表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/146

2日目夜:大広間

 がしゃんがしゃん、と凄まじい音がして、天井が割れ砕ける。

 それと同時に、蟹が降ってくる。

「うわっ……天井から蟹が……」

「聞いててもビックリするわね、これ……」

「聞いてなかったらもっとびっくりしただろうね」

 蟹ロボは、わたわたわた!と慌てふためきながら落ちてきた。それはそうである。まだ2日目である。蟹の出番はまだ先だったはずなのだから。

「……ちょっと可愛いですね」

「可愛い……か?うーむ、確かに、そう言われてみると、少し愛嬌があるようにも思うが……」

 蟹ロボは、ずがしゃん!とまたすさまじい音を立てながら大広間の床の上に落ちてくると……。

「あ、そこ、お風呂の水路よ」

「浸かってるね。あははは……」

 ざぶん!と、お風呂の水路に半分ほど、入ってしまったのであった!

 入浴する蟹のできあがりである!




「よう!蟹!」

 蟹ロボが困惑している中、バカは堂々と蟹ロボの前に立った。蟹ロボは当然、困惑する。

「お前、俺とやるか?ん?」

 ……そして、バカが木星さんバットを素振りして見せると……蟹ロボは益々困惑する。

「……うん?喧嘩、しないのか?」

 バカが『おや?』とばかり、頭の上に?マークをいっぱい浮かべて蟹ロボを見つめていると……蟹ロボは、こて、と、バカを真似るように首を傾げた。どうやら、喧嘩しない……らしい。

「ええと、ええと……じゃあ仲良くするか?」

 そしてバカがそう聞いてみると。


 蟹ロボは、元気に頷いて……何故か、天城に向かって、突進していったのである!




「えええええええ!?あ、天城のじいさん!天城のじいさん!大丈夫か!?」

「あ、ああ……じゃれつかれているだけだ……」

「じゃれつかれてる」

 ……バカは天城を心配したのだが、その心配はあまり必要なかったようである。

 何せ、蟹ロボは天城にじゃれついているだけだ。……でかい蟹が爺さんにじゃれついている光景は、控えめに言ってもちょっとよく分からない光景なのだが、バカは『なんかよく分かんねえけどよかったな!』と見守った。

「えーと、これはどういうことなんだろうね……」

 陽の困惑に答えることなく、蟹は天城をそっと鋏で掬い上げて、そっとロボの上に乗せて、それで満足気によちよちカニカニと蟹歩きし始めた。なんかかわいい。この光景は特に、ミナの心を打ったらしく、ミナは『なんだかかわいい……』とうっとり蟹ロボを見つめている!


「……ところで、樺島」

「うん?」

 バカも『蟹かわいいなあ』と思い始めたところで……そっと、海斗がバカをつついた。

「あの蟹ロボは、何故動いている?」

「え?」

 バカはきょとん、とした。……何故、と聞かれても、そんなの、バカには分かりっこないのである。バカなので。バカはバカなので!普通の人には分かることだったとしても、バカには分からないのである!

「いや、あの蟹ロボに……その、本来なら、死者の魂が入って、それで蟹ロボが強化される、という話だったよな?」

「え?あ、うん。そうそう。それで最初に蟹ロボに会った時、蟹ロボ、めっちゃ強くてぇ……いや、あの時は陽も天城も木星さんもバットじゃなかったからそうなんだけどぉ……」

 バカは繰り返しの記憶をぼんやり思い出しながら、『あの時の蟹ロボ……』を思い出す。

 最初に蟹ロボと出会った時のあの絶望感も、結局それで陽を守り切れなかったことも、思い出す。……だから今、こうして全員で、蟹ロボと一緒に居られることは幸せなのだ。バカは改めて、そう実感して……。

「おいバカ!ちゃんと聞け!」

「へっ?」

 思考を幸せの彼方へ飛ばしていたバカは、海斗によってそのなけなしの思考を引き戻される。

 そして。

「その……今回は、『死者の魂』が存在しないはずだ。なのに何故、あの蟹ロボは動いている……?」

 海斗がそう言うものだから……バカの頭の上には、また?マークがいっぱいになってしまった!




「え、え、蟹ロボって勝手に動いちゃダメなのか……?」

「いや、知らないが……勝手に動くものなのか……?」

 バカは蟹ロボについて詳しく知らない。海斗だって知らない。……なので、考えるだけ無駄なのだが、2人は顔を見合わせて首を傾げる。

「……分かんねえから聞いてみるかぁ。おーい、蟹ぃー」

「木星じゃなくて蟹に聞くのか……」

 海斗が呆れ返る横で、バカはスタスタと蟹ロボへ近づいていく。蟹ロボは天城を甲羅に乗っけたままよちよちカニカニ歩いていたが、バカが寄っていくと、カニカニカニ、とバカの方を向いて止まった。

 ……そして。

 ぺこ、と。

 蟹ロボは、頭を下げた。

「えっ」

 ……蟹ロボが、頭を下げたのである。


「……こいつ、お辞儀したぁ……」

「わあ、礼儀正しい蟹さんなんですね」

「れ、礼儀正しいとかそういう話じゃないだろう!?お、おい!蟹!お前……お前、自我があるんだな?そういうことだな!?」

 バカとミナが『わあ』とやる横から海斗がやってきて蟹を問い詰める。すると蟹は、そうだと言わんばかりにカニカニと頷いた。自我があるらしい。この蟹、自我があるらしい!

「自我が……?」

 そして、それに一番驚いているのは、間違いなく蟹の上の天城である。そう。この面子の中では、バカ以外に唯一、蟹ロボの存在を知っている天城である!

「バカな……どういうことだ?ならば、誰かの魂が、中にあるというのか……?」

「ええええええええええ!?誰か中に入ってんのぉ!?じゃあ、じゃあ、俺、俺……ああああああ!俺、前回の蟹、やっつけちゃった!どうしよお!どうしよおおお!うわあああん!ごめえええん!蟹、ごめええええん!」

 そして天城の言葉を聞いたバカは、泣きだした!

 もし、中に誰か入っていたというのなら……そうとは知らず、前回のバカは蟹ロボを叩き潰してしまったが、あれによって誰か、誰か、死んでしまっていたのではないだろうか!

「ごめえええええん!蟹ぃいいいいい!痛かったよなああああ!うわああああああ!」

「うるさい!泣くならせめてすすり泣け!声を上げて泣くな!あと多分蟹には前回だのなんだの、分からないからな!」

 大泣きしていたバカだが、海斗にそう怒られてしまったので、しくしくとすすり泣くことになる。すすり泣くバカは、ちょっと不気味である。ビーナスが『うわあ』という顔をしていた。


 ……さて、そんな驚きを一身に受けた蟹だが、こて、と首を傾げつつ……ちょい、ちょい、とバカのことをつっついた。

「うん……?」

 すすり泣いていたバカは顔を上げて蟹ロボを見つめる。……見つめてみると、案外、蟹ロボは可愛らしい顔をしていた。いや、顔なのか何なのかよく分からないが。

 蟹ロボはバカをじっと見下ろすと……ちょこ、と、天井を示した。

 ……すると。

「……あっ」

 そこには……そこには!

「うわああああああ!誰か居るううううううううううううう!」

 バカが破った天井から、ぷらん、と半分くらい落ちかけている誰かの姿があったのである!

 バカは『あああああああああ!労災!あああああああああああああ!』と心の中で悲鳴を上げた!




 ……ということで、バカは天井からぶら下がっていた人を回収してきた。そしてミナが異能を使って治療してくれている。

「成程な。こいつは天井裏に潜んでいて、そして……このバカが天井を破ったとばっちりで、気絶したのか……」

「そのようだな。まあ……天井裏に居た時点で、こいつが何者かは概ね分かったようなものだが……」

「どうする?今なら『無敵時間』でこいつを閉じ込めておけると思うけれど」

 海斗と天城、そして陽が相談している先、ミナが治療しているその人は……。

「……悪魔に異能が効くか?」

 そう。その相手は恐らく……木星さんと契約し、このデスゲームを形にした……主催者である悪魔、なのである!




 だが、その悪魔本人への処遇を決める前に、声を上げた者が居る。

「いや、そいつ悪魔だろ?ならやることは決まってるじゃねえかよ、おい」

 ヒバナの声に、皆が振り返れば、ヒバナはにんまりと、如何にも悪そうな……チンピラの名に恥じない笑みを浮かべていた!


「折角だ。カツアゲしようぜぇ。へへへ……」

 ……流石はチンピラである!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
カニロボかわいいな???
[良い点] カニさん意外にかわいいな!? [気になる点] ・悪魔さん……はたくさんいるから主催さんと呼ぼう。 ・で、主催さんはそんなところで何してたの?ずっと覗いてたの? ・主催さんに樺島君ループの記…
[一言] 蟹ちゃん可愛いじゃん……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ