ。つぐみが『まあ、私が考えても仕方ないし』と思うことを、彼はよく考え、悩んでいたように思う。
……そして、それらを解決するには、彼はあまりにも無力だった。つぐみと同じように。
つぐみが高校2年になってからは、より、弟と自分との違いが大きくなっていったかもしれない。
つぐみはより自由に生きるようになっていた。というのも、宇佐美光という恋人ができ、弟以外にも自分と同じような生き物を見つけ、世界が広がったからである。
広がった世界の縁から、更にその先を見て、つぐみはそこに楽しみを見出していた。『大学に入って、もっと世界が広がったらもっと面白いことがありそうだな』と、漠然と希望を抱いていた。
……光はつぐみと恋人関係になって大変浮かれていたのだが、つぐみも分かりにくく浮かれていた、ということだったのかもしれない。少なくとも、世界に閉塞感など感じなかったし、絶望することも無かったから。
だが、弟は少しばかり、世界に閉塞感を覚えていたように思う。今になって思えば、だが。
恋人である光のことは弟にも話していたのだが、弟と光は会うことが無かった。弟は、『姉さんの恋人なら、よっぽど変な人なんだろうね』と面白がっていたし、光も『つぐみの弟なら面白い人なんだろうな』と言っていた。つぐみから見ても、まあ、気が合う2人であろうと思われた。
なので是非、彼らを会わせてみたかったのだが……タイミングが合わないまま、ずるずると先延ばしにして、それきりだった。
そう。それきりだったのだ。
弟が死んだのは、つぐみが大学に入って半年ほどの頃のことだった。
ある日突然、弟の死体が発見されたのである。
唐突すぎて、あまりにも現実味が感じられなかったことをよく覚えている。
できの良い、将来有望な弟の死はあまりにも衝撃的なニュースとして、家族や知人達の間を駆け巡った。
彼らの間では、『病気があったわけではなかったなら、事故か?』『服薬自殺だったのでは』などと、無責任に噂が飛び交っていたが、それら全てが真実ではないことを、つぐみは知っていた。
……というのも、弟が書き残したものが、あったからだ。
賢く生意気な弟は、こうなることを予期していたらしい。
ただ、『悪魔のデスゲームに参加する。もし死んだら後のことはよろしく』と、つぐみ宛てに書き残していたのである。
遺書とも言えないような書き置きだった。自分が死ぬ可能性を排除しきれなかったが死ぬ気があったわけではない、と分かる書き置きだった。
……同時に、『あの弟が、デスゲームとやら如きで死ぬとは思えない』とも、つぐみは思った。
長らく自分の半身であった弟が死んだというのなら、その真実を、突き止めなければならない。
つぐみは弟の葬儀を終えて、そう、決めたのだった。
それから、つぐみは『悪魔のデスゲーム』について調べて回った。
……恋人の光も巻き込んだ。これについては申し訳なく思ったが、光が『俺も巻き込んで。巻き込みたくないならもう悪魔のデスゲームについて調べるのは止めてほしい』と訴えてきたので、巻き込ませてもらうことにした。
本当に、よくできた恋人だ。彼は、憔悴したつぐみの視野が狭まっていることをそれとなく教えてくれたし、そんなつぐみを1人にしておいたら弟の二の舞になるだろう、と冷静に判断してくれたのだ。その上で、つぐみのために巻き込まれてくれた。
光の存在は、つぐみにとって唯一の救いであった。彼がいたから、つぐみは自暴自棄にならず、冷静に……それでいて執念深く、『悪魔のデスゲーム』を追いかけることができたのである。
『悪魔のデスゲーム』を追いかけていく内に、『井出亨太』という人物の存在に行き当たった。どうも、『悪魔のデスゲーム』に参加したことがあるのだという。
更にその男について調べていくと……何度もデスゲームに参加して、そして、その度に生還しているらしい、という話を聞くことができた。
そして……遂に、つぐみは『井出亨太』とSNS上でやり取りをすることができたのである。
『悪魔のデスゲーム』に参加しようとしている者のふりをしてやり取りをする内に、彼から情報を引き出すことができた。
……つぐみの弟を殺した、と。
そして、つぐみは『悪魔のデスゲーム』に参加することになった。
より多くの真実を手に入れるため。
そして……『井出亨太』を、殺すため。
『悪魔のデスゲーム』は、噂に漏れず、中々に悪辣なゲームであった。
誰かを犠牲にしなければ攻略できないような迷路。
裏切りを推奨するような仕組みのゲーム。
そして何より……人が死ねば死んだだけ自分達の望みに近づけるシステム。
……実に悪魔的だ。趣味が悪い、とも言える。このシステムを考えたのが、『井出亨太』であるらしい。
彼もまた、このゲームに参加していた。大広間に集まった人達の中、一番おどおどとして卑屈そうに見える男が、『井出亨太』だ。彼は自らが設計したデスゲームに参加することで、盤面を荒らし、楽しんでいるという。
……許しがたい。
必ずや、殺す。
つぐみはそう意を決して……そ知らぬふりで、井出亨太に近づいたのである。
つぐみも光も、生き延びた。
……積極的に井出亨太以外の誰かを殺す気は、あまり無かった。だがそれでも、人はどんどん死んでいった。
震えながら錯乱していた大学生らしい青年は、女子大生に襲い掛かったところを中年男性に取り押さえられ、そのまま揉み合いになった末、熱湯に落ちて死んだ。
その中年男性は、何者かに銃で撃たれて死んだ。女子大生が水槽の中で死んでいるのが見つかった。派手な見た目の女性がいつの間にか血を流して死んでいた。
つぐみに襲い掛かってきたチンピラ風の男を、光が調合した毒で殺した。自分と光は、『無敵時間』の異能とそのコピーで生き延びた。
……そして。
……そんなつぐみの胸を、ナイフが刺し貫いた。
壁から生え出た腕が、つぐみの胸にナイフを突き立てているのが見えた。
そしてその腕の先に、肩があり、首があり……にやりと笑う井出亨太の、顔がある。
それを見た瞬間、つぐみはコピーしていた異能を用いて、井出亨太の顔面に炎の盾を圧しつけた。
井出亨太は、容赦なく顔面を焼かれて怯んだ。そしてそこに、光が容赦なく銃弾を打ち込んで、井出亨太は死んだ。
……そしてつぐみもまた、死にゆく状態にあった。
光がつぐみの名を呼んでも、返事ができなかった。つぐみは『復讐ってこんなもんか』とぼんやり思いながら、達成感とは程遠いものを感じていた。
やり残したことが、山ほどある。
知っただけで、どうにもできなかった真実を持て余している。
それに……今、自分に縋りついている恋人を置いて逝くのは、あまりにも、悔しい。
大声を出すタイプじゃないのに、柄にもなく泣き喚いている恋人。恋人の初めて見る一面に、つぐみは思わず笑みをこぼした。
ああ、只々、悔しい。
悔しいのに、上手くやれなかったのに……『もう一度』は、無い。
悔しい。
……それが、今から50年ほど前のことである。
魂、というものになってしまってから、つぐみはただぼんやりと揺蕩っていた。
どこかで生きているのかもしれない弟のことは気になったし、死に別れてしまった恋人のことも気になったが、魂だけになってしまったつぐみの意識が浮上することは稀で、どれくらい時間が経ったのか、今どこにいるのか、そんなこともよく分からないままにつぐみは過ごしていたのである。
……そんなつぐみの意識が、ある時はっきりと浮上したのは紛れもない奇跡だった。
だがその奇跡を奇跡と認識することもできないまま、つぐみは周囲を見回して……。
「おお、見つけた見つけた。お客さんですね?ここら一帯で一番深い無念を抱いていらっしゃるのは」
にやり、と笑う天使の姿を見つけた。
……否。本当に天使だったかは、怪しい。極めて、怪しい。彼の背には翼があり、頭の上には光る輪があったが……そんなものが吹っ飛びそうなくらいの筋骨隆々の体躯と、『安全第一』のヘルメット。そしてその手には、ツルハシ。
どう見ても、天使っぽくない。天使の要素がちゃんとあるのに、それ以外の部分が悉く天使っぽくないのである!
「ああ、驚かせちまいましたね。私は『キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部』の……あ、時間があまり無えですか。うん」
つぐみが尚も混乱してぽよぽよと揺れていると、目の前の天使っぽい天使っぽくない大男は、ちょっと困ったように頭を掻き……それから、つぐみに笑いかけた。
「私共はですね、建設も解体もやっております。実績も十分。安心と信頼のキューティーラブリーエンジェル建設ですんでね。最近解体したモンですと、悪縁ですとか、外来種に侵略された生態系ですとか……あと、『悪魔』とかも解体しましたよ」
詳細は、分からない。悪縁の解体って何だろうか。生態系の解体……は、環境保全のようなものか。
そして、『悪魔』の解体、とは……。
「……駒井つぐみさん。あなたの無念を、解体して差し上げることも、できます。いかがなさいますかね?」
更に、『無念』を解体する、などと言われては、つぐみは困惑するしかない。
……全く意味が分からない。だが……同時に、何か分かったような、そんな気もした。
少なくとも、これは希望だ。つぐみはそう、理解した。
そう。希望である。
そう感じると同時に、今まで澱みの中を揺蕩うようであった意識が、はっきりと浮上した。
「お願いします」
つぐみははっきりと、声を発していた。
魂だけになっても、意志は、心は、ここに在る。
「『悪魔のデスゲーム』を解体してください。もう誰も、犠牲にならないように。それから……」
心が在るから、つぐみは……只々、苦しく思う。
「……宇佐美光を、助けてください。私に縛られているみたいだから」
それからまた意識は途切れ、そして、次に意識が戻った時、つぐみにははっきりと景色が見えていた。
急激に切り替わった状況。妙にはっきりと、それでいて歪んで見える景色は、どこかで見たような大広間のもので……。
……そして、つぐみは思い出す。
この大広間は、自分が飛び込んだあのデスゲームの会場ではないか、と。
そして周囲を見回してみれば……見覚えのある顔が並んでいる。
熱湯に落ちて死んだ、神経質そうな男子大学生。
水槽に沈んで死んだ、気弱そうな女子大生。
派手な格好をした女性も、チンピラ風の男も居る。
険しい表情の老人と、ガタイのいい青年には見覚えが無いが……そんなことはどうでもいい。
つぐみが居たのだ。光と共に。
……光は、つぐみの目の前の、つぐみではないつぐみを守るようにして立ち、そして、つぐみを睨む。
まるで、敵を睨むかのように。
つぐみはその瞬間、我を失ったように感じた。
冷静に物事を考えられていないような自覚はあるが、その自覚さえ、どうしようもない憎悪に掻き消されていく。
『何もかも壊しやがって』と、頭の中で叫ぶ声がある。
ああ、実にその通りだ。あの偽物のつぐみは、つぐみにとって間違いなく、『何もかも壊しやがった』存在だ!
アレは悪魔が生み出したものだろうか。つぐみから、つぐみの肉体も立場も恋人も、全てを奪うために?
……だとしたら、アレはつぐみが仕留めなければならない。この手で。確実に。
だからつぐみは腕を振り上げる。狙いは偽物のつぐみだ。
……だがガタイのいい青年が、何か叫びながらつぐみを止めた。だが、つぐみはすぐさま矢を放つ。……何も考えずとも、矢を放つことができた。そして、つぐみはそれを疑問にも思わない。
それからも数度、青年とぶつかり合い、その度につぐみは何かを思い出しそうになり、しかし、その度に意識に靄が掛かった。
つぐみは意識を手放すまいと、必死に戦う。
戦って、戦って……取り戻すのだ、と、手を伸ばす。
誰も死ななかったデスゲーム。
自分の隣に立っている恋人。
……『上手くやれた』自分。
まるで手の届かない星のようなそれらに手を伸ばすべく、つぐみは必死に手を……『鋏』を、伸ばした。
偽物のつぐみに向かって。
「なんで!私に使ったの!」
つぐみの声が聞こえる。それは、偽物のつぐみの声であり……今、ここに居るつぐみの声でもあった。
つぐみの手の中で、光が半身を切断されていた。
つぐみが、光を殺したのである。
それを自覚した時にはもう、つぐみの体は動かなくなっていた。
……否。体ではない。
ボロボロになった……蟹のような形状の、ロボットのようなもの。それが、今のつぐみだった。
それが分かるくらいに、つぐみの意識ははっきりしていた。
泣き叫ぶ自分自身の姿が、はっきりと見えていた。
自分の手で最愛の恋人を殺したことも、はっきりと分かった。
……『偽物』は自分の方だと、ようやく理解できた。
どぷり、と、足元から泥に沈んでいくような、そんな感覚があった。
「待ちくたびれたが、待った価値はあったな」
続いて、声が聞こえる。聞いたことがあるような、無いような……そんな声だ。
「絶望し切った魂……ううむ、間違いなく、最上の味だろう!」
つぐみは呆然としながらも、『ああ、悪魔の声だ』と思い出す。だが、思い出したところで、つぐみがどうこうすることはない。何故ならつぐみは『絶望し切った魂』であるから。
「では早速……」
つぐみに悪魔の手が伸びてくる。つぐみは抵抗する気力すら無いまま、悪魔の手が伸びてくるのを待ち……。
「おい。その魂は先約があるって言ったよな?」
……ふと、別の声が聞こえた。
「先約だと?お前、一体何の権利があって……」
悪魔の、狼狽する声が聞こえる。つぐみはぼんやりと、『何かあったのかな』と思う。
それからもやり取りは、『その魂は確かに……』『しかし私が先に……』と、何か続いていて、しかしはっきりとは聞き取れない。
はっきりと聞き取る気力も無いつぐみは、ただぼんやりしていたのだが……。
「駒井さん!駒井つぐみさん!」
そんなつぐみが、ぺちぺち!と叩かれる。
……魂だけになったつぐみが、ぺちぺちされることになるとは!つぐみは、思わずはっとした。絶望しきっていたはずのつぐみだが……目の前でにやりと笑う相手を見て、何故か、意識がはっきりしてきたのだ。
「まだ解体は終わっちゃあいませんよ。うちの若いのがまだ、頑張ってるんでね」
目の前の、天使らしからぬムキムキは、またにやりと笑ってみせて……そして、むんず、とつぐみを掴んだ。
つぐみを、掴んだ。……魂なのに!今のつぐみは、魂なのに!掴まれちゃったのである!
「そういう訳で、駒井さん。悪いんですが、もうちょっとばっかり、お待ちくださいね」
捕まれちゃって困惑していたつぐみだが、ぽう、と胸の奥が熱くなるような感覚に、体を震わせる。
「あいつは必ず、この仕事をやり遂げます。キューティーラブリーエンジェル建設の名に懸けて!」
……希望だ。
これは、希望である。
絶望しきった魂すらも掬い上げんとする希望が、今、つぐみをもう一度、奮い立たせた。
「宇佐美さんも頑張ってますから。もう少しの辛抱ですよ」
「光が……?」
……つぐみは、ふと、自分が光を殺したことを思い出して叫びそうになった。だがそんなつぐみにまた、目の前のムキムキは笑いかけ……そして、世界が白く輝き始める。
「そろそろ時間だ。……なあ、駒井さん。絶対に、絶対に諦めないでくださいね。私どもが、必ずや……」
そして、目の前のムキムキも、何もかもが白く塗り潰されていって、そして……。
……そして、つぐみはまた、とろとろと微睡むように、意識を失っていく。
しかし、その胸の内には希望があった。
何度微睡んで、何度目覚めても、きっとつぐみはこの希望を思い出す。
そして……いつまでも、忘れない。
『かにたま』になっても、つぐみはこの希望を忘れないままでいるだろう。




