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0日目夜:大広間*3

「仮免の天使……」

「うん!ええと、まだ仮免なんだ。認定は親方がやってくれるんだけど……俺、まだ半人前だから、もうちょっと実地訓練積んでから、って……」

 バカは、ちょっとしょんぼりしながらそう説明した。

 そう。バカはバカなので、仮免のままなのだ。バカなバカを一人前と認めるのは、親方もちょっと躊躇うらしい!

「でも、頑張ってるんだぞ、一応。俺、天使の本免許取れたらすぐ受けようと思って、解体工事施工能天使資格の勉強してるんだ。筆記苦手だけど実技は得意だから、なんとかなるかも、って……」

「資格なのか!?ちょっと待て!おい、樺島!天使って資格なのか!?」

「能天使?脳筋天使じゃなくて……?」

 バカが説明すればするほど皆が混乱していく。だがバカはそれに気づかず、説明を続けてしまうのだ!

「先輩達はすごいんだ。運転座天使大型特殊持ってる人も居るんだぞ!親方は戦車も運転できる!」

「運転免許か!?運転免許なんだな!?」

「俺はまず座天使小型特殊から取って、近所の稲刈り手伝う予定なんだ」

「コンバインか何かを運転するんですね……?」

 バカは、うんうん、と頷いた。雲の上でコンバインを運転するには、座天使小型特殊免許が必要である。

「……天使の資格って、他にどういうのがあるの?」

「ん?他っていうと……ええと、現場には絶対1人、主任熾天使が必要でさあ……あと、ちょっと変わった道具とか使ったりするときは危険物取扱智天使の甲か乙が無いといけなくてぇ……えーと、えーと、あとなんだっけ」

「危険物取扱者か……」

「ということは、電気主任智天使1種、とかもあるのかな……ははは……」

 バカが色々頑張って思い出そうとしている間にも、皆の納得と達観は増していく。

「成程なあ。樺島君が『うちの職場に木星さんを持って帰る』と言っていた理由が分かったよ」

 そして土屋は、なんとも遠い目をしながら、言った。

「天使が実在するのなら、木星さんは天使達にお説教してもらうのが、いいのかもしれないな……」

「うん?まあ、うん!多分そう!親方、おっかねえんだ!だから親方に怒られればいいと思う!」

 バカはよく分かっていないながらも、土屋の気づきに胸を張って答えた!

 バカは親方のおっかなさを自信をもって説明できる!『怒るととにかくおっかない!』これに尽きるのだ!




 さて。

「……まあ、バカ君が天使様だ、っていうのは、うーん、ええと、置いておくとしましょう」

 話が大いに脱線したところで、ビーナスが頭の痛そうな顔でそう言った。バカは、『俺、置いとかれちゃうのぉ!?』とビーナスを見つめたが、ビーナスは何とも言えない顔でバカを見て、そして、ふう、とため息を吐くばかりである!バカはちょっぴり傷ついた!

「私、バカ君に聞きたいこと、あるのよね。だからちょっとバカ君を借りたいんだけれど……」

 だが、そんなビーナスはやっぱりバカを置いとくわけにはいかないらしい。ちら、とバカを見て、またなんとも言えない顔をする。多分、『聞きたいことはあるけれど、それはそれとしてこいつはバカ』というようなことを考えているのだろう。大正解である。バカはバカ!

「あ、あの、私も……樺島さん、後で少し、お時間よろしいでしょうか……?」

「うん、俺は別にいいけど……?」

 更に、ミナもバカに聞きたいことがあるという。バカは首を傾げ、頭の上に?マークを浮かべながらも頷いた。ビーナスやミナが聞きたいことがあるというのならば話したい。ここの皆の為ならば、バカはいくらでも協力したいのだ。


「ビーナスとミナさんが聞きたいことは、それぞれ個人的なことかね?」

「ええ……まあ、そうね」

「私も、そう……だと思います」

 天城が尋ね、ビーナスとミナが頷く。すると天城は、ふむ、と唸って、2人に穏やかに話しかける。

「ならば、この後の方針を先に決定させてもらってもいいかな?……まあ、主に、『この後のゲームについて』なのだが……」

「はあ?俺達はゲームやる必要なんざねえ、って話だったじゃねえか。どういうことだ?」

 そんな天城に食って掛かったのがヒバナだ。

 当然、バカ達はヒバナの言う通り、ゲームをやる必要は無い。何せ、全員、首輪が引き千切られた後なのだから!

 ……だが。

「ゲームに参加する必要は無い。だが、ゲームに参加することで得られるものもある」

 天城はそう言って、にやり、と笑った。

「『双子の乙女』。……樺島、分かるな?」




 双子の乙女。

 それはバカにも覚えがある。バカが苦手な、あのクイズの部屋の、よく似た悪魔2人のことだ!

「双子の乙女……あ!うん!分かる!いちらんせーそーせーじじゃないおねーちゃん2人が居るところ!」

「……お前は一体、何を聞いたんだ?」

 天城は呆れ返っていたが、バカは『あのおねーちゃん達、双子じゃないのにそっくりなんだもんなあ。落ち着かない気分にならねえのかなあ……』と暢気に考えていた!

「まあ、いいが……とにかく、あのドアの向こうには、『こちらからの質問にYESとNOだけを使って回答する』悪魔が居る。上手く質問して答えを探すゲームではあるが、単に質問するだけでも利用できる」

 バカは、『そういや、前、たまがそういうの聞いたって言ってたなあ』とぼんやり思い出す。内容は何一つ覚えていないが……。

「……私は、『悪魔のデスゲームの開催を止めるためにはどうすればいいかモールス信号で答えろ』と尋ねるつもりだ」

 天城はなんともたまっぽいことを言ってのけた。これに、陽は『うわあ』と慄き、たまは、にっこり笑った!……天城の思い切りの良さは、陽というよりは、たまに影響を受けているような気がするバカであった。

「それから……」

 そうして天城は笑うたまを見つめ、そして、ふ、と視線を落とす。

「……一度死んだ人間の生き返らせ方も、聞きたい」


 ……天城は、かつて恋人を救えなかった陽だ。だが、陽はデスゲームで生き残ったのだから、他の人の魂を使って願いを叶えられたはずなのだ。

 それでもたまを生き返らせなかった、ということは……多分、『生き返らせられなかった』のだろう。或いは、生き返らせたのに上手くいかなかった、とか。とにかく、その結果に満足できなかったから、陽は天城になって、約50年もの間、ずっと孤独に問題の答えを探していたのだろう。

 そんな天城が、全て終わった後とはいえ『別解』を求める気持ちは、分かる。そして何かいいアイデアを聞くことができたら、きっと、それは天城の心の穴を埋める材料になるんじゃないだろうか、とバカは思うのだ。




「いいじゃんいいじゃん!どんどん質問しようぜ!悪魔のおねーちゃん達に色々聞けることなんて、こういうゲームの時くらいしかねえもんな!」

「お前、悪魔を何だと思っているんだ……?」

 バカにとって悪魔は、『イベントのスタッフさん』ぐらいのものである。下手すると、『イベントにやってきているよく知らないアイドルさん』ぐらいの感覚かもしれない。

「ま、まあ、悪魔に何かをノーリスクで聞けるというのなら、確かにまたとない機会だが……」

 海斗も何か、聞きたいことがあるのかもしれない。バカは、海斗がちょっとそわそわし始めたのを見て、なんだか嬉しくなった!海斗が嬉しそうだと、バカも嬉しいのだ!


「あっ!そうだ!そうだ!だったら俺、鍋の部屋行きたい!で、皆で鍋食べよう!な!」

 嬉しさついでに、バカは鍋パの存在を思い出した。

 そうだ!前回の鍋パは、木星さんのせいであんまり美味しくなかったのだ!だからこそ!今回こそは!最高にハッピーでデリシャスな鍋を皆で食べたいのである!

「それから、ピラフみたいな名前の魚!あれも食べたい!前、ミナがお刺身にしてくれたのに結局あんまり食べらんなかった!もっと食いたい!」

「えっ、えっ、わ、私、ピラニアを捌いたんですか!?お刺身に!?」

「うん!あっ、あと、牛みたいな奴いたな!あいつ入れたら牛鍋にならないかな!」

「あれは悪魔だ。食うのはやめてやれ」

「そっかー」

 バカは、『確かにあの牛、硬そうだったもんなあ』と納得した。出汁にはできそうな気もするが……やっぱりかわいそうな気がしてきたのでやめることにした!

「あとお土産!お土産ほしい!でっかいコインとかっこいい矢!あとヤギさんぬいぐるみも!あれ可愛かった!」

「……ぬいぐるみ、か。まあ、そういうことなら各部屋の人形も全て回収していくか……。あれも呪いの品なのだろうしな。回収しておくに越したことは無いだろう」

「あっ!そうだった!皆のお人形、よくできててさあ、かわいいからさあ、皆、見てみるといいよ!な!」

 天城が教えてくれた情報を観光スポットくらいのノリで受け止めたバカは、わくわく、うきうき、にこにこ、とはしゃぎ始める。

 何と言っても、バカはバカで、それ故に単純なのだ。つまり……。

「うわー!やっと楽しみになってきたー!皆、よろしくな!今度こそ、皆で仲良くここ出ような!」

 バカは、楽しい気分になると、俄然、やる気と元気が湧いてくるタイプなのである!だって、バカだから!




 ……ということで、鐘が鳴るまでの間、皆で『双子の乙女に何を聞く?』というような話し合いをしていた。

『していた』というのも、単純なことである。

 要は……バカは、そんな難しいことを考える能力が無いので、まるきり戦力外だったのである!

 なのでバカは、皆の相談の傍ら、うきうきを胸に、木星さんの素振りや腹筋運動や腕立て伏せを行って、ついでにちょっと大広間の隅っこを駆け回ったり、壁や天井を這い回ったり、元気に蠢いていた。

 ……始めこそ、皆、そんなバカを見て驚いていたが、その内慣れてきたのか、バカが天井を這い回っても誰も何も言わなくなった。

 バカは、認められたような気がしてなんだか嬉しくなったが、その実、認められたというよりは『あいつはバカだ。ああいう生き物なのだ』という諦めに他ならないのであった!




 そうして。

「じゃ、鐘鳴ってねえけどもういいよな?いいよな?」

「……まあ、やれるならやってみろ」

「うん!やれるからやる!じゃ、いっくぞー!」

 バカは元気に木星さんを振り回し、ぶおん、ぶおん、とやりつつ双子の乙女の部屋へ続くドアへ近づいていって……そして、ドアへ木星さんを振り下ろしたのだった!


 バキイ!とドアが吹っ飛ぶ。

「きゃああああああああ!?」

「いやああああああああ!?」

 部屋の奥から、双子の乙女の悲鳴が聞こえる。

 そして。

「じゃ、皆行こうぜー!おじゃましまーす!」

 元気なバカの挨拶が、さらに大きな音量で響き渡ったのだった!


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― 新着の感想 ―
あー……バカのすり抜け出来たのも人じゃなかったからかぁ…… 1番の被害者ようこそー
親方はセラフィムの資格で実は明王様なんでしょ
バカが免許の名前をちゃんと覚えているだと…!? しかも複数覚えている!?
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