帰還
随分と長くなってしまいました……
読んでいただけるとありがたいです。
ドアが開く音で遊真は眠りから覚めた。 と言ってもまだまぶたが重く、目は閉じたままだったが。
遊真は手で何かを掴んでいる事に気づいた。
(多分姉ちゃんの髪だな……)
そう思って遊真は右目を開けた。 目を開けるとすぐ目の前にゼウスの顔があり、右手がゼウスの肩の近くにあり、ゼウスの髪の毛を握りしめていた。 まだゼウスは すやすや と眠っている。
姉弟だとは分かっていても、ゼウスがあまりにも美しいので遊真は自分の心拍数が上昇するのを感じ、髪から手を離した。 再び目を閉じようとしたが、ドアの方から誰かが近づいて来るのを感じた。 遊真はそちらの方向に目を向けた。
近づいて来たのはレノーラだった。
「レノーラ……」
「あ、起きたの遊真?」
レノーラは遊真の近くでベットに腰を掛け、遊真も起き上がった。
「よく寝たわね。 疲れはとれた?」
「大体はね……今何時位なの?」
遊真はそう言いながら窓の方を見た。 窓からは赤い光が差し込んでいる。 夕方位に遊真達は眠りに着いたのでそれほど時間が経った様には遊真は感じなかった。
「夕方よ。 だから遊真とゼウスはほぼ丸一日寝てたって事。 ゼウスはまだ寝るかも知れないけど」
「丸一日!? そんなに寝てたのか……」
「翔一とミカエルはまた三日程目を覚まさないんじゃないかって心配してたけどね」
「まぁ確かに「想像世界」を初めて使った時は三日間目を覚まさなかったらしいけど」
遊真はベットから降り、靴を履いた。
「他のみんなは?」
「ミカエルと翔一は朝早くに起きたみたい。 私が起きた時には食事を終えていたから。 その後お昼位にウリエルが起きてきたわ」
「姉ちゃんはもう少し寝るかもな……」
そう遊真は言った。
(姉ちゃんには「祖の魔力」があるから莫大な魔力を持ってる。 でも逆に言えばマックスまで、つまり完全回復するまでに俺たちと同じ回復スピードなら時間がかかる)
遊真はゼウスに再びかけ布団をかけた。
(ここまで消耗したのも初めてなんだろうし……)
遊真はレノーラの方に向き直った。
「レノーラはこれからどうするんだ?」
「私は部屋に戻りがてら遊真達の様子を見に来たから。 私がゼウスを見てましょうか? 遊真は翔一達に会いたいんでしょ?」
「うん。 心配してくれてるなら余計にね。 姉ちゃんをお願い」
「いってらっしゃい」
遊真はレノーラにゼウスを任せて部屋を出た。 タワーが半壊しているのでどこに行けばいいのか分からなかったが、途中でケンタウロスに会い、ロケス達がいる部屋を教えて貰った。
「遊真!」
遊真が教えて貰った場所の部屋のドアを開けた瞬間に翔一が駆け寄ってきた。 部屋にはロケス、その横にデュークがいた。 ミカエルとウリエルも椅子に座っていた。
「大丈夫か? どこか違和感がある場所とかは?」
「大丈夫だよ翔一。 ミカエル」
そう言って遊真はロケスが用意してくれた椅子に座った。
「遊真いきなりで悪いが話を聞かせて貰えるか?」
「あ、分かりました」
デュークに言われ、遊真は話始めた。 ただ、ミカエル達が大体の事は話していた様で遊真はロケスとデュークが聞いた事に少し付け加える事と、質問された事に答えただけだった。
「遊真とレノーラでもメフィストには勝てなかったと……。 恐ろしい奴だな」
「正直次も同じ様に行くかどうか分かりません」
「しかし翔一がメフィストの魔力を盗ったんだろ? それでメフィストが弱体化したりはしないのか?」
ロケスの問いに翔一は少し考えてから答えた。
「僕が奪えた魔力があいつの精神面の一部等でしたら弱体化するでしょうが、奪えた魔力があいつの体力の一部なのであれば回復すればいいだけですから弱体化はしないでしょう」
翔一の答えを聞くと、デュークは考え込む様に手を組んだ。
「精神を奪うということは考えにくいな……。 第一その場合翔一の中にメフィストがもう一人いる事になる。まぁ魔力だけだが」
「再び乗っ取られる事にもなるかも知れんな」
ロケスはそう言って立ち上がった。
「まぁ今はメフィストの事は置いておこう。 問題はもう一つある」
ロケスは歩いていき、奥にあったドアを開けた。 そこには人魚がベットの上に横たわっていた。
「マリー姫……」
「そう、遊真の言う通りこいつはマリー姫だ。 今はウリエルの魔力で眠っている」
「正確には精神を仮死状態にしているの」
「何故そんな状態に?」
遊真がそう聞くとウリエルは目を背けたが、ゆっくりと話始めた。
「ロケスとデュークの話を聞いた後の方がいいかなって……。 それに……メイの優一血の繋がった姉妹だから……」
「何言ってんだよ! あいつがメイにどんな事をしていたのか忘れたのか!?」
「分かってる……けど……」
ウリエルの目にうっすらと涙が浮かび、遊真は言葉を呑み込んだ。
「まぁ……確かにそうだな」
遊真はロケスとデュークに目を向けた。
「遊真、君は彼女をどうするべきだと思う? このまま放っておくか、殺すか、解放して今まで通り接するか」
遊真は少し考え込んでから、言葉を慎重に選びながら話始めた。
「やはりあれほど邪魔をしてきたのだから俺には今まで接する事は出来ない。 戦場で戦ってたら間違いなく止めを差していた。 だけど……」
遊真はマリーに近づいて、それから再び言葉を続けた。
「無抵抗なマリーを殺すのはちょっとな……って思うよ」
「私達と同意見か……」
デュークは小さくため息をついて、椅子に座り直した。
「では最後はこの方に聞くしかないと……」
そう言ってデュークがウリエルを見ると
「メイ姫はどうなんだ? ウリエル」
ロケスが聞いた。
「今は死亡状態から仮死状態に戻した。 でも今の状態なら長くは持たない。 だから……」
ウリエルは遊真を見つめた。
「力を貸してもらうつもりだったんだけど……。 やっぱりまだ魔力を使うのはしんどい……かな?」
「……いや、俺に出来る事ならやるよ。 あの時はあまりにも無力だったから」
遊真がそう答えるとウリエルはいきなり笑顔になった。
「ありがとう遊真!」
「何でいきなりそんなに元気になるんだよ……」
「本当は三日位に起きないと思ってたからさ。 まだ完全に回復してないから魔力は使えないとか言われたらどうしようかと思ってて……! 良かったよ遊真が思ってたより元気で♪」
「私も手伝うわ」
そう声が聞こえ、遊真達が振り返るとドアが開いており、そこにレノーラとゼウスが立っていた。
「姉ちゃん聞いてたのか?」
「レノーラに話を聞きながらここに来て、今ウリエルがその話をしているって分かったから」
ウリエルは目を輝かせて、ゼウスの手を握りしめていた。
「本当ですかゼウス様!?」
「大切な妹なんでしょう? 身内が亡くなるのは辛いものね。早くとりかかりましょう」
ウリエルは頷くと こっちです。 と言って部屋を出ていった。
「ごめんロケス。 少しメイを看てくるよ」
「いや、気にするな。 どちらにせよメイ姫が生き返るとしたら俺たちにとっても嬉しいことだしな。 マリー姫をどうするか聞くことも出来る」
「ありがとうロケス」
遊真はそう言って翔一とミカエルに軽く手を振ってからゼウスとレノーラと共に部屋を出た。
「姉ちゃん 体力は回復したのか?」
「う~ん……四割ってとこかな。 終わったら少し食事を頂いてからまた寝るかも」
「……無理しないでくれよ」
遊真はそう呟いてウリエルがドアの前で立っていた部屋に入った。
部屋の中にはベットが一つあり、メイが仰向けに寝ていた。 周りには音符の形をした物がふわふわと何個も浮いており、それが一つメイの体に近づき、優しく爆発するように ポン という音を放って消え、またふわふわと音符が近づき、という事が繰り返されていた。
「今 メイは私の魔力でギリギリ命を繋ぎ止めている状態なの」
「体の問題?精神の問題?」
ゼウスが聞くとウリエルは 両方です。 と答えた。
「私の魔力で定期的に精神を癒し、心臓を動かし、脳を死なせない様にしているんです。 でも……」
「それを同時進行するには無理がある。 でも魔力でそれを出来るのはウリエルしかいない。 つまり長くは持たないっていうのはウリエルの魔力が尽きたらメイの命が再び消えるからか……」
「怖いこと言わないの。 だから私達の出番よ遊真」
そう言ってゼウスがメイに近づいてメイの胸の上に手を置いた。
「私が心臓を蘇生させるわ。 遊真は脳に悪い影響が出ないようにして。 その間にウリエルはメイの精神を生き返らせて」
「精神を生き返らせるってそんな事出来るのかウリエル?」
遊真がウリエルに目を向けながら聞くと、ウリエルは頷いた。
「今の私なら……出来ると思う。 第一精神を生き返らせない限りゼウス様が心臓を動かしてくれたってメイが目を覚ますことは無いから……」
「じゃあ俺も出来る事を全力でやるよ」
そう言って遊真もメイの近くに行き、メイの額に手を置いた。
「遊真、「想像世界」で脳が死なない様にして。 失敗するとメイが記憶喪失になったり、人格が変わる可能性があるからね」
「随分と難易度が高いな……」
「まぁ確かにしんどいけど今の貴方なら出来るはずよ」
レノーラがそう言って遊真の肩に手を置いた。 レノーラから魔力が流れ込んで来るのが分かった。
「姉ちゃんも心臓をしっかり治してやんなよ」
「もちろん」
ゼウスは笑みをうかべながら答えた。 そして再びメイの胸元に目を戻し、指輪から光を放つと何やらぶつぶつと呟き始めた。
(「言霊」か……。 俺も始めよう)
そう言って遊真はペンダントに軽く触れ、レノーラと目を合わせ、それから目を閉じた。
(死んだ時にショック状態に陥っているところを治して……。 痛みを感じる部分も治さなくちゃな……。 それと記憶がちゃんと治るように……)
遊真は黙々とメイの脳に治療を施した。
横ではメイが笛で曲を演奏していた。メイが体が万全の状態ならばちゃんと目を覚ます様に……。
遊真はゆっくりと目を開けた。 一時間以上たったかの様に感じられたが実際には五分程だった。
(全ての体の感覚を感じる脳を治療したんだから疲れるのは当然か……)
遊真がゼウスの方に目を向けると、ゼウスも治療を終えたようだった。 ゼウスは少しふらついていたので遊真が支えるように近くに行った。
「姉ちゃんは成功したの?」
「まぁ心臓は今は自力で動いてるわ。 後は精神と……」
そうゼウスが言おうとした時にウリエルが吹いていた曲が終わった。 ウリエルは体力を消耗してしまったらしく、息をきらしている。
「ウリエル無理はしないで。 メイの体の方は問題無いから貴女は今までの事を精神だけに集中させればいいわ」
「分かりました」
そう言ってウリエルは笛をしまい、周りの音符に触れ、再び音符はメイの体の周りを周回し始めた。
「じゃあ後は呼吸ね」
ゼウスは面白そうに微笑みながらウリエルの耳元で囁いた。
「呼吸はやっぱり人工呼吸が一番だと思うな~」
その言葉にウリエルの頬が紅潮したのが遊真は分かった。横ではレノーラも微笑んでいた。
(魔力でやろうと思えば出来ると思うけどな……)
遊真はそう思いながらゼウスの言う通り、三人でウリエルとメイを残して部屋を出た。
途中でレノーラと別れ、遊真とゼウスが翔一達の所へ戻るとデュークとロケスの姿が無く、残っているのはミカエルと翔一だけだった。
「どうだった遊真?」
ミカエルは遊真の顔を見ると直ぐ様質問した。
「まだ目を覚ますかは別問題として、体は大丈夫だ。 心臓は動いてるし、脳死状態でもない。 記憶喪失とかも問題ないはずだし」
「今頃呼吸もしてるはずだしね」
横でゼウスが クスクス と笑いながら言った。
ミカエルと翔一は不思議そうな表情をしていたが、ゼウスの言わんとしている事が分かったらしく、二人とも笑い出した。
「ウリエルって恥ずかしがりやなところもあるんだね」
「おね……ガブリエル様には人前でも甘えるのにな」
「……お前も人前ではお姉ちゃんって言わずにガブリエル様って言うもんな」
「…………」
遊真の冷静なツッコミにミカエルは一瞬黙ったがわざとらしく咳払いをした。
「そ、そんなことより! ロケスとデュークさんがマーメイド達を連れてくるらしい。
翔一にやにやするな!」
「焦ってる焦ってる」
翔一はまだ にやにや と笑っている。 遊真は笑いながらゼウスを椅子に座らせると
「マーメイドってマリーに従っていなかった奴か?」
と聞いた。
「まぁ正確にはマリーに戦いを強制させられた奴とそれすらも拒んだ者と言った方がいいな。 水の都市にマリーに反抗した者達が捕まっているらしい。 あと戦いを強制させられた奴はロケス達が戦いで捕らえたって言ってた」
「多分メイの事を伝えるのと、次の女王をどうするかだろうね」
翔一がそう言うと部屋のドアが開き、ロケスとレノーラが立っていた。 レノーラは食事を用意していたらしく、皿を持っていた。
「私は席を外してもいいかしら?」
「あぁ、構いません。 お力添え感謝致します」
そう言ってロケスは頭を下げた。 ゼウスも頭を下げるとレノーラと共に部屋を後にした。
「ロケスはゼウス様には敬語なんだな」
「ミカエル達も 様 ってつけてるしな。 それに今回は翔一が呼んだ彼女の力が無ければ負けていたんだろう? 感謝するべきだ」
そう言ってロケスは机に置いてあった水を飲むと話を続けた。
「今 外にマーメイド達を連れてきた。 ミカエル達も来てくれ」
そう言われ遊真達はロケスについていき、ミカエルはウリエルを呼びに行った。
遊真達が外に出ると三十人程のマーメイド達が待機していた。 マーメイド達は遊真達の姿を見ると少しざわめき始めた。
(あんまり明るい感じじゃないな)
遊真はそう感じ、翔一の方を見ると翔一も同じことを考えている様だった。
「ミカエルとウリエルは?」
「もう来るさ。 ほら、噂をすればだ」
デュークの問いにロケスが答えるとミカエルとウリエルが出てきた。 ウリエルはベットにメイを寝かせたまま連れてきていた。
「メイ様!」
マーメイド達が口々にそう言ってメイに近づこうとしたが、ミカエルがバリアを張った。
「今メイは安静にさせておきたいんです。 あまり近づかないで下さい」
ミカエルの口調は荒くなく、静かだったが絶対に従わせる様な不思議な威圧感があった。
(流石は妖精王ってところだな)
遊真はそう感じた。
「メイ様は目を覚ますのでしょうか?」
一人のマーメイドがおずおずとしながら質問した。
「まだ何とも言えません」
ウリエルは一言でそう答えた。 先程からメイはうつむいて何かを考えている様に遊真は思った。
「私達は今回マリー姫により多大な迷惑をおかけしました。 これからはメイ様を長として……」
「駄目」
ウリエルは下を向いたまま小さな声で呟いた。
「何故です!? メイ様なら今回の様な事は……!」
「私は貴女達を信用してない。 信用出来ない」
「え……?」
マーメイド達はウリエルの言葉に返す言葉を失っていた。
「貴女達は今までメイから距離を置いていたんでしょう?」
「そ……それは……」
「今日までメイの事なんて何とも思ってなかったんでしょう? ただマリーの妹だから気を使ってただけでしょう?」
マーメイド達は静まり返り、黙ってウリエルの話を聞いていた。
「まだメイは幼いだから一人で女王が務まらないと思う。 だから側で支えてあげる者が必要。 だけどそんな奴等にメイを任せられない」
「ですが! なら私達は誰を女王にすれば良いのですか!?」
「さあ?勝手にすれば? 私は貴女達には一切興味が無い」
「な……! そんな理不尽が通るとでも……」
一人のマーメイドが前に出てウリエルに近づこうとした。
「マリーを倒したのは私だ」
ウリエルはマーメイドを睨み付けて言った。 マーメイドは びくっ と震え上がり、後ろに震えながら下がって行った。
「なんなら今眠らせてるマリーを目覚めさせてもう一度貴女達の女王にしてあげましょうか?」
どうやら今回の作戦に参加しなかった者はマリーから拷問の様な物をうけたらしく、大半のマーメイドの顔色が悪くなった。
(メイを傷つけてきた奴等を許すつもりは無いって感じか……)
遊真は横目でウリエルを見ながらそう思った。 横では翔一が困った様な顔でこちらを見ていた。 遊真は翔一と目を合わせ肩をすくめるとミカエルの方に目を向けた。 ミカエルは無表情でウリエルの横に立っていた。 既に日は落ちて暗さも相まって、ポーカーフェイスな為何を考えているのか遊真は分からなかった。
「とにかく私は貴女達の所へメイを戻すつもりはない」
「そ……それでは……」
「私は向こうの大陸にメイと一緒に帰る。 貴女達は勝手に女王を決めたらいい。 話は終わりよ」
そう言ってウリエルはメイが寝ているベットと共にタワーへ戻って行った。 マーメイド達は唖然としており、ロケスとデュークも戸惑っている様だった。
ミカエルがウリエルを追う様にタワーへ戻って行くので遊真は翔一と目を合わせると翔一が頷いたので遊真は翔一とロケス、デュークにマーメイド達を任せてミカエルを追った。
「ミカエル」
遊真が呼び止めるとミカエルは足を止め、振り返った。
「ウリエルはどうしたんだ?」
遊真の問いにミカエルはため息をつき、一呼吸置いてから話始めた。
「今あいつは迷ってる。 メイを苦しめていた奴等に罰を与えるか、それともこれからは今までの様な事はされないとマーメイド達を信じるか」
「じゃあさっきのは……」
「どちらかと言えば前者だな。 遊真達が外に出て俺たちが外に向かってる間と、昨日部屋で言ってたよ。 正直どうしたらいいか分からない。 メイにとってはどちらがいいんだろう って。
まぁ正直俺が思うにあいつは優しすぎるんだ。 その結果がマリーの現在の状態だ。 自分としてはメイを苦しめていた者に罰を与えたい。 でも本当はウリエルがするべき事じゃない。 ってウリエルは迷ってる」
遊真は壁に寄りかかり、腕を組んだ。
「つまり優しすぎるから非情になりきれないでいると……。 確かに俺たちには重い問題だな。
あ、あと向こうの大陸に帰るっていうのは?」
「あぁ遊真はまだ寝てたもんな。 みんなでこれからどうするか話し合ったんだ。 それでレノーラ曰く
メフィストはかつての敵である女神族を恨んでいる。 そして現状でメフィストに対抗出来るのはレノーラの力を使う遊真だけ。 その遊真がこちらにいるならメフィストは向こうにいる女神族を攻めるだろうって言ってた」
「だから俺達が向こうの大陸に行ってそれをさせない様にするのか? でもそれじゃあこっちにはロケスとデュークさんしか戦える人が……」
「いや、メフィストは絶対向こうの大陸に行く。 例え遊真がいてもいなくても。 俺は話を聞いただけだけどメフィストはゼウス様を見てかつての女神族を思い出して怒りの表情を見せたんだろう?」
遊真は少し記憶を遡った。 そして思い出した様に言った。
「あ、確かに姉ちゃんを見て何か思い出したみたいで 鬱陶しいことこの上ない って言ってた様な……」
「レノーラの言う通りだな。 俺たちは向こうの大陸に向かい、女神族の力も借りながらメフィストを倒すんだ。 ロケスとデュークさんの了承も得てる。 多分今日はもう暗いから早ければ明日出発だ。 向こうだってまだ戦闘中なんだからな」
遊真は頷いて翔一達の元へ戻ろうとすると、近くの部屋のドアが開き中からウリエルが出てきた。
「遊真……」
「……連れてくのか? メイを」
「私は……」
ウリエルはうつむいて黙りこんでしまった。 連れていきたいがマーメイド達の事を考えると、そんな事は出来ないと考えているのだと遊真は思った。
「連れていったらいいだろ」
ミカエルがそう呟いた。 ウリエルは驚いた様に顔を上げた。
「お姉ちゃんの力を借りれば……メイを救う事が出来るだろ。 第一メイが今まだ生きているのはお前のお陰なんだ。 それくらいのわがままは聞いてもらえるだろ」
「お兄ちゃん……うん! そうする!」
ウリエルはいつの間にか流していた涙を拭って頷くとまた部屋の中に戻って行った。
「妹の背中を押すのは兄の役目か?」
遊真は微笑みながら言うとミカエルは少し笑いながら翔一達がいる方向に歩き始めた。
「別に同い年だけどな」
ミカエルはそう言ってタワーの外に出ていった。 ロケスとデュークにメイを連れていくと伝える為だろう。
(姉ちゃん起きてるかな……?)
遊真もゼウスに帰還を伝える為に自分の寝室に向かった。
「遊真」
優しく自分の名前を呼ばれ目を開けるとそこにはレノーラの顔が視界に入った。
「おはよう遊真」
「おはよう……」
「まだ疲れてる?」
「ちょっとはね」
そう言って遊真は上体を起こした。 まだ横ではゼウスが すやすや と眠っている。
(結局昨日は姉ちゃんにはまだ話せてないな……)
遊真はそう思いながらも疲労困憊の姉を起こす気にはならず布団をゼウスの体にかけた。
「ミカエル達はもう起きてるの?」
「ええ。 向こうの大陸では恐らく「絆魔力」は使えないからね。」
「え!? そうなの!?」
予想すらしていなかったレノーラの一言に遊真は大きな声を出してしまった。 レノーラは口元に微笑みながら人差し指を当てた。
「お姉ちゃん起きちゃうよ。
ちなみに遊真は「絆魔力」がどういう物かあまり分かってないと思うから説明すると、「絆魔力」は発動する時に自身の体に契約した者の魔力を纏わせる様な感じにするの。 その分けて貰う魔力はそのブレスレットの中にある獣の一部から引き出すの」
「これから魔力を……」
遊真は自分のブレスレットを見ながら呟いた。
「そう。。その獣の一部は常に魔力を溜め続ける不思議な物なの。 だからメフィストは私の父の力を使うことが出来るんだけどね。 けどその魔力が切れてしまうとどうなると思う?」
「そりゃあ……「絆魔力」がきれるんじゃないの?」
「そう。 大概はそうなると「絆魔力」は一定時間使えなくなる。 けど魔力が切れてもその獣の一部を通して契約した獣本体から力を送って貰う事が可能なの。 今回の戦いで翔一達もそうしていたと思うわ。 けど直接送って貰う魔力はブレスレット内の魔力と比べて不安定だから長くは持たないわ。 だから今回私と遊真の「絆魔力」は持続が難しかったんだけどね」
「つまり向こうの大陸に行くと距離があるから直接魔力を送って貰う事が出来ないからブレスレット内の魔力が切れたら「絆魔力」はきれるのか……」
レノーラは頷いて話を続けた。
「その通り。 だから翔一達は今ロケス達の道具を使って幻神獣達と連絡をとってブレスレットに直接魔力を送って貰ってる。 出来るだけブレスレット内の魔力を溜める為にね」
「道具っていうのはブレスレットでの会話の質を高めるのか?」
遊真の問いにレノーラは頷いた。
「じゃあ俺もレノーラに……」
「それは大丈夫よ。私も行くから」
「え? 来てくれるのか!?」
再びレノーラは笑いながら口元に指を押し当てた。
「逆に私が貴方達を乗せて飛ばずにどうやって戻るつもりだったの?」
「え……あ……!」
「メイが目を覚まさないと海洋神の力は借りれないんだから。 それにメフィスト相手に私の援護なしじゃきついでしょ?」
「確かに……」
遊真が笑いながら頷くと部屋のドアが開き、ミカエルと翔一が立っていた。 レノーラは部屋から出ていき、遊真はゼウスの体を揺さぶって起こすと靴を履いた。 ゼウスはまだ眠そうにしていたが遊真が今から向こうの大陸に帰る事を伝えると少し驚いた様子だったがゼウスは少し嬉しそうだった。 自分がいない内に女神族が劣勢に立たされていたりしたら大変と思っていたのだろう。
外に出るとレノーラが竜神へと姿を変えており、背中にはミカエルとウリエルが乗っており、横ではメイがタオルケットに包まれていた。 下にはロケスとデューク、翔一が待機していた。
「ロケス! デュークさん!」
「遊真、少しの間だったが楽しかったぞ。 メフィストをぶっ飛ばしてまた遊びに来い!」
「頼んだぞ遊真。 レノーラに連絡出来る魔力がついている物を持たせてある。困った事があったら連絡してくれ」
「分かりました。 必ずメフィストを倒してきます」
遊真は頷くと翔一の手を借りながらゼウスを背負いながらレノーラの背中によじ登った。
レノーラが羽ばたくと一気に重力の枷から外れた様な解放感に包まれた。 下ではロケスとデュークが手を振っている。遊真達も身を乗り出して手を振り返した。
「何か……寂しいね」
ウリエルは微かに見える都市を眺めながら呟いた。
「また戻って来れるさ」
ミカエルがそう言うとウリエルは笑顔で頷いた。
(絶対に……メフィストを倒すんだ……!)
遊真は固く決意して自分達が戻る大陸の方へ目を向けた。
九月二十八日に題名を変更しました。
正直worldかwarsにするか悩んだりしましたが……
文化祭が終わり次は二学期中間テスト……
引き続き更新は遅くなってしまいそうです。
この後この物語は第三章へ突入します。随分と長い物語になってしまいましたが続けてこれたのは一重にこの物語を読んでくれている皆様のお陰です!
本当にありがとうございます!m(._.)m
お気に入り登録やポイント評価をしていただけるとありがたいです。




