倒れゆく仲間達
読んでいただけるとありがたいです。
魔神族が作り出した結界内。
「あああああああ!!」
ベルゼブブの苦しそうな声が響き渡る。
(回復出来ねえ……。 魔力が……足りねえ……!)
ベルゼブブは雷に包まれ、雷を消したり傷を癒やしたりしようと思ったが既に言霊を使えるほどの魔力は残されていなかった。
(最後のラッシュを防ぐのに魔力を使い過ぎたか……!
それに結界を維持するのにも魔力を……!)
「ちくしょう……が……」
雷が消え、ベルゼブブは地面に崩れ落ちた。
「背負ってる物が違うんだよ……!!」
遊真はそう言ってベルゼブブに背を向けると町の方向を見つめた。
「結界が……!」
遊真が周りを見渡すとみるみる間に結界が消えていく。
「よし!」
遊真は町に向かおうと走り出そうとしたが、足が上がらずに地面に倒れてしまった。
「くそ……無理し過ぎたか……!」
遊真はふらつきながらもゆっくりと立ち上がり、木にもたれ掛かる様にしながら町へ歩き始めた。
「早く行かないと……! みんなが……!」
「ミカエル!」
翔一の叫び声も空しくミカエルの体から止めもなく血が溢れ出るとメフィストは手を離した。 ミカエルの体は力無く地面に崩れ落ちた。
「次は翔一。 お前だ」
メフィストはゆっくりと翔一の方へ向き直ると翔一の方へゆっくりと歩み寄っていく。
「力を使える様になったとはいえ所詮は「力の一部」を借り受けただけの事。
本物に敵うはずもない」
メフィストは地面に座り込んでいる翔一に手を向けた。
翔一は立ち上がろうとするが体が言うことを聞かないのか立ち上がれる様子はない。
「ミカエルにも質問したが……何故この力を遊真達に黙っていた?」
「遊真なら……教えてくれるよ……」
「そうか。 なら遊真に問おう」
メフィストはそう言うと手から衝撃波を放った。 衝撃波は翔一の左胸を貫き、翔一はゆっくりと地面に倒れた。
「さてと……次は……」
「邪魔をするな!!」
ペルセポネは巨大な炎の玉を放ち、ロケスとデュークは左右に移動して攻撃を回避する。
「お主らはあの人魚の娘の魅力的な力に気づかぬのか!?」
「魅力的な力?」
「そうじゃ。 あの海洋神と海洋邪神の力を持った人魚の娘。 見逃す訳はあるまい!」
ペルセポネはそう叫び、ロケスとデュークに向かっていく。
「お主らには消えてもらおう!」
ペルセポネはロケスとデュークに向けて巨大な炎の玉や巨大な雷を放つ。
「こいつ……「祖の魔力」ってやつを持っているな」
「膨大な魔力ってやつか!」
「相手が悪いな……。 ロケス、ここは遊真が来るまで耐える感じでいこう」
「そして隙あれば殺る。 少しでも遊真の負担を減らさねえとな」
ロケスはそう言ってペルセポネの攻撃を回避しながらペルセポネに向かっていく。
「やれやれ……。 お前らしいよ、ロケス」
デュークはため息をつくと次の瞬間には笑顔になり、ロケスを援護するようにペルセポネに向かっていく。
「無駄じゃ。
「祖の魔力」に対抗出来るのは同じ「祖の魔力」の様な神族のみに許された魔力のみ」
ペルセポネは手をロケスとデュークに向けると巨大な炎の玉を放った。
「それは多分一人での話だろ!?」
ロケスは絆魔力の力を使い空を飛んで炎の玉を回避した。
デュークも高い身体能力を生かして上空に飛び上がって炎の玉を回避する。
「二人でやれば「祖の魔力」が無くともお前に勝てる!」
ロケスとデュークは同時にペルセポネに剣を振り下ろし、爪を突き出した。
「甘い」
「「なっ……!」」
ペルセポネは難なく片手でロケスの剣とデュークの手首を掴んで攻撃を止めていた。
「膨大な魔力があるという事はその膨大な魔力を使って強力な身体強化も出来るということじゃ」
ペルセポネはデュークの手首を離した瞬間にデュークを蹴り飛ばし、空いた手でロケスを殴り飛ばした。
二人は地面を転がり、咳き込みながらゆっくりと立ち上がった。
「くっそ……」
「やはりそう簡単にはいかないか……」
二人は再びペルセポネを迎え撃つ為に構えた。
「おや、すまんがお主らと遊ぶのは終わりのようじゃ」
ペルセポネがそう言うとペルセポネの横にメフィストが現れた。
「メフィスト……!?」
「ミカエルと……翔一は……」
ロケスとデュークの言葉を聞いてメフィストは笑い声をあげた。
「死んだよ。 まさか勝てるとでも思っていたのか?」
メフィストの言葉を聞いてロケスは剣を握りしめ、デュークは拳を握りしめた。
「さて。 お前たち二人では無駄死になるが……どうする?」
「逃げるとでも思ってんのか!?」
ロケスは叫びながらメフィストに向かっていき、デュークもロケスの後を追うようにして向かっていく。
「妾が?」
「いや、俺がやる」
ペルセポネが一歩下がるとメフィストが入れ替わる様に一歩前に出た。
「「傲慢」!」
メフィストがロケスとデュークを睨み付けると二人の動きがピタリと止まった。
「なっ!?」
「体が……!?」
動きが止まった瞬間にメフィストは黒い物質を作り出した。 黒い物質は剣の形に変わっていく。
「「暴食」!」
メフィストは剣をデュークに振り下ろした。 剣は簡単にデュークの体を切り裂いた。
「デューク!!」
ロケスは体が動けるようになると同時にメフィストに斬りかかった。
「死ね!メフィスト!」
「「怠惰」!」
メフィストが叫ぶとロケスはメフィストから放たれた爆風に吹き飛ばされた。
「ぐあっ!」
ロケスは地面を転がった。 メフィストは倒れたロケスに手を向けた。
「貫け」
メフィストが呟くと地面から現れた槍がロケスの体を貫いた。
ロケスは力無く地面に崩れ落ちた。
「さて……次はどこに向かおうか……」
メフィストとペルセポネはゆっくりと歩き始めた。
ガブリエルとウリエルは女神族の森に向かって走っていた。
「ウリエル。 メイちゃんはどうなの?」
「分からないの……。 「慈愛」の魔力を使っているのにさっきよりも少しずつ呼吸が荒くなってきてる」
「ウリエルの魔力が足りないのかも……。 早く女神族の森に行かないと……」
ガブリエルがそう言うとウリエルは頷いた。 ウリエルは苦しそうな表情のメイを見つめた。
(絶対にこの苦しみから解き放ってあげる!)
ウリエルはメイを強く抱きしめた。
「なっ! オーガ!」
ガブリエルの目の前にオーガが立ちふさがった。 数は三人。 いずれも少し傷を負っていた。
「お姉ちゃん! 私が!」
ウリエルはそう言うと懐から笛を取り出した。 周りに音符の形をした玉が出来上がる。
「心を奪う音色!」
ウリエルから放たれた音符の形をした玉がオーガの近くで爆発し、オーガはその場に力無く倒れた。
「よし……!」
ウリエルは笑みをうかべて息を切らしながらそう呟いた。
「ウリエル!!」
ガブリエルがウリエルの名を叫びウリエルが振り向いた瞬間には既に烏賊の触手がウリエルの腹部を貫いていた。
「え……!?」
ウリエルは地面に膝をついた。 ウリエルが触手が生えている方向を見るとそこにはメイが立っていた。
背中からは烏賊の触手が生えている。
「メイ……? まさかもう海洋邪神の力に呑み込まれたの……?」
「妖精……敵……」
メイはウリエルから触手を抜くともう一度突き刺そうと触手を振りかざした。
「ウリエル!」
ガブリエルはメイに向けて炎の玉を放った。 炎の玉はメイに命中し、メイは地面に倒れた。
「お姉ちゃん! メイを攻撃したらダメ!」
「でもこうしないとウリエルが!」
ガブリエルが反論している間にもメイはゆっくりと立ち上がった。
「私がメイを正気に戻す!」
「どうやって!? あの子はもう海洋邪神に自我を奪われてる! 呼び掛けにも応じない!」
「それでも何とかする」
ウリエルはガブリエルの目を見つめてはっきりと言い切った。
「無理よ! 今のウリエルなら簡単に倒せる相手よ? 早く倒さないと……」
「お姉ちゃん。 もしもメイが私で私がお姉ちゃんの立場なら……お姉ちゃんはどうする?」
「そ……それは……」
ガブリエルは少し黙った。 その間にもメイの攻撃は続いているがウリエルが作り出した音の障壁が攻撃を防いでいた。
少しの沈黙の後、ガブリエルは小さくため息をついた。
「分かった。 好きにしなさい。 ただしあまり時間は無いわよ」
「分かってる」
ウリエルは頷いてそう答えると障壁を解除して真っ直ぐにメイの元へ向かっていく。
「メイ!」
ウリエルはメイの攻撃を回避しながらメイに接近するとメイの体を抱きしめた。
次の瞬間に触手がウリエルの背中を貫いた。 ウリエルは痛みに耐えながら「慈愛」の魔力と「音楽の女神」を使ってメイの精神を浄化していく。
「やめろ……!」
メイは何度もウリエルの背中を刺した。 ウリエルはただじっと耐えてメイの精神の海洋邪神を浄化する。
「メイ……戻ってきて……! 貴女は……私の大事なかわいい妹なんだから……!」
ウリエルは更に強くメイを抱きしめる。 メイは苦しそうに叫びながらウリエルの腕の中で激しく暴れている。
「お願いメイ……! 戻ってきて……!」
ウリエルの背中からは多量の血が流れている。 もしも止血しなければ多量出血で死んでしまうだろう。
「ウリエル……」
ガブリエルは更に群がってきた周りのオーガを倒しながら心配そうな声を漏らした。
「もう一度だけでいいの……。 お姉ちゃんって呼んでよ……メイ……」
「…………!!」
メイにメイの自我が戻りそうなのかメイは更に苦しそうに叫びながらウリエルの腕の中で更に暴れ続ける。
「メイ!!」
ウリエルが叫ぶとピタリとメイの動きが止まった。
「お……姉……ちゃん……?」
メイの体から段々と触手が消えていく。 一本。 また一本と消えていき、全ての触手がメイの体から消え去った。
「良かった……メイ……」
ウリエルはそう呟くと地面に崩れ落ちた。
「お姉ちゃん!」
メイは慌ててウリエルの体を抱き起こした。 そしてメイは血で真っ赤に染まり、驚きで手が震え始めた。
「お姉ちゃん……何この血……!?」
「覚えて……無いの……?」
ウリエルは優しく微笑むとメイの頭を優しく撫でた。
「まさか……メイが……お姉ちゃんを……!?」
「気にしないで。 私の夢の「妖精女王」は大事な人を簡単には見捨てないの。
妹一人救えないなんてお兄ちゃんに笑われちゃうからね」
ウリエルはそう言って微笑んだが背中から流れる血は止まらず、口からも血が流れている。
「お姉ちゃん……やだ……死んじゃ嫌だ!」
メイは泣きながらウリエルの手を握った。
「ごめんね……メイ……」
ウリエルは優しくメイを抱きしめた。
「嫌だ……お姉ちゃん……」
「ねぇ……メイ。 私がお姉ちゃんで良かった……?」
メイは大きく頷いた。目からはボロボロと涙を流している。
「良かった♪」
ウリエルはそう呟くとゆっくりと目を閉じた。
「お姉ちゃん……?」
メイはウリエルの体を優しく揺さぶった。 しかしウリエルは呼び掛けには応じず、目も開けない。 体からはすっかり力が抜けてしまった様に動かなかった。
「お姉ちゃん! 起きてよ……! お姉ちゃん!」
メイは泣きながらウリエルの体を揺さぶるが結果は同じだった。
「ウリエル……」
ガブリエルは目から涙を流しながら呟いた。
「おや、役者が減ったかな?」
男の声が聞こえ、ガブリエルとメイが声のした方向を見るとそこにはメフィストとペルセポネが立っていた。
「メフィスト……! ペルセポネ……!」
ガブリエルは拳を握りしめた。 メイは涙を流しながら二人を睨み付けた。
「なるほど。 命を捨てて義妹を魔神族の力を消したと……。 随分と仲間思いの娘だったな」
「メフィスト! ミカエルはどうした!?」
ガブリエルが叫ぶとメフィストは小さくため息をついた。
「死んだよ。 殺さなくても林檎の副作用で死んでた。 結果は同じだった。
言っておくと翔一も死んだし、あの助けに来た二人も死んだ。
サタンとベルゼブブから聞いたお前らの主戦力はあとガブリエルとメイ。 そして人類王。
一人は小娘でもう一人は魔力切れ。 そして人類の王など恐れる事もない」
メフィストはゆっくりとガブリエルに向かって歩き始めた。
「心の支えだった遊真は来ずゼウスも死んだ。 レノーラも生かしてはあるが虫の息。 学校のグラウンドで寝ている事しか出来ない」
メフィストはガブリエルの目の前で止まった。
「さぁ……どうする?」
メフィストは笑いながらそう言った。
「黙れ!!」
ガブリエルはメフィストに殴りかかったがいとも簡単に拳は防がれてしまった。
「去らばだ。 ガブリエル」
メフィストの手から衝撃波が放たれ、ガブリエルの左胸を貫いた。
「さぁメイ。 お前は必要な力だ。 一緒に来てもらおう」
メフィストはガブリエルから手を離すとメイの方へゆっくりと歩み寄っていく。
「うるさい!!」
メイはそう叫ぶとメフィストに向かっていく。
「眠れ」
メフィストがメイの額に手を置いてそう呟くとメイは地面に崩れ落ちた。
メイは地面に倒れたまま眠ってしまった。
「ペルセポネ。 もう海洋邪神の血は無いな?」
「そうじゃな。 先程全て使ってしまった。 翔一とミカエルに壊されてしまったのもあるがの」
「メイはこのまま寝かしておく。 オーガに守らせれば良いだろう」
メフィストはそう言うと目を閉じた。
(「色欲」!)
メフィストはオーガを操っていたレヴィアタンの魔力を使い、残っていたオーガを呼び寄せた。 数は約十人といったところである。
「随分と数が減ったな……」
「向こうの大陸から来た二人に大分殺られたのかもしれんな」
メフィストは小さく舌打ちをするとメイをオーガに放り投げた。
オーガはメイをキャッチするとどこかに向かっていく。
「どこに向かわせるのじゃ?」
「ベルゼブブの所だ。 先に海洋邪神になっておいてもらった方が良い」
「なるほどの」
「さて……引き続き掃除だ」
メフィストは再びゆっくりと歩き始めた。
弘行達は女神族の森に向かっていた。
「住民の避難は完了したな」
「後はお兄ちゃん達が魔神族を倒してくれれば私達の勝ちだね!」
真優は嬉しそうに微笑んだ。 周りのみんなも見えてきた勝機に笑顔がみえる。
「見えた! あそこだ!」
弘行が指差した方向には大きな木が生えている森林があった。
弘行達は手を振りながら大輝達と合流した。
「みんな良くやってくれた。 おかげで住民の避難がスムーズに行えた」
「まぁ途中で翔一の仲間って人に助けられたりもしましたけどね」
弘行は大輝と話せて嬉しそうにしている。 当然今までは話せるようなレベルの者ではなかったので弘行にとっては大輝は憧れの存在である。
「真優ちゃんも無事だったみたいね」
「はい。 結菜さん」
真優は結菜にぺこりと頭を下げた。
「ちなみにこの森は一体……?」
「女神族の森。 ここにいるものは魔力を感知されにくくなる。
この特性を生かして森の中に隠れるのだ」
弘行の質問に大輝はそう答えた。
「でもここに来られたらピンチって事ですよね?」
「いや、相手にここが見つかる事はない。 邪悪な魔力を持つ魔神族にはこの森は見えないからな。
我々の姿も木と同様に消える」
アポロンの質問に大輝はそう答え、心配しなくも大丈夫というように微笑んだ。
「遊真がメフィストを倒してくれれば……終わりだ……!」
大輝はそう言って森の外を見て息をのんだ。
大輝の反応につられる様にして真優達も森の外に目を向けた。
「えっ……?」
「何で……あいつが……?」
女神族の森の入り口。 そこにはメフィストが立っていた。
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黒と白の暗殺者~剣に誓いし絆~
http://book1.adouzi.eu.org/n6966cm/
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