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常連とフォックスキッス


「うち、来月から店内禁煙にするから」


「なんで!?」


 思わず叫び声をあげてしまった。 私と言えばタバコ、タバコと言えば私。 


「いや、受動喫煙うんぬん法でね。 外に灰皿置くから。 てか、タバコ止めなよ。 すっごい吸うよね」


「死ねってか!? 私とタバコはまさに水魚の交わりなのに!?」


「吸ったほうが死ぬでしょ」


「養老孟子はそんなこと言ってなかった! 長生きには関係ないって!」


「それスーさんフィルターかなり掛かってるでしょ」


 喫煙者は高額納税者だというのに世間ではまるでばい菌の様に追いやられているのは間違っている。

 とは思うものの私一人が叫んだところでこのHiMa Dinerでも無力のようだ。


「禁煙成功したらご褒美あげるよ。 絶対無理だろうけどねハハッ」


 某世界的テーマパークのげっ歯類のような嘲笑でマスターに煽られ、私は


「できらぁあああ!」


 と某トンチキ料理人のように鼻息荒く腕まくりしたのであった。




 私はその日のうちに大量にミンティーアを購入し、四六時中ぼりぼりぼりぼりぼりぼり。


 そして禁煙ミンティーア漬け三日目。


「あのさぁ」


「あにさ」 ぼりぼりぼりぼり


「それってそういう風に食べるもんじゃないでしょ。 口内炎にならない? 料理の味も解らなくなるでしょうに」


 常にヒリヒリして痛いのは事実。


「しょうがないじゃん」


 あきれた顔でため息をつくマスター。


「イライラすんなら禁煙止めたら? 正直怖いよ」


 なんて失礼な。 そして頑張っているのに元凶に言われるとさらにイライラが増大するというものだ。


「客に対して失礼なマスターだね。 ここまで来て禁煙を止められるか! これまでの努力が無になるなんて耐えられない!」


「はぁ……これ、山田さんからの陣中見舞い」


 ここ三日、マスターのため息ばかり聞いている気がする。それはそれで恰好良いから良いのだが。そして差し出されたのは大量のミンティーア。


 山田氏とは50歳ほどの自営業で下請けだが某原発の資材運搬システムなども手がける一流の技術屋だ。 頭が良い、という次元ではなく『思考回路が2進数の有機物系ロボット』と私は思っている尊敬すべきロボットだ。 一応生身だが。


「……山田さんに応援されたら絶対失敗できないじゃん!」


「なんかさぁ、山田さんの方が禁煙パワーになるって私の事下に見てんだろ?」


 いえ、顔面ゼロ距離で正面から見ていたいですよ?




 そして私の禁煙生活は継続となり、なんとかかんとか1カ月が経過した。


「最近睡眠の質が上がったんだよね」


「前がヘビースモーカーだったもんね。 四六時中煙吸ってりゃそりゃ身体に悪いわ」


「山田さんのお陰だわぁ……山田さんにも禁煙させなきゃだわぁ」


 山田氏は食欲にあまり動かされず気づくと数日水分と煙草しか口にしないらしい。まさにロボット。人にも地球にも優しい仙人ロボットである。


「やめなさいよ。 あの人タバコで動いてんだから」


 あの苦しみを共有できる仲間が欲しいのに。


「そんで、ご褒美は?」


 私はマスターからのご褒美のためだけにこの1カ月生きてきたのだ。 イライライライラの地獄だった。


「は?」


 ポカーンとした顔のマスター。 素敵な顔だけど今見たい表情じゃない。


「え? え? ぇぇえ……ぇえぇ」


 まさか……忘れられていた? 私は思わず情けない声を漏らしてしまった。 あれだけ苦しい一カ月はこれまでの人生で一度もなかったというのに……


「あっ………あーうん、忘れてなかった忘れてなかった」


 嘘だッ! 鉈持ってこい!


「目、瞑って?」


 え!? まさか!? まさか!!!??? キスか!???!!? キスっすか!???!?!

!???!?! キスはミンティーアの味ってか!?


 私はあたふたと手を動かしてしまいながらも思考停止のまま言われたとおりにする。頬がぐんぐんぐんぐん熱をあげているのを感じる。今なら目玉焼きくらい焼けそうだ。


「頑張ったね」


 そして唇に触れる感触。



 ………



「……生臭い」


「あ、ごめん。 さっきまで魚触ってたからねハハッ!」


 右手を狐の形にしたマスターの顔に、私はミンティーアを力一杯で投げつけた。




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