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頭脳と異能に筋肉で勝利するデスゲーム  作者: もちもち物質
第一章:はじまりのバカ
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2日目昼:裏切りの水槽*2

 そうしてバカは水から出て、ぶるぶるぶる!と勢いよく体を震わせると体表に付いた全ての水滴を払い落とした。そうしてから改めて服を着て、バカは3人の元へ戻る。

「鍵!とれた!」

「あ、ああ……ええと」

 戻って来たバカに対して、土屋は困惑していたが……やがて、にこ、と微笑みを浮かべた。

「……よくやったぞ、樺島君!」

「おう!役に立ててよかった!」

 ……土屋は、いい奴なのである。いい奴なので、一生懸命やったバカを傷つけないように、とりあえず褒めてくれたのである。

 そしてバカは、褒められて喜んだ。皆の役に立てること、そして皆に褒めてもらえることが、バカの喜びなのである!




「……ミナが気絶しちゃったんだけど、どうすんのよ、これ」

「う、うーむ……ひとまず、解毒装置には本人の意識が無くとも、座らせることができそうだからな……解毒だけしておこう。後は、目覚めるまで待つ、ということになるか……」

 さて。

 とりあえず、この部屋のゲームも無事、解決した。が、ミナがさっきのバカのクソデカボイスによるキューティーラブリーエンジェル建設社歌で気絶してしまったらしいので、さっさと解毒だけして、それからはミナの回復を待つことになる。


 ミナはバカが運んだ。『女子は確か、コンクリの袋みたいに運んじゃいけないんだよな!こういう風に運べって親方が言ってた!』と思い出したバカは、ちゃんとミナをお姫様抱っこして、しゃなりしゃなりと歩いた。ビーナスが何とも言えない目でバカを見ていた。

 バカが取ってきた鍵で土屋が錠を外したら、さっさと奥の部屋へ進む。案の定、そこには解毒装置があったので、そこにミナを座らせて、ミナの解毒を終えてしまう。

「あうっ……う、ううん……?」

「あっ、よかった。目が覚めたのね」

 そしてミナは、解毒の時の注射か何かの衝撃で目を覚ましたらしい。よろよろと椅子から立ち上がるミナをビーナスが支えてやる間に、土屋がガラクタ置き場の中から適当な椅子を持ってきて、そこにミナを座らせてやる。

「よし。では先に失礼するよ」

「どうぞ。時間はたっぷりあるしね」

 続いて土屋も解毒を終えた。その次はビーナスだ。……そうして3人全員が解毒を終えたところで。

 さて。

「で、さっきのは何だったのよ!」

「ん?」

「あの歌みたいな奴……何!?」

 ビーナスがバカに食って掛かった。だが、バカは動じることなく笑顔で答える。

「ああ、社歌だ。俺、キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部ってとこに勤めてるんだ!」


「フローラルムキムキ……!?」

「ああ!所長が、『やっぱりこれからの時代はムキムキであってもフローラルでなければハラスメントとされかねない』って、『北埼玉支部』から『フローラルムキムキ支部』ってかっこいい名前に変えてくれたんだぜ!」

「かっこいい!?君の基準ではかっこいい名前なのか!?い、いや、しかし、埼玉県がフローラルムキムキ県になったら嫌だろう!?」

「いいじゃんフローラルムキムキ県!あっ、そういや日本って、名前ほとんど同じ県あるよな?ああいう県も名前変えたらどうかなあ!ほら、福なんとか、5つぐらいあるだろ?」

「3つだな!だがまずは福井と福岡と福島に謝りなさい!」

 バカはバカなので、日本地図の中身をほとんど覚えていない。長崎と沖縄の区別すら、今一つ付いていない。その程度である。だがとりあえず、北海道は分かる。何故ならチーズ蒸しケーキに描いてあるからである。

「……悪夢?ねえ、ミナ。これ、悪夢?」

「も、もう、何が何やら……」

 ビーナスはげんなりした様子であったし、ミナは混乱しきってまた気絶しかねない顔になってきた。

 バカは鼻歌でフンフンと、『キューティーラブリーエンジェル建設社歌』を歌っていた。




「さて……こんなに時間が余るとはなあ。流石に予想外だ」

「そうか?俺の方はさっきもこんなかんじだったぞ?」

「ああ、うん、大体分かった。そうだな、樺島君が居ると途端に物事が凄まじい速度で解決するわけだな……」

 さて。土屋がビーナスと樺島と土屋自身の分も椅子を持ってきて、それぞれが着席することになった。だが、着席してみたところでやることが無い。何故なら、凄まじい速度でゲームが終わってしまったので。

「本来なら、誰が水槽に入るかで揉めていただろうし、鍵を取るのも簡単にはいかなかったのだろうな。或いは、どちらかで死者が出ていた可能性もある……そう考えると、これは非常に珍しい状況なのだろうな。ふう……」

 土屋はそう言って、椅子の背もたれに体重を預けた。なんというか、精神が疲れてしまったらしい。その気分はバカにもなんとなく分かる。原因がバカであることは分かっていないが。

「まあ……バカ君が色々と規格外ってことは分かったわ。どう考えてもおかしいでしょ、アレは」

「そうかぁ?俺の職場では結構皆やってたぞ?」

「あんたの会社どうなってんのよ!」

 バカの記憶には、社員旅行先で『この辺りには外来種のニジマスが住み着いてしまって、在来種が追い出されてしまったんですよね……』と解説された川で皆で社歌を歌って、その晩はニジマスバーベキューになった時のことが鮮明に残っている。尚、これをやる都合で、キューティーラブリーエンジェル建設の社員旅行は大体、『食べられる外来種に占拠された川や池』ということになっている。


「……まあ、こんなバカ君だから、今後も扱いには注意が必要よね。下手な奴の味方に付かれたら厄介だし……」

 バカが『そういやお腹減ったなあ』と思っていると、ビーナスが唐突に、バカの話を始めた。

「そう、ね……ねえ、バカ君。バカ君は、誰の味方に付く予定?」

「え?」

「人間の魂は1つ。それで、願いを叶えたい人は……土屋さんとミナとバカ君を除いたとしても、残り5人。絶対に喧嘩になるわけじゃない?」

 そうだった。バカはビーナスの話を聞いて思い出したが、そう。そうなのである。この後……3日目を終えたら、その先の4日目には必ず、喧嘩が待っているのだ。

「いや、俺、誰の味方とか、そういうの、やりたくねえよぉ……」

「そう?まあ、そうならしょうがないけれど……」

 喧嘩のことを考えると気が重い。バカはできるだけ、自分の手に負えないことは考えたくない。バカが考えたところであんまり意味はないし、考えてもバカが疲れてしまうだけなら考えなくてもよいだろう、とバカは思っている。

 だが。

「……でも、少なくとも海斗には気を付けた方がいいわ。多分、あいつ、土屋さんを殺そうとしたのよ」

 ビーナスがそんなことを言い出したので、バカはびっくりした!




「えっ……えっ!?どういう意味だ!?」

 バカが1人、おろおろしていると、ミナも困ったようにおろおろしていたし、土屋は『ううむ……』と難しい顔で黙り込んでしまった。なので、喋るのはビーナスだけになる。

「さっきも説明を聞いてたと思うけど、私達が入った部屋の『ゲーム』は、トラップを起動させてしまうと矢が飛んでくる、っていうものだったわ。つまり、トラップを起動させないように慎重に進めば、矢は飛んでこないのよ」

「俺、絶対に苦手なやつだと思う!」

「でしょうね。……で、私達はバカ君には難しいであろうそれを、やったのよ。少しずつ、安全を確認しながら進んでいて……それで多分、海斗が、わざとトラップを起動させたんだわ。土屋さんを殺すためにね」

 バカは少し困った。状況を上手く想像できない。だが、『何かミスすると誰かの命にかかわることがある』ということは、建設業をやっている以上、なんとなく実感できるものだった。

「……そ、それ、うっかり、だったんじゃねえかなあ」

 だからこそ、バカはそう思うのだ。誰かを殺そうとして労災を起こす者なんて居ない。いや、居るのかもしれないが、バカの知る範囲には居ない。

 労災というものは、事故なのだ。誰かが悪意を持っていたというものではなく。……だからこそ、海斗のそれも、そういうことなのだろう、と思うのだが。

「あら。この状況でも『うっかり』なんて言える?その『うっかり』で人が死ぬところだったのに?」

 だが、ビーナスは手厳しい。そして、ご尤もでもある。

 労災は労災だ。絶対に、出してはいけないのだ。事故があったら、痛い思いをしたり、悲しい思いをしたりする者が出てしまう。だから、バカ達キューティーラブリーエンジェル建設の社員は、皆で気を付けながら作業をしているのだが……。

「実のところ、『うっかり』だったとしても同じことでしょ?『うっかり』で人を殺すような奴には注意が必要。『うっかり』で人を殺すような奴は組みたくない。それで十分よ」

「そ、そっかぁ……」

 ……バカは、幾度となく失敗してきた側として、ビーナスの言葉にしょんぼりしてしまう。

 同時に、『俺は職場で沢山ミスしたことあるけど、見捨てられたことはなかったから、やっぱり幸せだなあ』と思うのだ。


「……まあ、実のところ、私自身は海斗がトラップを起動したところを見たわけでもないのでな。何とも言えない。私自身がうっかりトラップを起動していたのかもしれないし、もし、ビーナスが起動していたとしても、まあ理屈の上ではおかしくないからね。海斗のせい、と断ずる気はない」

 一方、土屋はそう言ってため息を吐いた。

「ちょ、ちょっと!私があなたを殺そうとしたって言うの!?」

「そんなことを言うつもりも無いさ。だが、ここで仲違いしていても悪魔の思うつぼだ、とは言わせてもらおうかな」

 土屋の言葉に、ビーナスは少しばかりぽかんとして、それから、苦い表情を浮かべた。

「……そういえば、そうだったわね。土屋さんもミナも、自分の願いを叶える気はないんだったかしら」

「そうだな。……逆に君にとっては、悪魔とは『手を組むべき相手』ということになるのかな?」

「かもね。まあ、向こうが私の味方で居る保証なんて無いわけだから、引き際は見誤らないつもりだけど」

 ビーナスは自嘲気味に笑って、ふと、表情を陰らせる。なんとも寂しそうで、苦しそうで、バカはなんとなく落ち着かない。


「……な、なあ。考えてたら、腹減ってきちゃったよな?」

「は?」

 なので、バカはそう提案するのだ。

 悲しい時にも腹は減る。そして、お腹いっぱいになったら、少しは元気が出るというものだ。

 つまり、バカが取るべき行動とは……!

「なー、さっきのピラフ、食べていいか!?」

 食料の調達!即ち、先程の社歌漁によってぷかぷか浮いているお魚を、持ってくることである!


「ピラニアだな。いや、あの魚はゴリラタイガーフィッシュ、だったか……?」

「ゴリアテタイガーフィッシュ、ですね。一応、食べることはできますよ。ただ、調理するための火も器具もありませんが……」

「いや、ガラクタの中にナイフはあったぞ。捌くことはできそうだ」

「そっか!なら俺、刺身好きだから大丈夫!やったー!」

 許可を貰ったバカは、ひゃっほう!と元気に駆けていく。今のバカを突き動かすものは、他3人への気遣い4分の1、自分の食欲4分の3ぐらいの割合である。まあ、バカは他者を励ましたい優しいバカではあるが、それ以上に、お腹が空いてきた単なるバカであるので。


 バカは水漏れが激しい中央の水槽にまた戻り、そこでゴリアテタイガーフィッシュを両手に抱えて、また解毒装置の部屋へ戻った。

「よし!お前らも食うか?」

「いや私はいい」

「私もいいわ……」

「え、ええと……じゃ、じゃあ、私は、一切れだけ……」

 バカは意気揚々と持ってきたのだが、3人の反応は今一つである。まあ、それでもビーナスが寂しそうな顔から呆れ返った顔になっているので、一応、バカの試みは成功したと言えよう。

「そうか?まあ、まだあるから食べたくなったら言ってくれよな!取ってくるから!で、えーと、どう切ればいいんだろうなあ、これ……こうか?」

 そして早速、バカはナイフを片手に、ゴリアテタイガーフィッシュに向かい合う。『こう?こう?』と、眉根を寄せつつ、どう包丁を入れたものか悩む。勿論、答えは出てこないが。

「貸してください」

 すると、ミナがくすくす笑いながらそっとやってきて、バカの手からナイフを持っていった。そしてそのままゴリアテタイガーフィッシュへと向き合うと……すっ、と、腹側からナイフを入れ始めた。


 ミナがナイフを動かすと、すぐさま内臓が取り出され、続いて背骨が外れた魚のフィレが出来上がる。まるで魔法でも見ているかのような光景に、バカは思わず息を呑む。

「うわっ、ミナ、すげえなあ!魚、捌けるのかぁ!」

「はい。少しだけなら……」

 バカが褒め称えると、ミナは照れたようになりながらも慣れた手つきでゴリアテタイガーフィッシュを捌いていき、やがて綺麗にフィレになったゴリアテタイガーフィッシュは、そのまま刺身へと変えられていく。

「驚いたな……。ミナさんは料理人か何かなのか?」

「いいえ。お料理は趣味です。あっ、でも、飲食店でアルバイトをしています」

「へー、なんだかイメージ通りだわ」

 ミナは照れつつもさくさくと魚の身を切り分けていき……そして。

「ああああっ!?樺島さん!そこは身じゃないです!肝です!内臓です!」

 ミナが悲鳴を上げた。

 ……そう!バカが丁度、ゴリアテタイガーフィッシュから取り出した内臓を、もにもにと食べていたのだ!


「だ、大丈夫ですか!?樺島さん、大丈夫ですか!?」

「ん!これもいける!」

「いいえ!お味じゃなくて!その、寄生虫とか!」

「うん!よく噛んで食べれば大丈夫だって親方に教わった!」

 ミナが『あわわわわわわわ』と慌てている横で、バカはすこぶる元気に魚のモツを食らっている。元気だ。バカは元気だ。そしてバカだ。

「え、えええええ……やだぁ、いよいよバカだわ……」

「う、ううむ……秋刀魚の内臓はオツな味だが、流石に生で食べるのはな……」

 ビーナスと土屋は、最早すっかり匙を投げているらしく、茫然としているばかりだ。

 バカはただ1人ご機嫌なまま、もにもにとモツを食べ続けるのであった。




 ……が。

「おっ!?なんか入ってる!種かな!?」

「ミカンじゃないんだから……え?何か入ってるの?」

 モツをもにもに食べていたバカは口内のそれに気づいて、もにもに、と口を動かして……ぺっ、と、吐き出した。

「うわ、やめてよ汚い……え?」

「……ううん?」

「……これ、何でしょう?」

 始めこそ嫌がっていたビーナスだが、今やそんなビーナスも含めて全員が、バカの手の上に吐き出されたそれを見つめていた。


 そこには、三又の槍めいたマーク……つまり、海王星のマークが付いた鍵があったのである。

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― 新着の感想 ―
鍵?あ、これまさか各部屋に誰かの首輪を外す鍵あるのかぁ……
[良い点] さすがのバカも噛み砕けなかったか、それとも単に違う食感だったから吐き出しただけか……後者の可能性が高そうなバカだからなあ
[一言] プロの人は女子をファイヤーマンズキャリーするよ。
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