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終わった後:社員旅行*1

 その日、樺島剛は浮かれていた。浮かれるあまり、ちょっと浮いていた。先輩方からは『おう樺島ぁ、あんま浮かれんなよ。3㎝ぐらい浮いてるぞー』とご指摘いただいたが、それでもやっぱりふわふわしていた。

「へへへ……社員旅行、社員旅行……えへへへ……」

 ……そう。それは、バカがとっても楽しみにしている社員旅行がやってくるからである!




 キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部では、年に2回ほど社員旅行を実施している。

 それ以外にも有志による『ちょっと目玉マグロ釣ってこようぜ旅行』や『ちょっと魔界のイノシシ狩ってこようぜ旅行』が計画実行されることはあるが、フローラルムキムキ支部全体として行っている旅行は年2回程度だ。3回の時もあるらしい。そこらへんは暇具合と気分による。

 そして今回もやってきた社員旅行だが……行先は、某県某所の山の裾の方である。

 ……今までにも川でニジマスを駆除して食べたり、池でカミツキガメを駆除して食べたりしているキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の面々であるが、今回は、人里に下りちゃう熊を狩って食べちゃう予定である。

 尚、これについては親方や先輩天使達が『狩猟力天使免許』を持っているので大丈夫だ。尤も、猟銃など使わないだろうが。

 ……そして、この『狩猟力天使免許』について主催の悪魔と話していた時、主催の悪魔は『ところで天使は免許制なんだな……?』と不思議そうにしていた。どうも、悪魔は免許要らずで悪魔になれるらしい。バカは『逆に悪魔って免許無いのぉ!?どうなってんだ!?』とびっくりした。

 まあ、天使も悪魔も、色々あるのである。




 ……ということで、旅行前夜。

 バカは元気に荷造りしている。その荷造りを見守っているのは海斗だ。

 海斗は今晩、バカの部屋にお泊りする。というのも、天使達の社員旅行は出発が早いのである。そして海斗も、『バイトだって俺達の仲間だ!社員旅行に参加していいに決まってるだろうが!ジャンジャン参加しろ!人数は多い方がいい!』という親方の一声で参加が決まったので、朝が早いのである!

 ということで、『まあ、家で支度をして羽を振って来ても間に合うだろうが……』と渋る海斗をバカが半ば強引に誘い込んで、今晩から海斗はキューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部入りしているのである!

 ……海斗自身が朝早い出発に備えてお泊りする、という目的以上に、海斗が朝、バカを起こす係になるという目的が強いが。


「えーと、着替えと、歯ブラシは旅館にあるって聞いたからよくってぇ……あとエプロン……」

「え、エプロン……?持っていくのか?」

「うん。熊捌く時にさぁ、やっぱり汚れるからさぁ……」

「やっぱり捌くのか……。僕が聞いた『熊鍋楽しみだなあ』という先輩方の声は、やっぱり狩って捌くことを前提にしたものだったのか……」

 海斗は慄いているが、バカはしれっとしている。天使の常識は人間の非常識。ヨシ。

「それからポケモン持ってこうかなぁ」

「僕は持っていかないから対戦はできないぞ。いいのか?」

「そっかぁ、ならやめとこ!代わりにトランプ持ってく!あとおやつ!」

 バカは夜、旅館で夜更かしする気満々なのであった。まるで修学旅行前の中学生か何かのように、そわそわそわそわ!と落ち着きが無い。

「……ところで今回、ミナさんも参加するらしいな。あと、天城さんとかにたまさんも参加すると聞いたが」

 一方の海斗も、そわ……と少々落ち着かな気である。海斗は海斗で、『友達と一緒に行く旅行』が初めてなのでそわそわしているのだ。

「うん!ミナも社食のバイトやってるから参加権はある!ってことで!あと、熊の調理担当!で、天城のじいさんとかにたまは社員だから参加するし、ヒバナとビーナスも来るし、あと、陽とたまは『社員本人みたいなもんだしいいだろ』ってことで参加する!」

「待て!それはいいのか!?」

「え、うん。いいだろぉ、取引先ってことで土屋のおっさんも参加するしぃ……」

「それもいいのか!?」

 海斗はそわそわしていられなくなってきた。何せ、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部は懐が深い。深すぎる。深すぎて何もかも飲み込んでいくそのスタイルによって、あのデスゲームに参加していた面子は全員揃いそうであった。

「あと木星さんは備品だから持ってくって」

「参加じゃなくて持参なんだな」

 ……木星さんまでしっかり揃ってしまうので、いよいよ頭を抱えんばかりとなっている海斗であるが、バカは只々、『楽しみだなー!木星さんキャノンがあれば熊くらい簡単だもんなー!』と浮かれている。

 ところで最近、かにたま装備として『木星さんキャノン』が開発された。木星さんを打ち出すだけの機構なのだが、火薬を用いることなく、かにたまの気合だけで木星さんを打ち出せるエコロジーでエコノミーなキャノンとして話題である。今回の熊狩りは木星さんキャノンのお披露目式でもあるのだ。

 ということで、かにたまも俄然やる気であると聞く。バカは只々、『楽しみだなー!』とにこにこそわそわしながら、海斗に『僕はもう寝るぞ!』とせっつかれて慌てて荷造りを済ませていくのだった。




 翌朝。先に起きたのは海斗ではなくバカである。おはよう!

 何せこのバカ、寝起きがいい。目がぱっちり覚めたらその0.1秒後には鋼鉄の首輪を引き千切れるぐらいには寝起きがいいのだ。

 そして何より、楽しみにしている社員旅行当日の朝に起きられない訳がないのであった!だってバカだから!

「おはよう!海斗!おはよう!」

「んー……」

 ……一方の海斗は、然程寝起きが良くないらしい。ころ、もそ、とベッドの上でもだもだしている。

「おはよう!おはよう!おはよう!うおおおおおお!キューティーラブリーエンジェル建設ぅうう!ああああああ!キューティーラブリーエンジェル建設ぅううう!あああああああぁぁぁぁああぁぁぁあぁ!」

「うるさい……」

 だが、そんな海斗も流石に、すぐ横で翼をバッサバッサと動かしながら大声で歌うバカが居たら起きざるを得ないのであった!『最悪の目覚めだ』というような顔をしつつ、もそ、と起き上がってじっとりとバカを睨むのであった!




 寝起きでゆるゆるしていた海斗も、起き出して身支度を整え始めればすぐにしゃっきりとしてくる。その内、『ほら、寝癖付いてるぞ。整えてこい』とバカのケツを叩く係をキッチリこなしつつ、海斗自身もちゃんと身支度を整え終えて、そうして時間に余裕をもって玄関を出ることができたのであった。

「あっ!ヒバナ!おはよう!おはよう!おはよう!」

 そして玄関を出てすぐ、隣の部屋から出てきたヒバナと出会う。……が、ヒバナは出会ってすぐ、ものすごい形相でバカを睨んできた!

「おいテメエ!朝っぱらからうるせえんだよこのバカ!テメェの歌で起こされるこっちの身にもなれってんだ!」

「えっ!?あっ!ごめん!俺、歌っちゃった!ごめん!ごめんなぁ!」

 ……どうやらヒバナは、さっきのバカの『キューティーラブリーエンジェル建設社歌』の熱唱によって起こされてしまったらしい。恐らくヒバナはギリギリまでは寝ていたかっただろうに、余裕を持って支度したい海斗と元気が有り余るバカに合わせた時刻に起こされてしまったのだ!

「ごめんよぉ……」

 バカはしゅん、としていたが、ヒバナはそんなバカのケツに軽く蹴りを入れると、そのままスタスタ歩き始めた。『これで勘弁してやる』ということだろうと思われるので、バカも気を取り直しててくてく歩いていく。


 そうして集合場所である朝礼台前へ向かうと、そこにはもう、そこそこの人数が集まっていた。

 そしてその中に、ミナとビーナスが居るのを見つけてバカはにこにこ近づいていく。

「あっ!皆さん、おはようございます!」

「おはよー!ミナとビーナスももう来てたんだな!」

「ええ。昨夜、ミナは私の部屋に泊まってたのよ。おかげで起こしてもらえて助かったわ」

 どうやら、ミナとビーナスも、海斗とバカのようなことをやっていたらしい。バカは『女子2人仲良しでいいなあ!』とにこにこした。

「翔也はもっとギリギリになるんだと思ってたけど」

「……隣の部屋がうるせえんで起こされちまった」

 ビーナスは『ああ!お隣、バカ君だものね!』と笑っているが、ヒバナは苦い顔である。バカはにこにこしている!


「土屋さんは現地集合らしいわよ。なんでも、現地でちょっとお仕事あるらしくってね。熊狩りの頃に来るって言ってたわ」

「それから、陽さんとたまさんは、天城さんとかにたまさんのお部屋に泊まってらっしゃるらしいので……あっ、いらっしゃいましたね!」

 ……他の面子の話も出たところで、ふと、ガション、ガション、と音が聞こえてくる。

 おや、と思ってそちらを向けば……なんと!

「わあああああ!新蟹線だぁあああああ!」

 かにたまボディNo9こと新蟹線がやってきていた!




 それから親方による挨拶と『社員旅行前の注意事項』があり、皆で社歌を歌った。『折角なので熊の絶望を食べに……』と社員旅行に参加することを決めたらしい主催の悪魔も、そっと社歌を歌っていた。すっかり馴染んでいる!

 朝礼が終わったら、早速、皆で新蟹線に乗り込む。……新幹線型のかにたまボディである。乗り込まれる側のかにたまは、かにかに!と非常にやる気に満ちていた。尚、最大積載量は100トンらしい。強いぞかにたま!


 天城は運転席という名のナビ係席に着席して、その他の社員や社員じゃない面々は、ぞろぞろとそれぞれ適当な席に座っていく。

 バカは海斗とヒバナを引っ掴んで自分の両隣に連れていくと、その後ろの席にミナとビーナスを呼んだ。

 座席をくるんと反対方向に向ければ、5人が向かい合って座れるので……。

「トランプやろうぜ!な!な!」

「早速か……」

 バカは早速、荷物からトランプを出してくるのだった!旅行の移動中はこれに限る!




 そうしてババ抜きだの大富豪だのをやって、一通りバカが負けた後、スピードでバカが圧勝したり、バカがカードを出すときの摩擦熱でも燃えないトランプがかにたまボディと同じ材質であることが判明したりしたところで……。

「速いな、新蟹線……」

 海斗は、窓の外の景色が凄まじい速度で流れていくのを見て、何とも言えない顔をしていた。

「180足歩行は伊達じゃねえ!って先輩が言ってた!かっこいいよなぁ!かっこいいよなぁ!」

 今も皆を乗せた新蟹線は、かにかにかにかにかに!と凄まじい速度で走行中である。かにたまは気合が入っているのだ。気合が入ったかにたまはなんでもできる。時速300㎞ぐらいは簡単に出せるのである。

「これなら目的地まですぐだよな!」

「ああ……すごいな、本当に……」

「だよなぁ!かにたま、すごいよなあ!」

 バカが元気にかにたまを褒めれば、窓の外でかにたまの鋏が、かにかに!と元気に動くのが見えた。聞こえているらしい。

「……ところでこれ、どこ通ってんの?」

「え?空だろ?」

 尚、窓際のビーナスや海斗が遠い目をしながら窓の外を眺めている訳だが……窓の外を流れる景色は、その大半が空である!

 ちょっと下の方を見れば、田園や山が見えるのだが……まるで、飛行機から見るかのような景色なのである!

 そう!今、新蟹線は……空に走る一条の線路の上を、かにかに!と走っているのであった!

「『JR上空』さんにお願いして線路貸してもらったんだって天城のじいさんが言ってた!」

「JR上空……?」

「うん!JRは日本の右半分が大体JR東日本とかだろ?で、左半分が大体JR西日本で、上半分はJR上空!あと近畿とか東海とかもある!親方に教わった!」

 バカは自分が知っている知識を出して満面の笑みであったが、海斗もビーナスもヒバナも、何とも言えない顔である。

 ミナだけは、『わ、わあ……つまり、下半分は、『JR地下』さん……?』と頭の上に?マークをいっぱい浮かべつつも必死に理解しようと頑張っているのだった!




 そうして新蟹線による移動が終わったら……いよいよ、社員旅行が本格的に始まる。

「わー!山だ!山だぁー!」

 そう。山である。キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部御一行様は、山へと踏み入り……そして。

「かにたまのボディチェンジ完了!」

「木星さんキャノン装填完了!」

「前方5㎞に熊の気配!行くぞー!」

 天使達は、それはそれは大いに盛り上がりつつ山の中を突き進んでいく。

 それはただ、人里に出そうな熊を狩るために!そして、『人里の方に行くとこういうことになるぞ!』と熊や鹿に分からせるために!

「俺も行ってくるー!」

「あ、ああ、行ってくるといい。僕は遠慮しておこう……」

「私はここに残ってご飯の準備を進めます!樺島さん、頑張って来てくださいね!」

 バカも早速、ぱたぱたと羽ばたいて先輩達とかにたまに続いていった。ヒバナとビーナスは『何なんだあれは』という顔をしているし、海斗はなんだか諦めたような顔をしているし、ミナは先輩と一緒に、元気にご飯の支度を始めるらしい!

 ついでに、かにたまの魂が抜けた新蟹線からようやく下車してきた双子の乙女や、双子の乙女に付き添ってきたらしい陽とたまもやってきて、一緒にご飯の準備を進めたり、はたまた、『ところで皆、最近の調子はどう?』と雑談を始めたりし始める。

 大きな鍋や、熊と一緒に煮る予定の野菜類などが運ばれてきて、食事準備担当達はそれはそれで忙しくなるが、それはそれで楽しいのであった。

 ……食事準備担当として残った面々には、『うおおおおお!獲ったどぉおおおお!』というバカの雄叫びが聞こえてきたり、はたまた、『わあああああ!木星さんが!木星さんが誤射されたあああああ!』と悲鳴が聞こえてきたりしたが、まあ、最早慣れたものである。

 そう。誰もが、『ああ、また樺島がやってるな……』と思うばかりなのであった!




 そうして小一時間で、熊狩りが終了した。狩られた熊は3体であった。とんでもないハイスピード狩猟であったが、むしろ、この人数の天使達とかにたまを前にして、よく小一時間も熊達は持ち堪えたものである。

 狩られた熊は天使達の熟練の技によってさっさと解体され、お肉になった。

 その他、骨や毛皮などの非食用部位は天使達が『骨欲しい!』『毛皮欲しい!』『絶望!熊の絶望が美味!美味であると聞いて!』というように申告し合って分け合って、それぞれ彼らの手に収まることになった。

 それでも不要な部分については、かにたまの新機能である『かにたま焼却ビーム』で焼き払った。尚、かにたまビームはかにたまの気合で出る。そして、かにたまの気合はかにたまの恋人である天城が『頑張れ』とかにたまを撫でてやることによって充填されるらしい。非常にエコなエネルギーなのである。


 出来上がったお肉はかにたまの新機能である『お肉熟成ビーム』を浴びて程よく美味しくなった。この新機能があるおかげで、最近のかにたまは社員食堂の年間無料パスを手に入れている。社食で使うお肉を熟成させて美味しくする代わりに無料で社食を楽しめるようになったかにたまなのであった。

 そうして今日も美味しくなったお肉は、調理班によって調理されていく。

 今日のメインは熊鍋だ。こちらは例の先輩天使が腕によりをかけて作ってくれているので、間違いのない味に仕上がっていることだろう。

 ミナも彼を手伝ってにこにこ嬉しそうにしているし、主催の悪魔も『熊の絶望、美味であった……!』とうっとりしながら熊カツを揚げているところだ。

 尚、これら調理のための熱源はかにたまの気合で賄っている。エコである。




 さて。そんな調理風景を眺めながら、バカは先輩天使達と一緒に『あああああ!キューティーラブリーエンジェル建設ぅううう!あぁぁぁあぁぁぁああああ!』と社歌を熱唱していたのだが。

「未来の自分が蟹ボディに入って色々有効活用されてるのを見ると、なんだか……うん」

 たまが、ふと、かにたまに近付いていってそのボディを撫でているのを見つけて、バカはそっと、たまの横にやってきた。

 ……たまからしてみたら、かにたまのこの状態はあんまり嬉しくないのかもしれない。バカはこの、あまりにも有効利用されているかにたまを見て、『うおお!かっこいい!』と思うばかりなのだが……皆が皆、自分と同じ考え方をするわけではないのだ、ということは、バカも知っているのだ。

 だが。

「うん。かっこいいよね」

「そう。ちょっと羨ましい」

 ……陽がそっと話しかけてたまに微笑みかければ、たまも、嬉しそうに笑って頷く。

 どうやら、たまの基準では『かにたま、かっこいい。羨ましい』ということらしい!陽の顔を見る限り、陽は『まあ、彼女が喜んでいるならそれで……』というところなのだろうが。

「それに、天城さんと仲良しなのもいいなあって思う」

「俺達も仲良しじゃない?」

「うん。そうなんだけど、おじいちゃんと蟹になっても仲良しなのはまた別だと思う」

 たまと陽はくすくす笑い合いつつ、なんとも仲睦まじげだ。バカはそんな2人を見ていると嬉しくなってきてしまうので……また、先輩達と一緒に社歌を歌い始めるのであった!




 そうこうしている間に美味しい料理が次々と完成していき、そして、できた端から皆でどんどん食べていくことになる。

 何せ、熊3体分のお肉である。ついでに、『暇だったからもうちょいとってきた!』という先輩天使達によって鹿肉とイノシシ肉まで追加されてしまったところである。となれば後はもう、食べるしかあるまい。

「いただきまーす!うわあああうめえ!うめえ!うめえ!」

「落ち着いて食べろ」

 バカはそれはそれは騒がしく食事を食べ進めていく。海斗に後頭部を叩かれてからは静かになったが、声に出ない分、羽がぱたぱたと背中で煩い。海斗は『これを止めろと言ったら次は這い回り始めそうだしな……』と諦めのため息を吐いた。

 と、そんなところでふわりと空からやってくる人影がある。

 するとそこには、親方の名刺を持っている土屋が居たのであった。どうやら、親方の名刺で飛んでこられる先をこっちに設定し直してもらっていたらしい。

「いやあ、すっかり遅くなってしまったが……今からでも参加はできるだろうか」

 土屋は仕事からこちらへ直行してきたようで、草臥れた顔をしていたが……草臥れている暇など無いのである。何せ、土屋を見つけた途端に駆け寄ってくるバカと……ミナまで居るので!

「土屋のおっさん!よかった!来てくれたんだな!」

「土屋さん!どうぞ!沢山食べていってください!どんどんできますから、どんどん食べて!」

 ミナはすっかりキューティーラブリーエンジェル建設社員食堂に馴染んだ。その結果、『沢山作って沢山食べさせる!おお、キューティーラブリーエンジェル建設!』と意気込んでいるのだ。今、空腹でやってきたのであろう土屋を、そんなミナが見逃すわけがないのであった!

「さあさあ、土屋さん!こちら、熊カツです!悪魔さんが揚げた揚げたてですよ!それからこっちは熊カレー!こっちは熊鍋です!そしてこっちはしぐれ煮!こっちは角煮風にしてみたものです!今、熊煮込みハンバーグが作られていますから、そちらは出来立てを待ってどうぞ!」

「おお、大量だな……」

「鹿とイノシシもありますよ!そちらもどうぞお楽しみに!」

 ミナは生き生きと、何品もの料理が乗った盆を土屋に渡すと、また先輩の元へ戻っていき、熊ステーキの仕込みに入るのだった。


「天使の社員旅行、というからどんな具合かと思って来てみたんだが……」

 そうして土屋は、盆を手に笑いながら言った。

「概ね、あの時のデスゲームのようなものだな!」




 ……こうして、夕方まで天使や天使じゃないのを含めた熊肉パーティー(鹿とイノシシと、近所の方から分けて頂いたお野菜もあるよ!)は続いた。

 天使も悪魔も人間も、楽しく飲み食いして……こうして、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部の社員旅行のメインイベントである熊狩りは、恙なく終了したのである。


 が、社員旅行はこれで終わらない。何故ならば次のイベントが待っているからだ。

「よし。じゃあ早速、旅館増築するぞ!」

 ……そう!この社員旅行、やはりただの社員旅行ではないのである!

 食事については、食材現地調達、現地調理!

 そして旅館も……現地で増築するのだ!


 まだまだ終わらない社員旅行に、バカは『うおおおおお!楽しいぃいいいい!』と雄叫びを上げていた。

 そして、社員旅行初参加の面々は、只々、圧倒されたり、茫然としたり、苦笑したり混乱したりしているのであった。

 おお、キューティーラブリーエンジェル建設、ああ、キューティーラブリーエンジェル建設……。


つづく!

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― 新着の感想 ―
もうすべてが楽しい……ニッコリ…… あと新蟹線の足捌きを見てたら酔いそう……酔えるほど見えるスピードなのかは気になるところですが。
かにたまが楽しんでてほっこりする かにたま夫婦をモチーフにカイトくんが老人と海ならぬ老人と蟹を書く未来。
面白くて一晩かけて最新話まで一気に読ませてもらいました! 所々気になる描写があったものの、そういうものかと思ってた主人公の身体能力にちゃんと世界観に沿った理由があってとてもびっくりしました。 愛と…
感想一覧
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