2日目昼:仮眠室
ということで、バカはしょんぼりと反省した。
木星さんはお風呂に入れる前に気絶してしまった。それどころか、異能すら使えなかったようだ。
バカはパンツ一丁湯上りほかほかの状態で、しょんぼりと木星さんを覗き込んでみるが、やっぱり木星さんは気絶していた。
「木星さん、また気絶しちゃった……。何が駄目だったんだろう……」
「全部だろうな」
まあ、どこにも安心できる要素が無かったので仕方がない。今の木星さんにとっては、バカの満面の笑みも恐怖の対象でしかないので。
そもそも、どんな状況、どんな人であれ、パンツ一丁湯上りほかほかの筋肉に抱えられていたら絶対に怖いので……。
さて。そうしてまた木星さんは『無敵時間』で封印されてしまった。
バカは『起こした方がよかったかなあ』としょんぼりしていたのだが、『それはまた後でいいんじゃない?』とたまに言われたので、そっかぁ、と納得した。それから『そろそろ服を着ろ』と天城に言われたので、そっかぁ、と服を着た。
「えーと、まだ開けていない部屋は……矢が飛んでくる迷路の部屋と、ヤギさんぬいぐるみの部屋、だっけ?」
「そうだね。……ヤギのぬいぐるみはちょっと気になる」
「じゃあ早速行ってみっか!あそこは『メロンパン!』だけで開くから簡単だし!」
どうやら、たまはヤギさんぬいぐるみが気になるらしい!あれは可愛いからきっとたまも気に入ることだろう。バカは胸を張って部屋を案内すべく、ドアへ向かっていったのだが……。
「いや、待ってくれ」
土屋がそんなバカとたまを止めた。
「こう……その、ぬいぐるみがある部屋、というのは、同時に銃がある部屋なのだろう?なら、そんな部屋は封印したままにしておくという手もあるぞ」
どうやら、土屋は銃が出てくることに抵抗があるらしい。流石は警察官である。バカは『かっこいい!』と目を輝かせた。
だが。
「いや、そうしたら悪魔が何かするかもしれねえじゃねえか。それに、ここにはドアが関係ねえ野郎が2人も居るんだぜ?そいつらだけが銃を自由に使える状況と、全員が等しく銃を握れる状況、どっちがマシだよ、おい」
意外にも、反論したのはヒバナだった。たまは『やるね』とばかりにひゅう、と口笛を吹いた。
「まあ……そうだな。樺島君がドアを破壊して中に突入することについては、まあ、最早どうしようもないが……井出亨太が何らかの事故で目覚めて、そのまま異能で壁抜けして銃を手にしてしまう可能性を考えれば、部屋を閉ざしたままにするのはむしろ悪手か」
「そうね。私もそう思うわ。万一のことを考えるからこそ、銃はここで回収しておくべきだ、ってね」
ビーナスも同調して……そして、ビーナスはくすくす笑いながら、言った。
「だから銃は回収して、全部弾抜いちゃいましょ?弾の入ってないオモチャとしてなら、その木星さんをちょっと驚かしてやるのに丁度いいかもしれないじゃない?」
「いいね」
ビーナスに同調して、たまもくすくす笑う。……バカはちょっぴりおろおろした!木星さんに銃なんて見せたら、びっくりしてまた気絶してしまうのではないだろうか!だったらヤギさんぬいぐるみとかの方がよくないだろうか!
……まあ、バカの主張はさておき、土屋人形の回収と銃の処理のため、バカ達は銃の部屋へ入った。
入って、そして、やるべきことは簡単である。
「メロンパァン!」
「うわうるさっ」
バカは元気に叫んだ。そして出口がふぃーん、と開いた。
「……え?今の何……?」
「ここ、メロンパァン!って叫ぶと開くドアなんだ!」
「絶対にそういうことは無いと思うが実際開いたな。元々はどういう仕掛けなんだ……?」
ということで、バカがメロンパンしてしまってから他の皆がゲームのルールを探し始める。すぐにゲームのルールを記したカードが発見されて、皆はゲームのルールを知り……。
「つまり樺島さんの声は銃声ぐらいあるっていうことですね!すごいです!」
「う、うーむ、最早何を思ったらいいのか分からんなあ……」
バカがとんでもない奴だということを皆が実感したところで、バカは全く気にせずヤギさんぬいぐるみを漁り始めていたのであった!
「あ!あった!土屋人形だ!」
「うん?私の人形か。……おお、私の人形だな……」
土屋人形はすぐに見つかった。ヤギさんぬいぐるみの中に入っていたそれをバカが土屋に差し出せば、土屋は『よくできているなあ』と笑いながらこしょこしょ、と人形をくすぐり……。
「うおっ……な、なんだこれは」
「あーっ!だからダメだってぇ!このお人形、くすぐるとくすぐったいんだぞ!」
「う、うむ。どうやらそのようだね……うーむ、しかし、こんなものがあるとは、本当にここは悪魔のデスゲームなのだなあ……。全くそういう雰囲気が無いが……」
土屋は反省しながらそっと人形をしまい込んだ。バカは、『そういえば俺のお人形見つからねえけど、やっぱねえんだよなあ……』とちょっとしょんぼりした。
くすぐったらくすぐったくなるやつ、やってみたかった!
「かわいいね」
「ふわふわですねえ。うふふ……」
「こういうのもたまには悪くないわよねぇ……」
さて。
そうして女子3人がヤギさんぬいぐるみを抱えて『ふわふわ!』とやっている間。
「で、この銃、どうするよ」
「鍵のかかる場所に保管……という訳にもいかないんだったな。壁抜けできる奴が居る以上……」
男性陣が考え始めたのは、銃の処理である。これをこのまま置いておいてしまうと、木星さんの一発逆転の切り札になってしまいかねない。よって、銃はここでしっかり処理しておきたいのだが……。
「やはり弾を抜いておくのが一番か。使えない状態にしてしまいたいが、流石にそこまでの工具があるでもないしなあ……」
「あ、じゃあ、片結びしとくか?」
「は?」
バカが提案すると、皆の目が、ぱち、と瞬かれる。陽が『ちょっと1つやってみてもらえるかな』と言ってきたので、バカは銃を1つ手に取った。
……そうして銃が一丁、きゅ……と片結びにされた。
「……銃が片結びに」
「うん。もうちょっと長けりゃ、プードル作れるのになあ」
「銃で!?」
バカの特技は鉄パイプをきゅいきゅい捻ってプードルを作ることである。だが残念ながら、銃身はそんなに長くないのでプードルにはできないのである!無念!
「銃……処理、できちゃうんだね。あははは……」
「こうしてしまうと僕らも銃を使えなくなるが……それでもいいなら、ここで全ての銃を片結びさせた方がいいんじゃないか?」
「私もそれに賛成だよ。いやあ、樺島君はすごいな!まさか銃が片結びになるとは思わなかった!」
バカの片結びを見ていた皆はそれぞれに思うところがありそうだが、それはそれとして、バカが銃を片結びにすることについては賛成してくれるらしい。ヒバナと天城も、『まあ、しょうがないか……』と納得してくれた。とはいえ、次々に銃が片結びにされていく場面を見ていた2人は、なんともいえない顔をしていたが……。
全ての銃が片結びになったところで、後はヤギさんぬいぐるみがあるばかりとなった。
なのでバカは、ヤギさんぬいぐるみを抱えて椅子に座る。椅子はふかふかだしぬいぐるみもふかふかだ!
……だが、こうしてふかふかに座ってふかふかを抱いていると、どうにも……。
「なんか眠くなってきちゃった……」
バカは、うとうとし始めてしまった!
「お前、この状況で眠くなるのか……一応デスゲーム中だぞ……」
「うん……」
海斗が慄いているが、バカは眠い。
なんというか……ちょっと疲れてしまったのだ。沢山やり直したし、その中で沢山悲しいことがあったし。
そして何より、今、バカは安心しているのだ。皆が生きていて、傷つかずに集まっていて、バカの夢が叶いそうな、そんな状況。これを安心せずにはいられない。皆優しくて、仲良くやっていて、楽しくて……あと、お腹いっぱい。風呂に入ってほこほこ温かい。こんな状況で眠くならない訳があろうか。いや、ない。
「こらこら、樺島君。寝るなら寝床で寝なさい」
「うん……」
すっかり眠いバカは、土屋に引っ張り上げられて立ち上がりつつ、ちょっと、きょろ、きょろ、と見回して……。
「……じゃあ、適当に壁掘って寝るぅ……」
「は?」
バカは慄く他の人達に全く気付かず、てくてくてく、と部屋を出ていき、てくてくてく、と矢の迷路の部屋へ入り……。
「よいしょぉ、っと……」
ねむねむ、と半ば眠りかけたバカは……木星さんハンマーを振り回して拡張工事を行い!
「あ、おみやげ……」
ねむねむ、と半ば眠りながら矢のトラップの上でタップダンスを踊って矢を出せるだけ全部出し!
「適当にここ、個室にしとくから、皆も昼寝していいぞ……」
ねむねむねむ、と4分の3くらい眠りながら、一本真っ直ぐに通った廊下と、その廊下にくっつくいくつかの個室スペースとを作り上げてしまった!
「樺島君。お布団と枕、連れてきたよ」
「わー、ありがとぉ……えへへ、ふわふわだぁ」
更にそこに、たまが羊とライオンを連れてきてしまった!めえめえとちょっと迷惑そうにしている羊達に『ふわふわ!』と埋もれ、大人しく寝そべったライオンに頭を乗っけて、バカは……。
「おやすみ!」
寝た!おやすみ!




