朝:帰路
長い廊下を歩いていく。
歩いて、歩いて、バカは今までのことを思い返していた。
……色々なことがあったなあ、とバカは思うのだ。繰り返した時間の中で、本当に、色々なことがあった。
悲しいことも苦しいことも沢山あったが……だが、終わりよければ全てよし!バカはそう、親方に教わっている。
そうだ。今、最高の状態だ。悪魔を4人も連れて帰れるし、誰も死なずにゲームが終わった!それに、皆でミニストップのソフトクリームを食べに行けるし、何より、バカには友達ができた!バカはそれが、とても嬉しい!
……ということで、バカは、小脇に木星さんとお土産の矢の束を抱え、そっち側の手でガッチリと主催の悪魔の手を握り、背中にはお土産のコイン数枚とヤギさんぬいぐるみを背負い……そして、もう片方の手で海斗の手を引いて、意気揚々と廊下を歩いていく。
そうしていると、いつのまにやら、海斗のもう片方の手が土屋に掴まれた。更に、土屋のもう片方の手をミナが掴み、ミナの反対の手にはビーナスが手を繋ぎ、ビーナスのもう片方の手にはヒバナが手を繋ぎ、ヒバナの手を陽が握れば、その反対の手はたまが握り、たまのもう片方の手が天城をむんずと掴み……。
……あと、天城は蟹と手を繋いだ。蟹は、双子の乙女と手を繋いで、双子の乙女2人の先には牡牛の悪魔が連なる。
「……歩きにくい!」
「うん!歩きにくいなあ!うははははは!」
皆で手を繋いでしまったら、いよいよ歩きにくい!だが、バカはこれすらも楽しくて、笑い声を上げた。
賑やかだ。前回、ここを通った時とは全然違う。皆がここに居て……あと、蟹もいる。わしわしカニカニ、と騒がしくもどこか愛嬌のある動作で、カニカニ歩いていくものだから、バカは『なんかかわいいなあ』と思うのだった!
……そうして、長い廊下の先に、光が見える。
光は徐々に強まり、そして、バカがたまらず駆け出すと……。
「樺島ぁー!」
「バカ島ぁー!」
「おめえ、おめえ、1人で大丈夫だったかぁー!俺達はもう、心配で心配で!」
なんと、そこには。
「うわあああああ!せんぱぁーい!」
バカの敬愛する先輩達が、心配そうに羽をぱたぱたさせながら待っていてくれたのであった!
「わあー!先輩!先輩!どうしてここに!?」
「そりゃおめーの初仕事が気になって見に来たんだよぉ!」
「おめーみてえなバカがちゃんとやれてっか、心配でよぉ!」
バカが先輩に駆け寄ると、先輩達もバカを受け止めてくれた。バカはたちまち、先輩達の羽にもふもふ包まれて、『あったかい!やわらかい!くすぐったい!』と笑う羽目になる。
「……樺島君みたいな人がたくさん居るね」
「多分……あれが天使、なんだろうね。ははは……天使の輪が『安全第一』のヘルメットに乗ってるけど……」
……そうして、そんなバカの様子を、他の皆は生暖かい顔で見守っていた!
何せ、ここに居るのは……そう!他でもない、バカの先輩達!
キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部に務める、天使達なのだから!
「樺島」
「あっ」
……そこへ近づいてきたのは、他の天使よりずっと年上の天使。……そう。バカが敬愛する親方である。
「あの、あの、親方……俺、あの」
バカは、親方の前でしどろもどろになってしまう。
だって、ここまでバカはよく分からないままやってきた。色々壊しちゃったし、上手くやれなかったこともたくさんあった。それに、それに……考えればいろいろと、キリがない!
「……まあ、お前は相変わらず落ち着きがねェなあ、樺島。依頼書読まずに出たンだろうが。な?」
「はい……」
しゅん、としてバカは大きな体を縮めるように頭を下げる。バカはどうにも、この親方には頭が上がらないのだ。
「それに、解決方法も相変わらず、乱暴なのばっか選びやがったな?オイ」
「ううう……」
またしても、しゅん、としてバカは縮こまる。このまま縮まっていったら、そのうちバカは芥子粒みたいになってしまいそうだ!
……だが。
「だが合格だ。おめェは天使に一番大事なもんを、失わなかった」
親方はそう言って、ニッ、と笑う。
「へ?」
「いっつも言ってンだろうが。な?……俺達天使に一番大事なのは、平和を、筋肉を、そして……人を愛する心だ」
バカは、ぽかん、としながら親方の顔を見つめる。親方は変わらず笑顔のまま、バカへと手を伸ばして……。
「……ま、よくやったな」
なでり、と、親方のごつごつした手がバカの頭を撫でる。まるで、バカな子ほどかわいい、とでもいうかのように。
……そうされていると、なんだかバカはたまらなくなってきてしまって、じわ、と視界が滲む。
バカは、『そっかぁ、俺、よくやったんだぁ』と、ようやくバカは実感できた。
そうだ。バカは、よくやった。
バカなのに、考えるのも覚えるのも苦手なのに、その筋肉と……何よりも、不屈の精神と善性によって、このデスゲームに見事、勝利を収めた!
それを親方に認められたのだから……バカはもう、天にも昇る気持ちなのである!
そして。
「……ん?」
バカは、もじもじ、と身じろぎした。なんだか、体が変だ。もぞもぞする。
バカがそうしてもじもじもぞもぞしていると、親方はからからと笑って、ぽん、とバカの頭を軽く叩いた。
すると、その途端。
「ひゃっ!?」
ぽふん!と。
バカの背に……翼が生えたのである!
「よし、樺島。今日からお前は一人前だ。……天使の本免許をやろう!」
親方の言葉を聞いて、バカは目を見開き、ぱふ、と翼を動かして……。
「やったあああああああああああああああ!仮免じゃなくなったあああああああああああああ!」
その喜びと達成感のままに叫び、そして、ばさばさばさばさ!と翼を動かした!
「おい樺島!風が!風が起こる!やめろ!」
「たまが吹き飛びそうだから!樺島君!ちょっと落ち着いてくれるかなあ!」
……そしてすぐ、翼のばさばさを止められた。
親方にも、『落ち着きのある行動を取れ!』と怒られてしまった。
けれど……けれど、それでもバカは、満面の笑みである!だって、だって……皆に認められて、祝福されて、バカはようやく、ちゃんとした天使になったのだ!
「なんも分かんねぇ」
「私もよ……」
「え、ええと、多分、よかった……んですよね?あの、えーと……」
「ま、まあ、樺島君は笑顔だしなあ……うん……」
……そして、喜ぶバカの後方で、人間達はぽかんとしていた!
ついでに、悪魔達も『天使の羽ってああやって生えるんだ……』とぽかんとしていたし、蟹ロボは頭の上に天城を乗せたまま、カニ、とちょっと小首を傾げて、笑っているかのようであった!
そうして、バカが『羽!先輩!見て!俺、羽生えた!羽!』とばさばさやっていると。
「……ん、こりゃ、今回はどうも、うちの樺島がご迷惑をお掛けしまして」
親方が人間達の方へやってきて、『安全第一』のヘルメットを取ると、ぺこ、と頭を下げた。
そして……。
「こいつ、依頼者のことも覚えずに現場に入りやがって。しっかり指導しときますんで、ご容赦ください」
親方はそう言って、ぺこ、と、蟹ロボに向かって頭を下げた。
……そう。蟹ロボに向かって!
「親方ぁ、蟹と知り合いか?」
おや、と思ったバカがぱたぱたやってくると、親方はなんとも渋い顔をして……。
「……こちらは今回の依頼主の方だぞ」
そう言った。
更に。
「改めて……こちら、うちの新人の樺島剛です。で、樺島ァ。こちらは今回ご依頼下さった、駒井つぐみさんだ」
親方は、そう、蟹ロボを紹介してくれた。
「……つぐみ?」
バカがぽかんとしているのと同時に、たまもぽかんとしていた。
そして当然、陽と……天城も。
「つぐみ……え、えええええええええ!?カニがあああ!?カニが、たまああああああああああああ!?」
バカの絶叫が響き渡る中、蟹ロボは嬉しそうに、カニカニ、とその鋏で天城をつついていたのだった!
次回、最終回です。
また、今回分と最終回分において、感想返信が無くなる可能性がございます。ご了承ください。
その代わりというのもアレですが、『気になる点』の欄に『教えて悪魔さん!』とご記入いただいてから本作についての疑問点やご質問などを挙げて頂くと、番外編で悪魔さんが答えたり答えなかったりします。ご活用ください。




