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2日目夜:大広間(でっかい吹き抜け付き)

「え、カツアゲするの?この期に及んで?」

 ヒバナの提案に最初に反応したのはビーナスだった。最初に『カツアゲ』の衝撃から戻ってきたのがビーナスだったともいえる。

「……相手は悪魔だろ」

「まあそうだけれど……いや、私だってね?別にいいと思うわよ?悪いことした奴は悪いことされても文句言えないっていうか……でも私達、大分悪魔から色々搾り取っちゃった後じゃない?」

「……まあ、そうだけどよ」

 ビーナスの窘めるような言葉に、ヒバナはちょっと気まずげな顔をして、ちら、とミナを見た。

 まあ、彼らの良心はミナによって留め置かれているらしいので。ビーナスもちら、とミナを見ていたが……。

「ってことで、控えめにカツアゲしましょ」

 ……まあ、こんなもんである!


「そっか。うん。カツアゲしよう。何を強請る?」

「え、たま、それはあなたの弟の魂の解放とかでいいんじゃないの?」

「ああ……そういうこと、できるのかな。まあ、聞くだけならタダだよね」

 たまは『カツアゲ』にさっさと順応してしまった。一方、陽はまだちょっと順応しきれていないし、海斗は『カツアゲ……!?』と固まったままだ。天城はちょっと順応してきたのか、『成程な……』と頷いている。

 ……そして、ミナは。

「え、あ、あの、カツアゲ?はするんですね……?」

 戸惑いながら。頭の上に、?マークをいっぱい浮かべながら。そっと、首を傾げた。

 そんなミナを見たビーナスとヒバナは、それぞれに気まずげな顔をしていたが……。

「……その、かつあげ、って聞いていたら」

 ミナは、へにゃ、と笑った。

「とんかつ、食べたくなってきました……」


「おおおおおお!いいなあ!とんかつぅ!」

 恥ずかしそうに頬を染めるミナと、とんかつ大好き!と目を輝かせるバカ。

 ……最早ここには、ヒバナとビーナスを止める者は誰も居ない!海斗すらも匙を投げた!匙を全力投球した後のような顔で、『もういいや』と清々しい顔をしている!もうダメである!悪魔の本日の営業は終了しました!




 ということで。

「うーん、見た目が悪魔だよね。ははは……」

 悪魔を起こす前に、悪魔を観察した。

 悪魔は、人間によく似た姿であったが、耳がちょっととんがってるし、角が生えている。しかも背中には蝙蝠めいた翼が生えていた!まあ、実に悪魔っぽい!バカは『おおー、悪魔だぁ』と歓声を上げた!

「悪魔って皆こんなかんじなのかな」

 たまは、つんつん、と遠慮なく悪魔の羽や角をつついている。特に羽の方は、薄膜の部分がなんともぷにぷにしてつつき心地がよさそうだ!

 バカはそわそわしたが、つつくのは我慢しておく。うっかりバカが我を忘れてつついたら、悪魔の羽が破れてしまうかもしれない。それこそ、猫に目を付けられた障子の紙のように……。

「いや、双子の乙女は角も羽も無かったからなあ……ええと、どうなんだろう。角とか羽とかがあると偉い、みたいなかんじなのかな?」

「ううん。こいつのこれは趣味」

「角も羽も、別に要らないし」

 ……そして、双子の乙女曰く、この格好は趣味、らしい。バカは『そっかー、天使は羽と輪っか無いと現場に立てねえけど、悪魔は違うのかなあ……』と神妙な顔で頷いた。……天使の翼と輪っかは、資格の証明にもなるので、現場に必要なのである。さもないと免許不携帯になってしまう!

「まあ、古典的な趣味ではあるな……。私は『牡牛の悪魔』なのでこの格好が正装だが」

「あ、そういうのあるのね……えっ?それ、装いなの?えっ?」

 ついでに牡牛の悪魔もそんなことを言い出した。どうやら、主催の悪魔はクラシカルな装いをしている、という認識らしい。

「ちなみにあいつらは自由すぎる装いをしている。まあ、まだ下級の悪魔達だからな、別に構わんが」

「あれも装いなのかよオイ!」

 ……そしてライオンと羊も、悪魔だったらしい!バカは目ン玉が飛び散るほど驚いた!

「あの、毒蛇さんは?」

「あれは蛇だよ」

「ただの蛇だよ」

「わかんねえよお……俺、悪魔と悪魔じゃねえのの区別つかねえよお……」

 バカは混乱した。もう、何が何やら……。




 さて。

 バカは一頻り混乱したが、『まあ、羊でも悪魔でもどっちでもいいやあ、ふわふわだし……』と羊については納得することにした。ライオンも、かっこいいからまあヨシとする。

 ということで。

「おーい、大丈夫かー」

 ぺちぺちぺちぺち、と、バカは悪魔の頬を叩いた。尚、この様子は双子の乙女や牡牛の悪魔、そして蟹ロボと沢山の羊達、更に遠巻きながらライオンにまで見守られている。……一応、彼らにとってこの悪魔は上司なのだろうから、心配なのだろう。或いは野次馬したいのだろう。どっちだろう。

「う、うう……」

 バカにぺちぺちやられた悪魔は目を覚ました。そして。

「じゃ、起きたところでちょっといいかァ……?」

「出すもの出してくれるかしら?人の魂とかさ。ね?」

「弟を返して」

「あととんかつくれ!とんかつ食いたい!」

 ……主催の悪魔は寝起きで、モノホンのヤクザとヤクザより性質の悪い女子、そしてバカに絡まれた!


「な……」

 主催の悪魔は、寝起きでいきなりの状況に放り込まれて明らかに困惑していた。……だが、目の前のヤクザ2人はとりあえず人間だ、ということは分かったのだろう。

「何を言っているのだ、人間風情が!身の程を……」

 だが。

 主催の悪魔がその鋭い爪を、ビーナスに向けて繰り出そうとしたその時。

「こら!駄目だぞ!」

 ぶん、と主催の悪魔の視界に飛び込んできたのは……主催の悪魔にとっても見覚えのある姿。そう。木星さんである。

 そしてその木星さんをありえない速度で振り抜いたのは……バカである!

「人間に『風情』とか言っちゃダメなんだ!人間は、いろんな可能性の生き物なんだから!」

 バカはそう言いながら木星さんをぶん回して……主催の悪魔の頭を、メコッ!とぶん殴った!


「……って、親方が言ってた!」

「樺島君。もう聞こえてないと思う」

 バカが、ふんす、と息を吐いたその時には、もう主催の悪魔の頭はそこに無かった。爆発四散していた。

「うわああああああ!ごめん!やっちゃった!やっちゃったあああああああああ!力加減できなくてえええええええ!ごめん!ごめええええええええん!」

 ……バカは自分がやっちゃったものを目の前にして、慌て始めた!今更である!だがしょうがなかったのだ!『人間風情』なんて聞いてしまったものだから、なんか、力加減ができなかった!

 だが。

「いや、大丈夫だ。我々悪魔は頭部が破損したくらいでは死なない。それに彼は、色々な術を使えるからな。ほら」

 牡牛の悪魔がバカを宥めていると、その間にも主催の悪魔の頭が、にょにょにょ、と戻っていく。凄まじい再生力だ。ビーナスに『うわ、なんかキモいわね……』と言われているが……。

 ……そうして。

「ふ、ふう、全く、酷い目に遭った……」

 ぶるぶる震えながらも、主催の悪魔の頭部はちゃんと、治ったのであった!


「よかったあああああああ!ごめんなああああああ!頭ぶっとばしちゃってごめんなあああああああああ!」

「うわああああああああああああ!」

 ……が!その3秒後!バカが泣きついてきたことによって、主催の悪魔の首の骨が折れた!これだからバカは!




 ……そうしてバカが主催の悪魔から引き離された状態で、改めて主催の悪魔の治療が始まって終わった。ようやく元に戻った主催の悪魔は、ぎろり、と人間達を見回している。

「おのれ、人間共め……。よくもコケにしてくれたな……!その愚かな行いの報いは、貴様らの魂に……」

 だが。

「ねえ、これ見た方がいいよ」

 主催の悪魔を横からつついた双子の乙女が、大広間を流れるお湯を指差した。主催の悪魔はぽかん、とした。

「そっちのドアも見た方がいいよ」

 更にもう1人の乙女がバカによって破られたドアの数々を指差した。主催の悪魔はぽかんに次ぐぽかんである。

 ……そして主催の悪魔は、そっと牡牛の悪魔の様子を窺った。

 牡牛の悪魔は黙って首を横に振った。その牡牛の悪魔の後ろでは、バカが意を決したような表情で木星さんをぶんぶん振り回している。

 ……主催の悪魔はぽかんとしながらも、ようやく……自分がカツアゲされる側であるらしいことを悟ったのである!




「……ということで、あの蟹さんの中に入ってる魂を解放して」

「あ、ああ、うん、もう好きに持っていけ……」

「持ってっていいのか!?蟹ごと持ってっていいのか!?やったー!ありがとう!これかっこいいよなあ!うわーい!」

「えっ、蟹ごと……あ、いや、もういい、うん、もういいや……」

 ……主催の悪魔は、すっかりしょんぼりしてしまった。多分、バカに勝てないことを悟ってしまったのだ。争うだけ無駄なのだ。だって相手はバカだから……。

「あと、弟を返して」

「弟……?いや、そんなことを言われても、どの人間の魂をどうしたかなど、一々覚えていないが……」

「じゃあ調べて。1週間は待ってあげるから」

「現実的な時間を提示してきたな……し、仕方ない……返せるかは分からんが、行方は調べておいてやろう……」

 ついでにたまから弟の魂を強請られた悪魔は、これについても了承してしまった。

「あととんかつですって。出せる?」

「とんかつ!?何故!?」

「食べたくなっちゃったんだとよ……」

「何故!?」

 そしてヤクザ2人からはとんかつを強請られて、もう、主催の悪魔は混乱のあまり理性が吹き飛んだような顔をしている。まあ、仕方がない。




 それから少しして、とんかつが供された。『とんかつ出さなきゃボコボコにするわよ。このバカ君がね!』とビーナスが脅した結果、主催の悪魔はそれに屈してしまったのである……。

「な、何故こんなことに……」

「めっちゃうめえ!衣サクサクで肉がジューシー!めっちゃうめえ!ありがとな!めっちゃうめえ!」

「そ、そうか……」

 そうして主催の悪魔が出したとんかつを、人間達と天使、更には双子の乙女までもが食べている!『美味しいね』『チキンカツばっかりじゃなくてとんかつもいいね』と2人でにこにこしているものだから、主催の悪魔は何か言いたげな目をしているものの、双子の乙女に何も言えない!

「ふふ、誰かが作ってくれたご飯って、美味しいですよね……」

「これは『誰かが作ってくれた』内に入るんだろうか……まあ、美味いが……うーむ」

 ミナは『わあ、かつあげ美味しい』とにこにこ顔であるし、土屋はなんとも言えない生暖かい顔でとんかつを食べている。平和だ。実に平和である!


「ところでお前は食わねえのか?自分で出したんだから食ってもいいんじゃねえか?」

 そんな折、バカはふと、主催の悪魔がとんかつを出した割に彼自身はとんかつを食べていないのが気になった。

「いや、我はとんかつは食わん」

「えっ!?美味いのに!?」

 が、どうやら彼はとんかつを食べないらしい!美味しいのに!とんかつ美味しいのに!

「人間の食べ物は必要無いからな。その、ところで……」

 だが、そこで主催の悪魔は、ぴ、と木星さんを指差した。

「その人間の魂は……その、どうするんだ……?」


「どうする、って……?」

 バカが首を傾げると、主催の悪魔はにんまり笑った。

「そんなに美味そうになった魂、見たことがないものだからな。折角なら、その……蟹の棺に入れた魂と交換で、井出亨太の魂をこちらに渡さないか?」

 ……どうやら、木星さんの魂は美味しそう、らしい。まあ、双子の乙女の話を聞いたりなんだりしたところで、『人間が絶望すると魂が美味しくなる』らしいということは分かっているので、妥当ではある。木星さんは間違いなく、今、とてつもない絶望の中にあるので……。

「どうだ?こいつの魂にこだわりは無いだろう?」

「ええー……親方に聞いてみねえと分かんねえよぉ……。俺は木星さんを工具にするって決めたしぃ……」

「舐めるだけ!舐めるだけでもいいから!」

「えええー、困るよぉ、俺、そういうのよく分かんないよぉ……あと、蟹の魂と蟹ロボは元々貰う約束だしぃ……」

 主催の悪魔は頑張って食い下がっているが、そんなに木星さんの魂は美味しそうなのだろうか。だとしたら一体、何味なのだろうか。バカはちょっぴり、木星さんの魂の味が気になってきた!

 だが何にせよ、木星さんの魂をどうこうする話はバカ1人には決められない。あと、蟹の魂と蟹ロボは貰って帰る。悪魔は『そんな約束していないが……』というような顔をしていたが、ヒバナが『やんのか?ならやるぜ?あのバカがな』と脅しを掛けたら、シュン……と大人しくなった。

「えーと、あと、そうだ!一回親方と話、してくれよぉ。前さ、『もし悪魔を見つけたら連れてこい!聞かなきゃならねえことがある!茶か酒は出してやるからよォ!』て親方が言ってたし!」

 ……そして、流石にバカにそう言われてしまうと、主催の悪魔は怯んだ。『親方』が何かは分からずとも、とりあえず『ヤバい奴の上司。つまりもっとヤバい』ぐらいの認識はしているらしい。

「い、いや、我は……」

「皆で帰ろ!あと、ついでにミニストップ寄ってこうな!えへへ、俺、給料入ったばっかだからさあ、頭ぶっ飛ばしちゃったお詫びにソフトクリーム奢るからさあ!」

「は、話を聞け!」

 主催の悪魔は、ガシリ、とバカに捕まってしまった。バカは『悪魔連れて帰ったら親方に褒めてもらえる!』と喜んでいるので話を聞いていない。

 ……その一方で、双子の乙女は『ソフトクリーム……』『ソフトクリーム……』とちょっと目を輝かせているし、牡牛の悪魔は『折角なら久々に人間の世界へ行ってみるか……』と、もうついていく気でいるらしい。

 なのでバカは余計に喜んだ!

 悪魔がいっぱいついてきてくれたら、多分、親方にいっぱい褒めてもらえる!バカは嬉しい!




 さて。

「じゃ、そこの門、開くぞ!」

「えっ、開く……いや、あれは4日目になったら開くものであって」

「うん!大丈夫!俺、アレ開けられるから!いっくぞー!」

 ……そうして、人の話を聞かないバカによって、正面の門が、バキイ!と吹き飛んだ。主催の悪魔はだらだらと冷や汗を流している。双子の乙女と牡牛の悪魔は、『まあこうなるよね』というような顔をしている。

 そして陽と天城と土屋はそれぞれ苦笑しており、ヒバナとビーナスは『カツアゲ……』とちょっと物足りなさそうに主催の悪魔を見つめ、たまとミナ、そして蟹ロボは『おおー』と拍手していた。

 そして。

「じゃ、海斗!帰ったらすぐポケモンやろうな!」

 バカが海斗の手を握って引っ張っていくと、海斗は呆れたような、諦めたような笑みを浮かべて、ああ、と返事をしてくれたのだった!


 ……さあ!お家に帰るまでがデスゲームだ!

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きみたち悪魔だったの!?1番の衝撃なんだが!?!?
いやもうデスゲームってなんなん???
カツ丼食べてデザートにミニストップのソフトクリーム食べたくなりました! お家に帰るまでがデスゲーム!
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