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終わった後:某コンビニの駐車場の脇

 さて。これは、全てにケリをつけてソフトクリームを食べることになった時の彼らの話である。




「やっぱりバニラ?バニラか?今の期間限定は……わー!社員マスカットだぁ!……社長マスカットとか、非正規社員マスカットとかもあんのかなあ……聞いたことねえけど、やっぱり俺が知らないだけだよなあ……?」

「ねえよ!このバカが!」

 ……バカ達は、ぞろぞろと12人プラス蟹たまで、ミニストップへ来ていた。

 そしてバカはバカなので、『社員マスカット』という新しい果物を想像していたが、ヒバナにすぱしん、と頭を叩かれて我に返った。

「樺島さん。あの、『シャイン』は多分、会社員のことではなく、太陽とか、そういう意味の『シャイン』だと思いますよ……?」

「そうなのかぁー……アッ!?じゃあもしかして、『キラキラサンシャイン支部』の『シャイン』も『社員』じゃなかったのか!?」

「多分合ってると思うよ。私達は『キラキラサンシャイン支部』を知らないけれど……」

 更にバカはバカにしては奇跡的なひらめきを発揮したのだが、今一つ共感を得られなかった!




 バカが『キラキラサンシャイン支部は、栃木県北部の支部だぞ!皆、皿とか壺とか作るのめっちゃ上手い!』と熱く語る一方で。

「じゃあ、シャインマスカットソフトの人ー。はい、はい……じゃあバニラの人ー……何よ、皆、そんな迷う?」

 ビーナスが全員の希望を採ろうとし始める。皆、『折角なら期間限定のものがいいか……』『やっぱり期間限定が気になるよね。でもミニストップのソフトクリームはバニラもシンプルながら美味しいって評判だよね』『じゃあ俺バニラにするから半分こしようか』『私達も半分こ』『双子でよかった』と話し合いつつ、それぞれ希望を決めていく。

「……あー、牡牛の悪魔。君、バニラでいいのかな……?」

「ああ。家内が作るもの以外のバニラソフトも久しぶりに食べてみたくなったんだ。そうすると妻が作るものの味がより一層分かるようになるからな」

「愛妻家なんですね。ふふふ……」

 ……まあ、色々とそれぞれ迷いながら、『僕はシャインマスカットで』『俺はバニラでいい』『翔也は迷うのがカッコ悪いからってバニラに決めがちよねえ……。あ、私はマスカットがいいわ』などと決めていく。

「樺島。お前はどっちだ?」

「俺!?俺、ミックスがいい!どっちも食べたい!いっぱい食べたい!」

「……そうか、そういう手もあるのか。なら僕もそうするか……」

 ……欲張りさんも当然居るので、ミックスも人気である!




 そうして皆でソフトクリームを順番にカウンターで受け取って、お店の外、駐車場の脇、皆さんの邪魔にならないような位置でソフトクリームを食べ始めた!

「……午前中から食べるソフトクリームというのも、悪くないな」

「なんだか、とんでもない贅沢してる気分だよね。そう思わない?……蟹の私もそう思うでしょ?」

 天城が穏やかに笑い、たまが悪戯っぽく笑い……そして、蟹ロボもカニカニ頷きながらソフトクリームを食べている!そう!カニカニやりながらちゃんと食べている!ロボなのにソフトクリーム食べている!バカは『なんかすげえ!』と感動した!

「たまと蟹たまはシャインマスカットで、陽と天城のじいさんはバニラかぁー。……あっ!?もしかして分けっこしてる!?」

「うん。俺とたまはよくやるよ」

「2種類食べられてお得だよね」

 陽とたまは、それぞれに食べられるスプーン片手に相手のソフトクリームをつついている。……若干、たまが持っていく量の方が多いだろうか。まあ、それを見ている陽はほくほくと嬉しそうなのだが。

「天城のじいさんもか!」

「……まあ、私も、昔は同じことをやっていたのでな……」

 天城がなんとも恥ずかしそうにそう言うと、蟹たまは横で、カニカニ、と嬉しそうに頷いた。ここ2人もソフトクリームの分けっこをしているらしい。大きな鋏でちっちゃなスプーンを器用につまんで天城のソフトクリームをつついている蟹たまを見ていると、バカは『なんか可愛いよなぁ……』と思うのだった!




「ところでミナはシャインマスカットの方にしたんだな!」

「え、あ、はい。多分、こっちの方が低エネルギーだろうと思いまして……その、デスゲームでご飯、食べ過ぎちゃいましたから……」

 ミナはいじましい努力をしているらしい。が、『バニラもおいしそうですね……』と、ヒバナのソフトクリームを見て何とも言えない顔をしている。欲望に負けそうである!

「ミナ、どうする?今日この後、うちの会社そのまんま来るか?」

「へ?」

「社員食堂に就職!するんだろ?な!」

 さて、そんなミナはさておき、バカはミナにぐいぐいずいずい迫っていく。が、ミナはわたわたと慌てて、顔の前で手を振った。

「あっ、あの、流石に年度末まで待っていただきたいです。その……大学は、ちゃんと卒業したいので」

 ミナの返答に、『そっかー、じゃあ、半年くらいは待たなきゃかぁー』と、バカはちょっとしんなりした。キューティーラブリーエンジェル建設の社員食堂でミナが働いてくれたら、毎日あの鍋のような美味しいごはんを食べられる訳だから、さぞ幸せだろうと思ったのに……。

 だが。

「……でも、アルバイトでよければ、お手伝いに行きたいです。なので、その相談をしに……今日、この後お邪魔してもいいですか?」

 ミナは、そうおずおずと申し出てくれたので……バカは嬉しさのあまり、羽で『もふぅ!』とミナを包んでしまった!

「うん!やったー!ミナが来てくれたら嬉しい!やったー!」

「へ!?きゃっ、あの、あの、樺島さん!ふかふかです!くすぐったいです!わ、わわ!」

 ……バカはそのまま暫くミナを包んでいたが、ミナが『あとソフトクリーム溶けちゃいます!』と抗議したため『それは大変だ!』と我に返った。

 ソフトクリームは大事。それはバカにも分かることなのだ!




「土屋のおっさんはシャインマスカットかぁ!いいよな!」

「ああ。期間限定という言葉に弱くてね」

 土屋もミナと同じく、シャインマスカットソフトの方を選んでいた。『こういうのは久しぶりだなあ』と、ちょっぴり嬉しそうにソフトクリームを食べている!

「で、牛はバニラ!」

「ああ。ここのソフトクリームは中々美味いな。家内が作るものとはまた違うが、これはこれで美味い」

「うん!そうなんだよぉ!ミニストップのソフトクリーム、美味いんだ!俺、地上に出張になったら絶対にミニストップ寄ってるもん!」

 ついでに、牡牛の悪魔もソフトクリームを堪能していたので、バカは嬉しくなった。やっぱり、自分が好きなものを褒められると嬉しいのだ!


「ところで、土屋のおっさんと牛もうちの会社、来るか?」

「いや、私はこの後署に戻って報告だの聞き取りの準備だの色々あるからな。……さて、上層部にどう説明したものかなぁ……」

 土屋は遠い目をしつつ、ソフトクリームを食べて『これは美味いな……』とちょっと現実逃避めいたことをしている。まあ、土屋も大変そうなのでバカは『頑張れ!』と心の中でエールを送っておいた。

「そっかー。じゃあ土屋のおっさんが来るのはまた明日とか明後日とかだな?えーとじゃあ、牛は?」

「天使のところに行きたいとは思わないが……まあ、あいつを迎えに行く奴が必要そうだからな……行くか」

 土屋は今日来れないようだが、牡牛の悪魔は来てくれるらしい!バカは『賑やかになる!』と喜んだ!


「おーい、双子の!お前達はどうする?天使のところに行くか?私はあいつの回収に行くが」

 続いて、双子の乙女にも牡牛の悪魔が聞いてくれたが……双子の乙女は、しらっ、とした顔である。

「私達はいい。ソフトクリーム食べに来ただけだし」

「別にいい。社員食堂ができるまで用は無いし」

「逆に社員食堂ができたら行くつもりなのか……」

 牡牛の悪魔が何とも言えない顔をしている一方、双子の乙女はソフトクリームをつつきあって『しあわせ……』『しあわせ……』とうっとりしている。もしかしたら悪魔の世界にはミニストップのソフトクリームのように美味しいものが無いのかもしれない。バカはちょっぴり、双子の乙女達に同情した!




「で、ヒバナとビーナスはこの後俺と一緒に帰るだろ?」

「……あの連中のところに帰るのかよ……」

「……ええ、まあ、うん、そうね……」

 ヒバナとビーナスは何とも言えない顔をしていた。2人とも、就職するつもりではいるが、やっぱりなんとなく拭えない微妙な気持ちがあるのだろう。

「じゃあこれからよろしくな!えへへ、俺にも後輩ができた……」

 バカは人の話を聞いていないので、ヒバナとビーナスが『どう足掻いてもあいつ、後輩キャラだろ』『そうよねえ、私もそう思うわ……』と囁き合っていたことに気づいていないのだった!




「で、天城のじいさんと蟹たまも一緒でぇ……陽とたまは!?来るか!?」

 続いてバカはカップル2人に聞いてみた。すると……。

「いや、俺達まで就職したら流石に多いだろうし……俺達も、ミナさんと同じだよ。いずれにせよ、大学は出たいな」

「うん。私はその後の就職はちょっと考えてるけど」

「えっ」

 ……どうやら、たまは前向きにキューティーラブリーエンジェル建設への就職を考えてくれているらしい!バカはびっくりした!

「あそこに居れば、弟の魂の手掛かりが見つかりやすいと思うから」

「……そっかぁ」

 そうだ。そうだった。

 今回、バカは全ての願いが叶ったような気でいたが……皆で助かるために、たまは、自分の望みを諦めたのだ。

 バカはそれを思い出してちょっとしゅんとして、それからすぐ『じゃあ、今度は俺がたまの願いを叶えられるように協力しなきゃな!』と意気込んだ。

 バカは前向きなのだ。これがバカの美点なのである!




 ……そして。

「樺島」

 海斗に呼ばれて、バカは笑顔で振り向く。すると……。

「これ、僕の連絡先。お前、自分の電話番号すら覚えていなさそうだからな。だからこれで、お前から僕に連絡しろ。ほら」

 海斗は、ソフトクリームのコーンに巻かれていた紙に文字を書いたものを、ほら、と渡してきた。

 ……そこには、海斗のものらしい電話番号とメールアドレス、SNSのアカウント名などが簡潔に記してあり……。

「辰美、開斗……?」

 そう、名前が書いてあった。

 バカが、『海斗……開斗?うん?』と頭の上に?マークをいっぱい浮かべていると……。

「……僕の名前だ」

 海斗は耳の端を赤く染めながら、拗ねたような、照れたような、そんな様子でそっぽを向いてそう教えてくれたのだった!


「海斗って、ほんとに、『かいと』だったのか!?マジでぇ!?」

 バカは混乱した!だって、まさか本当に海斗が『かいと』だったなんて思わなかった!だって海斗は、バカが『俺、樺島剛!』と名乗った時、『本名を名乗ったのか……!?』ってびっくりしていたはずなのに!

「ああそうだ!くそ、お前の『一周目』の僕が何を思ったのかまるで分らないが……ああ、どうせ僕のことだ、『偽名を名乗っても、咄嗟にそれを自分のことだと認識できなかったら命の危険が生じる』とでも思ったんだろうな!それで海にこじつけて自分の本名を名乗ったってわけだ!多分な!」

 ……海斗がそう言い募るのを聞いて、バカはぽかん、として……それから、しみじみと頷いた。

「やっぱ海斗って頭いいんだなあ」

「しょ、小心者だと正直に言ったらどうだ!?」

「しょーしんものってなんだ!?初心者のことか!?」

「ああくそ、お前はやっぱりバカだな!」

 海斗はちょっと理不尽な怒り方をしているのだが、バカは一向に気にせず『海斗はすごい、海斗はすごい』とにこにこしているばかりである。

「まあ……だから、その、ちゃんと連絡しろよ?」

「うん!すぐ連絡する!寝るより前に連絡する!電話かける!」

 更に、海斗がぼそぼそと言ってくれたものだから、バカはもう、嬉しくて仕方がない!

 ああ、友達っていいな!




 そうしてバカ達はソフトクリームを食べ終えて、それぞれの帰路に就くことになる。

「じゃ、皆、これあげるな!ええと……よいしょ、と!」

 なので、解散する前に……バカは自分の翼から、羽根を引き抜き始めた!

「ちょ、ちょっと!バカ君、それ、抜いちゃっていいの!?」

「うん、いい……でもちょっと痛かった……」

 バカは『案外痛い!』とちょっぴり涙目になりつつも、自分の羽根を皆に1枚ずつ配っていく。

「これ、俺の名刺代わり!あの、空が見えるところでこれフリフリやってくれたら、俺のとこに来られるから!」

 バカは羽根を配りながら、皆の顔をちゃんと見る。……しっかり覚えて、絶対に忘れないように!




 ……と、いうところで!

「……あっ、そういや、主催の悪魔にソフトクリーム奢れなかった!」

 バカは思い出したのである!『わっしょいわっしょい』と先輩達に運ばれていった、主催の悪魔!彼にソフトクリームを奢る約束をしていたのに、すっかり忘れていた!

「またの機会、っていうことでいいんじゃないか……?」

「或いは代わりにカルピス奢ってあげなよ」

「うん、そうする……カルピス買ってくる……いや、でもカルピスなら先輩が密造カルピス作ってたから、それもう飲んでるかもしれねえし……ウーロン茶はうちの職場、置いてねえから被らねえよなあ……?」

「密造カルピス……!?」

 ……結局、バカは皆からアドバイスを貰いつつ『ああでもないこうでもない』と試行錯誤して……。


「お土産にこれ買った!」

「あたりめ……」

「……まあ、『茶か酒出せ』って親方さん、言ってたものね。どっちにも対応できていいんじゃない……?」

 バカは、主催の悪魔へのお土産にあたりめを買った。

 これでヨシ!




 そうして彼らは無事、解散していった。とはいえ、半数以上がバカと共にキューティーラブリーエンジェル建設へと向かったのだが。

 ……職場への帰り道、バカはずっと、ふんふんと幸せそうに鼻歌を歌っていた。

 おお、キューティーラブリーエンジェル建設。ああ、キューティーラブリーエンジェル建設……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます。 色々とツッコミ所はあるにせよ、それらがどうでもよくなってしまう位には楽しいお話でした。 次回作もお待ちしております。
[良い点] シャインマスカットソフト、美味しかったデス
[良い点] 完結おめでとうございます これはよい大団円だ
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