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0日目夜:大広間*2

 そうして、アナウンス鑑賞会が始まった。

 全員が『これは現状を無視した録音』と分かった上で聞いているので、緊張感がまるで無い!

『もうじき、君達が居た地下フロアは全て水に沈む。この時点で未だに1つも謎が解けていない部屋もあるようだが……その者は決して間に合うまい。先に説明をしてしまっても問題は無いだろう』

「いや、全員ここに居るじゃない……?」

「でも仕掛けは解いていない、ですよね……?」

「元々、井出亨太は私を殺してから、素知らぬ顔で大広間へ合流する予定だったのだろうからな。『1人足りない』状況については言及しておかねば、と思ったのだろうが」

「間接的に木星の男が天城さんを殺害予定だったことの裏付けが取れてしまっているなあ、うーむ……」

 まず、最初からこれである!

 木星さんは元々、ここまでで1人殺している予定だったのだろうから、それに合わせてこんなアナウンスを吹き込んでおいたのだろう。だが、それが今、見事に裏目に出てしまっている!


『さて。分かっているとは思うが、君達は悪魔の誘いに乗ってここまでやってきてしまった愚かな者達。自分の願いを叶えるために、これから他者を蹴落とし、殺すことになる罪深き者達だ!』

「ところで皆さんの願い事って、なんですか?」

「アナウンスが終わったらその話、しよっか。私以外の人の話も聞きたい」

 ミナとたまがひそひそ、とおしゃべりしている。バカは『仲良し!』とにこにこした。

『これから、君達が行うことになるデスゲームの説明をさせてもらおう。一度しか言わないからよく聞きたまえ』

「うん!わかった!」

 そしてバカはまた元気にアナウンスへ返事をして、椅子の上に正座してアナウンスを待つのだった!




『まず……諸君らは既にお気づきのことと思うが、諸君らにはそれぞれ、首輪が付いている』

「付いてねえよ!」

 ……最初からルールが破綻してしまっている。

 何せ、今、この場に首輪をつけている者は木星さんしか居ない!

『そして、その首輪は諸君らに毒物を注射した。まあ、正確には毒ではなく、我々の魔法によるものだが……君達には、毒薬と言えばわかりやすいだろう。まあ、いずれにせよ結論は同じだ。……このままでは、諸君らは……次の『夜』が来た瞬間に、死んでしまう!』

「首輪……ああ、だからバカ君は全員の首輪を引き千切ったのね?」

「うん!そう!」

 アナウンスを聞いて、ビーナスがバカの奇行について納得してくれた。バカは『やっと伝わった!』とにこにこ顔である!


『死にたくないなら、やるべきことは簡単だ。……君達の時計が『昼』を示した時、周囲のドアが開くようになる。その先にあるのは、楽しい『ゲーム』だ。そして、そのゲームをクリアした先にあるのは、解毒装置。君達に注射された毒物を中和してくれるものだ。素晴らしいだろう?』

「成程、本来はそうやって、僕らはそれぞれに命を懸けたゲームに参加させられていた、ということか……」

 ちょっぴり怖がりな海斗も、今はすっかり落ち着いて、ただ何とも言えない顔でアナウンスを聞いていた。

 アナウンスの言う『あったかもしれない未来』を安全な現状から眺めるのは、まあ、さながら冬のこたつの中で食べるアイスのようなものなのだ!




『同時に、『更に次の夜』に死ぬよう、新たな毒薬が注射されるが、それは次のゲームでなんとかすればいい。……まあ、とにかく、君達が生き残るには、ゲームをクリアして解毒装置を使うしかないということだ。ただし、注意点が4つ!……1つ目は、ゲームへと続くドアはそれぞれ1回きりしか開かない、ということだ。一度も開いていないドアなら昼の間ならいつでも開く。だが、一度でも開けてしまったなら、閉じたが最後、もう二度と開くことは無い!』

「樺島君。あのドアってもしかして、君、開けられる?」

「おう!任せとけ!木星さんバットがあればいけるいける!」

 続くドアについてのアナウンスも、笑いながら聞き流す。なんといっても、今、バカの手には無敵バットがある!これさえあれば、どんなドアだってイチコロなのだ!悪魔のルールに従う必要は無いのである!


『2つ目は、人数制限だ。どのドアも、人数の制限は無い。何人で入って頂いても結構。だが……ゲームの先にある解毒装置は、4人分のみ。そして、夜になるまで出口は開かない。……お分かりかな?つまり、5人以上が同じ部屋に入ってしまったら、その時点で1人以上が死ぬことが確定するということだ!』

「私達に解毒装置は必要ないから、本当に人数制限は無いんですね!」

「おう!皆で入ろうな!」

「入るのか!?必要もないのに!?」

 人数制限も、首輪が引き千切られた今、全く関係ない!そしてバカは、『皆で鍋パできる!』と目を輝かせた!


『続いて、3つ目!解毒装置にある解毒剤は、ドアを開けたその昼の間にしか使えないから注意したまえ』

「これはちょっと関係あるかも」

「そうだね。木星さんにだけ、関係があるね……」

 逆に言うと、他の皆には関係が無い。まあ、聞き流した!


『そして最後、4つ目だが……ドアの先のゲームでは、何が起こっても、一切の責任を負いかねる。そして、『何を起こしても』お咎めナシとしようじゃないか』

「そっか」

「うん!そうらしいぞ!あっ、ゲーム以外でも割とお咎めナシだぞ!」

 バカはこれに自信をもって言い放った。そう!素晴らしいことに、本当にお咎めナシなのだ!うっかり壁やドアを破壊しても!蟹を粉砕しても!バカはお咎めナシである!

『まあ、そういう訳だ、諸君。ゲームを楽しんでくれたまえ。ああ、あと、最後に1つ……君達にはそれぞれ1人1つ、異なる異能が与えられている。金庫にあった説明は読んできたかな?その通りに行動すれば、問題なく異能を使えるはずだ。そして君達の望みを叶えるといい』

 さて。そして異能の説明を聞いた陽は、ちら、と天城を見て、何とも言えない顔をした。

「1人1つ、か。……えーと、まあ、そういうこと、だよね?」

「ああ。そういうことだ」

 天城も少し気まずげに頷いて、それで、2人の会話は終了した。

 ……同じ『無敵時間』の異能を持つ2人は、つまり、『同一人物』だということだ。その証明が間接的にもできてしまったので、陽と天城はまたちょっぴり気まずげである!


『君達の望みが叶えられるのは、今を『0日目の夜』とした時の『4日目の昼』にあたる。その時、我々は責任をもって……そこのカンテラに入っていた人間の魂の数だけ、望みを叶えてあげようじゃないか。だが、無論、魂の数が生き残った人数より少なかったからといって、叶える願いの数を増やしはしない。誰が願いを叶えるのかは、君達で決めてくれ』

「今回はゼロか1かになるのよねえ……ゼロの場合ってどうなるのかしら?」

「わかんねえ!……あっ!?蟹!蟹、どうなるんだろぉ!?」

『では、ゲームスタートだ。参加者諸君、うまくやりたまえ』

 そうしてゲームはスタートした。既に色々スタートしていたりゴールしていたりするのだが、それはそれとして、バカは『蟹ぃ!』と疑問の声を上げるのだった!魂ゼロの時の蟹が気になる!




 ……さて。

「……以上が、『本来の』デスゲームの説明だ。尤も、我々には最早関係のないようなものばかりだが……」

「首輪がねえからな……」

 悪魔のアナウンスを聞き終わったところで、天城が後を引き取って話し始めた。が、もう、皆の気分はのんびりモードであるらしい!気が抜けてしまった、ともいう!

「じゃあ、早速だけれど色々と説明してくれるのよね?天城さん、あなた何者なの?あと、バカ君。この先、本来なら何が起きていたのかも教えて?」

 だがそんな中でも、ゆったりとビーナスはそう言ってバカと天城とを代わる代わる見つめてくる。

 バカは『じゃあ俺が!』と説明しかけたのだが、天城に『いや、こちらが先の方が分かりやすそうだ』と遮られたので、そのまま天城に任せることにした!よろしく天城!




 天城は説明が上手なので、かいつまんでざっくりと、とても分かりやすく説明し終えた。バカにも分かる説明であった!自分にも分かるとは思っていなかったので、バカはびっくりしている!

「……まあ、そういう訳だ。私はそこに居る陽がゲーム中に恋人であるたまを殺された場合の未来の姿で、私は恋人の仇でもある井出亨太を殺すつもりでここに来た」

「時を超えた同一人物が同じ場所に居る、だと?最早何でもありだな……。ああ、でも、確かに。陽と天城さんは、腕のほくろの位置が同じだな」

「つむじの位置も一緒だね」

 疑り深い海斗も陽と天城とを観察して、『天城は未来の陽!』という話を信じたらしい。陽は元々分かっていたようだし、たまも概ね分かっていたようだ。本人達が信じているということで、周りも信じた。やっぱり話が早い!




「で、そのバカは『やり直し』なんだったよなァ?……そんなのばっかかよ、おい」

「うん!そう!俺、『やり直し』でここに来た!」

 更にバカの話も信じてもらえているので、バカはとても嬉しい!

「私は『キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部』が気になるけどね。どこよ、それ」

「うん!?北埼玉支部!でも北埼玉っていうより、フローラルムキムキって言った方が皆に愛される支部になれるだろうってことで所長がフローラルムキムキ支部にした!」

「そういうの聞いてるんじゃないわよ」

 びし、とビーナスのデコピンをくらった樺島は、『うわああああああ!』と後ろに転がった。ビーナスのデコピンは強い!強いのだ!

「……見たところ、樺島の異能の説明書きだけ、他の参加者のものと違うようだ」

「えっ!?」

 だがバカは起きた!だって何かとんでもないことを言われた気がするのだ!……よくよく思い返してみると、前にも言われたことがある気がするが!

「僕のを見てみろ」

 ということで、海斗の異能の説明書きを見せてもらう。

 そこには、『君の異能は『リプレイ』だ。『リプレイ』を宣言し、場所と時刻を指定すれば、指定した時から60秒分、その場で誰が何をしていたかを再生することができる。リプレイによって再生される人物の姿に実体は無く、音声は一切再生されない。だが、上手く使えば他の参加者の陰謀を暴くこともできるかもしれない。頑張ってくれたまえ』と書いてあった。

「……読んだか?」

「うん……難しいことが書いてあった……」

 バカには海斗の異能の説明書きがよく分からない!途方に暮れた顔でバカが海斗を見つめると、海斗は『こいつ本当にバカか……!』と呆れ返った顔をした。だがバカはバカなのである!しょうがないのである!

「なら内容はこの際、どうでもいい。文字だ。文字の形を見ろ」

「うん……?」

 海斗は説明をバカ向けにしてくれることにしたらしい。ほら、と差し出された紙は、皆が回し読みしていたバカの異能の説明書きだ。


『樺島剛へ。お前の異能は、『世界の巻き戻し』だ。やり直したいと強く思った時から90秒後に世界が巻き戻り、お前が個室で目覚めた時に戻る。その時、お前の記憶はお前の記憶力の限り保持されているが、他の者はその限りではない。逆に言えば、異能の使用者の記憶以外の全てが巻き戻るということになる。よって、肉体への傷も、施設内の変化も、持ち物も、全てがスタート時点に戻る。よって、メモを取っても無駄である。以上で説明は終わりだ。頑張るんだぞ。』


 ……まあ、以前読んだ内容と一緒だ。バカは一生懸命に文字列を眺めて、『そういえば、俺のはちゃんと俺宛てで書いてある!』と嬉しくなった。

 だが。

「分かったか!?手書きだろう!お前のは!」

「あっ!」

 それ以上にちゃんと、違いがあったのだ!

 そう……バカの異能の説明書きだけ、何故か、手書きなのである!




「わあー……手書きだぁ……」

「……やっと気づいたのか」

 バカは他の人達にほとほと呆れられていたが、しょうがない。バカはバカ以外の異能の説明書きなんて、今初めて見たのだ!だって見てもどうせ分からないぐらい難しいことが書いてあるんだろうと思ったので!

「この筆跡に見覚えは?お前がここに居る理由が分かるかもしれない」

「ええー、筆跡ぃ?そんなこと言われてもぉ……」

 更に、海斗は難しいことを言ってくる!バカに筆跡鑑定の心得は無いのに!

 ……だが、海斗に言われてよくよく見てみれば、なんとなく、見覚えがあるのだ。この、ちょっと丸っこい字で、『帰省したお土産、配ったら1個余ったから食べていいぞ』とか『書類の提出、明日までだぞ』とか書かれた付箋がバカのロッカーに貼ってあることが多かった。


「……ああああああああああああああ!」

「うわうるせえなテメエ!」

 ヒバナには怒られたが、バカは気づいて叫び声をあげた!うっかり至近距離でバカの悲鳴を聞いてしまった海斗が耳を押さえて呻いている。キーンとしているらしい。

「これ、先輩の字!先輩の字ぃ!」

 だがバカは大興奮である!だって、これは先輩の字!先輩が書いたものだ!この異能の説明書きは、先輩が書いたものなのである!




「先輩?あの、樺島さんの、先輩さん……ですか?」

 恐らく『先輩』という単語にはっとしたのであろうミナがそう尋ねてきたので、バカは大きく頷いた。

「うん!俺の職場の先輩!藁人形で納豆作るの上手でぇ!っていうか何作っても上手でぇ!ニジマス焼いてくれたの滅茶苦茶美味かったし、カミツキガメのから揚げめっちゃ美味かったし!えへへへ……」

 バカは先輩が作ってくれた料理や料理じゃないものを思い出して、とろん、とした笑顔になる。美味しいもののことを思い出すと幸せになるのだ!

「あと、すげえんだよ!先輩、めっちゃ頭いいんだ!危険物取扱智天使の甲種持ってるんだ!しかも主任熾天使資格もこないだ取った!」

 その幸せたっぷりのまま、バカは元気に先輩の自慢をする。大好きな先輩の自慢だ!バカは話せば話すほど元気になる!


 ……だが。

「……危険物取扱、『智天使』……?」

「え?うん!ほら、ちょっと変わった道具使う現場とか、危険物取扱智天使の資格無いといけないだろ?」

 バカが説明した先輩の素晴らしさが、今一つ、皆に伝わっていない気がする。バカは、『あれ?』と首を傾げて、頭の上に?マークをいっぱい浮かべた。


「……樺島。一応。一応聞くが……」

 そこで、海斗が、恐る恐る聞いてきた。

「お前、人間、だよな……?」




「いや!俺、天使!だってちゃんと仮免受かったもん!」

 なのでバカは、胸を張ってそう答えたのだった!


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― 新着の感想 ―
………………浮いてたのってギャグで浮いてたんじゃなく本当に浮いてたの!?伏線と思うわけ無いでしょうがぁ!?!?!?!?
あぁぁ‼︎‼︎だから浮いてた描写があったのかっ⁉︎ つま先ピンってして喜び表現してただけと思ってたよ!
ああ、つまりこれは出張なのね
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