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0日目昼:皆が集まる開放的空間*1

 それからのバカは、とにかく走って走って、たまの部屋を開けに行った。

「たまぁああああ!うわっあぶねっ!」

「うわ」

 そして、丁度ドアを開けたところだったたまと鉢合わせして、バカは慄く。

 慄きながら、暫し、たまとお互いおろおろしながら見つめ合って……。

「とりあえずこれ外しとくな!」

 バキイ!と首輪を外しておいた!

「えーと、大広間の方行く前に、向こう寄って!あっちに今3人居るから!」

「え……?」

「あっ!あと、えーと、井出亨太!これ、井出亨太!たまがやっつけたい奴!」

「え、ええっ……?」

 たまに色々説明したいのだが、バカでは上手く説明できない!これはもう、賢いたまにはバカの異能の説明文を読んでもらってそれで判断してもらうしかない!

「じゃあ、たま!よろしく!えーと、詳しい説明は向こうの3人から聞いてくれ!」

「え、あ、うん……え、あの、井出亨太、それ、どうしたの……?」

「ちょっと借りてる!あっ、えーと、陽……じゃなかった、光も連れてそっち戻るからぁ!よろしく!」

 ……そうしてバカはたまを天王星の部屋の方へ誘導して、そのまま次は太陽の部屋を目指すのだった!




「陽ー!」

「う、うわあああ!?」

 タックルでドアを開けて、バカは陽を驚かせてしまった。ごめん!

「とりあえず首輪外しとくからなー!」

 そしてバキイ!と首輪を引き千切って、バカは陽を『よっこいしょ』と廊下へ連れ出す。

「あっちの方につぐみ、居るから!」

「は?」

「あとこれ、井出亨太!つぐみがやっつけたい奴な!ちゃんと返すからもうちょっと貸しててくれ!」

「え!?え!?」

 バカは陽にそう説明してたまが向かった天王星の部屋の方へそっと背中を押しておいた。さあ、次はミナの部屋!その次はヒバナとビーナスだ!




 ……そうしてバカは、ドアを3枚、首輪を3つ破壊した。ミナとヒバナとビーナスの分である。

 その3人を小脇に抱えて、えっほ、えっほ、と元気に戻れば、そこに参加者全員が集結することとなった。ちなみに、バカの金庫の中身は皆で回し読みしているところであった。

 バカは、『これで大丈夫かなあ、伝わるかなあ』とどきどきしながら皆を眺めて……。

「……成程な」

 天城が、深々とため息を吐いて、言った。

「つまりお前は、『やり直し』で何度もやり直してきた、と?」

「うん!」

 どうやら今度は伝わったらしい!バカは満面の笑みで、大きく頷いたのだった!




 それからバカは、一生懸命説明した。……説明は、大分楽だった。というのも、たまや陽、天城が適宜、軌道修正してくれたからだ。

 皆の協力の元、バカは今までの話をするすると説明し終えることができた。バカ、快挙!

 ……それと同時に、『そっかぁ、前回も木星さんの言うこと聞かずに、俺の異能の紙持って大広間に行けばよかったんだなあ』と納得した。多分、あれは木星さんがバカの邪魔をしたかったのだ。気づいてしまうと単純なことである。

 ……バカはまたちょっと、木星さんに腹が立った!




 さて。

 こうしてバカは無事に説明を終えたが、夜が始まるまで残り40分程度だ。大広間へ移動してしまった方がいいだろうか。

 ……と、思っていたのだが。

「……樺島、と言ったな」

 そんな中、天城がそっとバカを引き留めて、尋ねてきた。

 その目は鋭く、バカを推し測るようである。

「『それ』は置いていけ。ここで始末する」

 バカは『何のことだろう』ときょとんとしたが、少しして、自分がまだ木星さんを小脇に抱えたままだったことを思い出す。

 そして天城の鋭いその視線を浴びて、悟った。

 ……多分、ここでの答え方を間違えたら駄目だ、と。


「あの、えーと、俺は……」

 バカは考えた。

 木星さんには、腹が立つ。木星さんが居ない方がいいのも分かっている。バカは木星さんを許せない。それは確かだ。

 だが、殺してしまうのはそれはそれで腹立たしいような気がする。ちゃんと反省させたい。その方が正しい、のだろうな、とも、思う。

 ……バカはそう、考えて、考えて……ちら、と、『井出亨太が最も嫌がるのはゲームに敗北して悪魔に魂を食われること』と天城が言っていたことを思い出す。

 だが、バカはどうにも、もっと何か、あるような気がして……。


「……とりあえず、ほりゅーで!」

 そう、叫んだのだった!




「……は?」

「ほりゅー!ほりゅーで!……うん!?ほりゅー、で合ってるよな!?ちょっとまって、の意味だよな!?」

 バカが、『俺、言葉間違えた!?』と泣きそうになりながら海斗の方を見れば、海斗は『いや、言葉は合っているが……』と頷いてくれた。バカは安心して笑顔になった!

「保留……だと?」

「う、うん。だからさ、その、木星さんをここで、その、殺しちゃう、んじゃなくて……そのまま連れてくの、駄目、かなあ。他の皆も木星さん見てるから、悪い奴だってもう分かってるしぃ……ほ、ほら、『無敵時間』の木星さんがあったら俺、ゲームの部屋のドアも金庫も蟹ロボも出口の門も、全部破壊できるからぁ!」

 バカはまだもうちょっと、考える時間が欲しい!このままここで木星さんを殺してしまったら、永遠に答えに辿り着けない!そんな気がするのだ!

「俺、木星さんが一番嫌がること、分かんねえんだもぉん!だからほりゅー!」




 ……ということで。

「時間が無いから端的に言うぞ。この男は井出亨太という。このデスゲームの主催者にして、これからの未来で我々を殺す殺人鬼でもある」

 天王星の部屋跡地で天城が皆に説明していた。個室4つがぶち抜かれて繋がった空間は、皆で集まってもそれなりに広さがある。素晴らしい!

「こいつの異能は『壁抜け』だ。それは、ここに居る海斗と土屋さん、そして私と樺島が現場を目撃している」

「あ、ああ、確かに……この男がナイフを持ってドアをすり抜けてきたところを、私と……ええと、海斗君?も確認しているな」

 土屋と海斗が互いに様子を窺いつつも頷く様子を見て、バカは『やっぱり土屋のおっさんと海斗にも来てもらえてよかった!』とにこにこした!

 ……そう。この2人に目撃してもらえる、というのは、とても大きいのだ。何故なら。

「海斗ぉ!『リプレイ』してくれ!そしたら、陽とたまとミナとビーナスとヒバナにも見せてやれるから!」

 バカは、海斗にそう申し出た。そう。海斗が居れば、木星さんの犯行はキッチリ証明できるのである!




 ……が、海斗は渋った。渋りに渋った。というか、『このバカが言ってしまった後だが、今からなんとか自分の異能を誤魔化せないだろうか』というような具合に焦っていた。

 そう!海斗の異能はとっても強力だが、一切、武力にはならない!海斗の身を守ることにはならないのである!だからこそ、海斗は自分の異能を隠したがっていたのだが……。

「なあ、海斗ぉ、頼むよぉ。大丈夫だよぉ、海斗のことは俺が絶対に守ってやるから!な!」

 バカがそうお願いすると、海斗は……。

「……そもそも、お前が敵だったら、もう僕達は全員お終いだろうからな……」

 そんなことを言って、ため息を吐き、そして。

「……『リプレイ』を宣言する。指定する場所はこの部屋のドア付近。時間は、木星の男が壁を抜けてくる30秒前から」

 海斗は諦めて、『リプレイ』してくれるのだ!




 異能によって再現された木星さんが、にゅっ、と壁を抜けてくる様子が見事に再現されて、バカは思わず拍手した。

 ……ちなみに、『リプレイ』ではドアの外、廊下の様子もちょっと再現されていたので、ドアが破壊された今は『ドアの前でにやにやしながらナイフを確認する木星さん』の姿も確認できた!バカは『こうなってたのかー』と感心した!

「と、まあ、一応、こういう具合だったぞ、ということで……」

「成程な……。それが君の異能、という訳か」

「そういうことだ。……僕の異能はまるで戦力にならない。僕を殺そうと思えば、誰でも簡単に殺せるだろうな。だから隠しておきたかった。そのバカのせいで全部無駄になったけれどな!」

「うん!俺、海斗のこと絶対に死なせないからな!」

 海斗は『僕の異能を明かさせたんだ!絶対にその約束守れよ!?』とバカに文句を言ってきたが、バカはそれに喜ぶばかりである!バカは約束を守るバカだ!なのでここを出たら海斗にポケモン貸すし小説書いてもらうしメロンパンもソフトクリームも食べる!


「ふむ……一応、この場に居た証人の内の1人として、私も身分を明かしておこうかな」

 続いて、土屋がジャケットの内ポケットから例のアレを取り出した。そう!警察手帳である!何度見てもカッコいいので、バカは目を輝かせて土屋の周りをくるくる回った。

「まあ、私は見ての通り警察官だ。この身分に誓って、私は皆を傷つけない。……ついでに、まあ、この男については、確かに壁を抜けてナイフを振りかざしてきたからな。現行犯逮捕したいところではある」

 バカは、『現行犯逮捕!すごい!本物だ!かっこいい!』と目を輝かせた。天城は『デスゲーム中に現行犯逮捕などと聞くことになるとは……』と何とも言えない顔をしていた!




「まあ、こういう訳で、この男……木星さん、というのか?まあ、この男が壁を抜けてきて、恐らくはこちらのご老人を殺害しようとしていた、ということには間違いが無いぞ」

「……そうみたいだね。流石にここまで証拠と証言が揃っていたら、信じざるを得ないかな。ここまで周到に準備して他5人を陥れよう、っていうのもおかしな話だし」

「首輪引き千切った人が『やり直し』の異能なのも、納得できるよね。ここまで周到に準備できたんだから、未来を知っていないと説明できない」

 さて。こうしてバカは無事、たまと陽の信頼を得ることができた!

 ついでにバカは、ヒバナとビーナスとミナについても信頼してもらえるかな、と3人の方を見ると……。

「……へー。あなた、安藤正さん、っていうの」

「うん?……ああ、そうだな。私の本名は安藤正という」

 ビーナスは土屋の警察手帳の方が気になるらしい!そして!

「ええええええええ!?土屋のおっさん、安藤さんだったのぉ!?」

 確かに!よく見ると、土屋の本名が書いてあった!バカはおろおろした!

「でもやだぁ!わかりにくくなるからやだぁ!お願いだよー!土屋のおっさんで居てくれよぉー!」

「……まあ、樺島君が私のことを『土屋のおっさん』と覚えてしまっているようだから、私のことは土屋と呼んでくれ」

 ……そうして、土屋は土屋続投になった。

 バカは『ありがとう……ありがとう……』と土屋を拝んでおいた。本当は安藤さんらしいけれど、バカの中ではやっぱり土屋さんなのである!




「で、ビーナスとヒバナとミナも、分かったか?木星さんが壁抜けてきたって、信じてくれるか?あと、俺が『やり直し』でここに来てるのも、信じてくれるか……?」

 さて、土屋が土屋になってくれたところで、バカは改めて聞く。

 ここで信じてもらえなかったら、大変だ。バカが『やり直し』をしてきたことも含めて、どうか信じてもらいたいのだが、それが難しいことはよく分かっている。バカは祈るような気持ちで皆を見回して……。

「……そうね。まあ、信じるわ。そうでなきゃ、そこの4人は最初からグル、ってことだもの。参加者10人のデスゲームで半数近くが最初からグルだなんて、考えにくいわ」

「だな。まあ、この野郎が壁抜けできるっつうのはマジなんだろうしよ……」

「その、海斗さんの異能が本物だと信じるなら、ですが……この方には確かに殺意があったように見えました。ナイフを持ってああいう風に笑える人よりは、樺島さんの方が信用できます」

 ……そして3人がそれぞれに答えてくれたのを聞いて、バカはいよいよ、胸が熱くなる。

 誰も死なせず、皆の信頼を得た。

 バカはやり直してやり直して、ようやくここまで辿り着いたのである!




 さて。

 木星さんが壁抜けして天城を殺そうとしていたことの証明ができて、皆の信頼も得ることができたところで、改めてまた、天城が説明を急ぐ。

「見ての通り、この井出亨太は、最初に『天王星』の部屋へやってきて、皆が大広間へ到着するより先に1人、殺しておく算段だったらしい。隣室ではなくわざわざ1つ離れた部屋を狙ったところを見ると、壁抜けの異能が露見した後のアリバイ工作だったんだろうな」

 天城の説明を聞いていると、事情を知っているはずのバカよりも事情を今知らないはずの海斗やミナの方が理解しているような気がしてくる。実際、バカは細かいところはイマイチよく分かっていない!

「そして襲ってきた井出亨太を、今、私の異能……『無敵時間』で、行動不能状態にしてある。この異能は指定した時間、あらゆるダメージから対象者の身を守るが、その間対象者の時が止まり、対象者は一切動けなくなる、というものだ。ちなみに、この効果時間はあと30分以上40分未満ほどで切れる」

「あ、明かしてよかったんですか……?」

「ああ。説明しなければこの状況が理解できんだろうからな。……私は、その効果が切れた瞬間にこいつを殺すべきだろうと思っている。私が見てきた未来では、この後この井出亨太が多くの人を殺すのでな」

「俺が『やり直し』した時も、木星さんのせいでいっぱい死んだんだ!許せねえ!」

 思い出すと、また怒りが湧いてくる。バカは、むっ!と木星さんを睨みつけた。尤も、木星さんは『無敵時間』の効果時間中なのでまるで反応が無いが……。

「そもそも、デスゲームの主催者は、この井出亨太だ。こいつを放っておくと、より多くの人間が巻き込まれるだろうな」

「……いや、そのだな、事情がよく、分からないんだが……この男がデスゲームの主催者、というのは……?」

「そのままの意味だ。この男は過去に何度も悪魔と取引して、デスゲームを開催させている。それらのデスゲームの内の1つで……そこに居るたまさんの弟さんを殺している」

 土屋をはじめとして、バカと天城以外の人は事情がよく分からないはずだ。だがそれでも天城は焦らず説明するので、バカは『やっぱすげえなあ!』と感心した。

「……うん。私の弟を殺した奴の名前は、井出亨太。デスゲームに参加するのが初めてじゃない男。……そこまでは、もう調べがついてる」

 更に、たまも焦らずそう証言するので、バカは『やっぱりすげえ!』と感心するばかりである。

「な、なんでこいつはデスゲームなんか開催してるわけ?こいつ、悪魔なの?」

「いや、人間だ。……理由については、ただ、本人の性根が腐っているから、としか言えんな」

「うん……人が死ぬの見るのが楽しいって、言ってた……」

 更にビーナスも疑問を呈してきたので、天城と、そしてバカも回答する。するとビーナスは益々よく分からないような顔になってしまったが……。

「……ま、待て。情報を整理したい。その、天城さん、だったか?あなたは何者なんだ?そこの樺島は『やり直し』の異能を持っているともう分かっているが……」

「その話をしている時間は無い。後で必ずや説明すると約束しよう。だが今はとにかく、この殺人鬼をどうするかを決めておきたいのだ」

 ……まあ、とにかく。

 ここで、木星さんをどうするかを決めなければならないのだ!


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― 新着の感想 ―
あー、けどこれ死人がいないとデスゲームが続く可能性あるんだよねぇ、どうしよっか?
[良い点] うーん、スムーズだあ…
[一言] とりあえず先に天城と陽は光だとみんなに信用得て、 木星さんに無敵時間をタイムラグを出さないように 陽と天城の2人がかりで永遠にかけ続けよう? そんで大広間で永遠に話し合いしよう…!
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