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0日目夜:双子の乙女

「な、何……?あなた達、なんで、今、まだ夜……」

「昼になってないのに、どうしてドアが開いたの……」

 双子の乙女はがくがくと震えていた。そこらへんに、お茶のカップとお菓子が置いてある。どうやらくつろぎ中だったらしい!

「ごめんな!ドア、破ってきちまった!」

「どうやって……!?」

「これぶん回して!」

 慄く双子の乙女達に、バカはにっこり笑って木星さんを見せた。またハンマーと化した木星さんは、大人しくハンマーとしての役割を果たしてくれている。なのでフルスイングすれば当然、ドアは壊れるのである。当然だ。自然の摂理とも言えよう。『弱肉強食』というような意味で。

「意味が分からない……!」

「人を振り回すなんて……!」

「うん、で、えーと、もしかして夜の間はゲーム、できないか?待った方がいいか?」

 バカはちょっと心配になって聞いてみた。開店時間前にお店に入ってきてしまったような気分になってきた。まあ実際そうである。開店時間前の店のシャッターをぶち破って突入してきたところなので、強盗か何かに近しい。

「ゲーム……やるの?」

「よく見たら、あなた達、首輪、無い……」

「うん!首輪無いけど、やる!な!」

 双子の乙女達は『なんで首輪無いの』とまた慄いたが、只々にこにこご機嫌なバカと、その後ろからぞろぞろとやってきた他の人間達を見て、いよいよ途方に暮れたような顔になってしまった。

「……では、ゲームを開始します」

「全員、檻の中に入って……え、え?何人居るの?」

「9人!あっ、木星さん入れたら10人だけど!」

「……ちょっと増やすから待って」

 ぞろぞろと人間達が入ってくる想定はしていなかったのだろうか。双子の乙女は、わたわたと準備を始めた。バカはこのあたりでようやく、『なんか悪いことしちゃったかなあ』という気分になってきた。最初から悪いことしてるので今更である。

「いや、増やさなくてもいい!相部屋でいいから!な!海斗ぉー!相部屋でいいよなー!?」

「な、何故僕が!?」

「で、陽とたま、相部屋でいいよな!ヒバナとビーナスも相部屋でいいだろ!?で、残りが土屋のおっさんと天城のじいさんとミナだから……えーと、後1人、誰か相部屋すればいいのか?」

「なら私が天城さんと相部屋になろうかな……いや、部屋、ではないが……」

 ということで、相部屋ならぬ相檻になって、元々あった檻の数だけで足らすようにした。バカは『これでよし!』と、にっこりした!




 さて。

「じゃあ、テーマは『食べ物』だから……」

「質問12回以内に正解できたらご褒美あげるから、頑張って……いえ、頑張らないで……」

 そうして、双子の乙女がびくびくする中でゲームが始まった。

 ……とはいえ!

「じゃあ質問。この問題の答えを、YESをとん、NOをつーとしてモールス信号で教えて」

 たまが最初からこうやっちゃうのである!

「も、モールス信号……!?」

「モールス、信号……!?」

「うん。ルール通り、YESとNOだけで答えられるでしょ。ほら、早く」

 たまが無情にも急かすと、悪魔2人はおろおろ、として……それから、ちょっと消えて、すぐ戻ってきた。そしてその手に持ってきた紙を見ながら、モールス信号への変換を始めた!


 それから少しして、双子の悪魔は一生懸命YESとNOだけで回答を始めた。大変そうだった。

「すげー、何言ってんのか全然わかんねえ!」

「僕も分からない」

「えっ!?海斗にも分からないのか!?そんなこともあるのか!?」

 バカはびっくりした!なんと、海斗にはアレが分からないらしい!

「モールス信号だぞ?分かる方が珍しいだろう」

「ええー……そういうもんなのかぁ……。海斗は頭いいから、何でも分かるんだと思ってた……」

 バカは海斗の頭の良さを信じているので、海斗にも分からないことがあると、ちょっとびっくりするし、ちょっと安心するのであった。海斗は『一体、僕の何を信じているんだ……?』と不審げであったが。


「答え、『ましゅまろ』だって」

「あ、やっぱり?そっかー、やっぱりマシュマロかぁ!マシュマロ、美味しいよなあ。ふわふわふにふにで、柔らかくって、甘くって……」

 やがて、双子の乙女はモールス信号への変換を終えたらしく、そしてたまはそれを解読したらしい。すごい!

「ま、待て!本当にその答えで合っているんだろうな!?僕は生憎、モールス信号が分からないんだ!本当にこの悪魔はそう言っていたのか!?」

「……そっか。モールス、分からない人の方が多いよね」

 海斗の意見に、たまは、きょろ、と周りを見回した。……まあ、当然ながら、『モールス分かるよ!』という人は居ない。

 と、思ったら。

「私は分かるぞ。確かに『ましゅまろ』が答えだった」

「私も、ほんの少し齧った程度だが、分かる文字もある。最初が『ま』なのは間違いないと思う」

 なんと!天城はモールス信号とやらが分かるようだったし、土屋もちょっぴり分かるらしい!バカは『すげえ!皆すげえ!』と興奮した!

「えーと、天城さん、分かるんだ……」

「……まあ、約50年は無駄ではなかった、ということだな」

 陽はモールスが分からないらしいので、天城が分かるのはたくさん勉強したからなのだろう。やっぱり天城は努力と執念の人なのだ。バカはまたちょっぴり、天城のことを尊敬した!




「もういい……?」

「さっさと正解して……それで、すぐ出てって……」

 さて。双子の乙女はしょんぼりげんなりしている様子だが、ここで終わる訳にはいかない。

 そうだ。ここで終われないのだ。むしろここからが、本番なのだから!

「じゃあ2つ目の質問だけれど」

 たまが質問を始めたのを聞いて、双子の乙女の表情が引き攣る。だがたまは全く容赦が無い!

「悪魔のデスゲームを永遠に開催させないためにどうしたらいいか、教えて。勿論、モールスで」




 ……それから、たまと天城による質問ラッシュが起きていた。その度に双子の乙女は一生懸命変換表を眺めては、『YESNONO……えーと、うーんと』とやっていた。ちょっとかわいそうである!

 だが、おかげで分かったことも多かった。

「じゃあ、ここまでの内容を確認するね」

 檻の中に入ったまま、たまはそう言って、説明を始めてくれた。

「まず、『悪魔のデスゲームを永遠に開催させない方法』だけれど、そもそもデスゲームを願う人が居なければ開催できないらしいよ。つまり、木星さんを殺しちゃうか永遠に『無敵時間』にしておくかすれば、ほぼ確実にデスゲームは開催されなくなるんじゃないかな」

「とはいえ、新しい木星さんが生まれちゃうのはどうしようもないけれどね。まあ、それは仕方がないかな、と思うよ」

 たまと陽がそう説明してくれたので、バカは半分くらい理解して、『ほえー』と感心した。否、やっぱり半分は多く見積もりすぎた。5分の2か4分の1だ。それくらいバカは理解した!

「そっかー、やっぱ、木星さんなんとかしなきゃだよなあ」

「……こいつを天使が蠢く会社の工具として置いておく、というのはあながち間違った対処でもないのか……」

 バカとしては、第二第三の木星さんが生まれることも防ぎたいのだが、そこまでやるとなると、いよいよ人間全員を統治する、というような話になってしまうので駄目だろう。

 人間が居る限り欲望があり、欲望がある限り悪魔はやってくるのだ。それはどうしようもないことで、それをちょっとでもいい方向に持っていくのがバカ達天使の役目なのだと、親方から教わったのだ!


「次に、『死者を生き返らせる方法』については、『治した死体に魂を戻す』って言ってたよね」

 3つ目の質問は、『死者を生き返らせる方法を教えて』だった。これについても双子の乙女はモールス信号で答えさせられていたので、とても大変そうであった!

「でも、それだと……」

「……ああ。それでは、抜け殻のような人間ができるだけだ」

 だが、やはり双子の乙女は悪魔であるらしい。ちょっと欠陥がある方法を教えてくれやがったのである!

「私は他の参加者の魂を使って、私の恋人を生き返らせた。だが、脱出してようやく目覚めたつぐみは……まるで抜け殻のような、そんな状態だった」

 天城が当時を振り返るようにしてそう言ってため息を吐くのを、バカはちょっぴり辛い気持ちで見守った。……多分、天城はとても辛かっただろうなあ、と思うのだ。

「恋人の魂以外にも、富と地位を手に入れていた。だから、それらを利用して、つぐみに最先端の医療を受けさせ、医学への投資を惜しまずにやっていたが……それでも、彼女が元に戻ることはなかった」

「一度でも魂が悪魔のカンテラに入れられちゃったら駄目、ってことなんですよね……」

 天城が落ち込む一方、ミナもまた、少し落ち込んでいる。

 ……ミナも、大事な先輩を生き返らせたいはずなのだ。だから、悪魔の返答にはきっとしょんぼりしたことだろう。


「まあ、つまり、人を生き返らせようとするならば、『時を巻き戻す』のが最も簡単で単純、ということになるのだったな」

「時を巻き戻すなんて気楽にやっていいものなのか分からないけれどね……」

 たまの質問は、『悪魔が魂を抜いた時と、普通に死んだ時とで人の魂の状態は変わる?』と来て、それに『変わる。悪魔が食べやすいように、魂が固定される』と返ってきた。続いて『魂が固定された状態になると、治した死体に魂を戻しても元通りにはならない?』と質問して、『そう』と返ってきた。

 ……そうして、『固定された魂を元に戻す方法は無いのか』と天城が質問して、『知らない』と返ってきたところで、いよいよ、バカ達はデスゲームの犠牲者を生き返らせる方法を見失ってしまったのだった。

「親方ならもっといい方法、知ってたかなあ……ごめんなあ、ここに居るのが親方じゃなくて俺で……」

 バカはちょっぴりしょんぼりした。こういう時、皆の役に立てない自分が、なんとも歯がゆい!


「で、悪魔が嫌いなモンと木星野郎が嫌いなモン聞いたんだったよな?」

「ええ……っふふ、悪魔も木星さんも、天使が嫌い、なんだったわよね?」

 だが、ヒバナとビーナスの振り返りによって、バカはちょっぴり元気になる!

 そう!なんと、悪魔も木星さんも、天使が嫌いらしいのだ!つまり!バカのことである!

 ……バカ個人としては、他者に嫌われるのはちょっとだけ悲しい。だが、木星さんが一番嫌がることをしてやりたい!という気持ちもあるので、木星さんが嫌がるものがバカ自身、となるとなんとも都合が良いのだ!

「悪魔の企みは天使によって破壊されることが多いから、か……」

「……まあ、破壊されているな。確かに」

「うん?破壊?ああ、ドアとか……?」

 天城と海斗がじっとバカを見ていたが、バカはきょとん、としている!




 ……他にも、『悪魔としては木星さんのことどう思う?』に対しては『愚かだと思うけれど美味しそう』と返ってきたし、『木星さんの素性を教えて』に対しては『本名は井出亨太。42歳男性。契約社員。今年度いっぱいで契約を切られそう。埼玉県南部在住。』と返ってきた。

 更に聞きたいことを好きに聞いて、12回の質問権を使い切ったら……いよいよ、フィニッシュだ。

「じゃあ、答えを言うね」

「もう知ってる」

「もう知ってる」

「答えはマシュマロ。どう?」

「もう知ってる」

「もう知ってる」

 ……そうしてたまが満足気にしている一方、双子の乙女はしょんぼりといじけてしまったのだった!ごめんよ!とバカはちょっぴり申し訳なく思った!




「なー、なー、ごめんってぇ……」

「こんな無茶苦茶な人達初めて……」

「ひどい……これ持ってさっさと出てって……」

 双子の乙女はミナ人形を渡してきたきり、すっかりいじけている。バカはおろおろしながら、なんとなく彼女達を元気づけたくなってきてしまった。バカはバカでも善良なバカなので、目の前でしょんぼりしている人がいたら(人じゃなくて悪魔なのだが、それでも!)励ましたくなってしまうのだ。

 ……そうしてバカは考える。

 バカが元気を出す時はどんな時だろう、と。

 親方や先輩に褒められた時。ぐっすり眠った後。のんびりお風呂に入った時。美味しいものを食べた時……。

 ……そこまで考えて、バカは結論を出した。


「あ、あの!じゃあさ!」

 バカは、双子の乙女達の手をきゅっと握って……誘った。

「一緒に鍋食おうぜ!」

 ……鍋パがやってくる!


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天使と悪魔の天使と悪魔の天使と悪魔のNA☆BE☆PA
まだ2作品しか見てないけど、主人公の特性としては各々外観は異なるが対人コミュニケーションに一定の制約を受けた善良な怪物 で合ってるかな?
最高だぜ!
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