0日目昼:大広間*1
……ということで。
「で……ええと、もう一度、確認するぞ?いいか?樺島。お前は『木星さんを持って帰って工具にする』と言っていたが……?」
確認は大事だ。バカは海斗の問いに、うんうんと頷いた。
「そう!工具として働けば、木星さんも人の役に立つよな!ここでもドアとか金庫とかぶっ壊すのに役に立つし!うちの会社、解体も請け負ってるからさあ!ぶん回すだけでなんでもぶっ壊せるハンマー、あったら便利なんだ!」
「そうか、そうか。それでその会社の名前は?」
「キューティーラブリーエンジェル建設フローラルムキムキ支部!」
……バカは元気に答えた。答えたのだが、海斗は『分からない!』と叫び出してしまった!バカは説明したのに!バカの説明はやっぱり下手なのだろうか!バカは悲しくなってきた!
「ここの外に井出亨太を出した時、『無敵時間』が残っているとは限らんぞ」
「え、あ、うん……でもその時はその時で、やっぱりうちに連れて帰って、親方からお説教してもらうよぉ……。俺以外にも、先輩達にも手伝ってもらって囲んでおけば、木星さん、動けねえだろうし……その後は、土屋のおっさんが逮捕してくれるんだろ?な!」
「バカ君?あの、先輩っていうのは?ムキムキなの?やっぱりあなたみたいにムキムキなわけ?」
「うん!俺よりムキムキだぞ!」
「それバケモンじゃない?ねえ……」
慄くビーナスを他所に、バカは前向きに考える。
そうだ。木星さんのことは、ハンマーにすればいい。そうやって世のため人の為に頑張るキューティーラブリーエンジェル建設の為に働いてもらって、間接的にこの世界をより良くするお手伝いをしてもらおう。
そして『無敵時間』が解けてしまったら……その時には改めて、土屋に逮捕してもらえばいいし、その前に親方からお説教してもらえばいいのだ。
そうだ。木星さんは、親方と先輩達にみっちり叱られればいいのだ!そうすれば反省できるかもしれないし、そうでなかったとしても、ちゃんと裁かれて、少しは良くなるものがあるのではないだろうか!
……バカとしては、木星さんがずっとハンマーで居てくれた方が助かるが。まあ、それはそれとして……。
「……えーと、そろそろ夜が来るけれど、どうする?」
陽がそう言って、小さく手を挙げた。
「このままだとこの階は水没するんだったね。それに、そこの井出亨太にかけた『無敵時間』が切れるんじゃなかったかな」
「あ、ああっ、そうでしたね!あの、では場所を変えませんか?その、私、樺島さんにお尋ねしたいことが……」
「私も聞きたいこと、あるわね……。『やり直し』をしてきてるっていうんなら、色々知ってるんでしょうし。とりあえず上階でゆっくり、っていうわけにはいかないの?」
ミナとビーナスが乗っかって『早く移動しよう』と言い出したので、天城は少し困ったような顔をする。
「……では、ここで井出亨太を始末していくことには反対だ、と?」
「うーん、私はここで始末しちゃっていいと思うのよ?でも反対の人も居たし……じゃ、多数決、取る?この人をここで『始末』していくのに賛成の人は?」
そしてあっさりとした調子のビーナスがそう声を掛ければ、天城と海斗、そして陽とビーナスが手を挙げた。
……他は、手を挙げない。なのでバカはびっくりした!
「えっ!?ヒバナ、反対なのか!?ヒバナなのに!?ビーナスは賛成してるのにぃ!?」
「は、はあ!?どうでもいいだろンなこたあよ!」
バカが『間違えちゃったのか!?』とヒバナに確認すると、ヒバナはなんとも言えない顔で、ぼり、と後頭部を掻いた。
「……俺はやり直しも何もしてねえからよ、こいつがどういう奴なのか知らねえ。その爺さんを殺そうとしてたらしいって聞いてもな、どうでもいいとしか思わねえ」
ヒバナはそんなとんでもないことを言うと、ちら、と天城を見て、それから木星さんへ視線を落として……最後に、バカを見た。
「……だがよ、そのバカの言うことには、一理あると思った。ついでに、土屋のおっさんのも、な」
「えええええええええええ!?俺、一理あるのおおおおおおおおお!?嘘ぉおおおおおお!?」
バカはびっくりした!びっくりしすぎて目玉が飛び散るかと思った!だがヒバナは気まずげにしながら、ちら、とビーナスを見た。
「ただ死んだだけじゃ、足りねえだろ。悪党はキッチリ裁かれて、ムショにぶち込まれて、服役して……死ぬのはそれからだ」
ヒバナはそれを、ビーナスに向けて言っているようだった。
……そうしてビーナスは、『……ま、それもそうね』とちょっと笑って、ずっと上げっぱなしだった手を、そっと下ろしたのだ。
どうやらビーナスも、反対側になってくれるらしい!
さて。
となると、残る賛成派は陽と天城と海斗だ。天城と陽はたまが心配だから安全第一に行きたいのだろうし、海斗は自分が殺されるかもしれないのが怖いのだろう。どちらもバカが守ればいいだけなので、後は問題ない。
……のだが。
「たまは?たまは、いいのか……?」
バカは、たまが賛成に手を挙げなかったのが、気になった。
だって、一番木星さんに恨みがあるのは、天城とたまなのだ。どちらも、木星さんのせいで大事な人に死なれてしまっているのだから。
だからバカは、たまのことが心配だったのだが……。
「……うん」
たまは、こく、と頷いた。特に、こともなげに。
この様子に、天城と陽も少し、戸惑ったようだったが……。
「私も、殺すだけじゃ生ぬるいって思うから」
たまはそう言って、にや、と笑った。
「提案。私、こいつが一番嫌がることをしてやりたいの」
「こいつが一番嫌がること!?」
確か、天城は『ゲームに負けて悪魔に魂を食べられること』が木星さんの一番嫌なことだと言っていたが、やっぱりそうなのだろうか!
バカは、賢いたまの言葉を待つべく、その場に正座して……。
「こいつがプロデュースしたデスゲームが、見るも無残に破壊されちゃったら、最高だと思って」
たまがそう言うのを聞いて、『つまりやっぱりハンマー!』と笑顔になった!
どうやらバカの考えは正解だったらしい!よかった!
……尚、たまの『破壊』はきっと物理的な意味だけではないのだが、たまは『物理的に壊したら大体全部壊れるよね』と納得したので、バカの喜びを訂正しなかった。なのでバカはただただ喜び、その場でちょっぴりふわふわ浮いていた!
……ということで。
「さて。ではそろそろか」
天城が身構える横で、陽も身構える。
……今、バカ達は大広間で、木星さんの『無敵時間』の効果切れを待っているところである!
まず、木星さんはシーツでぐりぐりに巻かれた。身動きが取れない状態である。
横には陽が待機している。陽は『無敵時間』を使えるので、もう一度『無敵時間』をやって木星さんをハンマーにしてくれる手筈だ。
そして、そんな木星さんは、バカに抱えられている。
……そう。バカに抱えられているのだ!
バカはどうやら、木星さんにとって『壁』であるらしい。なので、木星さんはバカから逃れようとした時、バカをすり抜けて異能を一回分使ってしまう可能性が高いのである!
それを見越して、バカの背後には土屋とヒバナ、そしてビーナスが出した彫像が待機中である!
……ビーナスの彫像まで加わる予定ではなかったのだが、バカがうっかり皆の前で『あっ!ビーナスの像も出しといたら安心だよな!ヒバナが炎の鎧着せてやったらもっと安心じゃねえか!?』と言ってしまったのである。
要は、ヒバナとビーナスの異能もバラしてしまった!なのでビーナスはもう、異能を隠しておく意味がなくなってしまい、今、こうして何とも言えない顔で彫像を木星さん捕獲隊に加えてくれているのだ!
それと同時に、土屋は盾を出して異能を教えてくれたし、ヒバナも『バラされちまったからよぉ……』と、渋々炎の武具を出してくれた!
海斗は既に異能を使った後だし、陽と天城の異能はもう伝えてあるし……そしてこうなってしまったので、ミナとたまもそれぞれ、自分達の異能を申告してくれた!
なので今!バカ達は万全の体制で木星さんを捕獲し、次の『無敵時間』を適用できるようになっているのである!
「よし、時間だ!全員、構えろ!」
天城の声と同時、木星さんが動き出す。『無敵時間』の効果切れだ!
「な、なんだ!?な、何が……こ、ここは!?ば、場面が切り替わって……!?」
木星さんは、さっきまで天城の部屋に居たつもりだったのだろう。それが大広間に居て、しかもバカの腕の中に抱かれて、ついでに絞められているので、とても驚いている!
「わ、わああああ……わああああああ!?」
木星さんは喚きながら、バカをするりとすり抜けた。どうやら、バカをすり抜ける気はなかったらしいので、木星さんはまたしても驚いた!
「おっと、本当に樺島君をすり抜けるとはな!」
が、土屋が早速木星さんを受け止めてくれたので、木星さんはまたも捕獲される。そして、その木星さんをバカがまた受け取った。
「な、何が起きてっ……何が、何がああああああ!?」
「おう、うるせえよクズがよ」
更に続いてバカをすり抜けた木星さんは、今度はバカをすり抜けたところで丁度、ヒバナに襟首を捕まえられてしまった。ヒバナは木星さんに至近距離からガン飛ばしつつ、一発、ぼごっ、と木星さんをぶん殴った。実に綺麗なフォームだった!
「あっ!?殴っちゃうのか!?」
「こうしておきゃあ逃げる気が失せるだろ。抵抗しなくなるまでボコすのがこういう時のやり方ってモンだ。違うか?」
「う、うーむ、私は警察官なのだが……」
「あ?知るかよ。キンキューカイヒだ、キンキューカイヒ」
ヒバナはせせら笑いつつ、バカに木星さんをつっ返してきた。バカが木星さんをよいしょ、と抱えようとすると、またも木星さんはバカの胸板をすり抜けていく!
……そして。
「よし、じゃあ、いいかな」
陽が、さっとやってくると……木星さんを掴んだ。
木星さんは掴まれて、恐怖に満ちた顔をしていたが、陽はそれににっこりと笑いかけて……だが、その目がまるで笑っていない!
「『無敵時間』。効果時間は1日目の夜開始60分のところまでで」
そうして木星さんは恐怖と混乱の中で再び、『無敵時間』によって固められてしまったのであった!バカは『ハンマー!』と喜んだ!
……そんな時。
『さて……集まれる者は全員集まったようだな』
悪魔のアナウンスが流れてきた。
が。
「あっ、これ、木星さんが吹き込んだ奴っぽいぞ!録音!録音だから!」
「……そうかぁ。ははは……」
「なんか……それをこういう状態で聞くのって、すごく間が抜けてるね」
……残念なことに、このアナウンス、最早全く意味を成していないのであった!
「まあ、折角だ。井出亨太がどれだけ間抜けなアナウンスを録音していたか、楽しみながら聞かせてもらおうか」
天城がニヤリと笑って適当な椅子に座ったところで、皆もいそいそと着席した。
そして、そわそわしながら、『一応聞いておいたほうがいいよね……』と、全員で悪魔のアナウンスを待つことになったのである!




